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孫からの手紙

作者: ヵ月

 かわいい孫娘を追いやった愚か者共がようやくいなくなった。これで妻と孫娘を心置きなく迎え入れられる。しかし……少し時間ができてしまった。そうだ。綺麗好きな妻のため、少しだけ整理しておこう――。



※ゆるふわ設定。甘い部分はご容赦ください。

※2021/10/11追記:日間異世界恋愛ランキング6位になりました!本当にありがとうございます!!!感想・誤字報告もありがとうございます!!


親愛なるおじい様へ


 日に日に日の当たる時間が長くなり、段々と日差しが温かくなってまいりました。昼夜の温度差で体調を崩してしまいそうですが、おじい様はお変わりないでしょうか?


 先日は私の誕生日の贈り物をありがとうございました。一目見ただけで見惚れてしまい、溜息まで出てしまう素敵なドレスでした。初めて見る花の模様でしたが、もしかして以前話してくださった桜でしょうか? 義妹(いもうと)が大変気に入って、喜んでいました。重ねてお礼申し上げます。本当に素敵な贈り物でした。


 来月、私は学園を卒業します。卒業パーティーが終われば、婚約者である第一王子との正式な婚姻となるでしょう。そうすればこうしてお手紙を書く機会が減ってしまいますね。とても寂しく、同時に嬉しく思います。学園を卒業すればお父様に許可を得なくてもおじい様に会いに行けますから。


 そうそう、聞いてくださいな。卒業をあまりに楽しみにしているからか、最近第一王子から「必ず卒業パーティーに出席するように」と念押しされてしまいました。ふふ。おかしいでしょう? 手紙でそう告げられたので、思わず一人で笑ってしまいましたの。直接会って告げられていたらきっと、私は口に出して笑ってしまう所でしたわ。第一王子とは顔を合わせる機会は幾度とありますが、直接告げられなかったのを心から喜んだのは初めての経験でした。不思議なものですね。


 第一王子といえば、最近我が侯爵家にいらっしゃる機会が増えました。今までは学園だけでなく、王妃教育のために王宮へ参上した時もお会いできる時間はあったのですが、わざわざ侯爵家まで足を運んでいただく機会がありませんでした。これは以前手紙でもお伝えしましたね。それが最近、卒業後を見据えているからか、我が侯爵家まで顔を見せにいらっしゃる時間が増えてきました。「家族になるのだから当然だ」とおっしゃっているのを使用人たちが耳にしたようです。さらに「王妃になっても家族といつでも会えるように配慮する」ともおっしゃったようです。なんてお優しいお方なのでしょうね。義妹も義母(おかあさま)も、それはそれは大いに喜んでおりました。私としてもとても嬉しい誤算です。以前から言語の勉強をし直す日々でしたが、どうやらそれはもう必要ないようですね。一つ勉強になりました。


 卒業パーティーが終わったら暇を頂いて、そちらにお伺いしますね。おばあ様から腰を痛めているとお聞きしておりますから、私から会いに行きますわ。その時はおじい様自慢の庭園と桜を見せてくださいね。お会いできる日を心より楽しみにしております。


    貴方の孫娘より



追伸

 領地の件ですが、私には身に余る光栄でしたので、謹んでお断り申し上げます。 



***



 部屋の整理をしていたら、懐かしい手紙が出てきた。

 あれからもう三年も経ったのか、なんて少し笑ってしまう。


 孫娘が私たちの別荘にやってきたのは今から三年前。賢い子だったから、ここへ来る前に戸籍を抜いて侯爵家の娘ではなくなっていた。そうでなければ王命で無理やり連れ戻されていたに違いない。あの国の王はバカな自分の息子の代わりに、うちの孫娘を利用して国を盛り立てて行こうとしていたのだから。まさかバカな自分の息子のせいで孫娘を失っただけでなく、後ろ盾になるはずだった侯爵家も失う羽目になろうとは思わなかっただろう。


 しかし、と手紙を読み返しながらため息をつく。

 当時は好青年だった婿殿が、まさかここまで頭の悪い男だったとは思わなかった。いや、孫娘から手紙を貰うようになるまでは普通の男だと思っていたので、悪賢い男だったのだろう。

 貴族は血によって相続が決まる。入り婿であるあの男に侯爵家の相続権はない。もちろん、その妻となったあの女とその娘にも。亡くなった私の娘の代わりに、そしてまだ未成年だった孫娘の代わりに侯爵家を任されていただけという事を、その地位を失うまで気づかなかった。なんと愚かな男だったのだろう。そんな男だと気づけないまま娘に幸せにしてくれると信じていた自分もまた、殴り飛ばしてやりたいくらいだ。

