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魔女になりたいのになれない私はどうすればいいのか?  作者: 暇したい猫(桜)
魔女になりたいのになれない私はどうすればいいのか?
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第四章 2 蒸気の槌


 一番区、裏路地上空。そこは、ほんの七日前に迷子になっていた優男を探す為、シーアを空へと連れて行った場所である。


「まさかここがチェックポイントになるとはね……」


 ゲートを潜り、一旦止まる。純白のショールがパタパタはためく。

 レースは中間地点を過ぎたが、未だ校長が現れる気配はない。残るポイントは二つ、六番区と七番区だが、どちらに潜んでいたとしても差はない。おそらく一気に私を捕まえるため、ぎりぎりまで体力と集中力を削る作戦なのだろう。

 そうだとすれば、校長はこのまま私を安全に一番区から六番区へ飛行させてくれるはずはない。必ず何かある。


「アイさぁぁ――――ん」


 名前を呼ばれ裏路地を見下ろす。裏路地の真ん中で優男に車椅子を押されつつ、シーアは両手を振った。高度を下げ地面から十センチ浮かんで静止する。


「さぁ、乗って」


 前のめりになり、一人分の座るスペースを作る。これから蒼髪少女の案内で、一番区を抜け、断崖からユウが閉じ込められたという魔導式砲台の格納ドッグへ潜入するのだ。

 大事な武器の隠し場所を知られた以上、その場に魔導式砲台を隠したままにしてある可能性は低い。だが、確認だけはしておきたかった。もし存在していなければ、砲台は校長と共に待ち構えているはずだ。たった一つでも真実がわかるだけで油断せずに済む。

 それに格納ドックは学校の演習場へと道が繋がっている。こんなショートカット、使わない方がおかしいだろう。

 だが、優男が躊躇して車椅子少女をほうきの上に乗せない。少女の目の前で跪き、反論の意を唱える。


「どうしてもシーア様が行かなくてはなりませんか? 端末を渡し通信すればよいのでは」

「知っているはずです。電波塔がない魔法国では広域通信は不可能。かろうじて街全域に文章を送れる程度しかできない……整備ドックがある深部は電波が届きません」

「では、我が共に……」

「住民の警護を放り出すのですか?」


 唾を飲む。跪いた男が言葉に詰まり、顔を伏せた。

 決して魔法国民を蔑ろにはしない。いや、してしまってはシーアの期待に背くことを理解している。しかし一方で、仕える者としては主人の身を気遣うのは当たり前の行為だろう。だからこそ、彼は沈黙で答えている。

