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出発!

 早朝。雲一つない、ちょうと良い天気。


「マコっち、元気でね…!」

「うん、ラザちゃんも」


 感極まって涙ぐむラザちゃんと抱き合って別れを惜しむ。

 ラザちゃんは暫くどうするか悩んでた様だけど、最終的に師匠の元に残る決断をしたようだ。


「悪い送り狼に食べられないようにね?」

「うん、気をつけるよー」


 この近辺もだいぶ雪が溶けてきて春が近づいてきた今日この頃、私はそろそろ本格的に旅立つ事にした。


「寂しくなるのう。教えられる事は大体教えたが、またいつでも戻ってきて良いからの」

「はい、師匠。有難う御座います」


 空飛ぶ絨毯にヒムロとサクヤちゃんと私が乗り、ゆっくり浮上する。


「では、お世話になりました!行ってきます!」

「マコっち、頑張ってね!」

「気をつけてな」


 手を振りながら道にそって低空を飛ぶ。少ししたら森の木々に阻まれて見えなくなってしまった。

 前回はここでちょっと涙ぐんじゃったけど、今回はそうでもない。2回目だからだろうか?


「ヒムロ、ナワイカの街までお願いね」

『承知』


 細い一本道の上空をそれなりの速度で進んでいく。大して面白くもない景色が続くのでなんか欠伸なんかしちゃったりして。

 そして10分程してナワイカの街の防壁が見えてきた。



 ☆



「ロイスのおっちゃん、ドブさらいの依頼、こなしてきたぞ!」


 身体の所々に泥をつけた若い少年がカウンターにやってきた。


「そうか、ご苦労さん。依頼達成表は?」

「これだ!B評価だぜ!」

「頑張ったな。この調子でいけば近いうちにEランクに上がれるだろうさ。よし、コレが報酬だ」


 F級依頼の報酬だ。ぶっちゃけ少ないが、生活の足しにはなるだろう。


「おっちゃん有難う!まだ時間早いしちょっと依頼を見ていこうかな〜」


 と、言いながら少年は掲示板の側にいった。

 依頼達成表を解決済みの依頼箱に入れる。この回収した依頼達成表は後で協会の偉い手が確認するようになっている。まぁ、俺なんだが。

 こういった情報に目を通す事で所属している協会員の誰が何が得意で、誰が実力をつけてきているかというのをある程度把握する。的確な依頼の斡旋やアドバイスをするのに割と重要な作業といえる。

 丁度暇ができたので、達成表を確認していたら、入り口のドアがゆっくりと開いた。誰か来た様だ。協会の中にいた探索者たちも入り口に注目する。


 そこに入ってきたのは背が低くて黒髪の黒いローブを着た可愛らしい女の子だ。肩に白い子猫が乗っている。

 今迄協会では見かけた事が無い。周囲の協会員達の視線に気圧されず、入ってきた勢いそのままにトコトコとコチラに歩いてきてカウンター…つまり俺の前までやってきた。


「すみません、登録したいんですけど」

「探索者協会は初めてか?登録するには必要事項を紙に書いてもらう様になっているが、字は書けるか?代筆も出来るが」

「大丈夫です。書けます」


 登録用紙を渡すと女の子はスラスラと項目を埋めて行く。字の綺麗さといい、書く速度といい、しっかりした教育を受けているのだろう。探索者としては珍しい部類だ。

 すぐに書き終わり、用紙を渡されたので確認する。名前はマコ。魔術師で…あのアビラタの弟子か。近年稀に見る中々の大物新人といえる。


「…ふぅん。あのアビラタの弟子か。…どうだ?自信があるなら飛び級試験をして合格すりゃ、始まりのFランクから大体Dランクまで一気にランクを上げる事も出来るが」

「じゃあ飛び級試験をお願いします」


 返事が速いな。考える素振りも見せずに即断か。


「説明するぞ?まず筆記を受けてもらう。それが合格すれば実技試験だ。裏の訓練場で模擬戦をして、その内容でランクを決めるんだが大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

