テスト──①
◆
「ユウ、何かあった?」
「え、何かって?」
登校すると、突然冬吾がそんなことを言い出した。
はて、何かとは?
「見てみなよ、美南嬢を」
「美南がどうかしたか?」
と言うか朝から一緒にいるし、今更どうしたって話なんだが。
うーん……? 冬吾が何を言いたいのかわからんが……。
だが他のクラスメイトは美南の異変と言うか変化に気付いてるようで。
「女神……今日も美しすぎる」
「でもどこか変じゃないか?」
「ええ。前みたいに近寄り難い雰囲気じゃなくて……」
「美しさの中にも親しみやすさが出てるような気がするわ」
「それに、いつも綺麗だけど、更に綺麗に……?」
「この休みの間に何が……」
えっ、なに。そんな変わってる? 朝はいつも通り寝癖付けてたし、いつも通り抜けてるところもあるし、いつも通り甘えん坊だったけど……。
「ね? どことなく変わってるでしょ?」
「そ、そうだな」
「あの変わりよう、この休日の間に何かあったのかと思ってさ」
冬吾はめちゃめちゃ気付いてるらしい。
やばい、やばいぞ。美南の変化に俺だけが気付いていない。
そんなの美南にバレたら、なんて言われるか……!
「うーん。特に変わったことはないはずだけど……」
「本当に?」
顔近い離れろ。
だけど、この休日にあったこと……初デートで絶景島シーパラダイスに行って、電車が止まってラブホテルに入って、そのまま……。
……どうしよう。思い出しただけで興奮してきた。
そう。あの後俺は、無事に美南との初体験を済ませた。
美南も覚悟を決めていたのか、それとも俺の体に慣れたのかはわからないが……何度か気絶しかけながらも、若さに身を任せて夜通し求めてしまった。
変化があるとしたらそのくらい……。
「あ」
「心当たりがあるんだね」
「あー、まぁ……」
俺の見せる、僅かな変化に気付いたのか、冬吾が耳を寄せて来た。
冬吾と伊原が初体験済ませた時は逆の立場だったから、やめろとは言いづらい……。
「誰にも言うなよ」
「当たり前だろ」
「……ごにょごにょごにょ」
「! ……ようこそこっち側へ」
「うっせ」
そんなニヤニヤ顔を寄せるな。
「でもユウ。幸せなのはわかるけど、もうそろそろ中間テストだよ。勉強の方は大丈夫?」
「ああ。美南大先生のお陰でな。多分トップ10位には入れるくらいには学力が上がって……うおっ!?」
ちょっ、いきなり手を握ってくんな気持ち悪いっ!
だけど冬吾はマジで切羽詰まったような顔で。
「頼むユウ。その勉強会、俺も参加させてくれ……!」
「……は? どうしたんだいきなり」
「親に素で勉強面に関して心配された」
あぁ……そういやこいつ、サッカーばっかで勉強からっきしだったな。
この高校に入学できたのだって、俺が勉強を見てやったからだったし。
「頼むっ。ここで1つでも赤点があったら、お小遣い減らすって言われてるんだ」
「サッカーばかりでバイトもしてなかったもんな、お前」
「このままじゃ誕プレも何も買えなくなる……」
チラッと伊原を見る冬吾。
あぁ、伊原の誕生日って6月10日だっけ。丁度中間テストが終わって、テストが返却されたあたりだ。
テストまで残り3週間。テスト1週間前は、テスト期間ということで部活もなくなる。
つまりここからが勝負ってわけだ。
「俺はいいぞ。部活が終わるのは何時だ?」
「18時だね。そこから片付けとシャワーを考えると、18時半に終わる」
「わかった。勉強はウチでいいよな」
「……いいのか?」
「まあ、美南に聞かないとわからないけどな。美南、ちょっといいか?」
呼ぶと、まるで飼い主に呼ばれた犬の如く嬉しそうな顔で近付いてきた。
あぁなるほど、確かに普段より親近感がある。
「何でしょう裕二君!」
「冬吾が勉強を教えて欲しいらしいから、ウチ使ってもいいか?」
「もちろんです!」
2つ返事だった。
「ごめんね、美南嬢。ユウとイチャイチャしたいと思うけど、ちょっと手伝ってくれると嬉しい」
「いえ、大丈夫ですよ。人に教えるのは、自分の理解にも繋がりますから」
確かに、俺も冬吾や彩香に勉強を教えるようになってから、自分の理解も格段に深まったっけ。
それに今回は美南もいる。今からでも十分テストには間に合うだろうな。
「あ、そうだ」
「ユウ、どうしたの?」
スマホぽちぽち。
裕二:伊原、今日からうちでテストまでの間、テスト勉強するんだが来るか?
裕二:聞いての通り、冬吾も来る
玲緒奈:行く
玲緒奈:行きます
玲緒奈:行かせてください
これを冬吾と美南に見せると、2人共苦笑いを浮かべた。
このメンツで伊原だけ仲間外れにする訳にはいかないからな。
「じゃ、今日から3週間、うちでみっちりテスト勉強ってことで」
「わかりました」
「よろしく頼むよ、ユウ。美南嬢」
さて、しばらく冬吾の勉強は見てなかったけど、どれくらいの実力なのやら。
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