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教材

 皆で連れだってやって来たのはお城の側にある訓練場。かなり広くて、そこそこ大きな魔術を使っても大丈夫そうだ。その訓練場の端っこにちょっと気になるモノを見つけた。


「あの火柱はなんですか?」


 天高く燃え上がる青い火柱が何故か訓練場の端っこに聳え立っている。かなりの距離があるここからでもハッキリと目に映る凄い存在感だ。何だろアレ。


『あぁ、アレは少し前まで居たミズキと言う男が1年程前に撃った魔術で出来た火柱だ。相変わらず消える気配は無いな』

「ミズキ…」


 またその名前…1年前…まただ、何か思考に霞がかかる。なんだっけ?思い出せそうで思い出せない。


 …あれ?何考えてたんだっけ…


「少し近くで見てみたいわ。ちょっと時間を頂けるかしら」

『あぁ、良いが。あの炎は何をしても消えないんだ。何か分かるなら教えて欲しい』

「私も違う視点の意見は聞きたいです。詠唱文は本人に聞いて控えてあります」


 サテラが近くで見たいと言い、シャニ様が了承する。フィナさんもその話に混ざる。


 炎の20メートル程手前まで来ると熱が私の肌を撫でていく。これ以上近づくと肌や髪が傷みそうなぐらい熱い。

 そんな熱波の中をサテラが闇色の魔力を纏って近づいていく。触れるかどうかの距離まで行き、徐に右手を炎に突っ込み、すぐに引き戻した。だけどその一瞬で手首から先が焼失してしまっている。サテラの事だから大丈夫なんだろうけど心臓に悪いからそういうのマジでやめて欲しい。

 案の定、まるでマジックでも見せられているかの様に手が元通りになる。それを見てほう…と、シャニ様とフィナさんが感嘆の息を漏らす。


「フィナと言ったわね。コレの詠唱文は?」

「原初の火よ、絶えず燃え盛る神滅の炎よ、我が内の力を喰らい、夢幻より来たりて、かの存在を滅却せよ、メギドフレイム、と言っていました」

「あぁ…成る程ね、無知からくる偶然の産物か。ーーー、メギドフレイム」


 カッ!ゴァァァアアア!元々聳え立っていた炎の横に更にサテラが火柱を立てた。隣の炎に比べても遜色ない熱量。私達の立っている場所が更に熱くなって皆数歩後ろに下がった。


『いや、増やされても困るんだが』

「大丈夫よ、ワタクシの炎は直ぐにでも消せるから」


 サテラが手を振るとフッと消える火柱。


『…と言うことはサテラならミズキの炎も消せるのか?』

「無理ね。本人で無いと消せないわ。これは攻撃魔術と言うよりは…言葉にすると誓約魔術かしら。神を滅する絶えない原初の炎と強い言霊に重ねて強い言霊で指定してしまっているからその目的、神を滅ぼす事を達するか、本人が魔術理論をちゃんと理解して解除するか、もしくは本人が死ぬかしないと消えないわ。それにしてもこの魔術は常にその夢、幻を実体化させた術者本人の魔力を馬鹿みたいに使い続けてるんだけど、その大元のミズキって子は魔力欠乏しっぱなしなの?」

「いえ、この魔術を撃って数時間後には普通に活動していたようです。その後も闘気法や魔術を特に何も問題なく使ってましたし、影響は無さそうでしたが」

「その子の魔力量って分かる?フィナより大きいとか小さいとか」

「じっと見たことはありますが大量の魔力があると言う事だけ…魔術師協会の魔術布での記録は約700だと」

「…あぁ、あの布か。測ったのはこの炎が出来る前?後?」

「炎が出来たのより後の筈ですね」

「多分その子、その時点でも700程度なんかじゃ無いわ。最初の魔力量がどれぐらいかは分からないけど、一年間この勢いで消費してるなら魂の器が急激に変質してる筈。あの布が現在値じゃなく最大値を、限界無しに数値化出来るなら千を余裕で超えて測定されるでしょうね。活動出来てると言う事は回復力も人外レベル。そのミズキって子、何者なの?」

