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■4 契約成立


 あれから、アルさんにお願いして錬金術に必要なものが色々集まっているこの国1番の専門店に連れてきてもらった。



「わぁ! これがさっき言っていた杖ですね!」



 沢山置いてあった杖のコーナーへ。おしゃれな物からシンプルなものまで様々だ。でも、これは私には合わないかなぁ。それに今使っているものは師匠から貰った大切なものだし。……あら?



「これ、って……」


「何だい嬢ちゃん、さては新人かぁ? そりゃあ、錬成陣紙だろうが。知らんのか」



 あのルナンさんのお店で見た羊皮紙といわれるものがクルクルに巻かれて置いてあった。紐を解き開いてみると、書いてあったのは錬成陣。これは、錬成素材に火や水などの魔法を使用して作る【魔法混合錬成】をする為の陣の一つだ。


 そういえば、あの服屋さんでもこれと同じものを見たような。



「これが扱えて初めて一人前の錬金術師になれるんだ。嬢ちゃんにはだいぶ早いようだな。悪い事は言わねぇ、こっちにしとけ」



 渡されたのは、初級錬成陣が書かれた紙。簡単な素材を一つと、浄水だっけ? を合わせて錬成する為の、いたって簡単な錬成陣だ。


 隣にいたアルさんは……青白い顔をしている。口が開きっぱなしですよ?


 それにしても、周りにある素材はあまりいいものはない。殆どの薬草は全て乾燥させてしまっている。


 保存の為なのかな? でも、こうする事によって、使用するには新鮮なものより3倍の量を使わなければならなくなる。


 鉱物も、半割れしてしまっているものが多数。丸ごと取ってしまったほうがマナを込める量が格段に多いのに。


 この、花を漉して作る抽出液も、日光に長時間当ててしまったのか、酸化が始まってしまっている。


 帰ろう、だいぶダメージを受けてしまった。


 こんなのでいいのだろうか。


 隣のアルさんは困惑しつつも励ましてくれた。でも、ちょっと残念なところもある。せっかく錬金術という技術があるのに正しい使い方が出来ていないなんて、と。


 そんなこんなで、首都内を歩いていると約束の時間になった。



「初めまして。王国騎士団統括を務めています、イフリース・リンデルバート元帥と申します」


「初めまして、錬金術師のステファニーです」



 彼を助けたことを報告したらしい、感謝しますとお礼の言葉を貰った。そして、本題に入る。



「今、この国では消耗品であるポーションが不足していましてね。定期的にご提供頂けるよう契約を結びたいと思っております」


「……」


「代金は定価の10倍をご用意します。そして素材もこちらから提供させていただきます。どうか、王国騎士にご協力いただけませんか」


「……あのぉ」


「はい、何でしょう」


「〝ぽーしょん〟って、何ですか……?」


「「……え?」」



 しぃーん、と静寂が訪れた。私、何かまずいことを言ってしまっただろうか。


 そして、静寂を破ったのは元帥さん。



「ポーションを御存じないと?」


「あ、はい。お恥ずかしながら……」



 だいぶ驚愕している。そんなにありふれたものなのだろうか。消耗品って言ってたし……



「アル、今持ってるか」


「はい」



 私の前に置いたのは、指より長めの高さのある細い瓶。中に入っている水色の液体だ。



「ポーションというのは、瞬時に効果の出る液状の薬の事です」



 ポーションには種類があるみたい。


 体力・外傷を回復させる【HP回復ポーション】


 マナを回復させる【MP回復ポーション】


 麻痺毒を解毒させる【麻痺回復ポーション】


 毒を解毒させる【解毒ポーション】


 そして、麻痺や毒、火傷を一度に回復することの出来る万能な【異常回復ポーション】なんてものもあるみたい。こちらは効果は低いらしい。



「成程、万能薬の事でしたか」



 以前、どこかの町に立ち寄った時に聞いたことがある。名前まで聞いたことは無かったけれど、あれは【ポーション】というのか。


 因みに、師匠は『あんなのはただの飲み水だ』と言っていた。こんなに万能な代物だったとは知らなかった。



「ポーションって、そんなに不足しているんですか?」


「えぇ、数年前からモンスター発生率が右肩上がりでしてね。ポーションは命綱ですから、数が足らずに価格が高くなってしまい高級品となってしまっている状況です」



 なるほど……それならたくさん必要になってくる。ポーションがなければ命の危険に晒された時に最悪命を落としかねない。あの日のアルさんの時のように。確か彼は、飛ばされる前に使ってしまって手持ちがなかったと言っていた。



「ステファニー殿には、ポーションを作って頂きたいのですが……どうでしょうか。レシピはこちらで用意いたし……」


「いえ、必要ないですよ」


「え……?」


「現物を用意して頂ければ、〝見て〟作れますので」


「おぉ、〝鑑定持ち〟でしたか。これは驚きました」



 【鑑定】とは、万物の性質を見ることが出来る技の事だ。これが錬金術で出来ているのであれば、どの材料で作り出されているのかは簡単に見ることが出来る。



「ポーションには、低級、中級、上級、最上級とランクがあります。出来れば最上級が、と言いたいところですが……初めて作るという事ですので、低級・中級・上級をHP・MP・異常回復ポーションの3種類でお願いします。少し欲を張っているとは思っていますが、難しいでしょうか」


