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楽しくお掃除

 こうして私は胸に魔王の印を刻んだまま、ここ、魔王城でメイドとして働くことになった。白い(えり)の黒いメイド服は(すそ)が短く足が見えるけど、贅沢は言えない。

 フリル付きの白いエプロンを身につけ、結い上げた青い髪を白いキャップに隠せば、準備は完了だ。


 ちなみにあの日、何ごともなく大広間から出てきた私を見て、もふ魔達は飛び上がって喜んでくれた。


『ぎぃー、きゅきゅっきゅ』


『ぎーいー、きゅきゅっきゅ、きゅきゅっきゅ』


『もしかして、良かったって言ってくれてるの?』


『きゅい』


 心配してくれたこの子達のためにも、一ヶ月のうちに成果を上げたい。


 まずは掃除。

 一日ごとに区画を決めて、朝から晩まで掃除に明け暮れる。


 いくつもの尖塔がある石造りの魔王城は広く、壁や柱には薔薇(ばら)蔓草(つるくさ)、羽の生えた悪魔や星などの装飾がいたるところにあった。

 天井は高く廊下も吹き抜けで、高い位置に窓が付いていることもある。一人では、とてもじゃないけど綺麗にできなかっただろう。


「ぎぃー、きゅきゅ?」


「ぎーいー、きゅきゅ?」


「どこって……じゃあ、今から天井の掃除をお願いするわ。蜘蛛の巣に突っ込んで、蜘蛛を全部食べてほしいの。終わったら洗うから、ここに戻ってきてね」


 私の友達はもふ魔だけ。

 でも、小さな羽で高いところにも届く、心強い友達だ。


「きゅーい」


「きゅーい」


 返事をした二匹が、パタパタと天井めがけて飛んでいく。

 その間に私は、壁や窓を綺麗にしよう。

 

 しばらくすると、黒いもふもふした身体に白い蜘蛛の巣や埃を付けたもふ魔達が戻ってきた。彼らの好物は虫なので、満足げな様子だ。可愛らしい口の中から蜘蛛の足がはみ出しているけれど、見なかったことにしよう。


 水を張った木の桶に、もふ魔ごと突っ込んでゴシゴシ洗う。

 最初はモップ代わりにして申し訳なく思っていたけれど、掃除という概念のない彼らにとって、これは新しい遊びらしい。


「きゅーい♪」


「きゅきゅい、きゅきゅい♪」


「お風呂じゃないから。……って適当に答えているけど、大丈夫よね?」


「きゅい」


「きゅーいー」


「ありがと。じゃあ、今度は天井に沿って端から端まで追いかけっこしてくれる? 途中のシャンデリアやろうそくには注意してね」


「きゅーい」


「きゅーい」


「よーい、ドン」


「きゅーっ」


「きーー」


 かけ声とともに、濡れたもふ魔が飛び立った。

 薄暗い天井に到着した彼らを見届けた私は、再び窓拭きに専念する。窓枠を磨き始めた直後、背後から嫌みったらしい声がした。


「掃除は順調なようですね。それにしても、人間の分際で悪魔を使役するとは」


 吸血鬼のクリストランだ。

 アッシュブラウンの髪に赤い瞳で尖った耳を持つ彼は、魔王の秘書官を務めている。人間嫌いで初日から私につらく当たっているけれど、掃除の邪魔はしない。たぶん綺麗好き。


「使役ではありません、クリス様。同意の上、手伝ってもらっています」


「クリスではなく、クリストラン・シルバニアです! いえ、お前ごときが我が名を呼ぶなど、図々しい。許可した覚えはありません」


 知ってるー。だって、わざとだもん。

 この吸血鬼は自分の名前に誇りを持っているらしく、フルネームで呼ばないと怒る。


「失礼いたしました。クリス様」


 わざとらしく繰り返すと、彼はイライラしたように目を細めた。けれど、私に構っている暇はないと思い直したらしく、一瞥して足早に去って行く。


「人間嫌いなら、わざわざ声をかけなきゃいいのに」


 どんなに美形でも、性格が悪けりゃダメね。

 人間界で王子に懲りた私は、イケメンにはなるべく(かか)わらないと決めている。ただでさえ彼は上級魔族で、プライドが異様に高い。


 まだ魔王の方がマシだけど、最近会っていないのでよくわからなかった。


「わたくしには、もふ魔達がいるものね」

 

 (つぶや)く私の元に、まん丸な天使――もとい、黒いもふもふ悪魔が舞い降りた。ドロッドロのまま腕に飛び込んで、嬉しそうに身体をこすりつけてくる。


「きゅきゅきゅー、きゅきゅきゅー♡」


「ぎぃー、きゅきゅきゅー♪」 


 ――褒めてって言っているのよね?


「ちゃんと拭いてくれたのね。ありがとう」


 おかげで私までドロドロだけど、もちろんがっつり抱きしめて、ついでに頭を撫でておく。

 だって二匹は可愛いし、掃除も上手になっているから。私も頑張ろう。




 魔王の城は一日中暗いけど、一応夜らしきものはある。

 地の底から鳴り響くような鐘の音が聞こえると、魔族達は自分の居場所に帰っていく。もふ魔達も例外ではなく、別れを告げて飛び跳ねた。


「ぎー、きききー」


「ぎぃー、きゅいきゅーい」


 またね、とバイバイだろうか?

 ヴィーという愛称は覚えてくれているので、なんだか嬉しい。


 私も掃除をしていた区画を離れ、自室に戻る。

 でもこれだけで終わろうはずはなく、むしろここからが本番だった。

 清潔な服に着替えて、調理場に急ぐ。


「ヴィー、遅いぞ。今まで何してた?」


「料理長、申し訳ありません。今日は掃除に手間取ってしまって……」


「ふん。教えてほしいと言うから、人間なのに使ってやっているんだ。ありがたく思えよ」


「もちろんです! ええっと、これを全部洗えばいいんですよね?」


「そうだ。調理を終えたら後は任せるから、綺麗に片付けておけ」


「かしこまりました!」


 私は城の料理長に、元気よく答えた。

 サイクロプスという種族の一つ目で身体の大きな彼は、五十年前にくじ引きをした際にアタリを引いて、料理長の職に就いたと言う。

 ちなみに長寿の魔族にとって、五十年は人の五年ほどらしい。


 料理がマズいのは、そのせいか……。


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