『彷徨い人だな。この世界に来た当初は魔力が全く無かったが、私の娘の血を取り込んで魔力が宿った経緯がある』

「…マコと同じ特殊な彷徨い人か。会ってみたいわね」

『それこそお主達より少し前に魔王に会いにエランテに行ったぞ』


 その後も何か小難しい話をしてるのを何となく聞きながらコスモを開く。すると私の質問を予想していたらしいコスモが、


″あのメギドフレイムは私の保有魔力、魔力回復力では完全再現は出来ません″

「あ、やっぱり?」

″少しの間なら発動出来ますが持続させようとすればすぐに魔力枯渇します。攻撃力と応用力、コストパフォーマンスのバランスでみればフレアのほうが実用的でしょう″

「そう。ありがと」


 パタンとコスモを閉じる。ふーん、凄い魔術ではあるけど実用性は微妙なのか。


「すみません、遅くなりました」


 後ろから声がしたので振り向くと、青い肌をした天然パーマでロン毛な男性が居た。誰?


『来たかクリフ。じゃあ試合を始めようか』





 シャニ様達と私達は訓練場の中心で向かい合っている。遠くには大勢の騎士の皆さんが私達の試合を観戦する構え。


 シャニ様チームはフィナさん、イツ君、クリフさん。

 私達のチームはムニ、サテラ、チェリさんだ


「互いに致命傷を負わせない事、四肢の欠損をさせない事。ではそれぞれ位置についてください」


 アストルさんと言う、この国の騎士団長さんが審判。皆それぞれ好きな場所に陣取る。ムニとイツ君は近距離で向かい合い、その2人を中心にクリフさんとチェリさんはそこから少し離れた所に。シャニ様とフィナさんはかなり後方で、私とサテラはそれとは逆側に結構離れた所。そのサテラは私の横で腕を組んで豊満な胸を押し上げている。私もまぁ普通程度にある方だけど、隣に立ってると格差を感じる。漫画みたいな存在感だ。


「では始め!」


 アホな事を考えてたら始まってしまった…作戦も何もなく、開始の合図と共にムニとイツ君がぶつかり合う。一瞬一瞬で立ち位置が替わり、私の動体視力じゃ見えない速度で腕や体がブレ、刀が縦横無尽に止まる事なく振るわれている…と思う。正直何してるかわからない。


 その戦いを遠くからサテラと並んで眺める。向こう側にいるシャニ様達もその戦いを見物の姿勢。チェリさんやクリフさんも今の所傍観。動いているのはムニとイツ君だけだ。チーム戦とは…


「あのイツって子も中々」

「私には何が何だか」

「闘気法で動体視力と思考速度を上げなさいな」


 言われて成る程と、コスモにお願いして闘気法を発動させる。今まで使った事の無いレベルで強化して何とか見えてきたムニ達の動き。


 ムニは剛と柔、清と濁といった緩急をつけた太刀筋。それでいて一振り一振りは鋭く、イツ君の刀を往なし弾き飛ばし絡め取り…更には刀だけでは無く拳打や蹴撃で間を埋め隙という隙を伺わせない。

 イツ君は流。まるで水が揺蕩うかの様にムニの斬撃を避け、受け流し、跳んだと思えば物理法則に喧嘩を売る様な空中機動で跳ね回り予測の困難な流れる切り口でムニに刄を振り撒く。この世界の人って空中でジャンプ出来るんだね。


「サテラ様ならあの2人に勝てますか?」

「2人がかりで来られるとちょっと大変ね、流石に手が足りないかも。ただ1対1ならまず負ける事はないわ。こう見えてワタクシ、強いんですのよ?」

「そりゃまぁ知ってますけど。じゃああっちのシャニ様は?」

「………アレは無理。私も人を辞めかけてる話したけど、あの人はもう人の括りじゃない。現人神」

「現人神?」

「そう。人の姿をした神。もしくは亜神。あの域に達して何故まだ現世に居るのかしら…マコは神の園って聞いたことある?」

「あぁ、確か…」


 ムニのお父さんが神の園って所に行ったんじゃ無いかって話だったかな。それがどんな所か知らないけど、もしかしたらキョットーの特級書庫とかにはそんな文献もあるのかも知れない。時間無かったのもあって興味の有る本だけつまみ食いしてたからな。吾輩は無知である。


