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人型自走電磁パルス兵器と地味で普通の女子高生の物語  作者: 岡田一本杉
長すぎたサマータイム
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逃避行

突然、彼が口を開いた。

「もし、比呂美さんが望むなら」

私は振り向く。

「二人だけで、どこか遠い、だれも知らない土地へ行って、暮らすっていうのでも良いよ」

「えっ、何、突然?」

彼は答えない。

「冗談だよね?」

彼は首を左右に振って

「本気だよ」

とこっちを見る。

何を突然?

「何で、そんなことを言うの?」

「比呂美さんが、無理してそうだったから」

「無理?別に私は無理してないよ」

「そう?でも10代の女の子が何も欲しい物が無いなんて、自覚がないだけで無理しているよ」

「自覚がないだけ?私、無理しているかな?」

そう言った直後に、もんじゃ屋さんで彼が言ったことと全く同じことを私が言ったと気が付いた。彼は自分の欲は無いと言ったけれど、結局私も同じことを言っていたと。

私はほしい物があっても、しばらく貯金すれば買えるし、実際買っていた。そして手に入らないものは最初から思いつかないから、欲しいとは思わない。だから思いつくもので物質的に欲しいと思う物は一応手に入っているつもり。

むしろ、今唯一の、そして一番の希望は、涼くんと一緒にいられること。でも、これは恥ずかしくて今は直接口に出して言えなかった。

だから物質的な欲は無いけれど、彼と一緒にいたいという願望はあった。それははっきり認識できた。

そして無理をしているかと自問してみると、うーん、ちょっとしていたかもと思い当たった。家賃を滞納していて、大家さんが取り立てに来た時は惨めだった。他にもバイトで失敗した時もそうだった。過去を振り返ってみると、時々、ふっと遠くへ行ってしまいたい気になる時はあった。

誰も知らない遠い所で二人だけで暮らすことを想像した。最初に気になるのは住処だけれど、田舎なら家賃は安い。広さもそんなに要らない。だったら私と彼の二人でバイトなりパートなりすれば、十分借りられる。私は田舎暮らしでも全然良いし、特に贅沢をしたいとも思わない。欲しいものも特に思いつかない。

むしろ人目を気にせず、彼と二人暮らしというのが魅力的。近所にちょっとした食料品店があれば、品数は少なくても気にならない。2人で働いて2人分の収入で、食費は一人分だから出費は一人分。

あれっ?とても現実的かも?十分通常の生活を回していける。そして、私にはそういう選択肢があって、その選択肢をいつでも選べる。

そう思うと、なんか急にテンションが上がってきた。

でも。

やっぱり考えてみると、現実的には不可能。私がいなくなったら、まずお母さんがきっと寂しがる。お母さんが帰宅する時刻には私は寝ているけれど、それでも居るのと居ないのとでは寂しさや人恋しさが全然違う。

それに学校もある。友達と会えなくなるのは寂しい。突然私がいなくなったら、彼女たちは裏切られたように感じるだろう。それに現実的にやっぱり高校は卒業しておいた方が良い。そう考えると、結局今のままの生活が続くことになる。

「学校があるから」

「まあ、そうだよね。そう答えると思った」

「さっきの涼くんの話。悪魔のささやきだね。一瞬クラっと引き寄せられそうになっちゃった」

「悪魔もそんなに悪い奴じゃないけどね。自分の中の悪魔がどんな奴か知っておくのも悪くないよ」

それから彼は続けた。

「自分で選ぶ、ってことが一番だから。うまくいった時のうれしさも、失敗した時の後悔も含めて」

そう言われると、わざわざ難しい道を選んだように聞こえる。普通はこっちを選ぶと思うけれど。

でも自分で選ぶという言葉に、力強さを感じた。誰にも強制されたり促されたりせずに、自分で選んで決めたということに。

いつもは毎日の生活を、何の変哲もない退屈な同じことの繰り返しの、どちらかというと灰色の日常のように思っていたけれど、でも、それは自分で選んだ道だと気づいた。

他にもある選択肢の中から、自分で選んだ学校のある生活。特に深い考えもなく、流れに任せてここまで進んできたけど、実はそれはいろいろ考えた末で最適の解だったのかもしれない。そう考えると、今自分のいる場所、立場、そして生活がとても充実しているように思えてきた。この恵まれた状況をもっと大事にしよう。そして、もっと楽しまなくちゃ。

再認識っていうのかな?

じわーっとそんな思いが心の中に広がった。そんなことを気付かせてくれた涼くんに感謝。

でも声に出していうのは恥ずかしかったので、言えなかった。

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