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クエルと悪魔

 朝早い時間、皆で朝ご飯を食べていると、うっすらと異質な魔力を感知した。これは…


 コスモで『索敵』してみると、ここからそれ程離れていない場所に『クエル』とタグをつけた光点が留まっている。タカヒロさんとユズナさんは2人で私の家に向かっている様だ。


 この魔力波、恐らくキョットーに戻ってきたクエルが放った魔術なのだろう。確かにコレは知らないと気にならない程度の微弱な魔力の波だ。


 ご飯をささっと食べ終えて部屋に戻り、魔女の帽子、黒のローブ、最近仕立てた耐魔性の高い銀糸の服にスカート、黒ストッキングにハイネックブーツな魔女ルックに着替える。

 コマちゃんとムニも準備が整った様でリビングにやって来た。

 コマちゃんは私と同じ銀糸の服にその上に革の胸当て、短パンから伸びる足元はしっかりしたブーツ。首には最近作った私とお揃いの結界のチョーカーがつけられてる。腰帯にムニから借りた刀を差している。

 ムニは軽装だ。鎧とかは着ず、動きやすそうな上下の服に刀を一本、腰に差してる格好だ。


 タンッタンッ!「マコちゃ〜ん」


 タカヒロさん達がやって来たので玄関を開ける。ローブ姿のタカヒロさんと、全体的に黒い服を着たユズナさんが玄関前に立っている。


「おぉー、マコちゃん達準備万端だね。じゃあ早速行こうか」


 5人で家を出発。魔力波が放たれている方角へ歩いて行く。少し歩いてこの間の公園にたどり着いた私達は、先ずはタカヒロさんとユズナさんにクエルと話をして貰う事にして私達3人は隠れながら後を追った。

 タカヒロさん達が公園の木にもたれ掛かってる人…クエルに近づいていく。


「来たか」

「クエル、呼んだか?」

「あぁ、俺が離れている間に変わった事はあったか?」

「特にないよ」


 しれっと嘘をつくタカヒロさん。


「そうか。で、こちらは状況が動いた。ハイリアだが既に軍勢がこのキョットーに向かっている」

「遂に戦争か…何日後に着くんだ?」

「後6日と言った所だ。ザボンベルク私設団の兵達にはタイミングを合わせて内側からの撹乱をしてもらう手筈になっている。上手くいけば数日の内にこのキョットーを落とせるだろう。勿論お前達にも私設団の兵と一緒に動いてもらうぞ」

「6日ぐらいか…成る程な。だってさ、マコちゃん」


 呼ばれたので木陰から姿を現す。勿論コスモを構えて。コマちゃんも刀を抜いて、ムニも腰に差した刀に手を掛けている。


「マコ?…まさか」

「クエル、俺たち既に自由の身なんだわ。今迄随分とお世話になりました!」


 タカヒロさんの声に合わせてユズナさんがクエルに急接近、私の時と同じ様にナイフをクエルの首めがけて振るう。それをバックステップであっさりと躱して、腰に下げていた剣を抜くクエル。


「どうやって腕輪を外したのか知れんが…」


 クエルの眼が赤色に変色、露出した肌に魔術陣の一部らしきものが浮かび上がり、その身体から膨大な魔力が発せられる。


「囲めば私に勝てると思っているその思い上がりを正してやろう。そして後悔するがいい!ゴァァァァ!」


 クエルが吼えると同時にクエルを中心に衝撃波が発生、近くにいたユズナさんとタカヒロさんがまるで紙の様に吹き飛ぶ。吼えただけなのに…!まるでドラゴンと対峙してるかの様なヒリつくプレッシャー!


 皮膚が張り裂ける様な空気の中、ムニが衝撃波を受けながらもクエルに直進、腰に差した刀を振り抜いた。


 キィィィィン!と、ムニの強撃を咄嗟に剣で受け止め弾くクエル。そのまま連撃を叩き込もうとするムニに対して、


「デモンブレイド!」


 ドォォォン!と、黒い魔力のギロチンの様な刃がムニの立っていた場所に振り下ろされ、それを避けたムニが地面ごと吹き飛ばされる。


 ゴォアァァァァア!と、再びクエルが吼え、私とコマちゃんに向かって走ってくる!


「お姉ちゃん!後ろに!」

「コマちゃん!」


 私を庇う様に前に立ったコマちゃんとクエルの剣と刀がぶつかり合う!


「ほらほらぁ!どうしたどうしたぁぁ!」

「ぐっ!ぎっ!」


 キィン!ギャギャン!!打ち合う2人。だけどクエルの振るう剣は無駄がなく、そして速い。コマちゃんはなんとか捌いてるものの、このままでは危ない!


「●、レイ!」


 私が放つ光線がクエルの腹を貫く。が、すぐにその穴は塞がり、何事も無かったかの様にコマちゃんに連撃を浴びせ続ける…こっちを見もしなかった。これは、オズワルドも見せた悪魔による超回復力?


