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紅葉

 私は家のリビングでコスモを開いて『索敵』でマーキングした3つ光点の動きを見ている。

 この中の1人であるタカヒロさんがハイリア国のスパイなんだから、一緒に逃げてた他の2人も恐らくそうなんだと思うけど。


 1つの光点は方角的にキョットー内の貴族街の一角に留まってる。


 もう1つは北西の方向へ遠ざかって行っている。多分ハイリアに向かってるんだろう。


 最後の1つは街の大通りから少し奥まった辺りで停止してる。この光点には”タカヒロ”のタグが付いてる。


 先ずはやっぱりこの”タカヒロ”からかな。


 索敵を発動したままのコスモを持って玄関へ向かおうとすると、木刀を持ったコマちゃんに袖を掴まれた。


「…私も行く」

「んー、もしかしたら危ないかもだよ?」

「…だから行く。お姉ちゃんは私が守る」


 守ってくれるの?か、可愛い!


 それに闘気法や魔術を操るコマちゃんは既にそこらの人よりも遥かに強い。待たせて不安な思いをさせるより、素直についてきてもらった方がいいか…と、言う事でコマちゃんと一緒に向かうことに。


 家を出て、コスモの表示する光点を目印に目的地に向かう。大通りを外れて裏道を行く事少し、一軒の居酒屋らしきお店に到着した。コスモを見る限りこの店の中にタカヒロさんが居ると思われる。


 コマちゃんを連れてお店の中に入ると、そこは居酒屋というより落ち着いた雰囲気のバーと言った感じのお店だった。


「いらっしゃいませ」


 と、バーテンダーの人がグラスを磨きながら声を掛けて来る。…店内を見回す。

 …いた。奥の方のカウンター席で1人でお酒を飲んでるタカヒロさんを発見。念のためコスモを手にしたまま近づいていく。


「ん?…え?」


 私に気付いたタカヒロさんが驚いた顔をしてる。まさかさっきの今日で会う事になるとは思ってなかった様だ。


「や、やぁ。こんな所で会うなんて奇遇だねマコちゃん」

「そうですね?」

「どうしたんだい、こんな裏通りのバーに来るなんて、イメージと違うなぁ」

「それは、タカヒロさんに会いに来たからですよ」

「え?」


 …少し流れる沈黙。


「…俺に?何でかな?」

「話してませんでしたが、私、相手をロックオンする能力が有るんですよ。今晩の舞踏会で私とこの子にフレイムピラー撃ったの、タカヒロさんですよね?」


 と、確信めいたカマをかけてみる。

 それを聞いてタカヒロさんは少し間を置いてゆっくりと両手を上げた。降参のポーズだ。


「参った。変装してたのに、まさかマコちゃんにそんな能力が有るなんてね。そうか、そういう力もあるのか…」

「そうなんですよ。それで取り敢えず一発いかせて貰いますね?」

「一発?なにそぶへっ!」


 平手で思いっきりタカヒロさんを叩いてやった。パァン!と綺麗な音が鳴る。手がジンジンするけど気分がスッキリした。


 周りのお客さんが「なんだなんだ?」「痴話喧嘩か?」と、コチラを見ている。


「いっ…たぁ」

「ほら、コマちゃんも一発」

「ちょ、ちょまブフゥ!」


 パァン!と、コマちゃんも平手で反対の頬を叩いた。手が小さいので左右で大きさの違う紅葉が出来上がる。あー、秋だなぁ。


「お、お客さん…?」

「あ、お構いなく。当然の報いを受けてもらっただけなので」

「はあ…」


 バーテンダーさんを適当に言い包める。困り顔のバーテンダーさん。


「で、タカヒロさん、ここじゃ何なんでちょっと外に付き合って欲しいんですけど」

「わ、分かった」


 カウンターにお金を多めに置いてタカヒロさんの耳を引きずって店を出る。


「いた、痛い、マコちゃん悪かったから、謝るから」

「あのですね…私、今日ので2回殺されかけたんですよ?あの女の子のナイフとタカヒロさんの魔術で」

「う、そうだよね。悪いとは思ってるんだよ」

「元の日本なら殺人未遂です。いくらこっちの法や捜索が緩いからって、何しても良いって訳じゃないんです」

「ごもっともです…」

「という訳で、洗いざらい喋ってもらおうと思うんですけど…ハイリアの隷属の腕輪してますよね?」

「え?よく知ってるね?オズワルドから聞いたの?」

「まぁそんな所でしょうか。こちらに腕輪してる方の腕を出して貰えますか?」

「?」


 タカヒロさんが素直に左腕の袖を捲って隷属の腕輪を見せてくる。


「どうするんだい?」

「外すんです」

「え?無理だよ、どうやっても外れない様に出来てるらしいし、実際外そうとすると凄い激痛が…「黙ってて下さい」…あ、はい」


 この間城の研究員達と調べた結果、外す方法は3通りある事が分かっている。


1、装備者を殺す


 死んだら装着者との魔力の同期が絶たれて外せる様になっている。


2、手首や腕を切断


 まぁこれなら腕ごと外れる。但し切断した腕を元通りに治す方法は私の知る限り無い。私の最高傑作のポーション『天にも昇る気持ち』でも部位欠損は治せないし、聖者や聖女と呼ばれる治癒術師でも無理な筈だ。