「確かとか言いながら説明が欲しそうな顔をしてるわね。そうね…貴女と言う例外が居るけど、まず前提としてこのグランマザーという世界に存在するあらゆる生き物、空間には魔力が宿っているのよ」

「それは会った時に言ってましたね」

「そうね。ではそもそも魔力とはどこからきたのか?その謎を調べる為に様々な実験、古文書、宗教、遺跡、オーパーツ、口伝、星の観測…それらの情報を数々の賢者、研究者、聖職者、魔導士、哲学者、魔女、星詠の民達が時代を重ねて読み解いたのね。それで導き出された答えはこの世界に満たされた魔力がこの世界を管理している一柱の神が分け与えたモノだと言う事なの。そこで識者たちに新たな疑問が浮かんだ。何故神は魔力という不思議な力を遍く分け与えたのか?マコには分かる?」

「…うーん」


 魔力が何故有るのか?はて?漠然とこの世界に魔力は有って当たり前の様な考えで居たけど…神の園の説明の前段階なんだよね?魔力、魔力、マリョク…魔力で何が出来るかと言えば魔術、魔法、闘気法とかとか。ムニの奥義の一太刀もそうかな?


「…強くする為?」

「まぁそうね。でもそれは神の目的そのものじゃ無いわ。魔術を使えばどう言う現象が起きる?」

「炎とかが出る」

「どうやって炎が出てる?」

「酸素が燃え…いや、多分全部魔力で補って現象を起こしてる」

「そう、つまり本来の物理法則を無視させる力ね」

「法則を無視………神様になって欲しいとか?」

「ビンゴ」


 サテラが手のひらを上にして、その上に闇色の魔力を球状にして浮かべる。


「神はワタクシ達にこの宇宙…この現世と言う神の家から飛び出す新たな仲間が欲しいのよ。魔力は力の使い方を覚える為のお小遣いみたいなもの。でもただタカヒロみたいに魔力が多ければ、ムニみたいに強ければいい訳じゃない」

「と、言いますと?」

「神的にはいくら凄くても神自身が分けた魔力に依存したニートや家事手伝いみたいなのは要らないって事。独り立ち出来るレベル…己の魂の力で法則を捻じ曲げて現世の外で生きて行ける、私達の視点からすればそれこそ神というレベルに育成、魂の研鑽をさせるのがこの現世の存在理由」

「あぁ…じゃあ神の園と言うのはこのグランマザーと言う世界の外側って事ですね」

「ニュアンスはそれで大体合ってるわ」


 やはりと言うか、モノホンの魔女は博識だな。ウィキサテラ様だ。


 そうか、この世界は言い方を変えれば神様の持ち家の中って感じなのか。神様の子供達を大人にする為の環境が整った複合施設的な。そこで魔力を与えて力の使い方を覚えさせる。魔力がお小遣いとは言い得て妙だね。

 育った子供をどうするのか分からないけど、強い仲間が欲しいって話なんだから神様は何かと戦っている?何と?

 そうすると私はホームステイして来た子って所かな?でも何故私には魔力が無いのか。文献を調べてもサテラ程詳しい事を書いてる書物は私のみた範囲では無かったし漠然とこの世界の人と身体の作りが違うからなのかなって思ってたけど、よくよく考えればタカヒロさんやユズナさんには魔力が有ったし、サテラの話を聞くと魂に宿るっぽい?だったら私にも魔力を与えてくれても良いよね?


「サテラ様、質問良いですか?」

「なにかしら?」

「他の彷徨い人は魔力が高いって言ってましたよね?なのに魔力の無い私は神様に見放されてるんですかね?」

「…基本的には同じ事で、きっと神に至って欲しいからこっちに呼んだんだと…なんで貴女カケラも魔力が無いの?コスモに頼りきりじゃ魔力の使い方なんて分からないでしょう?」

「私が聞きたいんですけど」


 サテラの話を鵜呑みにするならこの世界に生きるモノは神様に成るために魂を鍛えてる。鍛えられてる。

 けど、コスモに依存してる私の魂は何も鍛えられて無い様な…確かにこの世界の事は色々と勉強して知識とかは身に付けてはいるけど。…この世界に態々呼んだ理由は?


 掌を見る。神様は私に何を望んでる?


