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ざまあの時間です 3

 国王も王子も、気の毒なくらい顔が強張(こわば)っている。


 ――これが、国宝盗難の真実? 

 

 兵士への差し入れに薬を盛ったヒロインが、先に宝物庫へ忍び込び、宝を盗んでいたようだ。

 証拠隠滅と私に罪を着せるため、かねてから用意した覆面男に兵士を斬らせた。さらに何食わぬ顔で、王子を利用する。


 死人に口なし。いえ、死ぬ前に私の名前を語らせたので、全てはピピの計算通り。

 だったら王子は、彼女と共謀(きょうぼう)していたわけではないのね?


「これでわかったであろう? ヴィオネッタに罪はない」


 魔王の低音は、静かな部屋によく響く。

 けれどその後すぐ、甲高い声がした。


「違う! こんなの絶対インチキだわ!」


「はっ、そこなる下女は、我の魔法をインチキだと?」


 これには国王や王子、兵士も青ざめている。


「だってだって、犯人は私じゃないもの。これはペテンよ。私を疑うように、その女が仕向けたんだわ!」

 

 ピピが私のせいにして、(わめ)いている。ヒロインの面の皮は、とんでもなく厚い。


 魔王は黙って目を細め、組んだ腕を長い爪でトントン叩いた。

 

 ――いけない。これは、かなりイライラしている時の仕草だわ!


 雷【本物】が落ちては危ないと、私は急いで提案する。


「でしたら、ピピ様の周辺を調べてみてはいかが?」


「はあ? なんであたしが、あんたに指図されなきゃいけないのよ……って、びっくりしましたわ」


 慌てて取り(つくろ)うピピだけど、淑女のメッキが()がれかかっている。


「我の魔法を信じるか、下女の言葉を信じるか。判断は、お前達に(ゆだ)ね……」


「即刻彼女の部屋を調べよ!」


「はっ」


 ことなかれ主義の王にしては、動きが速い。それだけ魔王を恐れているのだろう。


「賢明な判断だ」


 (つぶや)く魔王に、国王が頭を下げた。


 これでピピも万事休すね。

 そう思って彼女を見ると――。


 あら? 全く動じてないみたい。

 隠し場所は、部屋じゃないってこと?


 そもそも盗られた国宝とは、どんなもの?

 情報が少ないせいで、よくわからない。

 私は王子の前に進み出て、尋ねることにした。

 

「エミリオ殿下、今度こそ教えてくださいますよね。盗まれた『妖精のブローチ』とは、どういったものですか?」


 彼はつと視線を()らす。


 ――あのね。ふてくされるより、先に私に謝るのが筋ってもんでしょう?


「銀貨くらいの大きさの、緑色の石だ。金の台座に()まっている」


「意外と小さいんですね」


「……ああ」


 そんな石ならごろごろあるのに、それが国宝とは、どう考えても()に落ちない。


「何か、特別な力でもあるのですか?」


「……そうだ。妖精の名を冠したブローチには、妖精の祝福が授けられている。持ち主の魅力を増幅するらしい」


 王子は他人に聞かれたくないようで、小声で答えた。


「なるほど、宝石そのものの価値よりも、付加効果がすごいんですね」


 (うなず)く私を見ながら、王子がもごもご口にする。 


「考えてみれば、盗んだのならそれを利用するはずだな。……スマナカッ――」


 語尾が小さく、聞こえない。

 もしかして、王子は私に謝った?


「最後が、よく聞こえませんでしたけど?」


 これくらいは、言ってもいいだろう。

 すると王子の青い瞳が、私の視線を(とら)えた。


「すまなかった、と言ったんだ。君という婚約者がいながら、僕はピピを愛してしまった。だが、あの時は彼女に夢中で、ともかく君と別れたかった。婚約は破棄ではなく、解消が妥当だったのに」


「そうですね。心変わりをしたのなら、それくらいの配慮は必要かと」


 解消の方が聞こえはいいし、いじめについても調べれば、追放されずに済んだ。

 そもそも私の元に妖精のブローチがあれば、魅力が増して、王子はヒロインなんかに走らな……。


 その時突然、(ひらめ)いた。


「ブローチが魅力を増幅するのであれば、部屋に置いておくのではなく、直接身につけようとするのではないでしょうか?」


 小声で王子に尋ねた直後、兵士が部屋に飛び込んだ。


「ありません! 殿下の婚約者殿のお部屋を隅から隅まで探しましたが、それらしきものは出てきませんでした」


「ほらね? やっぱりさっきのは、インチキだったのよ」




 室内にピピの勝ち誇った声が響く。

 だけど私は、彼女の堂々とした態度で、確信した。


「いいえ。隠し場所は、部屋ではないでしょう。女官を呼んで、彼女の身体を調べてください」


 果たしてピピはどう出る?

 やましい点があるのなら、身体検査を拒否するはずだけど……。


「いいわ。その代わり、あなたが調べて」


 ――あれ? 顔色も変えずに、私を指名?


「下女の分際で、我のものに指図するのか?」


「レオン、お願いだから黙っていて」


 振り向きざまに口にすると、その場がどよめく。


「魔界の王に指図を?」


「先ほど妻と言っていたが……まさか!」


 ――いや、違うから。単にここへ乗り込む口実だから。


「よかろう。だが、気をつけよ」


「はい」


 私は軽く首肯して、ピピの前に立つ。

 その途端、意地悪そうに光る瞳に気がついた。


 ――まさかまた、私に罪を被せる気では?


「やはり、他の方にお願いしてください」


 私は慌てて後ろに下がった。


「……え? ちょっと、なんでよ! あなたが言い出したんでしょう? 最後まで責任持ちなさいよ」


 私に掴みかかろうとするピピを、割って入った兵士が抑えこむ。後ろから羽交い締めにされたにも(かかわ)らず、ピピは激しく抵抗する。


「離しなさい! でっち上げの映像で私を疑うなんて、ひどいっ」


 続いてピピは、エミリオ王子に向かって哀れな声を出す。


「お願い、こんなのやめさせて。あなたならできるでしょう?」


 ところが王子は、顔を(そむ)けている。


「もう無理だ。(かば)いきれない……」


 途端にピピの顔が険しくなる。


「なんですってぇ~~! たかが攻略対象の一人のくせに、選んであげた私を見捨てるつもりなの!!」


 ――ゲームの事情など王子には関係ない。というか、元々知らないのでは?


 怒ったピピは、足をバタバタさせている。

 こんなのに()められ()(ぎぬ)を着せられた自分は、なんと愚かだったのか。


 深いため息をついたその時、彼女の着ていたドレスから、何かが転がり落ちるのが見えた。

 あれは――。


「ありました! 『妖精のブローチ』です」


 拾い上げた兵士が、嬉々とした表情で報告する。王子の手に渡ったそれは。綺麗な緑色。しかも金の台座に()まっていた。


「そ、そそ、それは……」


 ピピは青ざめ、ガタガタ震えている。


ヒロインがしぶとくて、まだ続きます。

(^◇^;)

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