「いえ、構いませんよ」



 命綱となっているものが足りなくて困っている、と聞いてしまえば手助けしない訳にはいかない。人助けがこういう形で出来るなら、喜んで手を貸したい。



「でも、どうして私なのでしょう。他にも錬金術師はいらっしゃいますよね」



 こんなに高価なものを10倍の価格で買い取るだなんて、いいのかな。しかも、ポーションの事を知らなかった私が。



「アルから話を聞き、確かな腕だと思っていました。契約獣を従える実力者でもありますからね。まさかグリフォンを従えていると聞いた時は疑ってしまいました。はははっ」



 そんなに珍しい事なのだろうか。初めて会った時は、ちょっと気難しい性格だなと思ったけれど。



「そして、今日お会いして確信しましたよ。私は人を見る目は確かだと自負していますのでね、はははっ」


「か、過大評価し過ぎですよ……」


「とにかく、ぜひ貴方と契約を結びたいと思っています。まぁ、内容は欲張りすぎたかもしれませんから内容変更を何でもおっしゃってくださって構いません。如何ですか?」


「わかりました、ご協力させてください。ですが、私の名前は伏せていただけると嬉しいです」



 王宮騎士団だって聞いたから、名前なんて公表してしまえば面倒事になりそう……



「分かりました、その件に関しては秘密厳守で」


「あ、あとそんな高値なものを価格の10倍だなんて頂けません。そのままの価格で……」


「いえ、希少価値のあるものを定期的に納品していただくのですからこれくらい当たり前です」


「え、じゃ、じゃあ2倍……」


「いえ、少な過ぎます」


「えぇ……」



 どうも、私は押しに弱いらしい。結局7倍となってしまった。でも、元の値段が分からない……


 そんな時、こっそりとアルさんが耳打ちをしてくれた。



「通常の低級ポーションの値段が、大体ルナンの宿の5泊食事付きの代金くらいです」


「えっ!?」



 え、えぇと……朝アルさんに教えてもらったよね。銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚。金貨10枚で白金貨1枚……?


 というと、低級ポーションは銀貨1枚ということになる。それの7倍は、銀貨7枚という事だよね。でもそれが低級ポーションって事は……じゃあ上級ポーションって一体いくら!?



 では契約成立という事でと前払い金が支払われた。これは、白金貨5枚?



「金貨2枚が、平民1人が1ヶ月生活するのに必要な大体の額ですよ」



 またまたこそっと教えてくれたアルさん。え、これじゃ何ヶ月生活出来るの!?



「こんなに、受け取れません」


「いえ、こちらは正直だいぶ困っていましたから。あぁ、あと泊まっていらっしゃる宿代も我々が持たせていただきますので」


「えっ、そこまでは……」


「もう既に宿の方に話はつけてあります」



 ……し、仕事が早い。そんな好待遇でいいんですか?



「これは、騎士団のアルを助けていただいた事もあります。こんなものではだいぶ足りないと思いますが……本当にありがとうございました」


「この御恩は忘れません、ありがとうございました」


「い、いえ……」



 こ、ここまでお礼を言われるなんて……



「じゃ、じゃあ今材料がいくつかありますから、少し時間を頂けるなら持っていってくださいませんか?」



 時間はありますよと言われたのですぐに杖を出した。



『展開』



『収納魔法陣』



 机の上に縦に出現させた魔法陣。


 えぇと、確かここら辺に……と、手を突っ込むと……見つけた!


 材料を沢山引っ張り出して……まずはポーションを封入するための瓶を生成する。



 掌に出現させた陣。



『火魔法_____Ignis(イグニス)



 右手には材料の中から取り出したエクリカ鉱石と火、そして左手には杖を掴んだ。



Creare(クレアーレ)



 その掛け声で聖水ではなく浄水を出現。たぶん、うん、たぶんこれで合ってるのかな。何となくで浄水を作ってみた。


 三つが混ざり合って、私の頭の中に作り出した形に生成されていく。よし、完成。


 次はポーションだ。薬草であるポポルコ草を取り出す。展開・錬成ですぐにポーションが完成。作り立ての瓶に封入。



「これで、よろしいでしょうか……?」



 目の前に完成した目の前のポーションと同じものが30本。


 ちらり、と二人に視線を送ると、固まってしまっていた。ま、間違った……!?  いや、でも色は一緒だし、瓶のデザインまで揃えたし……



「ま、まさかこんな短時間で……」


「は、はは……これは驚きましたな……」


「な、にか間違えました……?」


「いえ、完璧です。やはり私の目に狂いはなかったようです。名前を伏せる事の理由が分かりました。確かにそうしなければ面倒事に巻き込まれそうですな。ここが個室で良かった」



 え、この国での錬金術と違っていた……?



「では、これからよろしくお願いします」



 そうして、上級ポーションの価格の硬貨と交換した。



「マナ残量、大丈夫でしょうか?」


「全然まだ作れますよ、アルさん」



 流石と言っているかのような視線を向けられた。


 それから、さっきの量は作るのに半日かかる量だと言っていた。




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[気になる点] ステファニー殿には、ポーションを作って頂きたいのですが……どうでしょうか。レシピはこちらで用意いたし「いえ、必要ないですよ」え……?」 人物のセリフに対して上記のような被せ表現の文法…
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