空間魔術
「『翼展開』『浮遊』…おぉっ!」
今日は完成した空飛ぶ服バージョン2.0をレイちゃんにお披露目する為に、一緒に街の外に来た。そしてレイちゃんに着せてみた。
今目の前には地面から少し浮かんだレイちゃんの姿。
「その翼は考えた通りに動くから、上手く操作して翼に受ける風の抵抗を利用して動きを制御するんだよ。で、飛翔の発動句で頭のある方向に飛んで、加速の発動句を言えば更に加速出来るよ」
「分かった、やってみる」
最初はぎこちなくバッサバッサと翼を動かしてたレイちゃんだけど、少しして慣れて来たのか空高く舞い上がり自在に空を飛び始めた。
10分程空を飛び続けたレイちゃんは、満足顔で私の前に降り立った。
「マコちゃん、コレは革命だよ!箒が無くても空が飛べるなんて!いや、慣れれば箒よりも自由に飛べるよ!」
「そうなんだけどね、問題は魔力の消費が多くて、そんな大した時間飛んでられないんだよね」
「あ、確かに。夢中で気付かなかったけど、結構魔力持って行かれてる」
この空飛ぶ服バージョン2.0は、思考を読み取って翼を動かせる様に作った。ヒントは前にキョットーでヒューマ君とお出かけした時に買った感情によって動くネコミミヘアバンドだ。
あのヘアバンドを分解する事で、思考を読み取る為の紋様や、積層型の魔術紋様を覚える事が出来た。
積層型魔術紋様は、一枚の布だと面積が足りなかった所を、布を2枚3枚と重ねて紋様を繋ぐ事によって、布面積を確保して紋様をその分多く縫う技術だ。お陰で今迄面積が足りなくて出来なかった紋様を刺繍する事が可能になった。
で、発動する紋様が増えた分、消費する魔力が大きくなったと。
飛ぶ時の自由度を取るか、燃費を良くするか難しい処だ。
一応上質な魔石を予備電池代わりに出来る様にはしているので、魔力を使わずに飛ぶ事も可能。後、前回のと違って皮鎧を態々着る必要もない。
「でもこれは研究しがいがあるね!私も作りたい!…けど、複雑でパッと見ただけじゃ作れそうに無いよ」
「でしょ?力作だからね。でも浮かぶだけなら…」
その後もレイちゃんと魔術談義をしながら街に戻った。
☆
ポサロの街の近くの村、カダ。そこで俺は生まれた。
リューゼと名付けられた俺は、農家だった家で特に不自由なく育てられ、すくすくと大きくなっていった。
同年代の子供に比べて身体が大きかった俺は、5歳になった頃には農作業を手伝い始めた。
兄弟もいなかったので、このまま将来はこの農家を継いで、一生畑を耕すんだろうなと漠然と思っていた。
…だけど。
俺が10才になる頃、俺の住んでいた村にゴブリンの群れが襲いかかってきた。
近くの街に助けを求めに行った者が探索者を連れて帰ってくる頃には村の作物は食い散らかされ、村人の多くは虐殺され、女子供が集会所の入り口でバリケードをしてギリギリ耐えている所だった。
俺はその時両親を失った。
生きていく為の道標を見失い、墓の前でただ呆然と立っていた俺に、村を助けにきた探索者の一人が近づいてきた。
「親が亡くなったのか?」
「…」
「大変だったな…」
「…」
「少年、君は今いくつだ?」
「…10」
「そうか…コレをやるよ」
渡されたのはショートソードだった。
「…なんで?」
「生きていく力が必要だろう?12になれば街で探索者として登録出来る。それまで腕を鍛えるのもいいんじゃないか?」
「…」
「このままこの村で暮らしていくのか、街に出て探索者となって生きて行くのか。どちらが良いのかは俺にも分からないが…取り敢えず鍛えればゴブリンの数匹は一人で倒せる様になる」
「俺は…自分がどうしたいのか分からない」
「すぐ決める必要はないさ。別に15だろうが20だろうが探索者にはなれる。他の職業に就きたいと思えばそれに向けて頑張ればいい。まだ少年の人生は長いんだ」
そう言って探索者は立ち去っていった。その大剣を背負った後ろ姿は今でも覚えている。
それから近所の人の農作業の手伝いの傍ら毎日剣を振った。
雨が降ろうとも。
雪が積もろうとも。
日照りの時も。
誰に教わるでもなくひたすらに。
12になる頃、親の遺したお金を持って早朝に村を出た。あの時の探索者に言われた、”生きていく力”を求めて。
☆
今日はリーモアを出発する日だ。各々が旅の支度をし、ドラゴンを倒した際に貰った素材代でマコが購入した馬車へ荷物を乗せていく。
「忘れ物は無いですか?…じゃあ出発しますねー」
と、マコの気の抜けた掛け声と共に長らく世話になった宿を出発する。南の街門をくぐり抜け、向かうは次の街、タキアだ。
