ミスティカ 謁見の間
ミスティさんに紹介して貰った宿で一晩過ごして次の日の朝。1階の食堂に3人テーブルに集まって朝食を食べていると宿の入り口から神官服を着た女の人が入ってきた。食堂内を見回し、私達の姿を確認するとこちらに歩いてくる。城のお迎えの人かな?
その人がムニの横に立って話しかけてくる。
「食事中失礼ですが。貴女がムニ様でお間違いないでしょうか?」
『あぁ、そうだぞ』
「私、皆様の案内をさせて頂く事になりました、チェリと申します」
白い髪に白い肌…角は生えてないし瞳も赤じゃなくて緑だけど見た目が少しムニと似ている。
『ご飯食べてるからちょっと待っててくれ』
「はい、外で待たせて頂きますので準備が出来ましたらお声をお掛けください」
そう言ってまた外へ出て行ったチェリさん。待たせるのも悪いなと思ってご飯を食べる速度を早めようとして、よく考えたらマイペースなムニやサテラは絶対気にしないなと思い直して結局いつものペースで食べる。ムニは兎も角、サテラはゆっくり食べるのでどうせ私より後だ。
食事を終え、泊まった部屋の片付けと着替え、最後にこの宿の主人に挨拶を済ませて外へ出た。
外に出ると宿の前の道に立派な馬車が横付けされていて、その前でチェリさんが立って待っていた…ずっと立って待っていたんだろうか?何か悪い事した気分だ。
「準備は終わりましたでしょうか?」
「はい、待たせてごめんなさい」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それでは馬車にお乗りください」
促されて馬車に乗り込む。ムニ、サテラ、私と3人並んで座り、チェリさんは対面に座る。チェリさんが天井から伸びている紐を引っ張ると馬車が進み始めた。
「では改めまして…私、ミスティカ治癒術師長補佐、チェリと申します。簡単にですがそちらの事情は伺っております。この後の女王様とのお話の行方次第では魔族の国、エランテへの旅に同行する事になると思います」
『ほう、話が早いな』
「えぇ。コレでも2等級の回復魔術が使えます、他にも補助や神聖系攻撃魔術、後それなりの近接戦闘が出来ますのでそれなりにお役に立てるかと」
2等級と言うとエルザちゃんと同じ位階だ。それだけでもかなりの力量だし、それ以外も頼もしい限りだ。
「貴女は魔王を直接見た事はあるのかしら?」
「いえ、無いですね。先代の魔王のエルディア殿なら知っているんですが、最近代替りした様でして。今はそのご子息のエンペラム殿が魔王となっているそうです」
『エルディアか。あいつも歳を取っているんだろうな…』
ムニが少し遠い目をしている。元魔王とも知り合いなんだな。200年も封印されてたせいで浦島太郎な気分なのだろう。
「そのエンペラムの情報とかは無いの?対話で終わる可能性とか、戦った場合の強さとか」
「今の代になったのが半年前程でして詳しい所はあまり分かりません。一応この街に滞在してる魔族の王妹殿下であるプリテス様から伺った話では戦闘面では先代を超える天才で、高い向上心、言い換えれば野心がある方だそうです」
「そう。ワタクシ達4人で向かった場合、どういう事になるか予想は出来る?」
「そうですね…魔族の国エランテは従来のままなら来訪者が1〜4人で来た場合、街の入り口で貴様は何者かと誰何されるそうです。そこで″勇者″を名乗った場合、一部の強い魔族、そして魔王がその勇者を迎え撃つと言うのを聞いたことがあります」
「じゃあ、勇者じゃ無いって言ったら?」
「別に今戦争してるわけでも鎖国しているわけでもありませんので、普通に街には入れると思います。ただその場合向こうに呼ばれた訳でもない私達は一般人扱いされるので肝心の魔王城には入れない筈です」
成る程…つまりは結局の所は物理で魔族達を薙ぎ倒して魔王に会いに行く必要があると。だからトキネさんは「出来る事なら4人パーティで」と言ったのか。
パーティが5人以上だと聞かれないのかな?多分聞かれないんだろうな。そう言うルールが魔族の中であるのかも知れない。
その後も話をしている内にお城に到着した様で馬車が止まった。
「着いた様ですね。それでは案内しますのでついてきてください」
馬車から降りて、チェリさんの後ろをついていく。
★
一旦控室に案内され、椅子に座って呼ばれるのを待つ。チェリさんは女王様に私達の到着を知らせに別行動。向こうの準備が出来次第謁見となると言っていた。
これから女王様に会うという話な訳だけど別にそんな堅苦しい感じでは無く、正装とかに着替える必要は無いらしい。
お城の侍女さんに淹れてもらった紅茶を飲みながらゆっくりする。
『城の中はそんなに変わってないな。あの壁の絵も以前と同じだ』
「ふーん?…あの絵は何か凄い画家が描いた奴とか?」
パッと見た感じ落書きの様に見える。正直絵は私には分からないけどお城に飾ってるんだから価値のある物なのかな?ピカソ的な?
