タキア再び
アレから一日経って、昼頃にタキアの街に到着した。街門の守衛さんに皆の探索者カードを見せて通して貰い、馬車も止められる宿を確保した。
「2日程休暇を挟んで、3日後に次の街に向かいたいと思います。それまでは自由時間ですが、出発迄に自分の食べる物や飲み物は準備しておいて下さい」
私からの話も終わり、皆バラバラに行動し始める。ヒムロとサクヤちゃんは私と一緒に行動だ。
今回はどうしようか…タキアといえば探索者協会長に扮したアグレーという吸血鬼が暗躍してる街。犠牲者も少なくないだろうし世の中の為にも倒した方が良いとは思うけど、ムニでも苦戦するぐらい強いんだよね。悪魔も召喚してくるし。
もしあの悪魔と館の中で戦う事になったら私の手持ちの魔術や魔法の大半は危なくて使えない。今回も上手く館の外に誘き出せると良いんだけど。
アグレーを倒して貰う為にもムニには一緒に来てほしいな。
「ムニ、私と一緒に探索者協会で依頼を受けるついでにご飯でも食べない?」
『ん?良いぞ』
即快諾してくれたムニと一緒にタキアの探索者協会へ向かう。
『道は分かるのか?』
「うん、前に来たことあるからね」
『そうなのか?じゃあ刀が置いてありそうな店とかも知ってるか?』
「うん、2軒ぐらいなら」
『後でそこに連れてってくれ』
「良いよー」
話をしながら街を少し歩くと探索者協会の大きな建物にたどり着いた。
入り口のドアを開けて中に入る。早速あの依頼を探す為に依頼掲示板の所に行って眺める。あ、あったあった。
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依頼人 探索者協会
種類 討伐依頼
期間 無期限
依頼内容
街の外れにある大きな館に、正体不明の魔物が住み着いたらしく、その館に向かった者が行方不明になっていて、付近の住民が避難をする事態に陥っている。これを討伐して貰いたい。
条件 Cランク以上推奨
金額 300万ルビ
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「ムニ、コレ受けたいんだけど良いかな?」
『んー?正体不明の魔物か。まぁあたしに掛かれば何が来ようとも大丈夫だ』
「じゃあこの依頼にするね」
受付に依頼表を持っていく。実際行くのは明日と伝えて館の玄関の鍵と地図を受け取った。
「よし、依頼はコレでオッケー。ご飯食べていこうよ」
『そうしよう』
と、丁度昼時だからか少し混んでいる協会内の飲食コーナーに行き、テーブルに座ってメニューを広げる。少しして給仕さんがお冷を持ってきてくれたのでそのついでに食べ物を注文する。私はカツ丼、ムニはハンバーグランチ、ヒムロとサクヤちゃんにはお魚。
暫くして注文してた料理が届いたので、いただきますをして食べる。カツ丼はまぁまぁの味だ。
食事中もその後も特に絡まれたりという事もなく、協会を出てその日はムニの刀探しに付き合った。
★
翌朝。準備を済ませた私とムニとヒムロ、あとエルザちゃんが館にやって来た。
エルザちゃんは私達が正体不明の魔物と戦うという話を聞いて、それでしたら何があるか分かりませんし私もついて行きます、と。
危ないかもしれないから…と説得しても危ないかもしれないから私も行くんです!と、テコでも動かない姿勢で頑なについて来たのでもう仕方ないと同行してもらうことにした。
エルザちゃんが来るのでミケイ君も来るかと思ったけど、ムニが居るなら俺必要ないだろと参加を見送っていた。リューゼさんとリエルさんはついて行こうかと言ってくれたが、私達で充分だと丁重にお断りした。
と、言うわけで3人と1匹で開きっぱなしだった館の玄関を潜る。
私のライトの魔術で館の中を照らしながら探索したものの、前回同様何も見つけられず、館の玄関迄戻ってきた。
『何も無かったな』
「魔物という事でしたが、もう何処かへ行ってしまったのでしょうか?」
『さてな。これだけの屋敷だと隠し部屋とかもありそうだな。あるとしたら何処だ?』
「…」
玄関を見ると誰も触っていないのに閉められている。そろそろ出てきそう。
『っと、お出ましだ』
いつのまにそこに居たのか、オールバックに固めた髪に黒いスーツの様な服を着た一人の男が悠々と階段を降りてくる。
「久しぶりの訪問ですね。歓迎致しますよお三方」
「どちら様ですか?」
エルザちゃんが警戒しながら誰何する。
「名乗る程のものでは有りません。それに知った所で貴女方の命はここで尽きるのですから意味が御座いません」
此方に向かってアグレーが手を翳した。すると複数の蝙蝠や狼がアグレーの周りに現れ、私達に襲いかかって来る!
