■109 全ての人々に、祝福を
それから3日後、あの会場で魂を抜かれていた参加者達は無事完治。大事を取ってその3日後にパーティーのやり直しをする事となった。勿論、スピネル帝国の使者達、上皇后様が置いてった人達も到着し参加する事となっている。
「まさか魂を抜かれるとは思わなんだ、一生に一度の体験であったな」
「冗談言わないでください、陛下」
「そうですよ、陛下。ステファニー殿が頑張ってくれたのですから」
「殿下もやめて下さいっ!!」
元気になった途端これだ!! お二方は本当に私をいじるのが好きですね!!
でも、私が及ばず申し訳ない気持ちでいっぱいだ。今回は、ガイアの御慈悲のお陰。そんな時、殿下がポン、と肩に手を乗せてきた。そんなに気を落とすな、と言いたいのだろうか。
「君は私達をあの男の攻撃から守ってくれた。ガイアが手を差し伸べてくださったのも、ステファニー殿、君のお陰なんだよ」
「そうだ、お主には感謝してもしきれぬな」
私が、って。そう言って下さるのだから、本当にこの方達はお優しい。まぁ、結果的には大丈夫だったって訳だけれど……
私が、皆さんを守ることが出来た。今までだってこの国の人達の事を助けることが出来た。お師匠様と別れてから、こんなにも感謝されて、心の中がポカポカと温かいものが溢れて出てきて。この記憶は、きっと一生忘れないだろう。
「あの悪魔との闘いはすさまじかったがな」
「え、」
「別人かと思いました」
「……」
目が覚めていたのか、見ていたのか……
「ちょっとぉ、私のステフちゃん泣かせたのだぁれ~?」
あ、この声は……
「お久しぶりですね、サーペンテイン国王陛下殿」
「遠路はるばるお越しくださり感謝します。スピネル帝国上皇后陛下殿」
こちらの国とはまた違った、素敵なドレスを身に纏った上皇后陛下。昨日の態度はどこに行ったのかと思うくらいの神々しさだ。あぁ、これは失礼か。
にこやかな笑顔を見せていて、すぐにお出迎え出来ず申し訳ないという陛下の声に、仕方のない事ですし、ステフちゃんが相手をしてくださいましたからと満面の笑顔を浮かべている。
「本当にいい子ですね。孫の皇太子殿下の元へ嫁いでくれないかしらと思ってしまいましたわ」
まさかの爆弾発言に、私の顔は引き攣る。本人の目の前で、堂々とそんな事を言えるのは、貴方様くらいだと思います。
「ステファニーには私という婚約者がいるので。申し訳ありませんが、それには無理がありますね。私の婚約者ですから、ね」
2回言った。心なしか、陛下と殿下が怖い……顔が怖くて見れない……
「あら~それは残念ね♡」
あぁ、良かった……怖い空気が戻ってく……周りの人達もほっとしているようだ。
「いやぁ、迷ってしまったわい」
突然現れたこの声、後ろを振り向くと、ついこの前会った方がそこに立っていた。
「遅刻癖は直ってないようね、ブリジット」
「はっはっはっ!」
上皇后様と、親しそうに話し、そしてさっき呼ばれていた、ブリジットという名。周りの方々の多くは気付いた事だろう。彼は第五の席、ブリジット・メルディアース様であることを。
「聞いたぞい、頑張ったようじゃないか、ステフちゃん」
成長した姿をこの目で見たかったわい、と綿の頭に手を乗せてニッと笑うメルディアースさん。何というか、照れて顔に出てしまいそうだ。
「さて、決心はついたのじゃろう?」
決心、とは大賢者の道に足を踏み入れる決心、という意味。私は、メルディアースさんに向けて力いっぱいに頷いて見せた。不安はある、お師匠様の座っていた席に私が座ってもいいのかと。でも、この国を守れるのなら、私はそれを望む。
「よぉし、分かった」
背にある杖を取り出すメルディアースさん、近くに待機させていた者に持たせていた杖を受け取る上皇后様。
そして私にも、自分の杖が渡された。
「この儀式には、大賢者二人の承認が必要。そして、その二人がガイアにお伝えするの」
「そうじゃ。では、『大地の女神ガイアよ____』」
そう、目をつぶり唱えるメルディアースさん。そして、私達の立つ床に金色の陣が広がった。とても、とても高出力のマナが複雑に、まるで編み込まれているかのように組み込まれている。
そして、金色の淡い光が放出されて私達を包む。
『 世界を愛し、人を愛す、レディ・ステファニー 』
『 慈悲に満ち溢れ、そして自身の心の奥底にある芯の強さをよく理解している 』