「そうか、なら早速2階で筆記試験を受けて貰おうか」





「じゃあ始めてくれ。終わったら声を掛けてくれ」

「分かりました」


 2階の一室でマコに試験用紙を渡し、開始の合図を掛ける。始まると同時にマコが凄いスピードで解答を書き込んでいく。まるで問題の内容が分かっているかの様だ。


 …長年ギルドの受付カウンターに座ってりゃパッと見ればそいつの実力ってもんが何となくわかる様になる。この少女、マコはおそらく熟練の探索者に劣らないと俺のカンが告げている。果たして如何程のものか。


「出来ました」

「んぁ?もう終わったのか。どれどれ…」


 10分程で解答を埋めたテストを渡された。速すぎじゃないか?と、思いながら解答があっているか確認していく。驚いた事に最終問題以外は全問正解。普通もうちょっと間違えたりするもんだが…

 最終問題の” この付近で最強の魔物、ホワイトパンサーに出会った時はどうする?”という問題に関しては、魔術で倒しますと、ただそれだけ書かれていた。どんな魔物か分かっててそれでも尚自信があるのか、それともホワイトパンサーの脅威が分かっていないのか。少し判断に困る所だ。ちょっと聞いてみるか。


「ほぼ正解だ。最後の問題だが、ホワイトパンサーの強さは知ってるのか?」

「はい」

「そうか、成る程な」


 ホワイトパンサーぐらいは余裕で倒せると。じゃあその実力は実技で証明してもらおうか。


「筆記は合格だ。実技は直ぐにやるか?昼飯食ってからでも良いが」

「じゃあお昼ご飯を食べてからでお願いします」

「あぁ、それじゃあ飯を食ったらまた俺に声を掛けてくれ」

「分かりました… あ、裏の訓練場の端っこで焚き火してもいいですか?」

「焚き火?何でだ?」

「お昼ご飯の魚を焼きたいんです」


 …訓練場でご飯食べるつもりなのか?普通協会の食堂か近所の飯屋に行くもんだが…変わった嬢ちゃんだな。


「あー…良いぞ」

「有難う御座います。ヒムロ、お魚お魚!」

『ナァー』


 そう言ってマコは訓練場に向かっていった。あの子が飯食ってる間に模擬戦の相手を見繕っておくか。

 今日はグラスとナターリアがいるな。どっちに頼もうか。…グラスにしておくか。もしマコが強力な魔術を撃ってもあいつならなんとかするだろう。


 30分程してマコが受付に来た。


「ご飯食べ終わりました。今から試験出来ますか?」

「そうか、じゃあ訓練場へ向かおうか。おい、グラス!ちょっと来てくれ!」


 声を掛けると食堂で仲間と喋っていたグラスがこちらにやってきた。


「ちょっとこの子の模擬戦の相手をやってくれないか?」

「あぁ、いいぞ。嬢ちゃん、俺はグラスだ。よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」


 グラスとマコが話してるのを尻目に3人で訓練場に向かって歩いて行く。


 訓練場に着いた俺達は向かい合う。周りには結構な数の見物客がいて、こちら、正確にはマコを見つめている。この模擬戦でマコの実力を確かめて、その結果次第でパーティーに勧誘するかどうか決めるって腹づもりだろう。


「嬢ちゃんは魔術師だろ?どれぐらいの距離から始めるのがいい?決めていいぞ?」

「じゃあ…」


 トコトコとマコが離れて行き、大体50メートル程離れた場所で立ち止まった


「ここでお願いします〜」

「そんな近くで良いのか?すぐ接近されてしまうぞ?」

「大丈夫です〜」


 あんな近くで大丈夫か?なんか鞄から本を取り出して構えたが…あれは魔術具か何かだろうか?グラスも模擬戦用の木剣と盾を構えた。まぁ良いか。


「良いんだな?じゃあいくぞ。始め!」


 俺の開始の合図と共にグラスが走り始めた。同時にマコが呟くと、その周りに水らしきもので出来た輪っかの様な物が幾重にも発生した。初めて見る魔術だ。どんな効果だ?


