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■6 人攫い事件


「錬金術師のステファニーさんよね!」


「あ、はい、そうです、けど……」



 今日もギルドに赴いて依頼ボードを眺めていた時に、後ろから声を掛けられた。掛けてきた人物は、女性2人。1人は弓を、もう1人は剣を装備していた。



「この前あの方と一緒に居たわよね!!」


「あの、方? 誰の事です?」


「誰って!! アル様に決まっているじゃない!!」



 アル、様……?



「サーペンテイン王国第二騎士団騎士の、アルさんのことでしょうか」


「「そう!!」」



 声を揃えて言ってきた。元気よく、目を光らせて。まるであの時のアルさんみたいに。


 そして、アルさんについて語ってくださった。いつも笑顔を絶やさず、誰にでも分け隔てなく優しくしてくださるとかなんだとか。


 剣を振るう姿はもうカッコよすぎて気絶してしまいそうらしい。しかも、隠れファンが多数いるとも教えてくれた。



「どんなご関係で?」


「えぇーっと……」



 ただ、ここに来る前に知り合ってここに連れてきてもらったと言うと、やっぱりアル様はお優しいだのなんだの言い始めてしまった。



「はいストップ~!!」


「!?」



 またまた後ろから声がかかった。女性の声だ。



「ごめんなさいね、ミリィとエルサが」


「ちょっとユリアー!!」


「アル様について語っていたのに! 邪魔しないでよ!」


「こぉら! 困ってるじゃない!」



 どうやらこの3人は一緒のパーティーメンバーらしい。それじゃあこのユリアと呼ばれた人物は保護者的存在なのかな。



「私はユリアーナ、ユリアって呼んで!」


「私はミリィ!」


「エルサよ!」


「私はステファニー」



 見たところユリアは剣士。このパーティーでは剣士2人にアーチャー1人という事か。



「最近来た錬金術師だよね。何かあったら言って、力になるからさ」


「うん、ありがとう」



 じゃあね! そう言って去っていった、というよりかはユリアーナが二人を引っ張っていったの方が正解か。私も依頼書を選んで受付に向かった。


 それにしても、アル様か。まぁ、気持ちは分かる。いつも元気だもんね、ずっと笑顔だし。



「さ、今日も薬瓶とポーションの材料の採取頑張らなきゃ」



 城門を出てから、ルシルの背に乗せてもらいいつものポイントへ向かった。








「わぁ! こんな所にこれがあるなんて!」



 背の低い植物〝ルマンドワール〟


 大きな花が咲くのだけれど、地面と同じ茶色だから中々見つからない代物だ。



「種はっと……あった」



 縞模様の種。これは、魔法と合わせると色々な場面で使えるからとても便利な素材だ。



「……あら?」



 車輪の動く音。とても大きな音だから、運んでいるものはとても大きなものかな?


 でも、ここは道が狭いから、そんな大きなものが通るには中々難しそうなルートのような気もする。


 大丈夫かな、そう思いルシルを連れて音のする方に近づいていった。






 思った通りの大きな魔鉱車。このルートには慣れているのだろうか、普通に進んでいっている。けど、布で完全に覆われている荷台から……血の臭いが微かにする。それも、人間の。