3、腕輪を切断


 無理矢理金鋸みたいな物で切ろうとすれば切れるけどそうすると装備者は死ぬレベルの(というか死ぬ)痛みが発生する様な仕組みになってる。あと、装着者が自力で外そうと意識するだけで痛みが走るらしい。イヤらしい作りだ。


 一番マシなのは2番だけど、そこまでして外すよりも、素直にハイリアに隷属しておいた方が良いと考える人が殆どなのだろう。


 で、今回取る手段は2…ではなく3だ。


「行きます!」「ひぃっ!」

”我が操るは理を歪めし神の真円 天に穿たれた虚の門 かの者の真と重なれ”

「●、トゥルーサークル!」


 私の空間切断の魔術で、音も無く腕輪だけが切れた。中に仕組まれた魔石と魔術紋様ごと一瞬で断ち切った。これなら激痛の紋様は発動しない。

 もう一発、反対側も『トゥルーサークル』で切り、腕輪が地面に落ちる。


「お?おぉぉ、嘘…もしかしてマジで?」

「マジです。良かったですね?」

「俺、自由の身…?」

「んー、暫く私に使われて貰いますけど。これで制限なしに喋れるでしょう?色々と聞かせて貰いますからね?」

「うん、うん。俺、何でも喋るよ!」

「じゃあコレから私の家に来て貰いますけど、変な気は起こさないで下さいね?」

「…変な動きしたら次はグーで行く」

「コマちゃんだっけ?それは勘弁して」


 裏通りのバーから少し歩いて、私の家に到着した。

 鍵を開けて中に入り、リビングのソファーにタカヒロさん、コマちゃん、私の3人で座る。


「へぇー、良い所に住んでるね」

「ドラゴンを討伐したお金がたんまりあるので」

「ドラゴン…マコちゃん凄いなぁ。どうやって倒したの?」

「そんな事を話すために連れて来たんじゃないんですけど?」

「まぁそうだよね。で、どんな事が知りたいんだい?」


 さて、先ずは…


「先ずはタカヒロさんの仲間…というかハイリアの工作員はどれぐらい居るの?」

「俺と同じ班のユズナって舞踏会のナイフの子と俺、リーダーのクエルって男の3人以外は詳しくは知らないけど、オズワルドもそうだし、そこそこ居ると思うよ」

「そう…貴族街で潜伏してるのはどっち?」

「多分ユズナ。こっちで活動する時に世話になってる反エスペリアの貴族の家に居るんだと思う」

「反エスペリア?」

「今のエスペリア王権に不満を持ってて、王を打倒しようと暗躍してる連中がいるのさ」

「へぇ。それで、ユズナって人も名前からして日本人?タカヒロさんと同じく隷属の腕輪をしてるの?」

「うんそう、日本人。可能なら外してやってほしい」

「そっか。次はエスペリアとハイリアの間の巨大魔術陣とオズワルドの悪魔の呪いについて」

「あの魔術陣は数十人の魔術師が魔力を注ぐ事で、近くの魔物を大量に召喚する物だね。後オズワルドについては、オズワルドが武闘会で王を殺せれば良し、もし無理で殺されても取り憑いた悪魔が瘴気を撒き散らして魔物を呼び寄せて巨大魔術陣と連携って言う2段構えだったんだけど、マコちゃんが王様を守って悪魔を消滅させたし、魔術陣は壊されたしで上手くいかなかった訳だ」


 まぁ大体予想通りかな?やっぱりオズワルドをシューティングスターで吹っ飛ばさなくて正解だったみたいだね。


「私を舞踏会で襲ったのはどうして?」

「武闘会でマコちゃんが強くて、今後邪魔になりそうだから仲間にするか攫うか、無理なら殺してこいって命令を俺達が受けたんだ。だから今日の舞踏会で襲ったと、そんな感じ」

「命令をしてるのは誰?武闘会を観に来てたの?」

「うーん、リーダーのクエルが全ての指示を受け取ってるから俺には分かんないな」

「じゃあ今後のハイリアの動きって分かる?」

「多分近いうちに全面戦争を仕掛けてくると思うよ。本当は前もって王を殺すか魔物をけしかけるかで戦力や士気を削ってから一気に落とすつもりだったみたいだけど」

「何の為の戦争?」

「さぁ?領地拡大とかじゃない?」


 うわぁ、人同士の戦争かぁ。

 相手方の王様ぶっ飛ばしたら止まんないかな?それだと逆に戦争が泥沼化する?

