■2 サーペンテイン王国
彼は目がとてもいいらしく、空に上がると、行き先であるサーペンテイン王国の方向を指差した。
いつもより速度を落としたスピードで飛び続けると、大きな建物が見えてきた。
「見えました! あれがサーペンテイン王国の首都です!」
大きな建物の周りは建物が密集し、大きな壁で囲まれている。あれが首都と呼ばれる場所らしい。
サーペンテイン王国首都を囲う城壁の手前に降り立つ。あちらです、とアルさんに着いて行き、大きな城門に続く長い行列とは違った、その隣の門に。歩きながら見上げると、頑丈な【碧鉱石】が使われている事が分かった。大量のマナで固めているらしい。ちょっとやそっとじゃ壊れなさそうだ。
城門近くに立つ兵士に、アルさんが話しかける。私に視線を向けつつ話していたけれど、驚愕した様子だった。その後、どうぞどうぞと通してくれた。
門をくぐった先に広がったのは……溢れかえる人々達。門前だから集まっているのだろうけれど、でも皆笑顔が絶えず、活気に溢れている。
平和。
その言葉が一番似合う。
その後、王宮にお連れしますというアルさんの言葉に「嫌です」と断った。王宮だなんて、何か面倒事に巻き込まれてしまう事は確実だ。ただ助けたってだけでそこまでする必要は全くないと思う。
彼は渋っていたけれど、粘りに粘って近場の宿を紹介してもらうこととなった。
あと、接し方も。あんなにかしこまった話し方をされるのはむずがゆい。私はそんなに偉い人ではないから普通で十分だ。
「あら! アルじゃない、お帰りなさい。って、え、何々彼女連れ!?」
綺麗な宿に連れてきてもらったかと思ったら、受付に立っていた美人さんにそんな事を言われていた。彼女って私の事かな。
「なっ!? なわけないだろ! この人は、ゆ、友人!」
慌てた様子で、それよりも部屋空いてるかと聞くアルさん。丁度一部屋だけ空いていたらしい。
後ろの備え付けられている沢山のテーブル席にはお酒や料理を楽しんでいるお客人が沢山いる。それだけ人気な宿らしい。
「ベットもう一つ用意してあげよっか?」
「俺は泊らないっ!」
「えぇ~、残念」
二人は友人、なのだろうか。凄く仲がよさそう。
「す、すみません。幼馴染なんです」
「初めまして、ここの店主のルナンよ。分からないことがあったら何でも聞いて!」
「ステファニーです、よろしくお願いします」
私と、あと肩に乗るルシルちゃんも自己紹介しておいた。
「長期宿泊でいいですか? 食事付きで」
「あ、はい。お金はこれでいいでしょうか」
「ちょちょちょちょっと待ってください!!」
私が出した硬貨に驚いたアルさんは私の手の中にある硬貨を手で隠す。そして、くるっとルナンさんに背を向けさせられコソコソ話をし始める。
「そっその硬貨、一体どこで……」
「え? だいぶ前に寄った町でちょっとした手助けしたら、気持ちだって貰ったんです。この国だとこの硬貨は使われてないんですか?」
全世界共通だからって貰ったんだけど……この国は違ったのかな。
「そ、それは、ずいぶん前に使われていた硬貨なんです。素材が不足し、こっちの硬貨に変わったんです。とりあえずそれは仕舞ってください、絶対に出してはいけませんよ!」
「は、い……?」
まさか、未開拓地を彷徨っていた間に通貨が変わっていたとは。すみません、アルさん。
結局、私の出した硬貨は仕舞い、ここは俺が出しますとアルさんに払ってもらってしまった。
助けて頂いたんですからそれくらいは払わせてください。とまで言われてしまい、お礼しか言えなかったのだ。
そうして案内されたのは十分に広い綺麗なお部屋。荷物を綺麗にベッドメイキングされたベッドの上に置いた。
そういえば、ルシルちゃんのご飯を考えなきゃ。ルシルちゃんはいつも魔獣の肉を毎日食べていた。実はこの子、結構食べるのだ。
困ったな。どうしたものかとその後先程のルナンさんに聞いてみると…
「あら、こんなに小さくて可愛いのに! そうねぇ、それなら知り合いに精肉店の店主がいるから、持ってきてもらうよう頼んであげる!」
代金はアルに請求するから、いっぱい頼んであげるね! と悪戯をする子供のような顔をしていた。いいのかな……早くお金を用意して返そう。
それから、私達は空いた席へ。
「さ、どれがいい??」
そうして渡されたのは……四角くペラペラと薄くて文字が書いてあるもの。この国の文字が読めて安心したけれど、一体これはなんだろう。
「これ、何ですか?」
「え? メニュー表だけど」
「違います、これです」
「……えっ!? あなた、羊皮紙を知らないの!? 外国から来たらしいけれど、どれだけの田舎から来たのよ!?」
「え?」
「これは羊皮紙っていう、文字や絵を書く時に使用されるものなのよ。この国、いやほとんどの国に使われるものだから、そこら中にあるの」
……らしい。知らなかった。
「ほんっと吃驚! まぁその服装を見て田舎だと思っていたけれど、そこまでとはね……」
「あ、はは」
ま、まぁ確かにそうだ。筆記の際に使われるものって言うと……木を薄く切断して使うものだと思っていたのに……ここまで発展しているとは。知らなかった。使い勝手が良さそうだから、後で買ってみよう。
「この服、目立つから後で見繕ってあげるよ。何でもいい?」
「え、でも……」
「いーよいーよ、私がやりたいって言ってるんだから気にしないで。アルの友人だし、私のお店に泊まってくれるお客様なんだから、おもてなしの一つだと思って。どうせ請求先はアルだしね~」
「あ、はは……じゃあ、お願いします」
「素敵なの選んであげるから楽しみにしてて!」
じゃあ料理はおすすめでいい? と聞いてくれて、それでお願いしますと言うと楽しそうに戻っていったルナンさん。数分後に持ってきていただいたお肉と、私の夕飯がテーブルに並んだ。
生肉が並んだお皿を見たルシルちゃんは大喜び。どうやらお気に召したようだ。
さぁ、私も食べよう。見たことのない食材達が調理され、いい匂いを嗅ぐわせている料理が並んでいるから、熱いうちに食べなきゃ。
添えられた、フォークと呼ばれる銀色の道具を持ち、周りの人達と同じように使ってみた。この白い野菜を刺し口の中に運ぶと、口の中で野菜の味が広がった。とっても美味しい。自然とフォークは次の野菜を刺していて、口に運ぶ。その手が止まらない。
この野菜達も、このお皿の主役であるお肉も、何と美味しいものなのだろうか。今まで味わったことのない、素晴らしいものだった。
今までは殆ど未開拓地を旅してきたが、こんなのは久しぶり過ぎて、知らないものも沢山あってわくわくが止まらない。
「ご飯、美味しかったね、ルシル」
お腹いっぱいで眠たそうな彼女はもうタオルケットに包まって夢の中に飛び立とうとしている。
明日が楽しみだ。一体どんなものに、どんな人に出会えるだろうか。