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運命の日※

魔界のコース料理、の回です。

 そしてとうとう、運命の日がやってきた。

 今日で生死が決まるため、気合いも入るというものだ。


 大理石の床と柱がある食堂の中央には、縦長のテーブルがある。清潔な白いテーブルクロスや上に乗ったお皿は全て、私ともふ魔達で用意した。ちなみに魔族は銀を嫌うため、銀の食器は存在しない。


 長方形のテーブルの奥に座るのは、もちろん魔王。彼の左右に、上級魔族が腰を下ろしている。


 魔王のすぐ右手は人型のルーで、左手が吸血鬼のクリストラン。右の方が格上だと聞いたから、ルーが魔界のNo.2?


 他にも、頭に蛇が渦巻く女性(明らかにゴルゴン)は色のついた眼鏡をかけていて、鼻までのドクロの仮面を被った男性(たぶん死神)は黒い鎌を手放さず、席に着いている。


「それでは始めよう。準備はできているんだろうな?」


「はい。全ての料理を、魔界の食材だけで作っております」


 魔王の問いに、緊張気味に応えた。

 調理場のみんなも協力してくれたため、最初の盛り付けは済んでいる。



<一品目、前菜>。

 ブルスケッタとキノコのソテー、魔鴨(まがも)のフランベの三種盛り。


 ブルスケッタとは、ニンニクを塗った薄いパンに野菜などを載せたものを言う。

 今回は、石窯で焼いたフランスパンを薄切りにした上に、トルナマトとチーズと香草を白葡萄酒入りのドレッシングで()えたものを置いている。


 キノコのソテーは、魔界に生息する赤と黄色のキノコを炒めたもの。人間界では毒キノコでも、魔界ではなぜか毒がない。


 フランベは度数の高いお酒に火をつけて一気にアルコール分を飛ばすこと。オレンジ酒を使用したため、鴨肉には柑橘系のほど良い香りがついていた。

 

「ほう、いろんな色があるな」


 魔界の料理はほとんどが、黒や茶、紫か緑で占められている。そのためこの前菜は彩りも鮮やかで、魔王の興味を引いたのだろう。


「見た目など、どうにでもなります。問題は味でしょう」


 吸血鬼の嫌みは、本日も健在だ。

 彼の好みはトマトに似たトルナマトだと、調べはついている。


「人間の作ったものを、食べる日がくるなんてねぇ」


 濃い色の眼鏡をかけたゴルゴンは、そう言いつつもパクパク食べている。死神っぽい男性は無言だが、お皿の上の料理はあっという間に消えていた。


「まあまあ、ね」


 ナフキンで口を拭いながら、ゴルゴンが感想を漏らす。

 私はルーに目を向ける。


 ――ルーってば、また野菜だけ残して!


 人の姿の時でも、ルーはお肉しか食べないようだ。肉食ではなく、本当はただの野菜嫌いでは?


 前菜の中に、鴨肉を用意しておいて良かった。


 吸血鬼のクリストランは文句をいいつつ、トルナマトの載ったブルスケッタだけはしっかり食べていた。パンには魔界版のニンニクが塗ってあるから、吸血鬼はニンニクが苦手、というのは迷信らしい。


 魔王のお皿はすでに空。

 綺麗に平らげてはいるけれど、口に合ったかどうかはわからない。


 次はサラダで、その後メイン。

 仕上げのため、私はそろそろ調理場に戻らなくてはならない。


「みなさま、引き続き食事をお楽しみください」


 丁寧にお辞儀をして、食堂を後にした。



<二品目、サラダ>

 魔王城の菜園で()んだ茶色い葉物に、コカトリスのゆで卵をみじん切りにしたものに、トルナマトを載せてみた。ドレッシングには、すり鉢ですりつぶした緑の香草を加えている。