「ヒムロ、狼達を!私は蝙蝠を!ムニはあの男を抑えて!エルザちゃんは誰かが怪我したらお願い!」
「承知!」『いざ!』「分かりました!」
ニャオォーーーーン!ヒムロが体高3メートルのサイズになり、狼を高速猫パンチで蹴散らしていく。
”大気よ、渦を巻き千の刃となりて我が前に立ち塞がりし敵を喰らい尽くせ”
「●、トルネード!」
私が放った竜巻の魔術により玄関ホールに無数の風の刃が吹き抜け、上空から此方に襲いかかろうとしていた蝙蝠達を切り刻む。
その間にアグレーに接近したムニがアグレーを大太刀を抜き放ちざま縦に一刀両断する。が、まるで霞を切ったかのように刀がすり抜けた。
『…蝙蝠や狼の眷属に霧変化、ヴァンパイアか』
「ご名答、妖鬼族の姫、ムニ様」
『ん?あたしの事を知っているのか?』
「ええ。妖魔界隈では結構有名ですからね、貴女」
『知っていて喧嘩を売ったのか』
「えぇ…貴女程の妖魔の血を啜れば私は更なる高みに至るでしょうな」
『ふん、上等だ』
お姫様って感じじゃ無いよねムニ。どっちかっていうと野生児というか…。
そこからムニとアグレーが激しく戦い始めた。手の空いた私達の事は無視かな?
”光よ この手に集え 虚空を照らすその輝きで 我が敵を貫け”
「●、レイ!」
私の手から放たれた閃光がアグレーの頭を撃ち抜く。どうだ!頭なら少しはダメージあるんじゃない!?
だけど何事も無かったかのように頭に空いた穴を修復したアグレー。ダメージ無しか。ムニはこんなのどうやって倒したんだ。
アグレーが天井のシャンデリアに飛び移り、コチラを向く。
「そちらのお嬢さんに一撃貰うとは思っておりませんでしたな。もう眷属を倒したのですか。コレはお返しです。〜〜〜、フレイムランス」
「アクア!」
アグレーの手から放たれた炎槍が私に向かって飛んでくるのをアクアの魔法で発生させた水の塊で相殺する。
「ほう。少し貴女を侮っていた様だ。お詫びに貴女に相応しい相手を召喚いたしましょう。■ ■■、サモンデーモン」
カッ!と、玄関ホールの絨毯が燃え上がり、炎の中から一体の悪魔が現れた。
「そ、そんな…悪魔召喚だなんて」
と、エルザちゃんが慄いている。
『お呼びで御座いますか、アグレー様』
「悪魔よ、そこのお嬢さん方を死なない程度に甚振って差し上げなさい」
『お安い御用で』
アグレーの言葉を受けて、コチラにゆっくりと飛んでくる山羊頭の悪魔。身の丈2メートル強程で顔は山羊、身体は筋骨隆々とした人型で相変わらず強そうだ。手には1メートルを超えるぐらいの大きな鉈を持っている。
『とっとと降りてこい』
と、ムニがシャンデリアの根元を切りつけ、シャンデリアごとアグレーを落とす。そのまま2人は激しい戦闘を始める。
その間に悪魔がふわっと私達の前に降り立つ。いつ戦闘が始まっても良い様にコスモを構えた。
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべた顔で、悪魔が大鉈を振りかぶってくる。身体強化をしてその大鉈を避ける。
その間にヒムロが悪魔の背中を引っ掻いているがあまり効果が無さそうだ。
エルザちゃんは…
