カフェができました
再開します。
引き続き、よろしくお願いします(*^▽^*)
許可を得た私は、人間界へ出店するカフェの計画を立てていく。もちろん魔王がオーナーだとは公表せず、店名も可愛くするつもり。
念のため、魔王に聞いてみる。
「わたくしがそのまま逃げるとは、お考えにならないのですか?」
「やってみるがいい。刻印があれば居場所はわかる。その後は……わからないそなたではなかろう?」
普段の魔王を知っているので、脅されたって怖くない。
それに私も、一応尋ねてみただけ。
逃げる気など全くなかった。
ちなみに吸血鬼のクリストランは、私が拘わっていると知るや、一も二もなく反対した。
「そんなくだらないことで魔王様のお心をわずらわせるなんて、呆れてものが言えません」
「くだらないって、なんですか? 人間界に店があれば、食材の調達の他、魔族を保護することもできます。魔族は人との軋轢を望まないのでしょう?」
「こちらが望まなくても、向こうが仕掛けてくるんです。まったく、人というものは……」
「その、人から葡萄酒やレースなどの高級品を調達しているんですよね。だったらそれも、諦めますか?」
「生意気な。こちらも毛皮や鉱石、魔具などを提供しています。これは対等な取引です」
「その取引が、もっと楽にできるとしたら? 魔界にとってもいいことだと思いますけど?」
「ふん、魔力もないくせに口だけ達者というわけか。そうやって魔王様を丸め込んだんですね」
「今の言葉、そっくりそのまま魔王様にお伝えしますが、よろしいですか?」
にこやかに告げると、嫌みな吸血鬼は悔しそうな顔で歩き去った。
「さて、きちんと準備をしなくちゃね」
まずは食材。
店で出すつもりのタピオカドリンクには、黒芋粉と米粉、てんさい糖とグァバに似た果汁を使用する。
中でも米粉は、驚くべき進化を遂げていた。
以前ドワーフに大好物のキッシュを差し入れたところ、たまたま脱穀作業の話になった。
「稲がたくさん実ってありがたいけど、お米にするのが大変で……」
「収穫後に、手がかかるというわけじゃな」
「そうなんです」
後日呼び出されて鍛冶場を尋ねると、見慣れぬ道具が並んでいる。
「これは?」
「ほっほっほー。すごいものじゃぞ。ほれ」
ドワーフがある機械に稲をかざすと、粒がどんどん外れていく。
なんと『足踏み脱穀機』だ!
ペダルを踏むことによってトゲの付いた筒状のものが回転するので、千歯扱きより効率がいい。つまり、弥生時代から江戸を飛び越え、一気に近代まで来た感じ。
「すごい!」
「まだあるぞ。ほれ」
続いて石臼のようなものが籾殻を外していく。
さらに上から吊るされた木の棒が、下の臼を叩くものもあった。わずかな力しかいらないテコの原理で、精米していくらしい。
最後は製粉用の石臼だ。
元からあった麦用を、米用に改良してくれたみたい。横の取っ手を持って一周するだけで、硬いお米が粉になる。
「天才ですね!」
「なあに、弟子にはまだ負けんよ。あやつの作ったグラスだけが評価されるのでは、師匠としての名折れじゃからな」
これだと、すり鉢を使えなくなったもふ魔達は不満かな?
……と思ったら。
石臼の取っ手を持って、嬉しそうにぐるぐる回っている。
「きゅーい♪」
「きゅーきゅー」
黒芋の粉を作る方法は、種籾を配った時に希望者に教えた。魔界のどこでも採れるため、特に貧しい地域が熱心に作って城に納めてくれるのだ。
「今はまだ安価だけど、商売が軌道に乗ったら、高値で買い取りましょう」
「そうだな。仕入れは任せてくれ」
料理長も大きく頷く。
黒芋の粉と米粉を混ぜれば小麦粉の代わりにもなるから、調理場でも活用していた。
パンやケーキ、マフィンにクッキー、からあげだってこれで作れる。
もう、魔界の食材がマズいなんて言わせない!
そんなわけで、カフェ用に黒芋の粉と米粉を会わせたものを、あらかじめ大量に作っておく。
タピオカも乾燥させたり蜜に漬けたりしておけば、調理の手間はわずかで済む。
それから店員教育。
実は、これが一番苦労した。
「だるい~。ヴィーのお目付役だからって、なんで僕がこんなこと」
「そう言わないで、ルー。ぜひ協力してほしいの。だって人間に見える魔族は、限られているんですもの」
「ゴルゴン姐さんが乗り気だったでしょう? 彼女を使えばいいよ」
「ダメよ! だって来店したお客様を、片っ端から石にしたら困るもの」
完全に人に化けられるルーとは違い、ゴルゴンの頭の蛇は、かつらでも隠しきれない。
それに甘い物好きな彼女に摘まみ食いをされたら、店としては損失だ。
吸血鬼のクリストランも人の姿に近いけど、こちらからお断り。彼だって私に頼まれるとは、これっぽっちも思っていないだろう。
「俺は夕方までの勤めか。満月の日は休みをくれ」
「もちろんよ、ウルフ。人間界にはあなたが一番慣れているものね」
狼男は即戦力だ。
精悍な顔立ちのイケメンなので、儚い感じのルーと並べば、確実に女性客を呼び込める!!
あとは犬の魔族達。
耳は帽子で隠すけど、顔のひげは『仮装』と言い張ろう。
なんなら私も、付けひげをしようか。
「さ、じゃあ私の後に続いてね。『いらっしゃいませ~~』」
「いきゅっきゅいきゅいーー」
「おう、よく来たな」
「はあ、なんで僕がこんなこと……」
一番張り切っているのは『もふ魔』達。
次が狼男で、ルーの順だ。
もふ魔は置いていくことも考えたけど、可愛いので店のマスコットだと言い張ろう。
ため息をつく美少年姿のルーにも趣はあるけど、それはそれ。立派な店員に育てなくちゃ。
「続いていくわよ。『ありがとうございました~』」
「きゅいきゅきゅーきゅいっきゅ~」
「あざーっしたー」
「……ありがたくないんだけど」
みんなバラバラ。
道のりは遠そうだ。
そんなこんなでバタバタしているうちに、王都への出店が決まった。
場所は、賑やかな通りを少し外れたところ。二階建てなので、忙しい日は二階に泊まり込めばいい。
一階の店内はクリーム色の壁と木の床で、外にもウッドデッキの席がある。青と白のシマ模様のパラソルが、春の日差しを防いでくれていた。
久々の人間界は太陽の光が眩しく、人混みを怖く感じる。
「魔界に慣れたためかしら? 店長だもの、しっかりしなくちゃね」
そう、私が店長で店の名前は『ペルラネラ』。
黒真珠という意味だけど、タピオカが真珠のように見えることから名前が付けられた。
私の『もふ丸屋』という案は、全会一致で却下。
黒いタピオカはもふ魔っぽくて可愛いのに、なんでだろう?
悔しいので、最近は「タピオカ」のことを「もふ丸」と呼んでいる。
制服は白いシャツに黒のズボン、黒のエプロンと至ってシンプル。私と犬の魔族は、これに白いキャップを被っている。
準備もできたし、掃除も終えた。
魔界カフェ、いよいよオープンだ。