『アレはあたしが小さい頃に描いた怪獣の絵だ』
唯の落書きだった。
「う、うん、そこはかとなく凄く…凄い…と思う」
『ふ、だろう?あれの価値は凡人には分からんのだ』
凡人の私には分かりません。
「そんなどうでもいい事よりマコのチョーカーと腕輪を貸して頂戴」
「ん?どうするんですか?」
私のチョーカーは今首に付けている奴の事だ。家に帰った時魔石を交換してあるので障壁を張る機能は復活している。精霊玉の腕輪は私の左手首に付けている魔力を貯めて、引き出せる特別製の腕輪。
外してサテラに渡すとチョーカーと腕輪を宙に浮かせて何かを呟き始めた。すると魔術紋様を縫っていた糸が解け、再度チョーカーに縫い込まれて行く。私の手縫で出来る限界を遥かに超えた、凄まじい細かさの紋様に新調されている。
更にミスリル銀で出来た腕輪が溶け、ペンダントの形に変化して行く。ペンダントのトップにはラビリスコアが、チェーンには細かく紋様が刻まれている。
…凄い。私がそれぞれ数日かけて作った物を一瞬で作り変えた。しかもパッと見ただけでも元よりも確実にハイレベルな出来上がり。
「…これでどう?腕輪だと最悪腕を落とされると使えなくなるけど、ペンダントなら死ぬ寸前まで活用出来るでしょう?」
「あ、ありがとうございます…」
「それからそのチョーカーとペンダントを一緒に付けてれば精霊玉に貯めてある魔力でチョーカーの障壁が展開される様に作り変えたわ」
説明を受けるに、精霊玉の魔力が続く限り身に迫る脅威に対して障壁を自動で展開する様にしてくれたそうだ。今まではチョーカーに付いた魔石の容量の問題で1回きりの強力な障壁を張る仕組みだったので相当防御力がアップした事になる。勿論従来の魔力を貯めたり引き出したり出来る機能もそのまま。で、精霊玉の魔力を使い切って更に攻撃を受けた場合、最後はチョーカーの魔石の魔力を消費して障壁が張られ、魔石が砕けるそうだ。そうなったらと言うかそうなる前に逃げる様にとの事。
「それにしてもさっきの加工の魔法?はどうやってやるんですか?私も出来れば覚えたいんですけど」
「そうねぇ…複数の魔術を同時展開しないと出来ないから人間の脳じゃまず無理なんだけど、貴女のコスモありきなら出来るかも知れないわね。また時間がある時に教えてあげるわ」
「是非お願いします」
手にとって色んな角度から眺める。流石サテラ、性能だけで無くデザインも秀逸。チェーンの紋様の細かさ等を暫く見た後チョーカーとペンダントを付ける。どうかな、似合ってるよね?
