てんさい発見!
ルーが忙しい時は、黒いローブを纏った魔族が、私を案内してくれることになった。
「初めまして……かしら?」
「そうですね、初めまして。私はスクレットと申します」
「わたくしはヴィオネッタよ。よろしくね」
「どうも」
ためらいがちに握手する。
彼はどう見ても、全身骨のガイコツだ。
「今日は北にあるゴブリン(小鬼)の住む村なので、安全です」
「それは良かったわ」
けれど到着後、スクレットに紹介された私が挨拶すると、耳の尖った緑色のゴブリン達は嫌~な顔をした。
「人間が、こんなところになんの用だ?」
「魔王様が寄越したのって、まさかお前じゃないだろうね」
「みなさん、興奮しないで!!」
私に詰め寄る十名ほどの村人達。
スクレットは、彼らをとめるのに必死だ。
「落ち着いて、我々の話を聞いてください」
ところが、大柄なゴブリンがスクレットを押しのけて、私の胸ぐらを掴もうとする。
「さっさと出て行け!」
彼が触れた瞬間、胸元の魔法陣が光る。
「うわあーっ」
突然、そのゴブリンが遠くに弾き飛ばされた。
尻もちをつき、呆然としているようだ。
周りもピタリと騒ぎをやめて、こっちを見ている。
「ええっと、その……」
私もわけがわからない。
いったい、何が起こったの?
「この方を遣わしたのは、魔王様です。そういうわけですので、どうかご協力を」
大声を出すスクレット。
ゴブリン達は、またもやざわつく。
もしや今のって、魔王が刻んだ印のせい?
魔法陣の光は収まっているが、胸元に手を置くとほんのり温かい。『罪科』の印と聞かされたけど、この刻印は私を守っているような……。
「まさか、ね」
魔王が私を気にかけるはずがない。
それとも、罪が確定するまでは何人も手を出せない、ということだろうか?
「みなさーん、話を聞いてください」
スクレットは、ゴブリン達をなかなか説得できないみたい。
こんな時、ルーのすごさがよくわかる。
いたずらを仕掛けたハーピーは、あの後羽をむしられて、ブルブル震えていたっけ。
あの地で発見できたのは、城でもよく見る黒芋と、ウサギによく似た動物だった。耳が長く目は三つで、鋭い牙がある。
食材にしたいかというと……微妙だ。
そんなわけで、他人(他ガイコツ?)にばかり任せてはいられないと、私も声を張り上げた。
「魔王様の命で、食材調査にまいりました。ご協力くだされば、今より美味しい食べ方がご提案できるかと」
「ふん。人間の言うことなんて、信用できるか!」
「そうだ、そうだ! 森を荒らしたり、当たり前のように差別をする種族だろ?」
「でも、生活は豊かだと聞きますよ」
ひょろりとした若いゴブリンの言葉に、他の者が押し黙る。
見たところ村人達の服は質素で、痩せているので食べものにも苦労していそうだ。
「本当に調査だけですかな? 我々に危害は加えないと?」
杖をついたゴブリンが、前に進み出た。
白い眉毛とひげを持つ腰の曲がったこのゴブリンは、村の長老といったところだろうか?
「もちろんです。魔王様の使者である、この私が保証しましょう」
スクレットは胸を張るが、ゴブリンのお爺さんは首を横に振る。
「いいや、お前さんじゃない。わしは、このお嬢さんに聞いておるのだ」
お爺さんの言葉で、ゴブリン達が一斉にこちらを向く。
私は急ぎ、口にする。
「危害を加えるなんて、とんでもありません! ご心配なら、調査の内容を逐一報告しましょうか? 案内がいらした方が助かりますが、無理なら結構です。みなさんの邪魔をするつもりはありません」
「……ふむ」
考え込む長老を、周りのゴブリン達が固唾を呑んで見守っている。その顔は、疑い半分期待半分といった感じかな?
「よろしくお願いいたします」
私は深く頭を下げた。
自分の命が懸っているから、プライドなんてどうでもいい。
「人間が頭を下げた!?」
「下手に出るということか?」
「いや、わからん。油断するな」
――あれ? もしかして逆効果!?
スクレットに目を向けるが、彼はおろおろするだけで、なんの助けにもならない。
やがて、ゴブリンの長老が口を開く。
「わかりました。あなたの言葉を信じましょう」
「なんと!」
「おおーっ」
ゴブリン達がざわめく中、長老は先ほどのひょろりとした若者を指名する。
「ヤムヤム、二人を案内してあげなさい」
「かしこまりました」
「魔王様のご使者殿、この村をよろしくお願いします。これといった特徴のない土地ですが、もしお眼鏡にかなうものがあれば、彼にお知らせください。それをもって報告といたしましょう」
「わかりました。お任せください!」
スクレットが、またしても胸を張る。
今のはどう考えても、私に向けた言葉であるような……。
まあ、いいか。
私は首を縦に振り、ゴブリンの青年の案内で調査を開始することにした。
「またこれ? 黒芋だけは、どこでも採れるのね」
目の前には、何度も口にした黒芋の畑がある。
煮ても焼いても硬く、そのくせ噛むと粘り気のある代物だ。調理法については、いまだにわからない。
「はい。こちらが村の主食です。あとは、子供達がおやつとして囓る『まだら根』くらいですかね」
「まだら根? ……ってことは、おやつが根っこなの?」
「そうです。意外といけますよ」
なんてこった。
この土地は、想像以上に貧しいらしい。
根っこがおやつ代わりとは、戦時中でもあるまいし。
現状を把握するため、一応案内してもらうことにした。
村人が『まだら根』と呼ぶものは、黒芋の畑の奥に勝手に生息しているそうだ。
葉っぱの形を見た瞬間、なんとなく覚えがある気がして、鳥肌が立つ。
「これって……大根?」
引き抜くと、形は大根で色は茶色と白のまだら模様。なんとも奇妙な色合いだけど、腐っているわけではない。
「だいこん、とは? これは『まだら根』です。囓ると甘みがありますよ」
「甘み? からみの間違いでは?」
手に取り、服の袖で泥をこすり落とした。匂いを嗅いでみるものの、よくわからない。
ええい、食べた方が早い!
かぶりつくと、口いっぱいに甘みが広がる。
形は大根に似ているけれど、これは……。
「てんさいだわ!!」