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カオスティックゾーン

 どれぐらいの時間経ったのだろう?何も感じないこの暗闇の中では時間の感覚が曖昧だ。

 何分?何十分?何時間?何日?それすらよく分からない…夢現。

 何も出来ない状態のまま、闇の中を漂う。

 このままこの何も無い暗闇の中で朽ち果てていくのかな…

 

 などとネガティブ思考に陥っていると、不意に目の前の景色が変わった。地面が見える。私は地面に倒れているみたいだ。

 手足の感覚がある。なんとか立ち上がって、周囲を見回す。


「なに、ここ…」


 目の前に広がる光景は歪な世界だった。高層ビルがピサの斜塔の如く斜めに立ち並び、車や馬車、戦車が行き交い、信号機が紫色に点滅している。歩く人々はスーツを着たのっぺらぼうで、倒れていた私に目もくれず通り過ぎて行く。


「日本…じゃないよね」


 日本にいた頃の記憶が曖昧な私でも、これは違うと言い切れる。それだけ今目の前の光景は異常。


「ギャァァァァ!」


 人の叫び声がして、そちらを振り向くと、大きな狼の魔物に身体をぼりぼりと齧られているのっぺらぼう。その横を何事も無いかのように歩くのっぺらぼう。


 な、なんなのここ!


 ちょっと涙目になりながら、その狼の魔物に魔術を打ち込もうと左手を上げた…けどコスモがない。肩掛けバッグの中にも無い。もしかして何処かに落としてる?


 地面を探そうとしたら、押し寄せるのっぺらぼうの群れに押されてどんどん元いた場所から遠ざかる。


「ちょっと!道を開けてぇ!」


 そのまま駅らしき所まで押し込まれて尻もちをついた。


「いたた…」


 立ち上がって入り口の方を見ると、のっぺらぼうの群れに埋め尽くされてて戻れなさそう。その光景はかなりのホラー感。


 仕方ないので別の出口を探して、駅の中を彷徨い歩く。切符売り場があって、改札口がある。試しにそのまま改札口を通ろうとしたらビー!という音と共にあのパカパカする奴に通せんぼされた。切符を買えと?


 更に歩き回ったけど、他に出口っぽい道も無いので切符売り場に戻り切符を買うことにしてみる。

 えー、地獄行きと天国行きの2種類…ぇえ?地獄行きは不穏だし、天国行きもそのまま天国へ連れてかれそうで嫌なんだけど。

 字面的には天国行きかなぁ?と、天国行きのボタンを押す。ミョミョミョと切符が券売機から排出されてきた。これを改札口に差し込めば通れるのかな?と、手にした切符を改札口の差し込み口に差し込んでみる。お、通れた。


 そのまま歩いてホームに到着。えーと、次の天国行きの電車は4:44分発か。今の時間は壁の時計によると4:38。もうすぐ到着するみたい?

 しかし、そのまま乗ってしまっていいものなのだろうか?天国行きって…ようはあの世だよね?


〈プルルルルルルルルルル!4番線に天国行き電車が到着いたします。黄色い線の内側迄お下がりください〉


 黄色い線…?コレか。


 ガダンガタン、ガダンガタキィィーーーー…


 甲高いブレーキ音を響かせ、目の前に止まった電車。プシュー。と、ドアが開くに合わせて後ろから雪崩れ込んでくるのっぺらぼう。さっきまで1人もいなかったのに!?

 そののっぺらぼうに押し込まれる形で私も電車に乗り込んだ。乗車率200%って感じの、手も動かせない様な圧迫感。

 再びプシュー。と音がしてドアが閉まる音がする。そのまま走り始める電車。


 ガダン、ガダンガタン、ガダンガタンガタン!ガダンガタガダンガタ!


 不規則に揺れる電車内、ギュウギュウと四方から身体が押し込まれる。苦しい…


 次の駅ですぐ降りられる様にドアの近くまでのっぺらぼうを押し込みながら辿り着く。まだキツいけど、ドア前に来れた事で気分は大分マシ…と思ったら外にはこの電車に群がる幽霊らしき浮遊物体が!何アレ…もうこの世界やだぁー!

