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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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水中の物体

ところで。

さっきから、何かが頭の片隅にチクチクした。今までの経験からいうと、こういう時は大抵悪い方向で。ちょっと嫌な予感。

何だろう?何だろう?

いろいろ考えてみた。

欲しいもの?

違う。

私が自分を貧乏と言ったこと?

それもあるけれど、もう解決した。

涼くんの貧困に対する説明?

多分違う。

二人だけで一緒に住もうと言われたこと?

ちょっと近づいた気がする。

その時、私は何を考えたっけ?

意外と現実的な話だと思った。二人で働けば、日々暮らしていく十分な収入はあるはずだと。

食費もそれ程かからないし、田舎なら家賃も安いだろう、って。

家賃?家賃?

そうだ。

家賃だ。

数か月前、彼にアパートの家賃を立て替えてもらったことがあった。確か半年分。

突然大家さんが取り立てに来て、お母さんは仕事に行っていて留守で、私が大家さんに応対して、家賃の滞納について全く知らなかったので、パニックになってしまった。

あの時、彼がどこからともなく半年分の家賃を持ってきて、立て替えてくれた。

で、今日、もんじゃ屋さんで、お金の話になった時、涼くんは銀行からお金をいくらでも引き出せるようなことを言っていた。

もしかして、あの時に立て替えてくれた家賃は、銀行から不正に引き出したお金じゃないのかしら?

「ちょっと聞きたいのだけれど」

私が困っているときに助けてくれて、本当にありがたくて、こんなことを聞くのは失礼かもしれないけれど、でも、はっきりさせておきたかった。

おそるおそる聞いた。

「以前、涼くんにうちの家賃を立て替えてもらったことがあったけど、あれは涼くんのお金?それとも、今日の昼食時に話していたみたいに、どこかの銀行に侵入してとってきたもの?」

彼は無反応ですっと視線を運河の向こうに向けたままだった。それから、ちょっと肩をすぼめて、

「とってきたお金」

と言った。

えっー

思わず両手で顔を覆った。

全身から力が抜けて、フェンスに寄りかかっていた自分を支えきれなくなり、今にもしゃがみ込みそうになった。

聞かなければ良かった。

彼は絶対にばれないとは言ったけれど、自分の気持ちとして悪いこと、ずるいことはしたくない。一度不正をすれば、それがずっと心の重荷になるし、もしばれずにそれが癖になったら、自分は正しいというプライドを失いそうだから。

「すぐに取ってきたお金は元に戻して。足りない分は私も払うから」

「まあ、良いけど」

私の貯金はどのくらいあっただろう?

多分全然足りない。

大家さんが取り立てに来たことはお母さんには言っていないけれど、その話をお母さんに伝えて、お母さんの貯金も足して、彼に渡そう。

お母さん、貯金、どのくらいあるかなあ?

滞納するくらいだから、多分無いとは思うのだけれど。

それでも足りない場合は、彼がコンビニでバイトして得た収入分を借りて、それらを足して、彼が銀行からとってきた分を早く返さないと。

はぁー

ちょっと前まで、自信に満ちてロマンチックな気分になっていたのに、今は散々な気持ち。

もう家に帰って寝よう。寝れば、少しは気持ちが落ち着く。

そう思って、駅に向かおうと、フェンスから体を起こし向きを変えた。

少し離れたところに、遊歩道にコの字型に入り込んでいる小さな湾のような所があった。

船着き場?

波の揺れに従って水面がゆがみ、そこに反射する夜景も揺れ、マンションの明かりがキラキラ反射した。

その船着き場のような所には、いくつか葦のような水草が水面に顔を出している。

波の揺れのタイミングによって夜景が反射しない場合に、水深が浅いせいか、川底の泥がうっすら見える。

その時、川底にごみ袋が見えた。結構大きなごみ袋で、茶色で麻の生地みたいにザラザラした感じに見えた。

周りにこれだけ住宅があるから、ごみ袋があるのは不思議ではない。でも、ずいぶん大きなごみ袋。

と思って歩き始めた時、ごみ袋がピカッと光った気がした。

あれっ

もう一度よく見ると、確かに水面の揺れ具合によって、光ったり光らなかったりした。そしてごみ袋自身が光っていたのではなくて、袋の口が大きく開いて、そこから見えるごみ袋の中身が光っていることに気付いた。

水面に反射している夜景の光では無さそう。

その光り方は普段なかなか見かけないような、ちょっと鈍いギロッっていう感じの光り方。

「あれ、何かしら?」

指さした。同じ方向を、彼も見た。

「水中で、何か光っているみたい」

二人でコの字型の小さな入り江のフェンスに寄りかかり、水中を覗き込んだ。やっぱりごみ袋の中の何かが光っていた。

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