シャニ様
急接近したサテラが撃ち込んだ闇色を纏った拳は、シャニ様の顔を捉え…ない。サッとブレるような動きで避けたシャニ様がカウンター気味にパンチを返すのをしゃがんで避け、足払いをかけるサテラ。小さなジャンプで躱わすことで宙に浮いたその胴体目掛けて至近距離から闇の雫が放たれると、『おっと』という気軽い感じでシャニ様がその雫を掌で後ろに受け流した。
トッ、と静かに着地すると同時にその後方で爆発する雫の爆風に乗って今度はシャニ様からサテラに肉薄する。
…2人の攻防が速すぎて魔術を差し込む隙が無い。
魔術を撃てばどちらに当たるか分からない状況で手を拱いていると、急に横合いからファイアボールが飛んできた。咄嗟にアトモスの魔法で火球を防いでその先を見ると、フィナさんがコチラに杖を向けていた。その杖から更にフレイムランスが放たれたのを目にして対抗呪文を唱える。
「●、フリーズランス!」
向かってくる炎槍に氷槍をぶつけて相殺、油断なく相手を見ると、少し嬉しそうな顔で今度は光球を3個放って来た。初めて見る魔術。困る。
「アクア!」
自由自在に操れる水の玉を4個出現させて、その内の3個を光球の迎撃に当てて、1個をフィナさんに向けて放った。
その光球に水球が触れた瞬間、強烈な発光現象と共に小規模な爆発が起きる。小規模と言っても人ぐらいなら簡単に消し飛ばしてしまうぐらいの熱量が熱波となって私の服をはためかせる。めっちゃ危ない。
最後の一個の水球はフィナさんの杖から出た炎で蒸発。あれでどうこうしようというわけではなかったので良いんだけど、さて。
更に何かの魔術を発動させようと杖に魔力を込め始めたフィナさん。このまま撃たせたら大変痛い思いをしそうなので、
”大気の神よ 其の力を此処に 玉よ崩りて龍を象れ 咆哮よ彼方へ突き抜けよ 其の一撃は”
「●、ドラゴロアー!」
私の傍に龍が出現し、顎が開かれ咆哮が響き渡る。その咆哮に乗って無数の風の刃がフィナさんに向かって踊りかかった。
しかしかなりの強度の魔術障壁を張ってあったようで龍の咆哮はフィナさんに届かない。そのまま魔術が完成したらしく、杖が私に向けられた。
杖の先に小さな石が発生した。念の為アトモスを張り直す。
ヒィン!
アトモスをあっさりと突き破って、私の頭一つ横をさっきの石が突き抜けていった。え?振り返っても先ほどの石は既に見えない。もしかして当たってたら…
杖を下ろしたフィナさんが終わったとばかりにコチラに歩いてくる。そして私の前に立つと左手を腰に当ててコチラに微笑み掛けてきた。
「やぁ、マコちゃん」
「どうも」
「中々楽しかったよ。あの龍の出る魔術なんか障壁張ってなかったら危なかった」
「いえいえ、結局防がれちゃいましたし。それよりさっきの石には全く反応出来ませんでした。あれは…?」
「あれはストーンキャノンだよ。勿論改良してあるけどね」
「今のが…?」
私の知ってる普通のストーンキャノンとは全然別物だとおもう。鉄板とか普通に貫通しそうな勢いだったし。
「これから魔王を倒しに行くなんて羨ましい限りだ」
「…?フィナさんは魔王に恨みでもあるんですか?」
「いや、単に楽しそうだから」
ハハハ、と笑うフィナさん。そうだ、さっきの…
「さっきフィナさんが使った光の玉の魔術、教えてもらう事は出来ませんか?」
「ん?良いよ」
チョチョイと詠唱文を教えてもらう。
「じゃあシャニ様にブッ放して見ようか」
「え?あ、そう言えば闘いの途中でしたね」
シャニ様達の方を見てみると、そこは混沌としていた。
シャニ様1人に対して、ムニはまだしもイツ君まで斬りかかっていて、更に少し離れた所からサテラが闇の雫を撃ち込んでいる。チェリさんやクリフさんもムニとイツ君に強化魔法をかけ、傷ついた端から回復魔術をかけている。5対1、それでもシャニ様は笑いながら全てを受け流している。
「どうせあの人死にゃしないから遠慮なくやって良いよ」
「そうですか、じゃあまぁ」
″力の源よ、内に眠りしその力よ、我が目の前に立ち塞がりし、その悉くを破砕せよ”
「●、ブラストボム!」
キィィン!と高い音を上げながらシャニ様に向かって飛んでいく1つの光球。ムニとイツ君がサッと避けた先にいるシャニ様の刀の一振りで霧散した。一瞬の間が埋まって、再び激しい闘いが始まった。
うん?
