■59 領主反対派
「領主反対派?」
「えぇ」
領主反対派。
その名の通り、領主である私の事をよく思っていない人達の集まりだそうだ。以前からそういった者達はいたらしいけれど、ドラグラド子爵は税金制度やら何やらで押さえていたそうだ。騒ぎ出したら税金をあげられてしまうだろうし、家族や領民達に手を出される訳にはいかず大人しくしていたのだとか。子爵にはガラの悪い警備兵が沢山いた事もあるし。
「今、村々で噂が立っています」
領民達が、身体の調子が悪いと訴えている。その原因は領主が造った井戸の水だ、と言い張っているそうだ。それと、鍛冶屋の取引先を変えた件。領民達を働かせて金を奪い取る気だ。などなど。
「この領地では、あまり錬金術の事を知らないのですね。領主様が、領民達を錬金術に利用するのでは、という話も出ています」
「……は? 今、何て言った?」
「で、ですから、領民を錬金術に…」
「な訳ないでしょう」
「……!?」
錬金術とは、大地の女神ガイアから贈られた力である。
ガイアは、その力を愛する人間達の為に与えたのだ。その力を人間自身に施す事なんて不可能である。もしそんな事をしようとした場合、____死よりも苦痛な人生を送る事になるだろう。
「し、失礼しました……」
「何で謝るの、スティーブン」
「気分を、害してしまったようで……」
スティーブンが悪いわけではないのに、という前にこの件に関してはこちらで処理しますと言われてしまった。そして、コンコンッとこの部屋のドアがノックされて。入ってきたのはサマンサだ。
「ステファニー様、先程お客人がいらっしゃいました」
「お客人?」
「募集を見て来たらしいのです」
「ほんと!? じゃあ会いに行こうか!」
そして、案内された部屋にいたのは見知った方だった。そう、初めて会ったのはついこの前だ。
「あ……こんにちは」
「えぇ、お久しぶりと言ったほうがよろしいでしょうか」
あの日、初めてこの地に足を運んだ日にパンを売ってくれたお姉さん。あの井戸の件にもチラッと顔を合わせた。
「ミランダです、募集を見てきました」
「来ていただき、ありがとうございます……」
あの日と態度が全然違くって、少し戸惑ってしまう。顔を合わせた時にちょっと申し訳ない気持ちにはなってしまったけれど、ここに来てくれたって事はどういう……
「えぇと、いきなり私が領主だって言われて、吃驚しちゃいましたよね……?」
「まぁ、そうですね」
パンを買いに来た人物がいきなり来て領主になりましたって、戸惑っちゃうよね。
「けど、良かったって思うわ」
「え?」
「言ったでしょ? 能無し領主様は税金ばっか上げてこっちなんて見てない奴だって。だけど、貴方は税金を無償にしてくれて、私達が困っていた水問題もわざわざ来て解決してくれて、森に捨てられてた子供達も保護してるって聞いた。だから、貴方が領主になってくれて嬉しいよ」
「そ、ですか……」
「募集してたのは子供達の世話でしょ? どんと来いよ! 任せときなさい!」
「あはは、頼もしいですね。ではよろしくお願いしますね」
「えぇ!」
あ、そういえば、とふと思った疑問を言ってみた。お店はどうしたんです? と。
「え? 畳んじゃったよ」
「えぇぇ!?」
「だって、美味しくなかったでしょ?」
「……」
「あっはっはっはっ、正直でいいね。大丈夫、誠心誠意使えさせてもらうよ」
「……あの、ミランダ……ほんとに?」
「何よ、女に二言はないわ」
す、凄くカッコいい……これが男前というやつかな? あ、隣にいたサマンサが怖い顔してる。
「ステファニー様は雇い主でありここモストワ領の領主様であられます。その言葉遣いを直しなさい」
「あぁ、これは失礼しました。男爵様でしたね」
「あはは、お客様とか大切な場面以外でならいいですよ」
「ステファニー様!!」
「あはは、まぁまぁ。あとはサマンサ、よろしくね」
「畏まりました」
さ、まだ残っている仕事を終わらせなければ。と思い腰を上げた時、ステファニー様、とサマンサが声を掛けられて。
「水の件、皆喜んでましたよ。ありがとうございますって」
「そ、ですか……嬉しいです、ありがとうございます!」
そっか、喜んでくれたのか。領民さん達の為に出来て良かった。
「クソッ何故だッッ!!」
そう声を荒げ目の前のテーブルに当たる男性が一人。それを宥めようとする男性達もいて。
ここはとある集会場。とは言っても秘密裏なものではある。この小さな部屋には防音対策もされている。
この男がこんなにも乱心な理由はただ一つ。
「折角噂を首都まで広げたってのに、何故だッッ!!」
そう、噂とはこの領主であるステファニー・モストワの悪行の事だ。首都にまで広げれば簡単にここサーペンテイン国王の耳にまで入ると踏んだ。
彼女を貴族としてこの地に座らせた事は間違っていた。それに彼女は未知数である賢者だ。この国にはいないし、首都ではないここの領民達にはそういった印象だったのだろう。だから、そんなイレギュラーな存在はこの国にとっては危険だと思わせる。そのはずだった。
だが、失敗した。首都の奴らに会う度会う度、噂を本気に思わない様子だったからだ。
彼らは知らなかった。
首都での彼女の活躍を。彼女は勲章を2つも所持している。ここサーペンテインに来て一年も経っていない彼女がこんなものを王から手渡された。その意味を、誰もが理解していたのだ。
だから、こんな突拍子のない噂など嘘だと誰もが思っただろう。彼女はろくでなしの収めていた領地を任された、きっと奮闘している事だろう。そう思うものもいるだろう。
「明日、渡してこい」
「あぁ、分かった」
「ただいま、ニック」
「おかえり、遅かったね」
ここは、モストワ領のとある町外れの民家。俺、ノックスは兄弟であるニックスと二人で暮らしている。今は夜中、しかもあまり周りに家がないから今はとても静かだ。
「で、どうなったの」
「失敗だ」
「そっか……」
俺達は役割がある。俺、ノックは昼間店で果物屋を。そしてニックは夜錬金術の材料採取。そしてここら周辺の鍛冶屋の素材を作る。
じゃあ、どうして一緒に外に出ないのかと疑問が出てくるだろう。
それは__
「ねぇ、本当に殺しちゃうの?」
「……まぁ、失敗したからな」
そこまでする必要はあるのか? とニックは疑問を持っているようだ。まぁ、死にはしない。ギリギリって所のものを使うから。
「1年税金を払わなくていい、なんて口では簡単に言える。只の錬金術の腕が立つだけの小娘に俺らの生活を脅かされてたまるかってんだ」
「……そう、だね。ちゃんとした生活ができれば、僕はそれでいい」




