校長室
でも、動きがあったのは、それからさらに1週間後。
学校で昼休み中に、いつものように教室で友達と3人で机を向かい合わせてお弁当を食べていた。話題は、次のテスト内容の予想や昨日あったこと、ネットで見た動画など。1か月前に拾った金塊の話は、完全に忘れていた。
本当は涼くんの話をしたい。実は、記憶を失った男子が家に居候していると。そして一緒に栃木や京都に行った話とか、池袋に行った話とか。
けれど、詳細を聞かれたら答えられないことがたくさんありすぎて、言えなかった。それは彼が人間ではないことに起因している。
アンドロイドと言ってしまっても良いのかしら?
みんなびっくりするだろうな。だから、やっぱり言えない。
もし言っても、びっくりされず今まで通りに付き合ってもらえるのであれば、何も気にすることなく彼の話をしたり紹介できたりするのに。
そんなことを考えながらおしゃべりしていると、教室のドアが突然ガラッと開いて、担任が顔を入れて教室内をぐるっと見渡した。
「おーい、矢野いるか?」
私を見つけると手招きした。
「食事の後で良いから、校長室まで来てくれる?」
「校長室?ですか?」
何の用だろう?理由を聞こうとしたけれど、その前に担任は廊下を歩いて行ってしまった。
お母さんに何かあったのかしら?
でも、それならば今すぐに職員室へ来てと言われるだろう。
他に考えられる理由は思い当たらない。
もしかして学校の授業料を滞納していて、退学しなければならなくなったとか?
不安そうな顔をして自分の机に戻ると、一緒にお弁当を食べていた陽子が聞いてきた。
「何だって?」
「校長室に来てだって」
「何で?」
「理由は分からない」
不安そうな顔をする私。
「校長室の場所、どこだったかなあ?分からないかも」
「私もそうかも」
もう一人が口をはさんだ。
「正面玄関を入ったところに、学校の構内図があるから、そこで見てみたら?多分、職員室の隣だったと思う」
「そっか。じゃ、そうしてみる」
私が深刻そうな顔をしたせいか、彼女たちは話題を変えてくれた。その話はそれっきりになった。
昼食後、正面玄関へ行ってみた。構内図を見ると、校長室は職員室の隣にある。私は校長室へ向かった。
扉の前で深呼吸して、ノックした。
「失礼します」
恐るおそる顔を覗き入れると、校長先生と教頭先生がいた。
校長室の中を初めて見た。
全体的に古めかしくて、掃除はちゃんとしてあるのだけれど、どこか埃っぽい感じ。
部屋の一番奥に大きな机が置いてあった。部屋の奥の窓を背景に入り口の方を向いている。机は2畳くらいで結構大きい。
その後ろに、ポールに結びつけられた学校の旗と国旗が交差して置いてある。
部屋の両側の壁に沿って書類棚があり、中は書類フォルダがいっぱい詰まっている。一部の棚には、部活の優勝トロフィーが並べてあった。
その棚に挟まれるように、部屋の真ん中に背の低いテーブルがあり、その周りに2つのソファーが置いてある。
校長先生は自分の机の椅子に、教頭先生はソファーに座っていた。
「あっ、君が矢野さん?入って入って」
校長先生が私に手招きしたので、部屋に入った。
「まあ、座って座って」
ソファーを指し示すので、教頭先生に対面する形で、反対側のソファーに座った。
校長先生もこちらへやって来て、ソファーの教頭先生の隣に座った。