表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
116/157

タワマン

翌土曜日の午前中、駅前に向かい、彼女の住んでいるタワマンの麓まで歩いて行く。

最近再開発された地区で、マンションの敷地の前の通りがやけに広く、歩道も広く確保されている。

車の往来も結構多い。周囲は雑居ビルや飲食店がひしめいていて、こんな所に住んだら夜騒音が酷いだろうなと思ったけれど、こういうマンションに住む人は窓を開けないのかもしれない。

私は出来るだけ窓を開ける派。

真夏と真冬は閉めるけれど、春と秋はいつも開けている。春は段々温かくなるのを感じると何となく気分がウキウキするし、家の近くに大きな公園があるために、秋は虫の音が良く聞こえて、小さい時からそれが普通だったので、逆に秋なら虫の音を聞きたくなる。

雨の前には匂いで雨の気配も分かるし、窓を開けておくといろいろ良いことがある。

マンションの周りを高い塀が囲っていて、塀沿いに歩いて門を見つける。ホールのような奥まったところに自動ドアがあるので入ると、更に内側に両開きのガラスのドアがある。それは閉まっていて、住人専用のカードキーを挿入するか、インターホンで電話して中から開けてもらう必要があるみたい。

「どうやって入る?顔を見ながら話した方がいいと思うけれど」

出来れば相手の顔を見ながら話したい。そうすれば少なくとも、顔の表情を見ることができし、それは言っていることが本当かどうかの指標になる。

ここでインターホン越しに話しても、私たちから相手の顔は見えないし、相手にとってはその他大勢のセールスの一つという感じで、軽くあしらわれてしまいそう。

涼くんに抱きかかえてもらえば、このマンションの塀ならひとっ飛びだけど、道には歩行者が結構いるから、目立ってしまう。

ちょうどその時、宅急便のトラックがマンション前に止まり、配達員が荷物を抱えてやってくる。彼はそのまま自動ドアを通ると、インターホンで配達先を呼び出す。

「宅急便です」

「はーい」

ホール内側のドアが開いて、配達員が中に入っていく。

「よし、今だ」

涼くんが私を引っ張り、内側のドアをすり抜ける。配達員は私たちが後ろを付けたことに気付いていない。

なんかすごく悪いことをしているような気がする。

配達員は2つあるうちの一方のエレベータに乗って先へ行ってしまったので、私たちも残りのエレベーターに乗る。

涼くんが14のボタンを押す。

あの子は14階に住んでいる。

彼女は親と一緒ではないと彼は言っていたから、一人暮らしだと思うけど、私より少し年の上の人が1人暮らしで14階に住んでいるなんて信じられなくて、逆にいったいどんな暮らしをしているのだろうと興味を感じる。

エレベーターのドアが開くと、そこは内廊下で通路の両側に各戸の玄関のドアが並んでいる。でも、そのドアの間隔が広くて、それぞれの部屋がかなり広いと分かる。1世帯で私のアパートの3倍くらい。通路からは各部屋の奥行きが分からないから本当はもっと広いかもしれない。

部屋番号を順に追って、彼女の部屋の前で止まる。

「ここ」

彼が言う。

彼がうなずいたので、私はインターホンのスイッチを押す。

ピンポーン

反応はない。もう一度押すけれど、同じく反応なし。

居ないみたい。

「いないみたいだね。じゃ、帰ろうか?」

「ちょっと待って」

彼はカードキーの差込口に手をかざす。

「何しているの?」

「鍵を解除している。電子キーは電磁波で外から操作できるから」

1階のエントランスもそうだったけど、このマンションのカギはカードで、壁にはカードを通す薄いスリットがあるのみ。だから旧式の開錠技術や道具では開けられない。世間一般では最新技術だろうけど、上には上がいるもので、彼は開けられるみたい。

「えっ、ちょっと待って。会って話を聞くということじゃなかったっけ?」

「でも、いないだろ。だから、ちょっと家を調べさせてもらおうかなっと思って」

「えー、それはダメでしょう。犯罪だし」

私の言うことも聞かずに手を当て続ける。数秒で

「開いた」

と言い、おしゃれなデザインのドアの縦長のレバーをゆっくり引くと、ドアが開く。

あー、ついに開けてしまった。

「比呂美さんは、ここで待っていて。僕が何か証拠を探してくるから」

「えー、ちょっと待って」

彼はそっとドアの隙間から忍び込む。

全く何を考えているのか分からない。

音もなくドアが閉まり、私は一人通路の外に取り残される。誰かが来て私を見たら、通路にぽつんと私一人でいることが酷く不自然に見える。

でも、各部屋が広くて世帯が少ないのと、通路を故意に曲げるマンション内の間取りで視野の悪さを演出してプライバシーに配慮しているので、人の気配が全く感じられない。

だから、妙に落ち着ける。

もうこうなったら、待つしかない。早く涼くん、出てこないかな。

なかなか出てこない。

1分経ち、2分経ち。3分くらい待ったけど、全く出てこない。

何しているのだろう?

そんなに時間がかかるとは思わなかった。

5分ほど経ったけど、全く音沙汰なし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