 接近したグラスがそれを警戒して、マコではなく水の輪に木剣を叩き込んだ。スパン!と、木剣が切れた。は?なんだあれは?

 グラスもその水の輪が危ない物だと判断して後ろに下がったが、それよりも早く複数の水の輪がグラスを囲む。水の輪の一つがグラスの盾に当たって盾を真っ二つにした。木ですら無い金属の盾を。

 それを見たグラスは両手を上げて降参の意を示す。それと同時に水の輪は霧散した。


 2人はそのまま俺の所に戻ってくる。


「嬢ちゃん、なんだアレは?」

「水って事は分かるがあんな魔術見た事ないな。金属の盾を真っ二つにするとは」

「切り札の一つなので秘密です」

「切り札か。うーむ、さてどうするかなぁ」


 グラスを圧倒したさっきの魔術を考えればCランクでも申し分ないと言えるが、もう少し実力を見てみたい所だ。


「嬢ちゃん、他にも戦う手段はあるのか?」

「ありますよ」

「後一つ、何か見せて貰う事は出来るか?」

「良いですけど…そうですね、ヒムロ、大きくなって!」

『承知』


 ニャオォーーーーン!


「うぉお!?」

「な、なん!?」


 さっきまで俺の横でくつろいでいた子猫が立ち上がると、鳴き声と共に3メートルはあろうかと言う巨大な猫に変身した。2本ある尻尾をゆらゆらさせてこちらを睥睨している。確かめなくてもわかる。こいつは強い。グラスを余裕で圧倒出来るだろう。


「この子は使い魔のヒムロ。こんな感じで大きくなったり出来ます」

「こりゃ参ったな。全く勝てる気がしない」

「分かった。マコはCランクだ」


 各協会の協会長の権限の範囲内とはいえ、飛び級試験でCに上げるのはかなり珍しいといえる。なるのが難しいAやBのランクを除外すればCは一般的な最高ランクだ。

 Cランクとなればごく一部を除く殆どの依頼を受ける事ができ、受けられる高ランク依頼の報酬も高く、生活に困らない。が、その分命の危険性も高い。そんな危ない依頼に、まだ魔物や周りに合わせる事に慣れてない新人を向かわせられないと言う考えからだ。

 だが、このマコは大丈夫だと感じた。さっきの魔術や猫を見た限り、戦闘力という面で文句は無いし、試験の結果や話してみた雰囲気からして、教養もあり、落ち着いていて、それでいて度胸も座っている様に見える。周りにも合わせられる柔軟さも持ち合わせているだろう。逆にこのマコをCにしなくて、誰がCランクになれるんだと言うレベルだ。