街道を南へ南へと進んでいく。が、道中は相変わらず魔物が多い。ゴブリンに始まって森の賢人といわれ魔法を使って来るフォレストエイプ、頭が二つある獰猛な犬のツインヘッド等々、馬車や馬への被害を考えると無視できない魔物が次から次へと現れる。
そんな感じで1日目は寝る間も無く魔物を屠りながら馬車は小休憩以外では止まらず突き進んでいく。
そのまま走り続けて2日目の昼頃になると魔物も現れなくなり、馬車を止めて休憩する事になった。
「ここまで来れば大丈夫そうですね」
「やっと落ち着いて休憩出来るな」
ミケイとエルザ、マコは先に、俺とムニとリエルは後に寝ることにした。
馬車の横で焚き火をして、それぞれが準備していた飯を食べる。ムニはなんかどっか行った。
「こっから次のタキアの街までどのくらいかしら?」
「確かあと1日ぐらいじゃなかったかな?明日には着くと思うぞ」
「明日かぁ。マコが買ったこの馬車は中々乗り心地が良いからまだマシだけれど、やっぱり宿のベッドでゆっくり眠りたいわ」
「まぁそりゃそーだが」
「所でリューゼはさぁ」
「なんだ?」
少し身を乗り出して俺を薄目で見つめてくるリエル。
「なんか浮いた話とか無いわけ?」
「藪から棒だな。無いぞ」
「リューゼってもう28でしょ?そろそろ相手見つけないとさぁ」
「うるせ。良いんだよ、結婚出来なくても」
「なんか理由でもあるの?」
「話す気はない」
「えー、なんでよー」
焚き火に付近で拾ってきた木を焚べる。
「悪く無いのに勿体ないわね」
「そういうお前はどうなんだ?」
「協会とか居酒屋で声を掛けてくる男はいるけど、私の好みに合うのって中々居ないのよね」
「好みってどんなんだよ」
「やっぱりそれなりに強い事が必須条件よね。あとはそこそこ以上の見た目と頭の良さ、ある程度裕福に暮らせるだけの稼ぎのある相手なら考えなくもないわ」
「それぐらいの条件ならそこら辺にいるだろ」
「それがそうでも無いのよねー」
「そこそことか言って、結局高望みしすぎなんじゃねぇの?」
「そうなのかしら」
焚き火を見つめながらリエルと会話をする事2時間程。そろそろ交代する為にマコ達を起こしに馬車を覗く。
「おい、マコ」
「んん、リューゼさん」
「そろそろ交代してくれ。ミケイとエルザも起こしてやってくれ」
「はぁい」
★
起きた私達3人はリューゼさん達と交代して見張り番。焚き火の前で3人でご飯を食べている。
「ミケイ君やエルザちゃんの住んでた村って何処にあるの?」
「ヤコ村ですか?ナワイカの街の近くですよ」
「何もない所だ」
「そうなんだ。村を出てきてからはずっとナワイカに居たの?」
「そうだな。近くの魔物を倒したり街中の依頼をこなして生活してた。結構カツカツで大変だ」
「Eランクだとまだ受けられない依頼も多くて」
「早いとこランクを上げて悠々自適に生活したいぜ」
そんな話をしていると森からムニが出てきた。手にスノーラビットをぶら下げている。頭を落として血抜きをしながらこちらに歩いてくる
「ムニ、ご飯を現地調達してたの?」
『準備するの忘れててな』
そう言って、私達の横で手際よく解体、肉を串に刺して焚き火の火の前に突き刺した。
「慣れてるねぇ」
『まぁな。封印される前は自給自足が当たり前だったからな』
パチパチと焚き火の火が揺らめく。
「なぁムニ」
『なんだミケイ?』
「お前もスレイさんがやってたような身体強化が出来るんだよな?どうやってやってるんだ?」
『魔力を身体の中に巡らせ、浸透させるんだ』
「…手本を見せてくれよ」
『こんな感じだな』
ムニの全身から陽炎のようなモヤが出始める。
『この揺らめいてるのが魔力。これを身体に丁寧に浸透させる事で筋肉組織内の魔力濃度が増え、爆発的な身体能力を得られる』
「筋肉の魔力濃度を上げる…そんな事考えた事無かったな」
『まぁやってみると良い』
「分かった」
「ミケイ君、ご飯食べてからにしなよ」
「あぁ、そうだな」
エルザちゃんに言われて素直にご飯を食べ始めるミケイ君。
ムニも肉が焼けた様で、何処からか取り出したスパイスを振ってスノーラビットの肉にかぶりついている。見てると何か美味しそう。
ご飯を食べ終えたミケイ君は早速身体強化の特訓。エルザちゃんはペンダント型の神像を握りしめて祈りを捧げている。ムニは私がポサロの街で買ってあげた刀の手入れをしている。
「どう?それ使えそう?」
『中々良い刀だ。何よりこの紅い刀身。こう言う変わった刀は何か特別な力があったりする。間違いなく妖刀の類いだ』
「へぇ。50万ルビだったけど、良い買い物したかな」
