論文
特訓してるコマちゃんやムニを参考にしたりして、1週間程掛けてあーでもないこーでもないと身体強化について纏めてみた。
その出来上がった論文を魔術師協会へ持って行ってみるとする。
大通りの一等地に並ぶ洋服屋、雑貨屋、アクセサリーショップ、飲食店、武具屋、靴屋…様々なお店の軒先に並んだ商品をウォッチングしながら魔術師協会にたどり着いた。
中に入って受付のお兄さんの前に立つ。
「いらっしゃいませ。本日はどの様なご用件でしょう?」
「魔術に関する論文を見てもらいたくて来たんですけど…」
「分かりました。魔術師カードはお持ちでしょうか?」
「あ、ちょっと待って下さいね…っと、はい」
銅色の魔術師カードをお兄さんに渡す。
「お預かり致します。初級魔術師で登録のマコ様ですね。キョットーの魔術師協会に来るのは初めてですか?」
「はい、初めてです」
「分かりました、ではその論文というのを見せてもらっても良いでしょうか?」
お兄さんに紙束を渡す。
「タイトルは…『魔力での身体能力の強化』ですか。早速拝見させて頂きますね」
お兄さんが紙をめくって読んでいく。
この論文は何を題材にしてて、何が出来るのか、伝えたいかの前置きを挟んで、ムニとコマちゃんに付き合って貰った観察記録と、実際の身体強化の為の方法、私見での考察文…という感じの構成で出来た論文だ。
読み終わるまで少し時間が掛かるので、ロビーの色んな展示物を眺めながら待つ事15分程。受付のお兄さんに呼ばれた。
「全て拝見させて頂きました。これはとても興味深い内容でしたので、上の者に見せたいのですが構いませんでしょうか?」
「はい、構いません」
「あと、これだけの魔術の考察が出来る知識をお持ちということは初級というランク以上に高い実力があるのだと思うのですが、それをこの後に見せて頂く事は出来ますでしょうか?実力によって先程の論文も併せてランク審査をいたしますので」
「あー。はい、大丈夫です」
「では先ずは魔術布で魔力量を測らせて貰っても?」
「分かりました」
と、お兄さんが準備してくれた魔術布に、コスモを左手に持って魔力を込める。
「…約185。これは凄い魔力量ですね」
と、褒められる。いやぁ、それ程でも。まぁコスモのお陰なんだけど。
と、いう事で訓練場に連れて来られた。その隅っこにある魔術の練習をする為の、金属で出来た的の前に来た。
「では何種類か魔術を見せてもらっても宜しいですか?」
「良いですよ。では」
コスモを鞄から取り出して左手に持って広げる。使う魔術は…やっぱりコレかな?
「●、レイ!」
カッ!と収束されたレーザー状の光が私の手から放たれ、金属の的の中心に照射される。金属が熱せられて赤熱する。
「詠唱せずに魔術を使った?それに凄い制御力ですね」
「も一つ、●、トルネード!」
ゴゴオォォ!!と、的に向けて風の刃を伴う暴風をぶつける。ガガガガッ!と的に傷が付いていく。
「これも申し分ない!」
「後は…●、トゥルーサークル!」
金属の的が音もなく斜めに斬れて上の部分がドォッ!と地面に落ちた。こないだ覚えた空間魔術だ。
少しの間沈黙が流れる。
「…は?い、今のは何をしたのですか?」
「空間ごと的を切断しました」
「空間ごと…?空間魔術?」
「他にも有りますけどご覧になります?」
「い、いえ、もう十分です。これほどとは…上と話し合って適正なランクにさせて頂きます!」
と、いう事でロビーに戻ってきた。お兄さんは早速上司に掛け合ってくれるそうで。このままお待ち下さいと言い残し裏に引っ込んでいった。
☆
早30年か。月日が経つのが早い。
俺はある日突然この世界に迷い込んだ。その時立っていたのはエスペリアの南の方の平原で、街にたどり着くまでに何度か魔物に襲われて死にかけた。
街に着いたら着いたで金は無い、体力は無い、特別な知識はないと無い無いづくしで途方に暮れた。
探索者になり、薬草採取などで小銭を稼ぎ、腹が減っては近所のパン屋で貰ったパンの耳を齧り、兎にも角にも死に物狂いで生きてきた。
そんな中で俺に特別な能力がある事に気付く。それは、
『ステータス閲覧』
相手をみて強く念じると相手の能力を見る事が出来る。
この力に気付いた時、この世界はゲームか何かなのかと思った。魔術という物もあるし。
そこまで詳しく分かる訳じゃないが、この力のお陰で人や魔物の強さなんかがある程度分かる様になって少し生きやすくなった。
そしてこのキョットーにたどり着いて、俺の能力を元に開発した魔術布という魔力を測れる魔術具を魔術師協会に持ち込んだ。そこで紆余曲折あった末に魔術師協会に就職してからはなんとか安定した収入を得られる様になった。この能力のお陰で人を見る目があるという事で出世もした。
出世したのもあって給料はまぁまぁ良い。生活に困らないというのは素晴らしきかな…但し協会から余り出る事がなくなったので暇だ。圧倒的に刺激が足りない。
机に頬杖つきながらなんか面白い事ねぇかなぁ…と、思っていると部屋に足音が近づいてきた。
バァン!と勢いよくドアを開けてキースが室内に入ってきた。
「所長!」
「騒々しいなぁ。何かあったん?」
「まずはこの論文を見てください!」
「あぁ?誰の?」
最近はどいつもこいつもレベルの低いレポートばっかりで欠伸がでる。あいつら、俺を脳の酸欠で殺す気じゃ無いか?
「マコという協会員が持ってきた論文なんですが魔力で身体能力の強化が出来るという内容です」
「あーねぇ。見てみるわ」
渡されたレポートを見て、ある点に気付く。
「おい、そのマコってのは日本人か?俺みたいに黒髪黒目の」
「確かに黒髪黒目でした。日本人かは聞いてないです」
「そ。まー、多分日本人だろうな」
字が綺麗すぎる。硬筆を頑張って習った事がある字だ。この世界、読み書きの勉強が出来る塾はあるが、硬筆みたいに綺麗に書く為の学習塾は無い…と思う。少なくとも見た事は無い。
同郷の作という事でちょっと集中して読む事にする。ふんふん。ほう。
「そのマコのランクは?」
「初級でした」
「初級…?でしたってことは今日登録したんじゃ無いんだな?」
「はい、9ヶ月前にナワイカで登録した様です」
「ふーん?活動してなかったのかね」
「あと、先程魔術の実力を見せて貰ったのですが、詠唱無しで凄い魔術制御力、果てには空間魔術らしきものを放って金属の的を真っ二つにしてました」
「無詠唱に空間魔術?そりゃあ凄えじゃん、面白そうだ。よし、連れて来い」
「あ、はい、分かりました」
キースが部屋から出ていった。日本人に会うのは久しぶりだな。楽しみだ。