 孫娘が貴族の戸籍を抜くと、侯爵家の正式な跡取りはいなくなる。となれば必然的に私に相続権が渡る。それからのあの男一家は鬱陶しかった。法を知らないのか、文字が読めないのかと怒鳴りつけたい日々が続いた。今となっては懐かしい……いや、今でも忌々しい記憶だ。



 コンコン、と部屋の扉をたたく音がした。

 そうだ、そろそろ妻と孫娘がこの屋敷に来る時間だ。


 三年前、私は妻と離縁した。理由は孫娘と妻を、安全な隣国の別荘に残すため。私は一人国に戻り、バカなあの男一家と第一王子を追い出した。そして当時の第二王子を王太子に繰り上げるよう根回しした。もちろん、侯爵家は王家に付かない姿勢を崩さずに。

 第二王子は他者と向かって話すのが苦手なだけで、第一王子以上に王の素質があったからだ。その第二王子も、先月王となられた。先王には“長い公務で疲れていらっしゃるのでゆっくり休んでいただいて”いる。表に出ることはもうないだろう。

 妻と復縁の申請も許可されたし、これでようやく一息つける。


 二人を屋敷に迎え入れるために玄関で待っていると、一台の馬車がやってきた。その紋章を見て、私は額に青筋を浮かべる羽目になる。孫娘の気持ち次第だが、王家には容赦しない。そう、強く心に決めた。


2021/10/11追記

 個人的な事情で感想への返信はしておりませんが、届いた感想はすべて目を通しています。とてもうれしいです。本当にありがとうございます!!


 最後の王家の馬車は第二皇子のつもりで書いていました。少しでもこの孫娘ちゃんが幸せになってくれればいいな、と。貴族を抜けるのを第二皇子が手伝っていたら、そして貴族でなくなってから第二皇子が孫娘ちゃんに猛アタックしてたらいいなぁ、と。

 今思えばそっちを書けば分かりやすかったな、と反省しています。でもこれはこれでかなり満足しているので、いつか別視点を書きたいと思います。……いつか。(書ける自信ないなぁ)


 以下解説です。


・第一王子と孫娘の婚約は王命。理由は孫娘の能力、家柄ともに最適だったから。

・第一王子は義妹を溺愛し、婚約者(孫娘)を邪険に扱っている。

・孫娘の母と父は政略結婚であり、当時父には恋人(義母)がいたが別れている。しかし水面下で付き合いは続けており、正妻死亡した際に結婚。義母は愛する人と別れさせられたことを恨んで孫娘を邪険に扱うようになる。また、父は長い間我慢を強いた義母と娘(義妹)を溺愛しているので、義母と義妹の言うことを全て叶えようとする。そのため「姉なのだから譲りなさい」と姉(孫娘)に冷たく当たるようになる。

・義妹は姉(孫娘)の物を何でも欲しがり、作中では誕生日のドレスと婚約者(第一王子)を奪っている。(それ以外もたくさん取り上げている)


・卒業パーティーで、第一王子は婚約破棄&妹を虐めた罪(もちろん冤罪)で孫娘を国外追放、そして義妹との婚約発表を宣言する。(第一王子と義妹との婚約は侯爵家(父・義母)は承認済みだが、父王は知らない)

・↑を、孫娘は事前に気づいていたので、戸籍を抜いた状態で卒業パーティーへ参上。追放を言い渡されたその足で、隣国にある祖父母の別荘へと向かった。


・おじい様は以前から送られてくる孫娘の手紙から孫娘が置かれた状況に気付いていたが、孫娘自身から「成人(卒業)するまでは待ってほしい」と頼まれていたので我慢していた。孫娘が卒業(成人)したので容赦しなくなった。

・優秀とされていた第一王子は、実は孫娘のサポートのおかげでそう見えるだけで、実際はかなり我儘で横暴だった。廃嫡にしたとはいえ、それを黙認・隠蔽していた先王に多くの貴族が不信がったので、第二皇子が成人と同時に王となった。


以上。

 ……解説として書き出すと、書けていない所が多いですね。以後気を付けます……。


 お読みいただきありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[一言] また読みたくなってお邪魔しました。 あとがき?解説が追加されていたのに驚きました。 第二王子の事も勿論、婚約者や義理妹の事も主人公の手紙で書かれていますよね。きちんと読めば伝わりますのでご安…
[一言] この話を解説抜きで理解できるかどうかは、他の令嬢追放物をどれだけ読んだことがあるかにもよるのかなとは思った。 まともな親族視点というのは珍しいかもしれないが、流れ的にはテンプレなのでそこを押…
[良い点] 最初の手紙の文面も違和感があったけど、孫娘ちゃんは侯爵家を抜け、婚約から逃れる事に向かっていたのがチラホラ見えてたのね。 第一王子との間に何があって、祖父とそのように画策したのか解らない…
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