『それは安いな。これだけの刀ならもっとしてもおかしくはない』
整備が終わったのかムニが刀を鞘に戻し、異空間へしまった。
「その異空間収納?どうやってやってるの?」
『これは魔力で空間をこじ開けて、別の場所に繋いでいるんだ』
「魔力で空間を…?どういう事?」
『あー、例えば私の前の空間がA点、マコの前の空間がB点とするだろ?それでこんな風に魔力をメッチャ込めて…』
そう言ってムニが立ち上がり、10メートルほど離れて構えをとって正拳突きをする。するとムニと私の前の空間に穴が空き、私の前に突き出された拳が現れた。
「わぉ、凄い」
『と、こんな風に魔力で無理矢理空間を繋げて別の場所にある刀を取り出したりしてる。穴を広げれば潜る事も出来るから、やろうと思えば一瞬で遠くへ移動する事も出来る』
「その正拳突きは必須なの?」
『いや?こうした方が私がイメージしやすいからだな』
「へぇー…あのスレイさんやドラゴンに使った技もその空間魔法の応用だったりする?」
『よく分かったな。マコならすぐに使える様になりそうだ』
「ですかね」
ちょっとコスモを開いてみる。
「ねぇコスモ、今の説明で空間魔術として実現出来そう?」
”空間を繋ぐのは出来ます。繋いだ空間を広げれば広げるほど魔力が多く消費されます。又、繋いでいる間継続して魔力を消費します。あの切断する技はまだ難しいです”
「おぉ」
私の魔導書であるコスモは、実際に見たり聞いたりした魔術を再現出来るラーニング機能がある。コレによって私はある程度見聞きした魔術全てを使う事が出来、又、魔術を使いやすい様に改変する事も出来る。
但し、私がその魔術の事をイメージ出来ないと発動できない。
という事で試しに遠くに見える岩の上に空間を繋ぐイメージで…コスモの作り出したオリジナルの詠唱を指でなぞる。
”我と汝断ち分つ天に穿たれた虚の門よ 理を歪め此処に彼我の遼遠 繋げ”
「●、ゲート」
ブォン…目の前と遠くの岩の上に人が通れるぐらいの黒い穴が出現する。ちょっと怖いなと思いながら穴を潜ってみるとちゃんと岩の上に移動する事が出来た。満足したので再び穴を通ってもといた焚き火の前に戻る。
「マコ!なんだそれ!?」
「何かの闇魔術ですか!?」
「ふぇ!?」
ミケイ君とエルザちゃんがビックリしている。その大きな声に魔術に集中してた私もビックリ。
「空間魔術の練習をしてたんだよ」
「空間魔術…?」
「魔術ってそんな事出来るんですね…」
『まさかこんなに簡単に再現するとはな。凄いなマコは』
「凄いのはこのコスモなんだけどね」
『じゃあ、私の技の原理をその空いた穴で軽く説明しようか』
「というと?」
『マコ、この枝を穴に突っ込んでくれ』
「うん?」
言われた通り渡された木の枝を穴に突っ込む。
『で、その穴の魔術を消してくれ』
「うん」
コスモに閉じる様に念じて穴が消失すると同時に木の枝が穴に突っ込んだ所から先が消失した。断面を見てみるとまるで凄い切れ味の剣で斬り飛ばしたかの様な…
『枝の先はさっきの岩の上に転がってる。つまりこういう事だ。』
「…成る程。コスモ、出来そう?」
”行けます。但し大量に魔力を消費する為、この魔術を使った時点で魔力が枯渇します”
「よし」
先程の岩に向かってコスモを構える。
”我が操るは理を歪めし神の真円 天に穿たれた虚の門 かの者の真と重なれ”
「●、トゥルーサークル!」
”魔力枯渇。再起動まで12時間”
ズズッ…ズズズ…ズン…!!
大きな岩が斜めに斬れた。それはもうなんの抵抗もなく。うわぁ、コレとんでもない魔術が出来ちゃった感…
それにしても、間違って私がゲートを潜ってる途中で魔術が切れたらMRIも真っ青の輪切りになってたって事だ。ひぇぇ。
『いとも簡単に再現したな…あたしは大量の魔力と多少の真言、イメージと力技でそれを実現しているぞ』
「ムニの使ってるのは魔法に近い力なんだね」
『魔法と言うかは微妙だが…父が使っていたこの技を不完全ながら覚えるのにあたしは40年は掛かった』
「ん?ムニのその技は不完全なの?」
『本来なら真言の必要はないし、刀を抜く必要も無い。魔力とイメージだけで視認した相手を真っ二つにする、神の領域に片足を突っ込む様な技だ。そして真にこの技を極めると、神の園に連れていかれると言われている。実際あたしの種族である妖鬼族は歴代の実力者が何人も行方不明になっている。父も既にこの世には居ないかもな』
「へえぇ」
そうやって話をしているうちに時間は過ぎ、休憩時間が終わってタキアへ向けて出発した。




