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こっそり三作目





おにいちゃんが『マオー』をたおした!



なかなかのゲキトウだった!



ズルズルと鼻をすすっているおにいちゃんは泣いているようだったのでそっとしておいた。

わたしは空気のよめるオンナだからね!



お兄ちゃんがやってたゲームの主人公は『しょうかんじゅう』をしょうかんして『マオー』や敵を倒していた。それがとってもカッコ良くって、お兄ちゃんがこっそり部屋で練習していたのをわたしは知っている。


ムズムズしたわたしはお絵かきノートを引っ張りだして『しょうかん』してみようと思った。


「マル書いて、お星さま~」


クレヨンでぐるりと紙いっぱいに大きくマルを描いた中に、はみ出さないように気をつけながら星を描く。


「しょうかんじゅう…」


しかし、『しょうかんじゅう』の名前が思い出せない。


「オル……なんちゃら」


「イフ……イフ…」


困った。『しょうかんじゅう』は名前をはっきりと言わないとしょうかんできないからだ。


「………あ、『わたしのねがいをかなえたまえ、いでよマオー』!!!!」


知っている名前といえば、さっき倒した『マオー』がいたと思いつき、

バッと立ち上がって、くるりと回り、床においた魔法陣へ手をおいた。オリジナル召還の舞である。

カッコ良くキマッた!!

ニヤリと笑い固くつむっていた目をふとあけると黒いピカリと光った革靴が見えた。



立ち上がり見ると全身黒い格好の頭から角を生やした青年が立っていた。


「マオー?」


「…私の名前はマオだが……ここはどこだ?」


成功である。はわたしは『ゆうしゃ』だったんだ!!


目をキラキラ輝かせながら、ドタドタと足踏みをする。喜びが足から体へ。体を目一杯動かしながら『マオ』の回りを走り回る。


「…で、ここはどこなんだ?物置か?」


「ここはわたしの家!わたしがあなたを『しょうかん』したの!」


「召還…。」


フム、と顎に手をやって考え込む『マオ』


「幼女よ、私はどうやったら帰れる?」


「ようじょ?わたしの名前はチカだよ!」


「…では、チカよ。私はどうやったら帰れる?」


「え…マオちゃん帰るの?」


「……チカに父や母はいるか?」


「うん、お兄ちゃんもいるよ」


「そうか、私に兄弟はいないが、父や母がいる。チカは父や母、兄に会えなくなったら嫌だろ?」


チカはビックリした。ゲームの中での話を兄に聞いたり、見ていたりしたのに、『しょうかんじゅう』がどこに住んでいて、家族がいるなんて聞いたことも考えたこともなかったからだ。

『ゆうしゃ』ですごいんだと思っていたのに、マオちゃんが帰れなくなったら、どうしよう。悪い事をしてしまった、お母さんに怒られてしまうと思い、胸がドキドキして目に涙が浮かんできた。


「ど、どうしよう!マオちゃん帰れなくなっちゃった!?」


ふわりと持ち上げられて、抱っこされる。


「大丈夫、召還したときのことを思い出すんだ。何と唱えて私を召還したんだ?」


ゆっくりと頭を撫でられる。一番困っているのはマオちゃんなのに泣いてはいけないと思い、ぐいっと涙をを拭く。


「んっとね、『わたしのねがいをかなえたまえ、いでよマオー』って言った」


『しょうかん』の呪文はお決まりだったので詰まらず言う事ができる。


「そうか。…では、願いはあるか?」


「お願い……。」


ゲームの中で、悪い敵に攻撃するとき『しょうかん』をするのだが、ここには悪い敵なんていなかった。どうしようかと涙がじわりと湧いてくる。キョロキョロとなにかないかと回りを探す。もう窓の外は暗くなってきている。お母さんが帰ってくるかもしれない。


「あ!!お洗濯物!!お洗濯物入れるの手伝って!!」


本当は兄が取り込むよう言われていたのだが、ゲームクリアで泣いていてまだ部屋から出てきていないし、母から怒られるのは可哀想だと思った。


「ではその願い叶えよう」


パチンッ!


マオが指を鳴らすと、ガラリと窓が開きふわりと風にのって洗濯物が部屋へと入ってくる。


「わああああ!すごい!さすがマオーね!!」


「大した事はない、ただの浮遊魔法だ。」


ふふんとすこし偉そうにする『マオー』にくすくすと笑う。

そして最後の一枚がソファーに置かれると足元の魔法陣が光り出した。


すとんと下ろされたチカは、なんだか『ありがとう』だけでは悪い気がしてきた。

いつも兄が『面倒くせえ』と愚痴を言いながらする仕事だからだ。


チカは台所のカウンターにあるお菓子を手にすると、


「これお菓子、お願い叶えてくれてありがと!!……また呼んだら来てくれる?」


消えて行くマオに、もじもじとお礼とお菓子を渡して聞く。


「…ああ、また呼ぶと良い。」


そう言うとさらりと頭を撫で、マオは居なくなった。


足元にあるお絵かきノートに書かれた魔法陣の上には靴の跡がくっきりと残っていて、ソファーの上には洗濯物が置かれている。


じわじわと起こった事の実感が湧いてきて、うれしくて、楽しくて、やってしまったという感情はぴょんとどこかへ飛んでった。


そのあと、ただいまと帰ってきた母に一生懸命話した。




※※※※※※※※※※



「ただいま。」


「あら、おかえりなさいマオ。」


丁度母が階段から下りてきているところだった。


「母上にこれを」


先程お礼にと貰った菓子を母に渡す。


「えっこれって、ポテチじゃない!?キャー!!どうしたのこれ!!」


少女のようにはしゃぐ母に、先程のことを話した。

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