それから少ししてチェリさんが迎えに来たので再び案内して貰う。それ程遠く無くて、すぐに目的地に辿り着いた。大きな扉の前に待機している騎士さんが開けてくれて広間…謁見の間に入ると、左右には整列した騎士達が。その奥にある玉座には女性が脚を組んで座っている。女王様だ。
白い髪に白い肌、燃えているかの様な赤い瞳に額の上に2本の角…座ってるから体型とかは分かりづらいけど組んでる細くて長い脚を見る限りスタイル抜群っぽい。ムニの親族と一目で分かるぐらいには顔付きが似ている。ムニは中学生ぐらいの見た目だけど成長すれば瓜二つになるんじゃないかな。
その右には小学生ぐらいに見える、これも妖鬼族の男の子が立っている。この子も2人にかなり似ていて、顔つきは凛々しいけどちっちゃいのでなんか可愛い。10歳も行ってなさそう。
左には妖鬼族とは違った角が頭に生えていて、皮膚に鱗がある蒼い瞳をした女性が立っている。ナイスバディ。杖を携えてるので魔術師だと思う。凄い魔術を撃ちそう。
ある程度進むとチェリさんが女王様の前で跪いたので、それに倣って跪こうとして、ムニとサテラが気にせず立ったままだったのでどうしようかとアワアワしながらやっぱり跪いた。
普通は訪問者側が先に来て跪いてこうべを垂れて王様が来るのを待つイメージがあるんだけど、既に女王様座ってるしな…何が正解か分からない。
『チェリと…確かマコだったか。立って楽な姿勢になってくれ。で、まずは挨拶といこうか。私がこの国の女王、シャニだ。マコとサテラ、遥々ミスティカにようこそ。そして妹よ。久しいな…流石に帰ってくるのが遅過ぎなのではないか?しかも全然成長していないのはどう言う事だ?』
『色々あったんだぞ。また後で説明する…それにしても姉上は老けたな』
『何を言う。まだ328だからピチピチだ』
『300超えたら十分おばさんだろう』
なんかこの間のムニと同じような事言ってる。
シャニ様の見た目は20代後半の絶世の美女って感じ。おばさんと言う程には老けてはいないと思う。
『まぁそんな与太話は後にしよう。一応ミスティから話は聞いているがコマという少女を助ける為にマコが強くなるための鍵を集めていて、その流れで魔王に喧嘩売りに行くんだって?』
『あぁ、その予定だ』
『まだ100に満たない年齢だが今の魔王は強いらしいぞ?』
『それでも可愛い妹分を助けないといけないからな』
『そうか。ムニの妹分なら私の妹の様なものだ。出来る限りの助力をしよう。本当は私がついていければ良いのだが流石にそう簡単には国を離れられないのでな…で、強い戦士か僧侶のどちらか一人という事で本人から話は聞いているかも知れないが今回はチェリを同行させようと思う』
『あぁ、助かる』
『これで前衛としてムニ、魔術師がマコとサテラ、治癒術師がチェリか……魔術師は2人も必要か?もう1人入れ替えるか?』
『これで良いと思うぞ?こっちのサテラは前に出ても強いし、マコも色んな魔術や魔法が使えるから後衛としてはかなりレベルが高い』
『ほう…どんなモノか見てみたいな。ムニの今の実力もどの程度か見てやろう』
『いや、頼んで無いけど』
『余も参加したいです!』
「私も」
シャニ様の横に立っていた少年とナイスバディさんが話に入ってきた。
『ならもう1人クリフを呼んで4対4のチーム戦と行こうか』
『まぁ良いが…そっちのはフィナか。見違える程に大きくなったな』
「ムニ様、お久しゅう」
『クリフとやらは知らんが…そっちの少年は誰なんだ?』
『この子は私の息子のイツだ。中々出来るぞ?』
『姉上の子供か!ほうほう…あたしはムニ、君の叔母さんだな』
『宜しく、叔母上』
ムニとイツ君が軽い挨拶を交わす。ナイスバディさんはフィナさんと言うらしい。
『では早速訓練場に向かおうか。誰か、クリフを呼んできてくれ』
「はっ!」
なんか流れる様に女王様達と試合をする事になった。