 シーアも察したのだろう。優男に向けて深々と頭を下げた。男が目を皿のように広げ、慌てふためく。


「心配しくれてありがとうございます。ですが、この役目は、一番の足手まといである自分が唯一協力できる事です。どうかやらせてください」

「…………」


 優男は立ちあがると、同時に姿勢を傾けた蒼髪少女をお姫様のように大事に担ぎ、ほうきに乗せた。シーアが私の腰にしがみつく。


「アイ殿、よろしくお願いします。あと、これは頼まれていた機械です」


 まだ納得してはいないようだが、ポロシャツを着た男性は小型機械を渡した。私はそれをポーチに詰め込み頷く。


「うん、まかせて。きちんと六番区で待っているシスターさんに送り届けるから」

「ありがとう」

「シーア様、かける言葉が違います。ここは『行ってきます』とおっしゃるのです」


 意表を突かれたかのように蒼髪少女が頬を引き吊らせた。だが、彼女はそのまま持ちあげて微笑みを返す。


「そうですね。行ってきます」


 その言葉を聞いてから私は魔法のほうきを発進させた。“風”が舞い、次第に建物や人が小さくなっていく。


「御気をつけて―――」


 と叫び声が響いた。シーアが手を振る。

 目指すは整備ドックが連なる大峡谷だ。一番区を突っ切るため速度を上げた。


     ◇


 シュウウ、と風が吹きぬけ景色が川のように流れる。今日もいい風だ。


「シーアちゃん、大丈夫?」

「心配は無用です。それより、大峡谷が見えてきました」


 後ろから指で示された先に視線を向ける。進行方向の先で待っていたものは、大陸へと繋ぐ大橋とその下に佇む断崖絶壁だ。


 ――えっと、たどり着いた後は体勢を変えずに降りた方がいいのかな……。


「危ない!」

「えっ!?」


 突如、空気が揺れ一番区の街中から何かが轟音と共に打ち上げられた。


「シーアちゃん、しっかりしがみついてね!」

「はい!」


 腰に腕が絡みつく。時を同じくして、全体重を柄の前方に乗せた。バランスを失ったほうきは、推進力が空回りしてブラシ部分だけ宙へと舞い上がる。

 直立した瞬間、玉がブラシ部分があった場所を通り過ぎた。熱せられた空気が肌を掠める。


 ――これは“蒸気”? 水と火の属性を持つ魔女……いったい誰が。


「アイさん!!」


 シーアちゃんが叫んで思考を現実へ戻してくれた。再度、下方から輝きが迸る。今は考えている暇はない。

 スピードを殺さず一回転した後、姿勢を立て直して再び滑空させる。狙われている、という緊張が額に冷や汗を流した。無意識に両手に力が込められ、速度を上昇させる。


「次、右下後方から来ます」


 シーアの言葉通り、右下から眩い光が点滅した。途端に“蒸気”の揺らぎが起きたため、体を左に倒す。ほうきが真横に移動し攻撃が空振りした。


「遥か下方から漆黒のコートと三角帽を着た魔女が来ます!」


 蒼髪少女の視線を辿るが、高度がありすぎるせいで視界には黒い点にしか見えない。とても動作を見分けることは不可能だ。


「漆黒の三角帽……誰?」

「悠長に会話ができる時間をくれないみたいです。自分がアシストしますので、アイさんは操縦に集中してください!」


 私は首を縦に振った。進行方向だけを直視し、視界から入る情報は全て切り捨てた。蒼髪少女の言葉だけを頼りに回避行動を行っていく。すると、面白いほど攻撃が空の彼方へと消え去っていった。


 ――すごい……一番の足手まといなんて、とんでもない誤解だ。


 一番区を抜けた。底知れぬ谷が、ぱっくり口を開けて待っている。まるで巨大な化け物のように異様な威圧感を醸し出しているが、今は脅えていられる心の余裕もなかった。螺旋を描く要領で、断崖絶壁を下っていく。


「砲台の格納ドックは西方、最下層に位置しています。このまま下ってください」


 言われる通り、角度を傾け西へと急ぐ。だが、同じくしてほうきに跨った女性が姿を現した。漆黒のコートからはみ出した白いレースと紺色のロングスカート。暗闇のような三角帽から伸びている朱色の髪がパタパタはためく。あれは――、


「校長!?」


 私は驚きで周りが見えなくなる。

 エーテルから聞いた話が本当ならば、校長は『物陰から奇襲をかける』という攻撃方法を取ると予想していた。まさか自ら正々堂々と一戦まみえに来るとは――。


「アイさん! 整備ドックから魔法が来ます!」


 言うな否や、搬入口から火柱が放たれる。別働隊の魔女が控えていた。


 ――って罠を仕掛けてたのか!


 一瞬感心しようとした自分を恥じて前を見つめた。進行方向に現れた炎はまるで柱のようにそびえ立った。ゴウゥ、とうねりを上げ、今か今かと待ち構えている。肌にかするだけでも相手は焼け焦げるだろう。


「危険です。一旦停まって撃破しては……」

「駄目だよ。時間がかかりすぎる! 校長に追いつかれる!」


 魔女見習いならまだしも、技術力が高い魔女では勝ち目がない。数の優位さえない私たちと違い、相手は威力、魔法射程ともに訓練されている。先手を打たれて捕まるのは目に見えていた。今は回避するしかない。だから――、


「突っこむよ!」


 両手に力を込めた。魔法のほうきが呼応するように暖かくなるのを感じ、加速する。

 頬に当たる“風”が勢いを増した。シーアは驚いてより強くしがみつく。目の前に火柱が迫った。火柱は無駄なく燃え滾り、防御魔法があっても直接通り抜ける事はできそうにない。何とか避けて進むしかなかった。

