■7 冒険者ランディ
朝。ギルドに向かうと、依頼ボードの隣に人だかりができていた。何かあるのかな? 気にはなったけどこれでは見えない。
仕方なく依頼を探しに行くと声をかけられた。かけてきたのは、女性冒険者のエルサ達だ。
「ステファニーは見た? あの張り紙」
「ううん、今来たところ」
「北の森に立ち入り禁止って書いてあったの。瘴気が濃くなっちゃったのね」
「瘴気?」
「そう、前から少しずつ増えてたんだけど、この様子じゃ一気に増えちゃったのね」
瘴気、ね。ふと、こちらを見てきたルシルと目を合わせる。
「こんな張り紙一枚だけで大丈夫なの?」
「多分北の森を囲う橙鉱石の結界が張られていると思うよ。だから一応ギルドに知らせるってだけの張り紙なんだよ」
ふぅん。入らないようにする橙鉱石か。そう思いつついつも通り、討伐の依頼を受注しギルドを後にした。
今回のはCランク。つい3日前にランクがEからDに昇格したから、Cランクの依頼も受けられるようになったのだ。
「お嬢さん、錬金術師?」
えっ?
採取中、いきなり後ろから聞こえた若い男性の声。後ろを向くと、剣を腰に下げている男性だった。
「こんな所で一人? 大丈夫?」
「あ、はい。連れもいますので」
「近くにいないようだけど、狩りに?」
「そうです」
「ふぅん。まぁ、ここはあまりモンスターは居ないし、居たとしても簡単に倒せるものばかりだからね」
見たところ、装備も良さそうなものを使っている。周りには誰もいないからソロの冒険者なのかな?
「だいぶ経験を積んでるみたいだね、君」
「え?」
「これは、店で簡単に手に入る薬草だ。けれど自分で採取しに来るって事は、店のはあまりいいものがないって思ったって事だよね?」
なんで、これが店の物はいい物じゃないって知ってるのだろうか。
「知り合いに凄腕の術師がいてね、言ってたんだ。あまりいい材料がないって」
「は、はぁ……?」
「ねぇ、君の錬成見せてよ」
「え?」
「見たいなぁ、他の人の見た事なくてさ。あ、材料ない? 取ってこようか」
材料は、上級ポーションのはあるけれど……
あの騎士団元帥が、確かに面倒事に巻き込まれそうだって言っていたから、人前でやってもいいのだろうか……でも、お願いされてるし……
『展開』
杖を背中から取り出し先程摘んだポポルコ草を左手に。そして浄水を出現させて溶け合わせる。完成させると、残っていた薬瓶に収めた。
「へぇ、手際がいいね。あっという間にできちゃった」
「そう、ですか」
「最近は、ポーション不足が問題になっている。その原因にこれも入っているんだよ」
それだけ、錬成し出来上がるまでの時間が長いって事……??
「ここサーペンテイン王国は、素材の豊富な国だ。それでも発展していないのは、指導者がいないからなんだよ。ほら、この国には大賢者がいないでしょ??」
へぇ、知らなかった。
「あ、もし材料に困っているならいいところを教えてあげるよ。北外れに〝マルギル〟っていう爺さんがやってる薬草店があるんだ。友人もそこを気に入ってるらしいよ」
「北外れに、ですか」
「うん、裏路地にあるから誰かと行きな。気に入ると思うよ」
「分かりました、行ってみますね」
「うん。あ、君の連れってグリフォンかい?」
「あ、はいそうですが……」
「成程、凄いの従えてるんだね。来たみたいだよ」
確かに、御満悦な様子のルシルがやってきた。口ばしと背中にはまたもや低級モンスターの山だ。
「じゃあ、またね」
隣に腰を下ろしていた彼が、立ち上がった。
「あぁ、名乗ってなかったね。僕の名前はランディ」
「錬金術師のステファニーです」
「じゃあ、またどこかで」
あっ、ちょっと待って! そう言い立ち上がる。そして、手に持っていた先程錬成したポーションを渡した。
「どうぞ、持ってって」
「いいの?」
「良い所教えてもらったお礼」
「はは、じゃあ有難く貰っておくよ」
「えぇ」
じゃあまたね、そう残して去っていった。
……あの人、普通にルシルちゃんの事グリフォンって言ってたな。驚く様子もなかった。見た事、あるとか?
ま、いっか。そう言い聞かせて私は作業を再開した。
「やぁっと見つけた。例の錬金術師」