「一個しか飛ばなかったんですけど」
「あぁ。それはこの杖さ」
フィナさんが持ってる杖を胸の前に持ってくると、先端の部分を指差した。
「この杖、この国の宝具でね。この3つの宝玉が1つの魔術を増幅して分裂させるんだ」
「そうなんですね」
残念、3発同時に撃てればかなりの制圧力だと思ったんだけど。
「それにしても魔術を詠唱なしで撃てるんだね。そっちの方が凄いと思うけど」
「これはこの本の力ですけどね」
「それも名のある魔導書かなにかなのかい?」
「名前は有りますけど名のあるかどうかというとないですね」
「ないのか。フフッ」
クスクス笑ってるフィナさんを尻目にシャニ様の方を見ると、イツ君は体力が尽きたのか蹲っていて肩で息をしている。ムニはまだ食らいついてるけどイツ君の穴を埋める事は出来ず、どんどん劣勢に追い込まれていってる。サテラやチェリさん、クリフさんはまた傍観の姿勢だ。
「そろそろ終わりそうだね。ちょっと近くに行ってみようか」
「はい」
2人の闘いの中心から少し離れた所にいるサテラ達に合流した。
「マコ、貴女殆ど援護しなかったわね」
「いや、それは〜」
サテラに恨み言をネチられながらムニとシャニ様の闘いを観戦。
『妹よ、何故その程度なんだ。今まで何をしていた』
『200年程封印されてたからな!』
『封印…?』
『とある魔術師に絡め取られてな。意識だけ残して肉体は時間が止まっていたんだ』
『ほう…』
キン!とムニの刀が弾き飛ばされる。すぐさま背中に背負った大太刀を引き抜いて復帰しようとしたムニの首筋にトン、と刀を添えたシャニ様。戦闘は終わったようだ。数秒して双方ともに刀を納めた。
『まぁ、こんなものか』
『悔しぃぃ!』
ムニが地団駄を踏むのをフッと笑ってサテラの方に歩くシャニ様。
『サテラ、お主は戦闘力的にも必要十分だろう』
「あら、わざわざ嬉しいですわね」
『お主だけは倒すのに骨が折れそうだった。もしよければだが旅が終わったら部下にならんか?』
「有難いお言葉ですがワタクシ、誰かの下につくつもりはありませんの」
『そうか、残念だな』
そう言葉を切って、隣にいる私に向き合い、
『マコと言ったか。横目で見ておったが、魔王と闘うには少し力不足に感じるな』
と、仰られた。
『態々死にに行く事もあるまい?』
「いえ、私の目的で向かうのですから…」
『まぁそれはそうなんだが、お主の実力では周りの者も危険に晒すだろう。相手は仮にも魔王、綺麗な闘いなぞ望むべくもない。弱き者から狙われ、一番に殺されてしまうのはおそらくお主だろう』
確かに、この中で1番弱いといえば私だろうな。チェリさんが戦闘面でどれ程強いのか分からないけど、貧弱な私よりは戦えそう。
これはシャニ様を納得させないとパーティーから外されちゃいそうだな…うーん。
「じゃあ…少し本気を出しますので、シャニ様に見て頂ければ」
『ほう?では私に向かって魔術でも何でも撃ってみるといい』
そう言って向こうへ歩いて行き、50メートル程離れた所で振り向いた。掌を突き出してクイックイッと私を誘う。じゃあ…先ずは、
”法則を捻じ曲げ 撃ち放つは神の怒り 刹那にて迫り来る慟哭に 秩序を失くす世界 それが汝の審判の時”
「●、ジャッジメントライトニング!」
カッ!、と雲ひとつない空から雷が落ちたけど、シャニ様を狙った筈なのに数メートル横に着雷した。一体何をしたんだろう…?
続けてシャニ様がクイッと掌を動かす。じゃあ次は、
「アクア・スライサー!」
魔法により高速で回転する水に砂を混ぜて、それを維持する。切れ味抜群、物理的に叩こうとしてもその獲物をスパンと切り飛ばしちゃう私の奥の手の一つ!
「いっけぇ!!」
フッとかなりの速度でシャニ様に向かって飛ぶアクアスライサーはあと数メートルという所で何かにぶつかってギャギャギャン!と激しい音を立てた。もしかして結界を張ってる?
しばらく結界を削る音が響いて、切り裂く事が出来ずに水の中の砂が擦れた際の熱で蒸発した。
またシャニ様がクイッと掌を動かす。あの結界を破れる魔術…もしくは魔法…?後は、
「フレア」
私の呟きと共にシャニ様の周りを包む様に青白い炎が発生、圧縮、収束していく。けど、周囲数メートルに張られてる結界に遮られてそれ以上収束しない。
『ハァッ!!』
爆発かと思うぐらいの衝撃がシャニ様から放たれて囲んでいたフレアが吹っ飛んだ。勿論無傷のシャニ様がクイッ。後残ってる切り札は3つ。
「シューティングスター!」
キュイン!ギイィィン!!
目にも止まらぬ流星がシャニ様のいた場所に突っ込んで周囲に衝撃波を撒き散らす!訓練場の土が捲れ上がり砂埃が舞って視界が塞がれてしまう。
…どうだ?やったか?まぁやってないんでしょうけども。
少しして砂埃が落ち着いてきて、シャニ様が見える様になった。5体満足、怪我一つ無さそう。その場から動いてすらいない。そんなシャニ様が掌をクイッ。まだやるの?これあんまり人向けて使いたく無いんだけど…
”我が操るは理を歪めし神の真円 天に穿たれた虚の門 かの者の真と重なれ”
「●、トゥルーサークル!」
ここで初めてシャニ様がブレる程の速度で範囲外に逃げ出した。おっ、良かった。輪切りになっちゃう所だったし…どうして避けられるのかが疑問だけど。
納得してくれたのかなんなのか、シャニ様がコチラに歩いて私の前まで来た。
『悪く無い。前言を撤回しよう。ただあの雷の魔術と星降りの魔法はおそらく使えないぞ?』
「え?なんでですか?」
「魔王城の中だろうからな」
あぁ、天井…?それは困ったな。
『後、最後の魔術は通用するだろうが使わない方が良いだろう』
「何故ですか?」
『アレを撃ち込んだ場合、恐らく魔王はお主を殺すのに本気になる。あの魔術はそれだけ危険なモノだからな。何もかもを真っ二つにしてしまうアレは、この世の誰にも防げない』
ま、似た様な事は私にも出来るがな。と呟いてシャニ様はムニとイツ君の所に歩いていった。