 そう言えばアキラさんが私の事神様なの?って言ってたな。コスモと『コンティニュー』が私の特別な力とも。コスモは置いといて、『コンティニュー』…英語で言えば継続するとか、維持するとか留まるとか保つとか、そう言う使い方をする動詞。ゲーム的に言うならセーブポイントから開始出来る力?

 分からないけどそういえばこの『コンティニュー』、自分の意思で使えるのかな?


 気になるのでコスモを開いて質問してみる。


「コスモ、私のコンティニューって力はそもそも何なの?」

″『コンティニュー』に関する情報は権限レベルが足りない為お答え出来ま


 …途中で文字が止まった。アレ?壊れた?首を傾げる。そのまま数秒待つとコスモが改めて文字を紡ぎ始める。


″管理者による一部の情報開示の承認を得ました。『コンティニュー〈逆行宇宙〉』は時間と言う概念を操り、マコを内包する最小単位の宇宙全てを過去へと巻き戻す力です″

「宇宙全てが過去へ…?なんかスケールが思ってたより大きいぞ…?それってコスモの力を借りなくても使えるの?」

″『コンティニュー』は本来貴女自身の能力です。ですが現在管理者によって貴女の『コンティニュー』は私の最奥のページに封印されています″


 そうなんだ…あぁ、鍵を使えば開けるページ数が増えるんだから全部集めれば最後のページが開かれてその封印が解けるっていう事なのか。でもそもそもなんで封印したの?

 …全てを過去に戻して、私だけ記憶を保持してやり直せる力なんて、もしいつでも使えるとしたらもうやりたい放題だからかな?だから神様は私を家に閉じ込めて力をコスモに封印した?何するか分かんないから?


 それって神様にとって私は不良扱い…?黒髪の真面目っ子のつもりなんだけど。


 私には神様の分け与える魔力は必要無いって事?…もしくは神様の魔力を既に力に目覚めてる私の魂が受け付けないとか?でもタカヒロさんとかは魔力が…うーん?


「ねえ、コスモ」

″…管理者より更に情報開示の許可が降りました。凡そ貴女の考えた通りです。マコ、貴女は神も持て余す異端児。私はそんな不良様な貴女の為に創られた教材といった所です″

「異端児…うん?考えた通りって、もしかしてその管理者って人リアルタイムで私の事や思考を見てるの?」

″そうですね。一部始終を″


 え!?じゃあ私の着替えとか厨二病な魔術の詠唱を考えたりとか、アレとか、コレとか…うわぁぁ!プライバシー!!


″それはさて置き…更に詳しい話は

 「私の元に辿り着いてから」

との事です。まずは9つの鍵を集めましょう″

「…まぁわかったよ」


 パタンとコスモを閉じた。





 9つ…?多くない?





 そんなコスモとのやり取りや考え事をしている内にムニとイツ君の一騎打ちに決着がついた様だ。イツ君の心臓に目掛けて突きの姿勢で止まっているムニ。イツ君は刀をゆっくりと下ろした。2人は何か言葉を交わしているみたいだけど距離があって聞き取れない。


 そこで状況が動き出した。シャニ様が緊張感のカケラも無い雰囲気でコチラに歩き始める。フィナさんは杖を地面に突き立ててまだ様子見の体勢だ。


「来るわね…魔術で援護して頂戴」

「はい」


 そう言ってシャニ様に向かって歩いていくサテラ。


 なんかこの短時間で考える事が色々増えてそれどころじゃ無い気分なんだけど…

 まぁ気持ちを切り替えて。


″囁かれる声 汝を導く声 然しそれは汝の信ずる神では無い 決して耳を傾ける事勿れ 嗤う声看過す汝を誘うは″

「●、デモンウィスパー」


 私の魔術が指向性の有る音となってこっちに歩いて来ている途中のシャニ様を捕える。


『む…これはまた、中々変わった魔術だな…ハァッ‼︎』


 混乱や幻覚を掛ける精神系の攻撃魔術だ。キョットーの魔術師協会、特級書庫に有った禁書指定された本から作り上げた魔術。普通の人が聞けば一瞬で戦闘不能になる…たった今、気合い一つで弾かれたけど。


 シャニ様のその一呼吸の間にサテラが闇色の魔力を迸らせてシャニ様に肉薄する。

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