 何か、モンスターに襲われたのだろうか。だとしたらポーションを提供しよう。そう思い近づいた時、風で乗り口がちらっと開いた。



「……っ!?」



 ボロボロな服。


 そして、傷ついた人達。


 それと、厚みのある大きな鎖。



 この国には、奴隷制度というものはないと聞いた。犯罪者かな? いや、よく見ると兵士とは到底思えないような人達が魔鉱車を運転している。



「……」



 身を潜め、その魔鉱車に着いていった。


 見えてきたのは、小屋のような建物。そこから出てきた男達3人と魔鉱車を運転していた2人が何かを話しながらすぐに荷台の布を捲り中にいる人達に怒鳴り散らしていて。


 中にいた人が一人ずつ降りてくる。


 30代くらいの大人や、まだ成人していないような青年、少女、そして小さな子供まで。


 ジャラジャラと手首、足首に嵌められている枷を鳴らしながら建物に一人ずつ入っていく。



 男達を制圧する? いや、5人だけしかいないとは決まってない。じゃあ、アルさんを呼ぶ? うん、それが妥当かも。


 そんな事を考えながら見ていると、全員降りたのか魔鉱車が移動していた。小屋も扉が閉められていた。男達も中に入ったようだ。



「……ルシルは、アルさん呼んできて」



 ルシルは何度も会ったことのあるアルさんの臭いは完璧に覚えているはずだから、すぐに見つかるだろう。



『展開』



〝ドワールアの種〟



Aqua(アクア)



Ventus(ヴェントゥス)



 素材である種と、水魔法と風魔法を合わせた錬成それによって目の前に現れた、ふわふわと浮かぶ薄く透明な長方形の形をした膜。この国で見た紙に似てるかな? そこに指でこの状況を書いていく。これはちょっと重要かなと思いこの方法にしたのだ。


 くるっと丸め特殊なリボンで結ぶ。



「よし、これをアルさんに。お願いねルシル」



 それを咥えたルシルは羽根を広げて飛び立った。


 これは、私が知っている人物の内の、私が読むことを許した者にしかそのリボンを解くことは出来ない仕組みとなっている。


 それでも無理矢理に開こうとするものなら自動で錬成が発動し、全て消えてしまうのだ。


 ルシルを見送った私は、小屋まで音を立てずに近づき窓を覗く。が、誰もいない。


 なんで? 確かに入ったところを見たはずなのに。


 魔法はかかっていないし……どこかに道があるのかな?


 周りを観察しつつも入り口のドアに辿り着く。鍵がかかっているようだ。当たり前か。



『展開』


Ignis(イグニス)



 窓を見つけたけれど、やっぱり鍵がかかってる。鍵に近い部分を火で炙り穴を開ける。空いた穴に手を通して鍵を開けて窓を開き中へ侵入した。


 一見、普通の小屋に見える、が……


 もう一度、火魔法で火を出現。風の流れは、こっちに向かってるから……あった。床に隠し扉。


 小さな取っ手を引っ張ると、やっぱり。下へ続く石造りの階段が現れた。


 音は、微かだけどしている。


 私は、ゆっくりと音を立てないように入っていった。






 地下は、石造りな為少しでも音が鳴れば響いてしまう場所だ。だから、耳をすませ進んでいくと、すぐに足音、そして声が聞こえてきた。男性の声だ。


 火魔法を明かりにして下へ続く階段を一段一段降りていくと、先程していた声がだんだん大きくなってきた。




「もう客は揃ってんだ――」


「じゃあ俺は会場に――」




 客……? 会場……? 奴隷が売買される準備がもう出来ているという事?


 会場か……じゃあ近くにあるのかな。外からは見えなかったけど……


 先程の男性二人がいなくなったのを見計らって、さっきから微かにしている鎖の擦れる音のする方へ進んでいった。



「……!?」



 聞こえてきた。こっちだ。


 ゆっくりと右の曲がり角を覗くと正解。牢屋と思われる部屋が、鉄格子で塞がれているのが見えた。


 それは通路を挟んで3つずつ、合計6つある。その通路の先にはすぐ扉がある。


 扉の前には、男性が4人。恐らくナイフぐらいは持っているだろうな。



『展開』


Ventus(ヴェントゥス)



 指の先から第一関節くらいの大きさの〝レルドルの種〟を風魔法で勢いよく飛ばす。それは、一人の男性の眉間目がけて激突。そのタイミングで……



Creare(クレアーレ)



 撃った種を錬成させると長い蔓が出現する。そして男性を巻き上げた。驚く暇を与えずに一人、また一人と同じく気絶させ巻き上げる。これで一丁上がり?