「神よ、我が祈りを聞き入れたまえ、御身が力にて、我が前に立ち塞がりし魔を祓いたまえ、セイントピラー!」
カッ!という目の眩む閃光を伴う光の球がエルザちゃんの手から放たれ、悪魔に直撃、直後天井まで届く光の柱が悪魔を焼く。
神聖系の攻撃魔術。エルザちゃんがこんな魔術を使えるとは思ってなかった。
肝心の悪魔はというと…皮膚が爛れ、毛は縮れ、だけど確かな足取りでそのままコチラに近づいてくる。効いてない訳じゃ無いみたいだけど…
やがて光の柱が消える。途端にダメージを負っていた身体を高速で再生させる悪魔。
『中々痛かったですよ、さっきの光』
「大して効いてない!?そんな…」
「エルザちゃんは下がってて」
結構全力の魔術だったのだろう、肩で息をしてるエルザちゃんを後ろに下がらせて、改めて悪魔と向き直る。
鞄から一つの袋を取り出し、中身を手に取る。コレは硬い石を粉々に割った砂だ。
「アクア・スライサー」
私が呟くと、私の手から水と砂で出来た輪っかが幾重にも発生する。この輪っかは超高速で回転していて、コレに触れたものは金属であろうが岩であろうが切断する。私の切り札の一つだ。
悪魔が再び大鉈を振りかぶってくる。その大鉈と悪魔の身体を狙って輪っかを飛ばした。
ギャギャギャン!と金切り音を上げて大鉈を切り飛ばし、悪魔の身体をズタズタに切り裂いた。が、大鉈はともかく悪魔の身体は切った側から修復されていく。
『ほう、素晴らしい威力ですね。私が人間なら既に死んでいますよ』
余裕の顔でそのまま突っ込んでくる悪魔、その拳が私の身体にめり込む!
咄嗟に身体強化して腕をクロスさせ後ろに飛びながら受けたものの、全身がバラバラになるかの様な衝撃に身体が吹っ飛んで壁に叩きつけられた。カハッ!と、背中を強打して息が漏れる。
くぅ…身体強化をしてたおかげで骨は折れてないけど、身体中が痛い。パンチ一発でコレか。
私が吹っ飛ばされたと同時にヒムロが悪魔を『ブリザード』の魔法で凍てつかせて足を止めた。
「大丈夫ですかマコさん!?…神の慈愛を、傷つき倒れし者を救う光をここに、ヒーリング」
壁にへたり込んで動けないでいるとエルザちゃんが駆け寄り、回復魔術を掛けてくれる。暖かな光が私を包み、身体の痛みが引いていく。
「ありがとうエルザちゃん」
「いえ」
回復した身体を確かめる様にゆっくり立ち上がり、悪魔の方を見る。今はヒムロが膨大な魔力に物を言わせて『ブリザード』の魔法で悪魔を氷漬けにして足止めしている所。だけど、ヒムロが魔法の行使を辞めたら直ぐにでも抜け出してきそうだ。
どうやったら倒せる…?前は外に連れ出して『シューティングスター』の魔法で悪魔の肉体をバラバラにしたら勝てたけどここじゃ使えない。屋敷ごと吹っ飛ばしちゃう。
玄関壊して外に出ようか?でもそれでもし悪魔がムニの方に行ったらムニが危ない。流石にあのアグレーと悪魔を同時に相手するのはいくらムニでも厳しそうだ。
ムニから教えてもらった空間魔術はどうだろう?だけどあの魔術は魔力を大量消費するし、それで悪魔が倒せなかったら魔力が心許無くなって不味い。
何か、何か手は無いものか。要はあの悪魔の肉体を修復不能にすれば奴は倒せる。
そういえばフレイザムの鍵で覚えたこの魔法…使えるかな?
