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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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不自然な態度

「では、当日の表彰式についてお聞きします。表彰台の上には、その時何人いましたか?」

ああいう状況とか、その時とか、具体的に言ってくれないので何を指しているのか一瞬考える。すぐに推測できるのだけれど、はっきり狙撃と表現しないのは、ショッキングな表現で私をナーバスにさせないための気遣いなのかしら?

「3人です。私と、議員さんと、司会役の先生で。議員さんが話す間、先生がマイクを持っていました」

「立っていた位置を、どのくらいの距離、離れていたかなど、ここで見せてもらっても良いですか?」

と、椅子から立ち上がる。

「はい」

と私も立ち上がる。ちょうど今ここに3人いるから、男性の警官が議員さん役、女性の警官が先生役で、表彰台の上のように、私の指示で並ぶ。

男性の警官が、その足の位置をメジャーで測って手帳に書き込む。

「漆丸さんが倒れた時の姿勢も、こんな感じですか?」

と、私と男性警官が向かい合った状態で、彼は聞く。

「はい、ちょうど握手しようとした時でした。急に倒れられて。最初は貧血か何かかなって」

「じゃ、音は聞こえなかったんですね」

「音、というのは、ピストルの音ですか?」

「発砲音です」

「はい、全く聞こえなかったです」

彼は一人で頷いて、手帳に書き込む。それから、狙撃の瞬間の状況から私がクラスに戻るまで詳しく説明する。

「とてもよく分かりました。ありがとうございます。最後に一つ、良いですか?」

「はい。何でしょうか?」

「被害者が倒れた瞬間の動画を見たのですが、SP、漆丸議員のボディーガードのことですが、彼らが被害者に駆け寄って、”撃たれた”と言った時、あなたは後ろを振り返りましたね。あれはなぜですか?被害者の背中から撃たれた可能性もあるかもしれないのに」

「あー、それは、変な音がしたからです。シュッという音を、握手する時に私の左の方で。最初は蜂などの昆虫が飛んでいるのかなと思いました。でも、そのすぐ後に議員さんが倒れたので、あれがピストルの弾だったのかもと」

「音?そこの所、もう少し詳しく」

私は手で左肩の少し上あたりを指し示す。

「この辺りで、一瞬ですが、シュッと音がしました」

「風圧などは?」

「ちょっとはあった気がします」

「ちょっと良いですか?」

と警官はメジャーで私の背と、肩までの高さを測る。

「音のした位置は、どの辺りですか?」

私は左肩の少し上、ほぼ左耳の隣を指さす。

二人の警官は少し考えこんでから、お互いに顔を見合わせる。

「もう一度確認ですが、この辺りに何か飛んでいる様な風圧なり気配を感じたのですね」

と私の左耳の少し先を示す。

「はい」

と私は再度答える。2人の態度から、ただならぬ矛盾している状況に突き当たった様子がうかがえる。

「何か?」

「いえ。ご協力ありがとうございます」

と切り上げられてしまう。しばらく沈黙が続く。

何なのだろう?私が何か変なことを言ったのかしら?

気になるのだけれど、警官は教えてくれなさそう。

むしろニュースでは報道されていないことを彼らは知っているのかもしれない。

「重要な証言、大変助かります」

と、女性の警官と頷きあう。

「議員さんは、本当にお亡くなりになられたのですか?」

「ええ、搬送先の病院で、亡くなられました」

あー、やっぱりネットの情報どおりだった。

私が黙り込んでしまうと、彼らも合わせて神妙な顔つきになる。それから、

「他に何か気になったことや、変だなと思われたことなど、ありましたか?」

表彰式自体もそうだし、全校集会に議員さんやマスコミが来ること自体がいつもと違うことなので、気になると言えば全部気になることではあるけれど、警官が聞いているのはそういう意味ではない。

「さぁー、すぐには思い浮かばないです、すみません」

「いえいえ、とても参考になりました」

と、帰り支度をし始めたので、気になっていたことを聞いてみる。

「犯人の目星は、あるのでしょうか?」

「目下全力で捜査中です。現職の国会議員の暗殺ですから、警察としても威信をかけて解決に取り組んでいます」

マニュアルでもあるのかしら?と思えるような定型的な答えが返ってくる。

「では、これで失礼します」

2人の警官は深々とお辞儀をすると、家から出ていく。

予想以上に礼儀正しい人たちだった。

今まで警官というと怖いイメージだったけれど、話してみたら全然良い人。制服が威圧感を与えるからいけないのかしら。

今日やるべきことが終わって、重荷が下りて急に気が楽になる。

でも、ごくわずかにちょっと引っかかることがある。私の言ったことに彼らの予想外のことがあったこと。つまり、議員さんの狙撃は通常の狙撃とは違う、何かがあるような気がする。もちろん捜査に関わることだから、私に口外できないのは重々承知しているけれど、気になる。

そして、その気になることとは、産業廃棄物処理場で涼くんを襲った、あの外人の女の子が関係するのではないかというもの。もしそうだとすると、狙われたのは議員さんではなくて、私の可能性がぐっと高まる。私が狙われたのであれば、その本当の目的は涼くんであって、さらに彼女は彼の動きを止めることができる機械を持っている。

彼が危ない。

そう直感した。

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