交番にて
歩くこと10分、大通り沿いの交番に着いた。高層マンションの間にひっそりと建っている感じ。表にパトカーが止まっているので、お巡りさんは居そう。
大宮の交番は結構お巡りさんがいなくて、中に電話が1台ポンっと置いてある場合が多い。そこから区の警察署へ電話すると、お巡りさんが交番まで来てくれるのだけれど、それって交番の意味が無いのではないかなって、ずっと思っていた。
自動ドアを入ると、いろいろなポスターがいっぱい張ってあって、ちょっと驚いた。入口すぐ近くには、オレオレ詐欺注意。それから交通安全や、薬物乱用防止。
その奥に机があって、一人の男性のお巡りさんが座っていた。
彼はこちらを振り返って、私たちが突然入っていったせいか、ひどくびっくりして、そして警戒した顔をしていた。
私たちのことを、家出少年少女とか、何かの事件の犯人の自首かのような目付きで見るような印象。まるでトラブルを持ち込まないでくれよって感じの雰囲気。
あれっ、もしかして交番を訪ねてくる人って珍しいのかも。それとも、夜に人が訪れることが少ないのかな、とかいろいろ考えてしまって、どちらにしてもあまり歓迎されていない様子。用件が済んだら早めに切り上げようと思った。
お巡りさんの方からなかなか声を掛けてきそうになかったので、
「あのー、落とし物を拾ったのですが」
と声を掛けた。
「あ、落とし物ですか」
机の上の引き出しを開けて、紙を取り出した。
「じゃ、これ、書いてもらえる?」
取得物件預り書って上に書かれている。
「あっ、ここ座ってください」
と椅子を出してくれた。
意外に良い人。
私は早く切り上げたかったから、差し出された椅子に座ると書類に目を通し始めた。
まず、拾った時間や、私の住所氏名を書いた。次に拾ったものの内容を書く段階になって、何て書いて良いか分からず、
「これなのですが、何と書けば良いでしょうか?」
と聞いた。
「ちょっと見せてもらえる?」
涼くんが片手でひょいっと麻袋をお巡りさんの方へ突き出して、袋の口を開けた。すると中から文字通りの金の延べ棒が顔をのぞかせた。
「えっ、これ何?本物?」
それが私たちも分からない。
「ちょっと良い?」
お巡りさんは麻袋ごと金の延べ棒を涼くんから受け取ったが、次の瞬間、ゴロンっと床に落とした。
「あっ、すみません」
と言うと、急いでしゃがんで持ち上げようとするものの持ち上げられず、金塊をちょっと傾けて片方の底に両手の指を入れて、次に手のひらに乗せ、そのまま両腕で抱えるようにして、やっと机の上まで持ち上げた。
はぁー
思わず声を上げるお巡りさん。
それから涼くんを、まじまじと感嘆の目で見た。
「君、力持ちだね」
お巡りさんは、机の上で延べ棒をひっくり返したり、いろいろ観察したりしていたけれど、
「とりあえず、金属製の延べ棒、と書いておいて」
と言った。
「これ、一体何だろうね?」
その後も延べ棒を横にしたりして、コツコツ叩いたりして、最終的に表面に書かれている刻印に注目した。
「日本銀行 発券局 資産番号?その後がちょっと読めないな」
漢字の数字が続いているようには見えた。
「鑑識さん、読んだ方が良いかな」
お巡りさんは独り言を言いながら、金の延べ棒に見とれていた。よっぽど珍しいみたい。
書き終わった取得物件預り証に、受領日時などを記載し終わると、私に控えを手渡した。
「確かにお預かりしました」
「では、お願いします」
そう言って、交番を後にした。