『 そんな彼女に、導きの役目を与えんことを__ 』
その言葉は、私の心の中で、静かに響いた。
気が付けば、頭上から、まるで雪が降ってくるかのように、金色の小さな塊が沢山私の元に降ってきた。
これは、マナの塊だ。
手に取ってみると、ふわふわと掌で浮かぶ。
そして、私の、今まさに規則的に脈打つ、心臓。身体に張り巡らされたマナの通り道である経路が循環し、最後に戻ってくる場所に、この降ってきたマナ達が一斉に吸収されていった。
「……えっ」
目の前が、一気に変わった。
真っ暗闇に飲み込まれて、今自分がどこに立っているのかすら分からない。
すると、いきなりまた周りが変化した。
急に明るくなり、まるで上空にいるかのような風景が広がっていた。
それから、見えている雲が私に向かって押し寄せてくる。
つい目をつぶってしまい、少しずつ目を開け収まるのを待つと、今度はまた違う風景がどんどん変わっていく。
まるで、この星の始まり、そして時の流れを、時間を早めて見ているかのよう。
星が生まれ、大地が創造された。
天上には大空が広がっていく。
大地には海が広がり、風が流れていく。
そして、ガイアは人間を作り出した。
彼女は人間を愛した。
人間は、どんな困難にも打ち勝ち、共に歩んでいく。
そんな人間に、彼女は《錬金術》という力を与え、今日まで来た。
そんな風景を、私はこの眼で見て、肌で感じた。
今のは……ガイア?
今まで見てきた、ガイアの記憶……?
……あれ? 手の甲に、金色の刻印が……これは、花?
今までとは違った、不思議な感覚。
私のマナが、ゆっくりと経路を循環している。
周りの音が、声が、聞こえてはくるけれど……遠い。それは、私の意識が自分の身体の内側っていうのかな。そっちにあって。
「……ちゃん、……ス…………ちゃん」
おーい、おーい、と私を呼ぶ声が何となく聞こえてくる。その声を頼りに、やっと声がちゃんと聞こえてきた。
「大丈夫かの、ちゃんと戻ってこれたか?」
「……え、あ……はい」
良かった良かった、とまた頭を優しく叩いてくれた。
きょろ、きょろ、と周りを見渡した。見た事のないものを見て驚く人、理解できていない人、そして大賢者の誕生に喜んでいる人、私を心配してくれている人だ。
「……この世界の、生い立ちを見ました。きっと、あれは……彼女の記憶なんじゃないでしょうか。……彼女から、渡された使命、私のやるべきこと、何となくではあるけれど、分かった気がします」
大地の女神ガイア。星を想像し、人を生み出し、錬金術という力を与えた。その意味を、人間はよく理解し、心にとどめ、感謝する事を忘れず、生きていく。それは、人間一人一人に課せられた使命。
そして、私達は、そんな彼女が愛した人々に、幸せを、祝福を、与える。
与え続け、自分はどうあるべきか、どう生きていけばいいのかを探さなければならない。
自分は大賢者となったけれど、一人の人間だという事は変わらないのだから。
「えっ、ステフちゃん!?」
あれ、頭が回って……
意識が、少しずつ沈んでいっているような……
「ステファニー!!」
ガイアの元に還っていったお師匠様に会いに行くのは、もっと先になりそうだなぁ。待っててね、お師匠様。
*fin...
これにてひとまず完結です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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■余談
・大賢者となったステファニーが突然倒れた理由は、大量なマナと情報量が一気に体に詰め込まれ、意識を振り回された為。それを聞いたその場に居合わせた者達は、とりあえず引いて鳥肌が立った。それから彼女は1週間熱を出し寝込んだ。
・ステファニーの兄弟子アズライト。本名ディラン・モンテストロ。
あの後、生前のヒューズに彼の事を頼まれていたメルディアースに連れられ旅に出る事になった。
・悪魔アントネット。
上皇后ルリティアに連れられ、第4の席の大賢者の元へ。因みにその方は実験大好き。その後彼女がどうなったのかは分からない。
・ステファニーの弟子ジョシュア。
実は第一の席の大賢者の血が少し流れている遠縁にあたる。彼が錬金術の天才だったのはこのせいだったのだ。それに気が付いた上皇后ルリティアが、本人に会ってみないかと提案した所、いいと断ったそうだ。