 目を瞑って何も見ない様にして、電車が次の駅に辿り着くのを今か今かと待っていると、肩をトントン、と叩かれた。ん?と目を開けて振り返ると、のっぺらぼうのお兄さん?が私に行方不明になってたコスモを渡してきた。


「落としましたよ」

「え?あ、ありがとう」


 そう言い残し、その他大勢ののっぺらぼうに溶け込む様に何処かへ行ってしまった。

 何処で拾ったんだろ?まぁなんにせよコスモが有れば何とでもなる!と、コスモを開くと、そこには、


”おきのどくですが ぼうけんのしょ※ばんは きえてしまいました“


 と、血文字で書かれていた。思わず床に叩きつけた。


 怖い…この世界には狂気が渦巻いてる。


〈次は、終点、天国、天国。お降りの際は足元にお気をつけ下さい〉


 プシュー。とドアが開くと同時にのっぺらぼうに押し出される様に電車から出る。はぁ。駅の外に出てみよう…天国ねぇ。


 駅の外に出てみると、そこは黄色い雲の上で、仏像みたいな数十メートルはある大きな生物?が、のっぺらぼう達を光の彼方に導いていた。あれ、連れてかれると本当に死んじゃうのかな?


 その光景を眺めていると、トントン、と肩を叩かれた。振り向くとのっぺらぼうのお姉さん?が私に行方不明になってたコスモを渡してきた。


「落としましたよ」

「…どうも」


 そう言い残してお姉さん?は光の彼方に去っていった。

 恐る恐るコスモを開いてみる。そこには見慣れた魔術詠唱文。これは本物…?


「コスモ、コスモなの?」

“はい、この悪魔の魔法に干渉するのに手間取りましたが、何とか割り込みをかける事に成功しました。マコが被っている帽子が精神干渉を抑えていてくれた様です。で、無ければ恐らくマコは永遠とこの世界を彷徨っていた事でしょう“

「良かった…!本物っぽい!」

”えぇ、本物です。ではこの世界から脱出するとしましょうか“

「どうやって?」

“1は悪魔に攻撃して魔法を直接止める。2は精神防御魔術で自分を囲う。3は無理矢理この世界を壊す“

「分かった、やってみる」


 取り敢えずあのデッカい仏像をぶっ飛ばしてみよう。ボスっぽいし。狙いを定めて〜


「くらえ!シューティングスター!」


 キュィィィィイン!!!ドゴォン!!大きな仏像の左胸を貫く流星が、そのまま下の雲を貫いてこの世界に穴を開けた。その穴から噴き出す光が私達を包み込む…







 気がつくと私は倒れていた。フラフラしながらも何とか立ち上がり、周囲を見回す。私以外の全員が気を失っているのか倒れて動かない。それともまださっきの空間に囚われている?時間は?どれぐらい経ったの?あの悪魔は…!?


『へぇ、私のカオスティックゾーンから自力で抜け出した?…掛かりが悪かったのかな』


 声がした方…上を見上げると悪魔が腕を組んで空に浮かんでいる。


「みんなは…無事なの?」

『さぁね。親切に教えてやる義理は無いよね』

「このっ…!●、ジャッジメントライトニング!」


 カッ!ダァァァアァァン!


 怒りに任せて放った雷は、悪魔の張った障壁によりあっさりと防がれた。


「なっ!」

『おぉ怖い怖い。この火力、並の悪魔なら黒焦げだね』


 っ!この悪魔…私のジャッジメントライトニングを簡単に防ぐなんて…


『さて、カオスティックゾーンは破られてしまったし。別の趣向を凝らしてみるとしようか』

「別の趣向…?」

『んー、その子にしよう』


 と、悪魔が突き出した手は倒れているコマちゃんに向かってる。


「何する気!?」


 フラフラしながら駆け寄って行くも間に合わず、重力魔法的な力でコマちゃんが上空に漂う悪魔の横に吸い寄せられていった。


『このままこの子を引き裂いても君の負の感情を堪能出来るだろうけど…こうしよう。私はこの子を連れてハイリアに戻る。そこで隷属の腕輪を付けてハイリア側の兵士としてこの細い腕を振るって貰おう。あぁ、何処かの争いに出向かされて死んでしまうかもしれないな。もしくは君と生死を分けた戦いになるかも知れない。可哀想に…お、そうそう、そういう困惑と怒り、悲しみと言ったごちゃ混ぜな感情は私の大好物だよ。ま、助けにくるも来ないも君の自由だ』


