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そして魔の森へ

 ――私を(おとしい)れたのは、なんとヒロインだったのだ!


 真実を知り、私は彼女に(つか)みかかった。

 

「ふっざけんじゃないわよ。自分さえ良ければ、それでいいの!」


「きゃあーっ」


「やめろ! お前達、そのデブ……女をすぐに捕らえよ!!」


 元婚約者の命令で、私は兵士に取り押さえられた。

 後ろ手に縛られて猿ぐつわを()まされたため、ピピが怪しいと訴えることさえできやしない。


 まんまと彼女の罠に()まったようだ。

 私の苦労もたゆまぬ努力も、同じく転生者であるヒロインには、全てお見通しだったらしい。


「ヴィオネッタ、僕の愛しい人に手を上げるとは我慢ならん。今、この場で斬り捨ててやる!」


「待ってください。私が彼女を刺激したようです。エミリオ様、どうかお慈悲を」


 ヒロインが、いらだちをぶつけた王子に駆け寄り、優しい言葉を口にした。


 ――この女、わかってやっているのね。どこまで腹黒なの!?


「ゲームの世界」と言った彼女は、この先の展開も当然知っている。

 知っていてなお私を(もてあそ)び、ゲーム通りの死に導こうとしているのだ。

 死亡フラグを回避しようと奮闘する私。

 そんな私をこのヒロインは、陰であざ笑っていたのだろう。


「優しいピピのおかげで、命拾いしたな。感謝するがいい」


「んぐーーっ、ふぐーーっ!!」


「うるさいぞ。鳴くなら牢屋で鳴け」


 エミリオ王子が、容赦のない言葉を投げつけた。

 一方的に断罪し、無実の私に目もくれない。

 ゲームのせいかもしれないけれど、こんな男は嫌だ。




 必死に抵抗したものの、後の祭り。

 冷たい家族は私をなじり、さっさと見捨てた。

 そして私は魔の森へ。


 連行した兵士は目隠しも外さず、慌てて去って行く。

 そのため、目を覆う黒い布を自力で外すのに、だいぶ時間がかかってしまった。


「日の光がほとんど差し込まない、結構深い森なのね。暗くて時間がわからないわ」


 それだけならまだしも、目隠しをされて歩いてきたため森のどの辺りかもわからない。


「せっかくぽっちゃりしたのに、ゲームと同じ運命になるなんて。しかもエンディングが一年も早いとは、聞いていないわ!」


 原因はきっとヒロインだ。

 会ったことすらない彼女が、影で上手く立ち回ったらしい。そのせいで、私は強制的に悪役令嬢へ。当然のように追放されて、ヒロインと王子はめでたしめでたし。

 

「……って、ちっともめでたくないから!」


 ヒロインと少しも拘わらなかったせいで、他の攻略対象の動向がわからない――みんな、よく平気でいるわね。

 それに彼女が王子狙いなら、さっさと譲れば良かった――今さら反省しても遅いけど。

 

 一つだけ、希望はあった。

『カルロマ』の悪役令嬢は、魔の森で終了する。

 裏を返せば、生きて森を抜け出たら、私は自由だ!


「ちょっと待った。今の考え、死亡フラグっぽくなかった?」


 まあいいか、前進あるのみ。

 魔の森は国の西にあるから、東に向かえば出られるはずだ。


 むやみにうろつくのは危険なので、まずは切り株を探してみよう。

 確か、年輪の細い方が北だった。北がわかれば東もわかる。


「切り株発見! こっちが北なら、東はあっちね。案外簡単に出られそう」


 空腹については、心配していない。

 身体にたっぷり蓄えているし、前世の私は料理教室の講師だった。食べられる木の実を見つけ次第、摘んでおこう。


「森を出たら、仕事を探さなきゃ。その前に、住む場所を確保した方がいい? 街に行けば、住み込みの仕事が見つかるかもね」


 わざと明るい声を出し、東に向かう。

 諦めたら、そこで終わってしまうから。

 悲しくてもつらくても、立ち止まりたくはない。

 いつか幸せになるために、前に進もう。


 その時突然、遠吠えのようなものが聞こえてきた。


「オオォ~~ン」

 

「そんな! ストーリーはまだ続いているの?」


 脳裏にある映像が浮かび、私は愕然(がくぜん)とする。


『カルロマ』の悪役令嬢は、ヒロインのエンディング後に流れる画像で狼の群れに襲われて、生きたまま身体を引き裂かれていた。その後、悪魔のような黒い影が彼女を(おお)う。


「まさか、狼が本当に私を襲う?」


 エンディング後もゲームに忠実なんて、あんまりだ。とにかく逃げなきゃ。

 慌てて辺りを(うかが)うと、木々の間に何対もの光る目があった。


 ――――狼だ!!!


「ウオォォォ~~ン」


 群れのリーダーらしき声が響くなり、私は駆けだした。


「身体が重くて、走れない!」


 狼は集団で狩りをする。

 逃げても無駄だとわかっていても、こんなところで死ぬのは嫌。


「来ないで!」


「ガウガウガウ」


 落ち葉の積もった足場は悪く、枝や(とが)った葉が腕や頬を傷つける。つかず離れずの距離をとる狼は、狩りを楽しんででもいるみたい。

 対して大きな身体を揺らして走る私は、息が上がってきた。けれど途中で立ち止まれば、確実に死が待っている。


 運の悪いことに、木々が途切れた。

 広場のような草地は見通しが良く、絶体絶命だ。


「オォォォ~ン」


「ウオォォォ~ン」


 狼達は勝利の大合唱。

 リーダーらしき狼が、群れを率いてじりじり迫る。


「近寄らないで!」


 みっともなくてもあがきたい。

 どこかに、身を守れるものは……。


 突如、()った彫刻の石の扉が出現する。

 明らかに、森には不似合いだ。


「何これ?」

 

「ガルルルル……」


「グワアッ」


 迷っている暇はない。

 急いで中へ飛び込むと、私は力いっぱい扉を閉めた。


「ギャン」


「グワッ」

 

 扉の向こうに何かが当たった気がしたが、その後はシンとして何も聞こえない。


「助かった…………かな?」 


 扉を両手で押さえたまま、ひと息ついた。

 乱れた呼吸を整えて、やれやれと後ろを向く。

 

「な、なな、ななな…………」


 驚きすぎて言葉にならない。

 眼前に広がるのは、見たこともない景色だ!


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