 通路に出てみると、結構沢山の人達の視線が刺さる。連れてこられたらしい人達が沢山牢屋に入れられている。勿論じゃらじゃらと音を鳴らす枷付きだ。


 それにしても、こんなにいたなんて。一体この国の警備兵は何をしていたんだ。



「さてと、まずは……『鑑定』」



 鑑定して、この鉄格子を鑑定。只の錆びた鉄格子だという事を確認した。



『展開』



 地面に刺さる鉄格子一本一本に陣を出現。



Creare(クレアーレ)



 錆びた鉄格子を出現させた浄水が飲み込み、先程の〝レルドルの種〟も混ぜて錬成。出来上がったのは花の付いた植物。植物と言っても、白い鈴のような形の花に光が灯っている。これは発光草と言って、暗い所で光る植物である。


 まぁ、切ってしまうとあと大体30分位しか効力を持たないのだけれどね。



「さ、早く出てきてください」



 とは言っても出てくるわけないか。いきなり登場した私を警戒して皆動かない。……あれ?



「おねえちゃん、いい人?」


「いい人?」



 聞いてきたのは、小さな女の子二人。双子なのかな、よく似ている。



「そうだね……助けに来たから、いい人なのかな? 兵士も呼んでいるし、もう大丈夫だから出ておいで」



 うん、と頷き出てきてくれた。


 そして、風魔法で鎖を切ってあげると、それを見て戸惑っている人達が多数いる。だけど、1人がもう1人と手を繋いで出てきてくれた。


 それを見て他もぱたりぱたりと出てきてくれる。



「さ、行ってください」



 皆の鎖を砕き、先程私が通ったルートを教えて発光草を渡し逃げるように促した。ルシルにアルさんを呼んでくるように言ってあるから、途中で合流するだろう。



「さて、私は……」



 すると、ばたばたと焦る足音がこの扉の向こうからする。やばっこっちに来る!?



「てっ『展開』!! 『 Creare(クレアーレ)』!!」



 先程採取した〝ルマンドワールの種〟と、魔法陣を展開して土魔法を発動。出来たのは、粉。


 あっやばい。そろそろ着いちゃう!?


 少し扉を開き粉をまき散らしすぐに閉めた。すると、扉の向こうでばたばたと倒れる音がする。


 これは、睡眠薬の粉末。結構効くのよこれ。私も不眠症になっちゃったときに使った事もあるの。


 あ、来た。



「アルさん!!」


「ステファニーさん!!」



 ルシルのお陰で来てくれたアルさんは、鎧を纏っている。あ、公務中だったかな。もし強引に連れてきてしまっていたのなら申し訳ない。



「あの、大丈夫でしたか……?」


「近くにいた元帥からお許しを頂いてここに来たので大丈夫です。訓練中だった団員も連れてきたので、捕まっていた者達はちゃんと保護いたしました」



 いきなり飛んできて頭に止まったから驚いたらしい。因みに周りの団員さん達も驚きちょっと騒ぎになってしまったみたい。緊急とはいえ申し訳ない。



「いきなり現れて書簡のようなものを渡されたらいきなり開いたので驚いてしまいました……事前に言って下さい!」


「あはは、すみません」



 あ、足音が聞こえてくる。たぶんこれが団員さん達だろう。


 アルさんに説明して、ちょっと大量に先程の睡眠薬の粉末を渡した。会場に、とか、客、とか言ってたからこれバラまいたら一発だからね。


 私もここから脱出してくださいと団員を一人使わせてくださって外へ。外には、団員さんらしき鎧をまとった人達が待機していて、先程助けた人たちは用意していたらしい魔鉱車に乗せられているのを確認した。


 ……あら、ウルフかしら? 何匹も待機している。騎士さん達の移動手段なのかな。ウルフは速くて体力のあるモンスターだから、任務とかの時にはもってこいなのだろう。



 少ししてからアルさん達と客と思われる人達が縄にぐるぐる巻きにされて出てくるのが見えた。無事解決という事だ。




 その後、客達は刑務所へ。これから関係者だった奴らを炙り出していくらしい。わぁお、怖いなぁ。




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