「フレア」
魔法名を呟くと同時に私の前に現れる火の玉。
この魔法は私が多用する『アクア』の魔法の対の様な魔法で、火を自在に操る事が出来るという物。
『アクア』の魔法と比べると魔力の消費は激しいけど、その分直接的な攻撃力は高い。
今迄使う機会も無くてこの魔法は練習してこなかったけど、イメージで自在に操れるなら、こんなのはどうだろう?
球状に熱を閉じ込める。
魔力を変質させ魔を祓う聖なるイメージを付与。
更に魔力を込めて可能な限り高温にする。
この3つをイメージしながら魔力をどんどん炎に込めていく。すると、青白く眩い光を放つ、直径1メートル程の炎の球が完成した。
「ヒムロ!余波が行くかも知れないから離れて!」
『承知』
「いっけぇ!」
ヒムロが離れると同時に、悪魔に火の玉を発射する。それと同時に悪魔が『ブリザード』の氷を砕いて抜け出し、コチラに手を翳した。
『イビルフレイム!』
悪魔の放った黒い炎と、私の放った聖なる力を帯びた炎の球がぶつかり合う!
徐々に押していくのは…私の炎。ジリジリと黒い炎を押し込んで行き、悪魔に着弾した。
『ク!ガ!ッガァァァアァァ!』
叫び声を上げながらボロボロと砕け、溶ける様に蒸発していく悪魔。
10秒程して炎が消えた後には、一片も残らず悪魔は消失していた。暫くしても蘇る気配は無い。
「おぉ?…倒せたっぽい…?」
「悪魔を倒しちゃうなんてマコさん凄いです!」
今の一撃で相当魔力を持ってかれたみたいだけど、このフレアの魔法は凄いな。自在に操れるなら使い勝手も良さそうだし。
…所でムニは大丈夫だろうか?
ムニ達が居る方を見ると、ムニが何やら禍々しい刀を縦横無尽に振るい、アグレーが細切れになって灰になる所だった。
アグレーを倒したムニが、異空間収納に刀を戻し、コチラに歩いてくる。
『大丈夫だったか?』
「うん。ムニも大丈夫そうだね」
「所で依頼の討伐証明どうしましょう?悪魔もさっきのヴァンパイアも姿形が無くなっちゃいましたけど」
「んー、事情を話せば大丈夫でしょ」
★
タキアの街でアグレーや悪魔の事についての聞き取り等で3日待機し、報酬が確定したという事で私、ムニ、エルザちゃんで協会にやって来た。
「お待たせしました。これが今回の報酬となります」
ドン!とカウンターに載せられる報酬袋。
「今回の金額は、本来の依頼表記載の報酬に加えて、アグレー元協会長であるヴァンパイアの討伐の特別報酬を合わせて600万ルビとなります」
『ん?悪魔の討伐に関しては?』
「アグレー元協会長に関しては同日から行方不明な事と、残された衣類から本人と判断致しましたが、悪魔に関しては残念ながら存在した証拠になる物が見つけられませんでしたので…」
『そうか』
あー。つまり悪魔を跡形も無く消したあの聖なる炎はやり過ぎだったと。
『まぁ良しとするか。3人で山分けしよう』
「私は大してお役に立ってないので受け取れません」
「まぁまぁエルザちゃん、折角だから貰っておきなよ。回復魔術助かったし」
『うむ。居なければマコがやられていたかも知れんからな』
「そうですか?…それじゃあ」
という訳で山分け。200万の入った袋を握りしめてムニは速攻で居なくなった。
私とムニはこの前のドラゴン退治の素材を売った額としてそれぞれ約8000万ルビを受け取っているので正直お金には困っていない。ムニは持ってると賭博に全額突っ込みそうだという事で私がムニのお金の管理をしてるけど。
エルザちゃんは思わぬ収入にどうしようか悩んでいる様だ。
翌日にはタキアを出発する事にして、今晩はこの報酬で皆にご馳走でも奢ろうかな?