 ミモザサラダのイメージだ。


「きゅーきゅ」


「どうぞって言うのは、お客様の前についてからよ。じゃあ、よろしくね」


「きゅーい」


「きゅーい♪」


 給仕は、私より張り切っているもふ魔達。

 器用に頭の上に載せて運んでくれているが、今まで角が出し入れ自由とは、知らなかった。


 私が食べる側なら、彼らの愛らしさだけでご飯三杯は確実にいける。



<三品目、メイン>

 悪豚(わるぶった)のスペアリブと、コカトリス&マンドラゴラの葉入りキッシュ。


 試行錯誤の末にできたバーベキューソースは私の自信作で、骨付き肉にもよく絡む。


 キッシュは人間界では定番の卵料理で、コカトリスは鶏肉、マンドラゴラの葉はホーレン草にそっくりだ。このキッシュは、鍛冶場にいるドワーフのお爺さんの好物でもある。


「お肉の入ったキッシュなら、ルーの口にも合うわよね」


 ルーがいつも美味しそうに食べてくれるから、腕によりをかけた。


 誰かのために作ること、美味しいと言って(吠えて?)もらえること。それがこんなに嬉しく思えるのも、彼のおかげだ。


「もしかして、魔王のおかげでもある?」


 処刑の話は抜きにして、純粋に料理が楽しい。貴族の時にはできなかった料理が、ここでは堂々とできるから。

 

「さてと、そろそろ次が焼き上がる頃ね」



<四品目、ピザ>

 二種類の石窯焼きピッツア。


 ライ麦に似た黒麦を使用し、薄い生地にした。

 一つはトルナマトをベースにしたソースを塗って、新鮮なトルナマトのスライスと暴牛のチーズの上に香草を置いた。マルガリータのイメージだ。


 もう一つは、すりつぶした香草と木の実のソースを使った。コカトリスの肉とキノコをトッピングしたバジルっぽい風味のピザだ。


 二種類あれば、どちらかは気に入ってもらえるだろう。サイクロプスの料理長が「二つとも美味しい」と絶賛してくれたから、それほど心配はしていない。

 


<五品目、デザート>

 高級な魔骨鶏(まこっけい)の卵をふんだんに使用した卵プリン。

 ハチミツを使っているため、優しい甘さとなっている。ここに生クリームを絞り、果物を飾ってみた。保冷に優れた冷蔵庫があるからこそ、できた一品だ。

 

「魔骨鶏の卵は多くて一日一個。でも、たくさん飼っているからそれなりに集まるのよね〜。ただ、高級食材には違いないから、頻繁(ひんぱん)には作れない。そこが問題だわ」


「何が問題なの?」


「ルー! もしかして、食事が終わったの? どうだった?」


 感想が気になり、息せき切って尋ねてみた。

  

「僕は美味しいと感じたけど、みんなはどうだろう? ゴルゴン(ねえ)さんは、クリストランからプリンを奪い取っていたよ」


 あの女性は、やはりゴルゴンだった。しかも、(ねえ)さんと呼ばれているらしい。


「気に入ってくださったのなら、良かったわ」


「それはそうと、魔王が呼んでたよ」


「え!? まさか、それを言いに来たの?」

 

「うん」


「そんな! 早く言ってよ~~」


 魔王を怒らせたら、私の命が危ない。

 だけどマイペースなルーは、「なんで?」というふうに、のんきに首をかしげている。

 

 急いで行かなくちゃ!


 

 ◇◆◇ヴィーの簡単ブルスケッタ◇◆◇


 フランスパン 1/2本

 ミニトマト 12個

 バジルの葉 7〜8枚

(または市販のバジルソース)

 にんにく 2片

 塩 小さじ1/2

 オリーブオイル 大さじ1〜


1.フランスパンを1.5㎝幅にカットし、トースト

2.にんにく1片をそのままパンに塗る

3.ミニトマトのヘタを取り、4等分に切る

4.バジルを手でちぎる(バジルソースの場合はまだ)

5.にんにくのもう1片をみじん切り

6.3〜5を混ぜ、塩とオリーブオイルを加える。

7.6をトーストに盛り付け完成!

(市販のバジルソースはスプーンにとって、点々と飾り用にかける程度)


ヴィーのひとこと

「パンの表面がでこぼこだから、生のニンニクをそのままこすりつければOKよ」

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