■42 身分証
朝。
泊めさせてもらったマギーさん達の家の玄関前がとても騒がしかった。
何やら嫌な予感がした為、すぐに向かった。
「何をしているんですか」
庭に出ていた子供達の腕を掴んでいた数人の男性達。
武装しているという事は、この領地の警備兵と言ったところか。
「このガキが暴言を吐いてなぁ、この領地を警備してやってる俺らに向かってそんな事をするガキを叱っていたところだ。おめぇ、保護者ならちゃんと教育しとけ」
「身分証を出せ」
「……」
何なんだ、このムカつく物言いは。警備してやってるって? 偉そうだな。
「何だぁ? 出せねぇってか!」
「……?」
何なの……? その様子じゃ、まるで出せないって思っているような。
怪しいな、と思いつつ私の身分証を出した。ここに来る時一番最初に作ったギルドカードだ。
「これでいいですか」
「「!?」」
この国の身分証は、生まれた際に国に報告しカードが発行される。私のようなパターンは、アルさんのような紹介者を介して発行されるのだ。
昨日の話を聞いたけれど、恐らくこの子達にカードはない。もしかして、それを知っている……?
「れっ、錬金術師、ステファニー……!?」
「なっ!?」
まぁ、色々あってちょっと有名になっちゃってるからかな。結構吃驚してる。
「これでいいでしょうか」
「なっ何故こんな所に……!?」
「ギルドの依頼でここに来たのです」
「依頼、とは……」
「依頼主の守秘義務がありますので」
「ッ……じゃ、じゃあこいつらは……」
「あぁ、この子達はこの領地に入ってから拾ったんです。こんなに子供が捨てられてるだなんて、ここの領主様は何をしているのやら」
「なっ、それは領主様に対する侮辱行為だ!!」
「王宮術師だとしても許されない行為だぞ!!」
そう声を荒げて言い放つ二人に対して、肩に乗っていたルシルが羽を大きく広げ男二人をにらみつけた。その行動に怖気づく二人。あ、因みに、私は王宮術師ではないです。王宮術師の皆さんと交流をさせて頂いている只の錬金術師です。
「あぁ、失礼しました。それで、この子達は拾ったので身分証がないんです。これから首都に連れていって登録するつもりですから、それでいいですか」
「っ……」
悔しい顔をして、出ていった。何とか追い払えたかな。
けど、今は追い払えてもこの後絶対に来るに違いない。
どうせならさっさと首都に連れていってしまおうか。いや、この人数だと不可能だ。
「あ、おはようございます。マギーさん、エマさん」
「おはようございます、あの、さっき……」
「警備の男達です、恐らくもうここはバレてますよ」
「っ……」
「お嬢様……」
お嬢様……やっぱりこの人、貴族なのかな。エマさんは侍女?
「おめぇさん、さっき術師だってばらしちまったろ」
「え? はい」
「今度はお役人さんが来るかもなぁ。ここの領主、金の亡者なんだろ? ゴマすりに来るだろうなぁ」
「……」
私、やっちゃった? でも、あの状況では身分証を出すしかなかったし……
「依頼で湿地帯の高級品を取ってこいとかって言われるぜ?」
「あ……あり得そうですね、それ」
ここには、人攫いで助けた子達もいる。国が保護したはずなんだけど……引き取るとか言ったのかな。ここまでなんてこの子達だけじゃ来れないし。
そしたら顔を知っている事になる。
でも、何で引き取ったんだろうか……?
マルギルさんが言った通りになったら接触することが出来る。そこで聞いてみる? いや、それは駄目だな。
「ちょっと行ってきます。マルギルさん、あとはよろしくお願いしますね」
「はぁ!? どこ行くんだ!?」
「ちょっとそこまで。外には出ないようにお願いしますね。あ、ルシルちゃんは置いていくので安心してください」
「は、はい……」
「ったく……」
捨て子に、高額な徴収。しかもこの領地の現状を分かってて何もしてないとか……何とも酷い領主様だな。
「……デイム?」
「えっ……?」
いきなり声をかけられた、知っている声だ。
外套を被っているけれど、この人は……
「な、何故こんな所に? ……アスタロト公爵様」
そう、あの時王宮でお会いしたバートン・アスタロト公爵様だ。
というより、何で一人でこんな所に……?
「調査の帰りでな、ここの領主の邸宅で一晩お邪魔させてもらうことになったんだ。まさかこんな所でデイム・ステファニーに会うなんて思いもしなかった」
「ギルドの依頼でここに来ていたのです」
「依頼という事は、湿地帯か」
「はい、そうです」
「用事は済んだか?」
「えぇと、採取ではなくて護衛なんです」
「護衛か……もうこんな時間だから、依頼主とデイムもこちらに泊るといい」
「い、いえいえ、そんな……」
「遠慮はいらない。領主には上手く言っておく」
どうしよう……警備隊には私がいることにバレちゃってるし……あの子達もいるし……
「どうした」
「えぇと……」
「何かあるなら、話してくれていい。力になろう」
力になる、と言われてもなぁ。会うのはこれで2回目だし。でも、この人はここの領主よりも位の高い公爵様。見たところ優しそうだけど……
だけど、警戒心を無視した私の口が勝手に動き、少しずつ、ぽつりぽつりと話しだしてしまった。
何となく、この人は大丈夫だって思えちゃうんだよなぁ。誰かに似ているから、ってのもある。でも、誰だったか思い出せないんだよね。
「何人だ?」
「えぇと、大人2人と子供9人です」
「全部で11人か。なら、こちらで保護しよう」
「え?」
「そちらを魔鉱車のルートに入れよう。魔鉱車に余裕はある、それに子供達であれば窮屈にはなるが全員乗れるはずだ」
「え? 魔鉱車?」
「あぁ、私は一足先にここに来ていたんだ。あと半日弱で魔鉱車が到着する」
「ぬっ抜け出して来たんですか!?」
「ちゃんと言っておいてあるから問題ない」
え、それでいいの……?
いや、待って、じゃあ公爵様は護衛も付けずに何でここに来ていたの? じゃあ、目的は?
「案内してくれないか」
「あ、はい……」
「ウルフはこっちにいる」
「えっ……」
「乗ったことはあるか?」
「いえ……」
この国では、王宮騎士団や貴族の人達の一人の移動手段にはウルフも入っている。この国では何度か第二騎士団さん達が乗った所を見たことがある。
「そうか。安心してくれ、落としはしない」
落とす!?




