魔界の食材は危険がいっぱい
いつもありがとうございます(*^ω^*)
今回は、魔界の食材の話です。
黒い毛玉のもふ魔達と、もふもふした銀色の毛並みのルー。
優しい彼らに囲まれて、私の魔界での日々は充実している。
だんだん慣れてきたのか、フェンリル改めルーは昼間も顔を見せてくれるようになった。銀色狼の登場に、初めは戸惑っていたもふ魔達。今ではすっかり仲良しで、時々背中に乗っている。
「きゅー、きゅーい」
「きゅー、きゅきゅ〜い」
「ガウガウ」
ルー、高~いって、言っているのかしら?
可愛いわ。
まるでもふもふパラダイス!
これで処刑に怯えることさえなければ、最高なのに。
ここに来て10日ほど経過したため、城内はそこそこ清潔になってきた。ルーはやはり上級魔族で、彼がいると魔族達には邪魔されない。それどころか、協力を申し出る者まで現れた。
「フェンリル様を護衛にするなんて、あなた、ただ者ではありませんね?」
「人間の匂いがするけど、実は上級魔族なの?」
「いいえ、ただの人間です」
手伝ってくれるのは、頭の上に耳が付いた犬のような魔族が多いかな? 彼らはルーの眷属なのかもしれない。
せっかくなので遠慮なく頼み、カーテンや布を外してもらった。洗濯物の量は増えたけど、綺麗になったら見違えるだろう。拭き掃除が得意になったもふ魔達も、かなりの活躍だ。
吸血鬼は納得できないらしく、近頃嫌みが倍増している。
「ハッ。人間のくせに上級魔族までたらしこむとは、油断なりませんね。あなたもあなたです! 人間の機嫌を取るなんて、魔族としての誇りはないんですか!!」
フェンリルのルーは小言をあっさり聞き流し、あくびをしている。
思わず噴き出しそうになったけど、必死に耐えた。
「そうやって偉そうにしていられるのも、今のうちです。あと少しで処分されるでしょう」
シャレにならないセリフだが、強い味方が側にいるので、前ほど怖くない。
私は私にできることをしよう。
「ルー、今日は外に出て収穫したいんだけど……いい?」
「ガウ」
上級魔族は絶対的な存在で、敷地内はフリーパス。
もふ魔達が怯える区画にも余裕で入れるため、珍しい食材がどんどん手に入る。
ただでさえ最近氷室の調子が悪く、あまり保存が利かない。一つ目の料理長に頼まれてもいるから、新鮮な食材を採ってこよう。
まず向かったのは、『トルナマト』の区画。
茶色の茎に実は赤紫色でトマトに似ているが、収穫が結構面倒くさい。ヘタのすぐ横に弓の的のようなものがあり、これに小石を当てないと絶対にちぎれないのだ。
近づきすぎるとたちまち枯れるし、しかもゆらゆら揺れている。柵の向こうから小石を当てて、落ちた実を熊手でかき出さなければならない。
「ここで時間を取ると、他に行けないわ。コントロールは良くなったはずなんだけど……」
柵に備えられた石を、的に向かって投げていく。
けれど今日のトルナマトは生きが良く、激しく動いて狙いが定まらない。
「ごめんね、ルー。もう少しで終わるから」
「オオォォォーーーン」
困った顔で告げたら、いきなりルーが吠えた。
びっくりしたトルナマトが、一斉に動きをとめる。
「……え? もしかして、今がチャンスってこと?」
とまっているため、面白いように的に当たる。ボロボロ落ちるからといって実を取り過ぎてもいけないので、この辺にしておこう。
「ルー、ありがとう。余った分はソースにするからね。じゃあ、次に行きましょう」
短時間でかごいっぱいになったトルナマトをもふ魔に託し、別の区画へ。
次はマンドラゴラの畑だが、私はまだ実物を見たことがない。マンドラゴラの根は猛毒だけど、葉は柔らかくて美味しいそうだ。
葉のみ手に入れたいけど、切れば人の形をした根にバレてしまう。
「根っこの叫びを聞くと、即死するのよね? 声を聞かずに葉を収穫って、どうすればいいかしら……」
耳を塞げば引き抜けないし、代わりを頼めば頼んだ相手の命が奪われる。諦めて立ち去りかけたその時、ルーが唸った。
「ガルルルル……」
「え? 根っこを脅せばいいの? ……って、違うみたいね」
マンドラゴラのところに戻りかけた私の背中を、ルーが鼻で外に押す。だいぶ離れたところで、ルーが尻尾を向けて走り出す。
「待って、ルー! どこに行くの?」
慌てて呼ぶけど間に合わない。
なんとルーは、マンドラゴラの畑に戻っていた。狼は人間より耳がいいから、悲鳴を聞けばひとたまりもないはずなのに。
「ダメよ、ルー。そこまでしなくていいの!」
とめる間もなく、大きなフェンリルは前足で器用に土を掘る。
「……ピッ」
「……ピキッ」
小さな声が聞こえた気がしたけれど、一瞬なのでわからない。畑にいるルーの足下に、地中から出た何かが積まれていく。
「そうか。マンドラゴラは『引き抜く時』に声を上げるから、瞬時に採れば平気なのね!」
鋭い爪を持つルーが掘ったおかげで、マンドラゴラ達は悲鳴を上げる暇もなかったようだ。
掘るのをやめてひと鳴きしたルーに、私は安心して近づいた。
「うわっ。根っこは本当に人みたい。葉っぱはホーレン草に似ているかしら? キッシュに入れたら美味しそう」
貴重な食材を手に入れて、満足しながら続いての場所へ。
難易度はどんどん高くなり、一般の魔族では手に負えない区画だ。
ここは、鶏の身体と蛇の尻尾を持つ『コカトリス』の小屋。味はほぼ鶏肉で卵も美味しいけれど、凶暴なので料理長でも手を焼くそうだ。
「危ないので見学だけでいいわ。黒芋がたくさんあったから、当面はあれで凌ぎましょう」
初日に食べた黒い芋は、危険もなくすぐに収穫できるので、食事によく出された。どう工夫しても硬く、噛めばねばつく。
美味しくないけど、食材入手に命を懸けるよりはいい。
小屋の外から目を凝らしてみれば、コカトリスはかなりの大きさだった。鶏肉がたくさん取れそうだけど、ここは我慢我慢。
「コケーッ!」
「ゴッゴッゴ、ゴケーッ」
「コケーッ、クケー!!!」
ところが、コカトリスは異様に興奮している。なんで?
――ああ、隣のルーが身を低くしているからか。コカトリスを狙っているのかな?
「ええっと、料理長が二羽(匹? 頭?)までなら獲っていいって言っていたわよ。でも、ルーは上級魔族よね。許可を得ずに食べてもいいんじゃない?」
小屋の中には天井に届きそうな鉄の柵がある。鍵付きの柵に近づくルーを、私は慌てて追いかけた。
「待ってね。今、柵を開けるか……ひゃあっ」
ルーが突然跳躍する。
フェンリルは高い柵をあっさり跳び越えると、コカトリスの喉笛をかみ切った。
「ゴケーッ、ゴケーッ」
「グケーッ、ゴーッ、ゴッゴッゴ」
コカトリス達が、恐れを成して逃げ回る。
そこら中に羽が飛び散り、小屋中に喚き声が響く。
コカトリスをくわえて戻ってきた、得意そうな顔のルー。私は呆気に取られ、どう反応をすればいいのかわからない。
ルー、上級魔族かどうか疑ってごめん。
あなたはやっぱり強いのね。
次はいよいよ……?