 まず上下に現れた火柱を潜る。途端に、隙間を埋めるように炎が立ち塞がった。私はほうきの柄をぐっと体重をかけ九十度に回転、急降下する。次第に視界が開き姿勢を元に戻した。続けて、次の柱も同じ要領で超える。


 ――よし、この調子なら抜けられる。


 何度目かの炎を避けた後、ちらりと視線を後ろに回した。そして、気づく。


「校長が追ってきていない!?」


 後方には誰の姿もなく、また気配もなかった。飛行時に鳴るほうきのこすれる音さえ聞こえない。シーアも素早く状況を理解し、慌てて周囲を見渡した。


「……前方上空から複数の光……止まってください!」


 シーアの声に合わせて急制動をかける。搭乗者の華奢な体が前のめりになり、顔もろとも私の背中へと埋めた。「ふぎゃっ」と可愛らしい声が鼓膜を揺さぶる。だが時を同じくして、火の柱が消え、一メートル先で蒸気圧を利用した空気砲が落ちた。わずかに静止が遅ければ、餌食になっているところだ。

 ちっ、と舌打ちする音が聞こえ、漆黒の魔女が上空から接近してくる。すぐさま姿勢を変えて私は急降下した。


 ――追いつかれた。これでは先に進めない。一か八か、どうにか振り切るしかない。


 自由落下も重なり加速に拍車がかかる。振り切れるチャンスがあるならば、大峡谷の底しかないだろう。

 ポーチから杖を抜き出し構えた。“風”魔法を発動させてシーアに防御魔法をかける。次第に時速八十メートルのスピードが出て、唇をしびた。キーンという音が鼓膜に響く。自然の風が感覚神経を麻痺させようと攻撃している。

 耳鳴りは大きくなり、ヒリヒリと痛む。

 漆黒の魔女が攻撃を仕掛けてくるが、シーアの手助けにより回避し続けた。そして、遠距離では当たらないことを悟ると、速度を上げジワリジワリと距離を詰める。

 整備ドック区画を抜け、大峡谷の底に流れる運河が姿を現した。波が高なり、大地を削る川だ。激流に飲み込まれれば、たとえ魔女でも簡単に立ち上がれない。


 ――この場に相手を叩き落して、振り切る!


 底まであと百メートル。シーアが背後を振り向く。


「接近しています。距離十メートル……」


 あと五十メートル。


「五メートル……」


 後方が眩い光で照らされる。追手が逃げられない特大の魔法を繰り出そうとしているのだ。だが、発動までに時間がかかりすぎた。水面まで十メートルを切っている。魔法の射程内に入った。“風”を起こし真空波を放つ。

 急激な流れを遮れば水は打ちあがる。高波と化した水しぶきは私たちを呑み込み、姿を隠してくれた。『どこへ行った!?』という声が鼓膜を揺さぶる。

 その一瞬を狙って、私は水しぶきから全速力で急上昇、再び先手を取る。そして、体を横に倒し反転、魔女と向かい合い杖を構えた。強風を起こす。

 意表を突かれた状態の校長は、完全に静止していないため、木々を揺らす程度の“風”でもバランスを崩して落下していった。そのまま川へとダイブする。


「今のうちに進もう」


 西方に向け、私とシーアは二度目のダッシュをかけた。

 スピードが乗り、壁を沿って飛行する。曲がり角をぐるりと回り、西方の整備ドック区画へとたどり着いた。視界の端から整備ドックの入口が複数現れる。


「ありました。あの扉です!」


 シーアがその中から目的地の場所を指さした。先には木製の扉で閉じられた格納庫がある。一見すると簡単に壊れそうな扉だが、おそらく防御魔法がかけられているだろう。


 ――この後は慎重に……。


「待たんかぁぁぁ―――――――――小娘どもぉぉぉ―――――――――――」


 思考を遮る叫びが遥か後方から響いた。二人して首を傾け声の方向へ視線を向ける。そして、追いかけてきた敵一人の変貌に息をのんだ。


「あんたら先輩を何だと思ってるんだァァ―ああァァ―――――――――!!」


 目が血走っている。瞳の奥には闘気が轟々と燃えたぎっている。


「まるで鬼のようです……」


 シーアが言葉を漏らす。『鬼』というものが何かは知らないが、背中が震えている様子を見ると畏怖の対象のようだ。そのようなものを彷彿とさせるほど、校長には底しれぬ苛立ちを感じた。大人しい性格は外面だけだったのか。


 ―……って、悠長にしている場合じゃない!!