 コマちゃんが悪魔の近くにいるせいで魔術が撃てない。せめてマーキングを………


「…必ず助けに行く」

『そうかそうか。楽しみだねぇ。折角だから名前を聞いて置こうか』

「マコ」

『マコか。私はアキュラス。じゃあマコ、また会おうじゃないか』


 そう言うなり悪魔…アキュラスとコマちゃんは空間魔法を使ったのか、その場から消失した。


 その場に残された私達。私以外の皆はまだ意識を失っているのか倒れたまま…ムニに近づいて息をしているか確かめる。大丈夫、死んでは居ないようだ。


 3人を公園の木にもたれ掛からせて、『索敵』でアキュラスとコマちゃんの動きを見てみると、凄いスピードで北西、おそらくハイリアに向かって進んでる。

 皆が目覚めたら準備してすぐにでもハイリアに向かおう。


「っぐわぁぁぁぁぁあ!」


 突然声がしてびっくりしながら振り返ったらタカヒロさんが頭を抱えて仰け反っていた。


「タカヒロさん!?どうしたんですか!?」

「あ、悪魔ァ!来るな、こっちに来るなぁ!」

「ぇえ?」

「〜〜〜、フレイムサー「ちょ!?」」


 慌ててタカヒロさんの口を押さえた。尚も暴れるタカヒロさん。

 これは…幻覚を見てる?まだアキュラスのカオスティックゾーンとやらの影響が残ってる?


 思い立って私の魔女の帽子を被せてみる。精神、幻惑、幻覚系に耐性があるこの帽子。これのお陰で私にはアキュラスの魔法がちゃんと効いてなかったって話だ。


 帽子を被せて少しするとタカヒロさんが素面に戻ってきた様で、暴れなくなった。大丈夫かな?と口を押さえてた手を離してみる。


「あ………マコちゃん?」

「良かった、目が覚めたんですね」

「…何か悪い夢を見ていた様な…。あれ?そういえばあの悪魔は?」

「立ち去りました。コマちゃんを連れて」

「え!?…そうか。コマちゃんが…」


 それからムニやユズナさんにも帽子を被せて起こし、一旦私の家に戻ることにした。




 

「それじゃあ作戦を決めたいと思います」


 場所は私の家のリビング。

 私の言葉に他の3人がこちらを向く。ムニ、タカヒロさん、ユズナさんだ。


「移動はどうするの?」

「家に6人は乗れる空飛ぶ絨毯が有りますのでそれで向かおうと思っています」

「へぇ、それなら移動手段は困らないね」


 ユズナさんが納得顔でお茶を飲む。恐らく空飛ぶ絨毯でかっ飛ばせば2日有ればハイリアとの国境に着く。そこからハイリア首都の王城まで更に3日ほどだろうか?

 移動時間のアレコレを考えていると、タカヒロさんが身を乗り出してきた。


「多分ハイリアの中枢には悪魔が蔓延ってる。主要な人間には悪魔が憑いている可能性が高い。一筋縄じゃいかないと思う」

「それは怖いですね。アキュラスレベルの悪魔が何体もいるのならキツい戦いになるかも知れません…」


 アキュラスはドラゴンの障壁を貫いた『ジャッジメントライトニング』をあっさりと防いだ。『シューティングスター』なら突き破れそうだけど、でもどっちにしても屋内じゃ使えない。

 対悪魔用の魔術を開発しないと。でもそんな時間が…

 と、考え込んでいると、ユズナさんが指を立てた。


「マコちゃんはその本でコマちゃんの居場所が分かるんでしょ?こっそり潜入してコマちゃんをささっと救出しようよ。正面からじゃ囲まれちゃう』

「潜入ですか。良いかもですね」

「俺は苦手かな、そういうの」

『あたしも苦手だ。後、既にコマが隷属の腕輪を付けられてて、助けに来たあたし達に襲いかかってくるかもしれんな?』

「そっかぁ…その場合は押さえつけてでも腕輪を外すしかないね。ムニさんやタカヒロには囮になってもらって、私とマコちゃんだけで潜入、コマちゃんを見つけたらなんとか腕輪を外して、魔力波で知らせて皆でさっと帰ってくる。がベストじゃない?」

『…そうするか』

「考えても相手の戦力やコマちゃんがどういう状況か分からないからあんまり案は出なさそうだしね」

「じゃあユズナさんのその案で行きましょうか。各々準備を済ませて…明日の朝、北門集合という事で」


 コマちゃん…大丈夫かな…?

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