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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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歴史のロマン

「いやー、今回はお手柄だったね」

お手柄?何のこと?

私がきょとんとした顔をしていると、

「県の教育委員会の方から連絡があってね。君が歴史的な遺物を発見したとね。日銀の担保資産?だったけ?」

日銀の資産?

もしかして先月、月島へ行ったときに拾った金の延べ棒のことを言っているの?

「長い間行方不明になっていて、国の方でもずっと探していたらしくてね。それが見つかったから、調査がとても進展したと聞いています」

どうやらそのようだった。授業料滞納とかの類の話でなくて、ほっとした。

「で、表彰しようという話があってね」

「えっ?たまたま見つけただけですから」

「貢献したことには変わりはないから。それで、文部科学省の方から、政務官の方がわざわざ当校まで来てくださるということになってね。政務官が来るなんて、滅多にないことだからね、ね、君」

と、教頭先生に振った。

「そうですね、一生に一度会うか会わないか、ですね」

「普通は会わないよ。我々教職員にとっては雲の上の人だから」

それから私の方を向いて、

「来月の全校集会で表彰できるように、今調整しているから。君もそのつもりで」

「はい、分かりました」

校長先生は上機嫌っぽいようだった。ソファーに深々と座りなおすと、再び私に聞いてきた。

「日銀の担保資産っていうのは、何だったの?やっぱり金の延べ棒とか?」

「はい、そうです。このくらいの大きさで」

と、私は両手で25㎝くらいの大きさを示した。

「どこで見つけたの?」

「隅田川の川岸です。東京の月島へもんじゃ祭りに行った帰りに佃に寄って、その岸壁の泥の中に半分埋まっていました」

「へぇー、そんな宝島みたいな話が、このご時勢にあるんだねー」

「それ、有名な話ですよ」

教頭先生が横から口をはさんだ。

「佃の対岸は越中島ですが、そこに昔、陸軍廠があったんですよ。終戦間際に政府が日銀の地下金庫の貴金属をGHQに接収されないように隠したっていう噂です。一旦その陸軍廠に移して、もっと遠方に運ぶために船の手配をしている最中にGHQが来てしまったので、あわてて目の前の隅田川に沈めたと言われています」

「君、詳しいね。あっ、日本史担当だね」

「M資金の由来でもあります」

「で、その金塊はどうなったの?」

「GHQが引き上げました。今はアメリカのフォートノックス陸軍基地にあると言われています。政府から金塊の秘匿を委託された前田組という業者が、戦後GHQに寝返って、隅田川に沈めたと白状したんです。前田組といえば、今では暴力団のイメージが強いですが、当時は伊豆に発電所を作ったり鉄道を通したりと、実業家でした。まあ、強いものに付くというビジネスの勘に従ったんでしょうな」

「そういうことを授業で取り上げれば、生徒は興味を持つだろうな」

「そうですね。この話はいろいろ後日談があって、GHQが日銀の金庫を開けたら空っぽだったので、政府の隠し資産を探す部隊を作るのですが、これが今の東京地検特捜部の発祥です。都市伝説扱いされるのですが、法務省のホームページへ行けば書いてある史実ですから。また、この前田組がGHQに寝返ったことをアメリカは恩に感じて、何十年も後になって組長が肝臓ガンになって移植が必要になり手術で渡米した際、FBIがドナーの順番待ちを飛び越して優先的に、組長に移植手術を受けさせたことがあります。暴力団の組長にFBIがなぜ便宜を図るのかと、当時かなり週刊誌で取り上げられました」

「戦後史の謎、っていうところなのかな?」

「そのあたりの話は、ほぼ解決済みなのですが、唯一未解決の謎は、隅田川から引き上げた金塊の重量の差、なんですよ」

「重量の差?」

「日銀の地下金庫にあった金塊の量と、GHQが引き上げた金塊の量に差があって、GHQが引き上げた金塊の重量は、日銀が保管していた金塊の記録より少ないんです」

「つまり?」

「隅田川に金塊を沈めた際に、川の水流に押し流されて沖に流されたり、泥の深みに沈み込んだりして、まだ全部を回収できていない可能性があるということです。もちろん記録ミスとか、重量の測定ミスとか、いろい原因は考えられますが、今回矢野さんが金塊を見つけたことで、隅田川の底にはまだ金塊が眠っている説の迫真性が増しましたね」

「ロマンだね」

「一部の国会議員が、こつこつと地道に調査を続けていたようですので、そういう方たちにとっては、今回の矢野さんの発見はかなり嬉しいと思いますよ」

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