 このまま追いつかれるわけにはいかない。私は再加速し、一か八か扉に真空波を放った。案の定、真空波は扉の手前で熱風に吹かれて弾かれる。


「無理か!?」


 急制動をかけようとして、ほうきを――、


「いいえ、このまま突っ切ってください!」


 操作しようとしたが、後ろから追い風のごとく背中を押された。


「えっ!? でも、このまま突っ切れば“蒸気”に当てられ、全身、火傷を負ってしまう」

「大丈夫です。先程、運河の水をかぶったので、水属性の耐性はついてあります。一瞬ならば熱さにも耐えられるはずです」

「……シーアちゃんどこでその知識を身につけたの」

「初めて魔法について指摘された際に勉強し直しました。魔法の弱点は同族性の魔法である、と魔法育成学校の教科書に書いてあったはずですが……」


 同乗者から上目づかいで私の顔を覗きこまれる。魔法について勉強しているはずの学生ならば知っているものと思い込んでいたようだ。


「勉強不足は認めるよ……」


 私は頭を抱えて項垂れた。


 ――しかし、教科書をどこから入手したのか……まさか、盗んだわけでは……。


「コラぁぁ――――ァァ逃げんなぁぁぁぁ――――――――――!!」

「考える時間くらいはくれないかな……」


 再度、獣のような雄叫びが聞こえてきたため、覚悟を決めてほうきを走らせる。同時に魔法で真空波を生み出し、“蒸気”の壁に打ちこんだ。防御魔法が働き、“風”魔法が弾かれる。そして、力が弱まった一瞬をついて体当たりを実行した。


「あっちぃぃぃ!!」


 熱湯を浴びせられたかのように感覚神経目がけて熱気が襲いかかり、服が乾く。だが推察通り、それも一瞬だった。敵を追い返そうとする水滴は沈黙し、私たちをするりと通してくれた。

 扉に真空波を当て、風穴を開ける。四角く切り取られた穴に潜り、周囲を見渡した。

 鉄製の壁、鉄製の床、柱のようにそびえた機械とその中に閉じ込められた人たち。全てエーテルから伝え聞いた通りだ。


 ――校長は何を考えているのよ。


 今すぐ問いただしたい気持ちを押さえて魔法のほうきを滑空させる。やはり魔導式砲台はどこにもない。だが、引きずった跡が見られる。

 隔壁――何故か大穴が開いていた――を通り抜け、鉄の板に囲まれた通路を突き進む。


「オラァァァ――――――――!!」


 校長の纏う空気が周囲に一種の威圧を生み出す。後方に首を回すと、もうかなり近くまで接近されていた。こちらもスピードを上げるが、漆黒の魔女は高速で飛行し、後をついてくる。


「おまえらぁぁぁ見習いといえど魔女だろう!! 機械国を滅ぼすという悲願を達成したいとは思わんのかぁぁぁ」

「悲願なんて知らないよ!! そんなものを押し付けないで!!」


 分かれ道が見えた。シーアが「右へ」と案内する。杖を構え、同時に体を傾けた。ほうきが右方へ進路を取り、杖から放たれた“風”が柄に急制動をかける。ブラシ部分が円弧を描き、直角の道へスピードを殺さず曲がりきる。以後もシーアに導かれて私たちは突き進んだ。

 数秒後に同じく風を切る音が聞こえた。視線を向けると魔女はほうきの操作だけで曲がり角を進んでいた。慣性を使い経験だけで難所を越え続ける。


「私たちは戦争なんて関係なく魔女になったんだ! 勝手に巻き込まないでよ」

「魔法の恩恵を受けながら、そんな怠けたことをいうのかぁぁぁ―――」


 言葉に詰まる。

 確かに私たちは怠けていたのかもしれない。普段、知らず知らずに使っていた魔法を当たり前だと感じていた。

 魔法は人々に繁栄をもたらす。だがそれも争いがあったからだ。技術が上がり、魔法道具が発明されてしまったからだ。中身を開けて、真実を知って、「そんなの関係ない」と文句を口述するのは無責任――子供のわがままということも理解できる。だから――、