 流石に大規模な戦争となると幾ら私がパワーアップしたと言っても魔力には限りがあるし…あ、目の前に魔力無尽蔵の人が居たな。


「もし戦争が始まったらタカヒロさんには手伝って貰います」

「いいよ、ハイリアにはムカついてたし」

「結局タカヒロさんの魔力って幾つなんですか?」

「あぁ、魔術布で測ったら1000以上でそれ以上は分からないって。因みにアキラさんに見てもらった云々は嘘だよ」

「え?なんでそんな嘘を?」

「あの時は信用して貰うために共通の話題を探してたんだよ。カオリから聞いたから知ってるけど、アキラさんには俺会ったことはないからね。実際に見られたら隷属の腕輪してる事バレそうだし」

「そういえばそうだね」


 他に出来ることは…もう一人のユズナって女の子を出来ればこっちに引き込もうか。ほっとくと寝首かかれる可能性も有るし。


「タカヒロさん、そのユズナって子をこっちに引き込みたいんだけど、何処かに連れ出してくれない?」

「ん、今から早速?」

「えーと、コマちゃん?」


 コマちゃんは…うつらうつらしてる。流石にもう真夜中近い時間だし仕方ないね。


「うーん、ちょっと真夜中にコマちゃん1人にしては出掛けられないからユズナさんについては明日にします」

「そう?じゃあコレで解散?」

「はい、タカヒロさんは起きたらまたこの家に来て下さい」

「オッケー了解」


 タカヒロさんを見送り、コマちゃんを連れてお風呂に入って、一緒の部屋で就寝した。





「ごめんくださーい」


 翌朝、皆で朝ご飯を食べた後にやって来たタカヒロさん。リビングのソファーに座ってもらう。ムニと自己紹介をしてもらった。

 コスモを取り出して『索敵』でユズナさんの現在地を確認する。貴族街の一角から動いていない様だ。


「タカヒロさんはユズナさんとどうやって連絡を取るんです?」

「魔術でうっすらと人が気づく程度の魔力波を上空に打ち上げて、それを感知したユズナが俺の所に来る手筈になってる」


 狼煙みたいな物かな?


「じゃあ先ずは怪しまれない所でユズナさんを呼んで貰いましょうか」

「ほいほい」


 タカヒロさんと外に出掛ける。コマちゃんも付いてくる。今日はムニから借りた刀を腰に差しててやる気満々だ。ムニもついて来ている。


 しばらく歩いて結構広い森林公園に着いた。公園のベンチに座るタカヒロさん。


「じゃあ今から空に向けて魔力波撃つからマコちゃん達は近くの木の後ろとかにでも隠れてて」

「わかりました」


 3人でベンチから見えない木の後ろに隠れて様子をみる。私はコスモを出して『索敵』で”ユズナ”のタグの付いた光点の動きを見る。

 タカヒロさんがブツブツと呪文を詠唱、空に手を向けて魔力波とやらを放った。と、同時に動き始めるユズナさんの光点。歩くぐらいの速度でコチラに向かっている。


 待つ事10分程、黒髪黒目の、でも舞踏会の時にみた私にナイフを振るってきた女の子が、タカヒロさんの座ってるベンチに近づいてきた。


「タカヒロ、用件は何?」

「マコの居場所を見つけたから共有しようと思ってね」

「へぇ?どこに居るん?」

「そこ」


 私達の隠れてる木を指差すタカヒロさん。訝しげな顔でコチラを見るユズナさん。あ、目が合った。


「は?…まさか」

「てへ、俺捕まっちゃった」

「…嵌められたのね」

「マコちゃん達、出てきて良いよ」


 呼ばれたので出て行く。一応コスモを開いた状態で。コマちゃんも刀に手を掛けて。ムニは口に手を当てて緊張感の無い欠伸をしてる。


「心配しなくても抵抗するつもりは無いよ。正面からじゃ勝ち目無いし」


 と、両手を上げて降参のポーズをとるユズナさん。


「でもタカヒロ、隷属の腕輪をしてるのにどうやって私の事を伝えたん?」

「マコちゃんが外してくれたんだよ」


 と、タカヒロさんが左腕をユズナさんに見せる。


「へ?どうやって…?」

「マコちゃんが魔術で切ってくれたんだ」

「ホンマに?」

「ホンマに」

「えー!?クエルが居ない内に私もお願いしたいんだけど!」

「マコちゃんお願い、外してあげて欲しい」

「分かりました」


 ユズナさんに近づいて腕輪をしてる左腕を出してもらい、トゥルーサークルの魔術2発で腕輪を外してあげた。


「自由になる日が来るなんて…このまま一生飼い殺しかと…」


 ユズナさんの瞳から涙が零れ落ちる。

 暫くして顔を上げたユズナさん。お怒りの表情だ。


「ありがとう、マコ。…タカヒロ、今からハイリアに行ってあのクソ王の首を取りに行こう!」

「良いね。マコちゃん達もハイリアぶっ潰しに行かないかい?」

「そうですね…色々仕掛けて来たんだからお返ししないと」


 いやでも、その前に先ずはエスペリアの王様に話をしておいた方が良いかな?

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