 そこへムニが爆発的な魔力を纏い、分身が見えそうな動きでクエルを切りつけ注意を惹きつける。

 更に始めに吹き飛んだユズナさんが加勢に来てくれた。コマちゃん達と連携してナイフを振るい、クエルに少しずつ傷を付けていく。だけどムニやユズナさんが当てた傷はすぐに回復してしまう。


「〜〜、ストーンキャノン!」


 ギュォン!と、タカヒロさんが放った石砲の魔術がクエルの胸部をブチ抜く!心臓付近を吹っ飛ばされて一瞬体勢が崩れるクエルに畳みかける様にコマちゃんの刀がクエルを袈裟斬りにする。が、全ての傷がまるで逆再生しているかの様に塞がって行く。


「クク、その程度、この身体には通じん!俺に憑依している悪魔はそこらの下級悪魔とは訳が違うんでな…フハハハハ!…お前らは全員悪魔の生贄だ、この俺に歯向かった事を神にでも懺悔し、悔い改めて人生やり直してこい!」

 

 やっぱり悪魔憑きなのか。そう言う事なら…鞄から一つの袋を取り出し、中身を手に取る。コレは硬い石を粉々に割った砂。


「アクア・スライサー!」


 魔法により高速で回転する水に砂を混ぜて、それを維持する。水は聖属性をイメージして付与したいわゆる聖水だ。


「いっけぇ!」


 コマちゃん達に当たらない様にクエルに向けて水の輪を発射する。


「そんな物くらうかァァ!!魔界瘴・黒雷!」


 クエルから発せられた魔力から黒い雷が迸り、アクア・スライサーの魔法を消し飛ばしながら私に黒雷が直撃、首のチョーカーの防御結界が発動し弾く。くっ、保険の結界を使わされた…!


 その間にも戦いは続き、こちらの面子たちも少なくない傷を負い始めている。スタミナもかなり消耗しているだろう。このままじゃこっちが押し切られる。


 悪魔憑きに効く魔術を…シューティングスターは近接戦闘してる皆が吹っ飛ぶから駄目だし、上級魔術も基本範囲魔法、これも巻き込むからダメだ。かといって中級魔術の火力じゃ多分回復される。聖炎や聖水…フレアやアクアは効くだろうけど、着弾する迄に対処されそう…次、さっきの黒雷とやらを撃たれたら多分私死ぬ。


 ぺらぺらとコスモをめくる。

 ん、反応出来ない速度の魔術…レイは効かなかったけど、これなら?


”咎を背負いし魔の獣よ 神の力によりて業を解放せしめん 汝を貫くは破魔の光剣”

「●、ディバインセイバー!」


 天から降る一筋の光がクエルを貫く!


 武闘会で使った、取り憑いた霊や悪魔を強制的に引っ剥がす光をぶち当てる魔術。これならどうだ!


「ガァァァアァァ!!これはあの時のぉぉ!」


 天からの光に晒されてクエルの身体から悪魔が分離される。分離されて宙に浮かぶ悪魔は慌てる様子も無くこちらを眺めている。ん?クエルに加勢するつもりはない…?


「クソッ!クソ!身体が重い…っ!ぐっ!ガッ!」


 悪魔との繋がりを絶たれたクエル。そのせいで再生能力やら身体能力やらが人並みに落ちたのか、ユズナさんのナイフによる傷が治らなくなり、タカヒロさんの石砲の魔術で片腕が吹き飛び、復帰したムニに至る所を切り刻まれ血塗れになるクエルは、次第に動きが鈍くなっていき、コマちゃんにバッサリと斬られ、倒れた。


「…く、負けた、か。だが、まだ私の悪魔が…」


 私達の上を漂っていた悪魔が、倒れたクエルの側に降り立った。以前に見た悪魔達と違い、肌の色が青っぽい所と頭に生えた大きな角を除けば見た目はほぼ人間。男とも女とも取れるルックス。


『クエル、契約通り血肉を私の糧にさせて貰うよ』

「…あぁ、ディアス様によろしく頼む…ハイリア万歳…っ!」


 悪魔がしゃがんでクエルの身体に手を当てると、その身体が吸い込まれる様に悪魔に取り込まれていった。肉片一つ残っていない。あー、ハイリアの事尋問出来なかった…


 そしてゆっくりと立ち上がる悪魔。


『絶望を感じさせる中々の味。美味だね。さて、君らも喰らってあげよう。カオスティックゾーン』


 こちらに手を翳し、発動句を唱えた瞬間吹き荒れる風。そして空間ごと上下左右に捻り押しつけられる様な力場が発生し、全員が立っている事もままらなくなる。


「ぐぁあ…!」

「なに、これっ…身体、視界が、ねじれる…っ」

「うぅぅ!」


 捻じ曲がる視界。次第に手足の感覚が薄れていき、自分が何処に立っているのか、そもそも立っているのかすら分からなくなる。

 意識もあやふやになり、現実を見ているのか、それとも夢を見ているのか分からなくなってくる。

 果てには目の前が真っ暗になり、なにも見えない、なにも感じない、暗闇の世界に1人ぽつんと残されてしまった…





 …え?なに?どうなったの…?





 …どこ…ここ…?





 …これは…夢…?





 …私は…生きている…?





 …それとも死んでいる…?死後の世界…?





 …どっちが上で、どっちが下か分からない…





 …分からない…せめて明かりを…





 …駄目、手の感覚が無い…





 …コスモを今持ってるかどうかも分からない…





 …なにも見えない。これじゃコスモの文字も読めない…





 …なにも聞こえない。誰もいない…?




 …誰か…

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