「……今から知ればいい」

「何?」

「反省したのなら、今から知ろうとすればいいのよ! 知って間違いを正せばいいじゃない!取り返しがつかなくなっても、それに気づけたなら遅くない!」


 ぴくり、と追手の魔女が体を硬直させた。まるで簡単な答えを見落としていた、といわんばかりの動作だ。だが、すぐに憤怒の顔に戻り、鋭い眼光で睨みつける。


「もう遅い。おまえはわたくしの敵だ!」


 敵意に満ちた眼差しを向けられる。その瞳には一点の曇りもない。


「着きました! あそこが出口です!!」


 何度目かの曲がり角を曲がると、一直線先に――これまた穴のあいた――鉄の扉が現れた。穴の先は階段になっているようだ。

 次いで漆黒の魔女が角を曲がり、距離がない事を理解する。バランスを保ちながら、ほうきの柄から両手を離した。杖を取り出し、真ん中を片手でわし掴みにして構える。


 ――何をするつもりだ?


 自分は警戒して速度を上げた。仕掛けられる前に通路を抜ければ問題ない。

 漆黒の魔女が掴む杖が仄かに光る。ただ、そのまま魔法を放つわけではなかった。反対の片手で光を掴んだ。


「魔法の本当の使い方さえも知らないくせに、偉そうな口をほざくな」


 そのまま光を引きのばす。軌跡を描き、まるで槌のような形を模した。ボウッ、と輝きが灯り、空気が淀み寄り集まってハンマーに形を成す。さながら“蒸気の槌”である。

 魔女がありもしない武器を引く仕草をする。だが、引かれた先――杖の先端で輝く光が閃光のように増幅した。


 ――明らかに通常の魔法とは別種だ。あれが本当の使い方……?


 かぶりを振る。今は考えている時ではない。


「シーアちゃん、しっかり伏せていてね!」

「えっ……きゃっ!?」


 私は体を柄に添わせた。よってスピードを上げた風圧がシーアの顔を襲う。すぐさま彼女も純白のショールに顔をうずめた。


「ひれ伏せ――――――――――――――!!」


 時同じくして、“蒸気の槌”が突かれ、魔法が放たれる。

 空気砲として発動する“蒸気”に力の方向性が付与され、辺り一面に存在する空気の湿度を驚嘆に値するほど凝固させた。結果、鉄の通路がまるでハンマーに押しつぶされていくように潰れていく。このままでは二人揃って押し潰されるだろう。

 私は杖を掲げて前方の“風”を動かして気流を作りだした。飛行に拍車がかかり、階段への穴に飛びこんだ。

 間髪いれずに階段がせり上がり粉々になっていく。一気に滑空し、またまた演習場の扉に穿たれた穴に体を滑り込ませた。ちょっとの時間差で 空気砲は穴を通り、演習場の塵を吹き散らした。一瞬だが、上空が澄み渡り天井が見える。そして、次第に空気の揺らぎは途絶え、鉄の扉が砕けた。


「……助かった」


 衝撃で地盤が崩れたのだろう。これで通路は使えないが、こちらも校長に追われる危険性がなくなった。

 気づけば、額は冷汗でびしょぬれだ。寸前で回避できたけど、とても勝てる気がしない。シーアも同じ気持ちなのだろう。両腕を掴んで崩れた階段へと強い眼差しを向けていた。

 しかし、校長もここで諦めるはずがない。彼女もまた必死だった。なにより魔導式砲台が所定の位置になかった。おそらく五番区の先に配備されているだろう。

 蒼髪少女に“風”を纏わせゆっくり地面へと降ろす。


「シーアちゃん、悪いけど……」

「理解しています。ここから先は足手まといになるでしょう。私の方は連絡を取って迎えに来てもらいますので、先を急いでください」


 にこやかにほほ笑むが、表情には力になれない苦渋が滲み出ている。


「……ありがとう」


 魔法のほうきを手に私は空へと舞い上がった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字羅「ぎゃおーす!」 幾つか送信 まだ有るかなあ(^ω^;) [一言] 校長の叫びワロタ てっきり解説の先生かとw さてレース復帰ですかな
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