「Cか。有難う御座います」

「あぁ、じゃあ受付でカードを発行するから一緒に来てくれ」


 と告げて皆で建物内に入っていく。


「所でロイス」

「なんだ?グラス」

「俺の盾、誰に請求したらいいんだ?まさか泣き寝入りか?」

「…協会で立て替える」

「おっ、良かった」

「すみません、私が盾壊しちゃったせいで」

「気にする事はない、俺は新品買えて嬉しいぜ!」

「全く…」



 ☆



「本当だって!なんか見たことない水の魔術でグラスさんを圧倒したんだよ!」

「見たことないって、どんなんだよ?」

「すっげー切れ味だった!金属製の盾が真っ二つになってたぜ!」

「盾が水で?想像つかねぇなぁ」

「なんかその女の子、護衛を募集してるんだってさ、依頼ボードに貼ってあった。名前は確か…マコだったかな?可愛かったし、俺も応募してみようかなぁ…ミケイ?」

「あぁ…そいつがどんなに強いのか気になってな」

「はは、お前はそればっかだなー」


 魔術か。一度見てみたいな。剣も盾も切られるんじゃ逆立ちしても勝てそうも無いけど。

 シュンと話をしていると、教会の鐘が鳴った。それと同時に教会からゾロゾロと信者や街人達が出てくる。少ししてエルザも出てきた。


「ミケイ君、お待たせ〜」

「お、麗しのエルザちゃん」

「こんにちは、シュンさん」

「なに?待ち合わせなんかして、2人はこれからデートなの?」

「い、いえ、これから探索者協会で依頼探しですね」

「そっかー。じゃあお邪魔虫は退散するかな。じゃあなミケイ、エルザちゃん」

「あぁ」

「さようなら、シュンさん」


 手を振りながらシュンはどこかへ走って行った。あいつはこのナワイカで出来た友人だ。俺達と同じくEランクの探索者で、一緒に依頼に行った事も何度かある。


 で、今隣にいるのはエルザ。俺の幼馴染だ。信心深く、小さな頃から村の教会で毎日祈りを捧げていたお陰で7才の時には回復魔術が使える様になった才女だ。こいつがいつも近くにいたお陰で多少の怪我は気にせずに特訓に打ち込む事が出来、村では頭ひとつ抜けた実力を身につける事が出来た。そんな感じで長い間世話になってるエルザとは、このまま将来一緒になるんだろうなぁと感じている…と言うかなんか逃げられない気がする。村出る時も「一緒に行きます!」ってついてきたし。今も一緒に住んでるし。


「良い天気だね」

「そうだな」

「そういえばお昼ご飯は何食べたの?」

「カレー」

「じゃあ晩御飯はカレー以外にしなきゃ…何が良い?」

「…唐揚げかな」

「揚げ物は作るの大変だからどこかでお惣菜の唐揚げを買って帰ろうか」

「ん、それでいい」


 と、たわいも無い話をしながら歩いてると目的地の探索者協会に着いた。

 ギィーっと扉を開けて中に入り、早速掲示板を眺める。順番に上から下へと見ていく。なんとなくシュンから聞いた女の依頼を探している自分がいる事に気づいた。そしてその依頼を見つけた。




ーーーーーーーー

依頼人 マコ(魔術師、人族)


種類 護衛依頼


依頼内容

 キョットーへ向かいたい為、道中一緒に行ってくれる方を募集しております。

 詳細は面談にて。毎日昼頃に協会に顔を出しますのでその時に面談致します。

 3〜4人集まったら受付を終了します。


期間 目的地迄の期間


条件 Eランク以上


金額 1人1日1万ルビ 馬車等の旅費は依頼者持ち

ーーーーーーーー




「受注はEランク以上で報酬1日1万、旅費は依頼主持ち。目的地はキョットー迄…か」


 依頼としてはまぁまぁ良い方だ。1日1万有れば十分といえる。だけど場所が遠いな。暫く帰って来られない距離だ。

 うーん、旅をするのは悪くないんだが…エルザがなんていうかな。


「この依頼で迷ってるの?えーと…キョットー迄。ちょっと遠いけど、たしかキョットーに行けばミケイ君の行きたがってた武闘会があるんだよね?それに都会だし行けば楽しそうだね」


 武闘会か。国をあげての大会だ。確かに出てみたいという気持ちはめっちゃ有る。今の俺じゃ全然実力が足りないだろうけど。

 それにこの依頼主の魔術にも興味が惹かれる。どんな魔術師だろうな?シュンは凄いって言ってたけど…


「よし、受けてみるか?」

「良いと思うよ、ミケイ君」


 依頼表を外してロイスのオヤジの所に持っていく。


「オヤジ、これ受けられるか?」

「ん?あぁ、この依頼か。受けるのか?キョットー迄だからあんまり受注者居ないと思ってたが案外来るもんだ」

「旅するのも楽しそうだと意見が一致してな」

「そうか。ならこの受付表に必要事項を書いて、明日の昼前にここに集合してくれ。もしかしたら依頼主が断るかも知れんがその時は俺がお前達に伝える様にする」

「分かった」「わかりました」


 受付表を書いてロイスに渡す。これで依頼の受注は完了だ。





 翌日の昼前、エルザと共に探索者協会にやって来ると、受付のロイスが手招きしてるのでそっちに向かう。


「依頼の話か?」

「そうだ。依頼主のマコが、2人に護衛してくれとさ。今訓練場にいるから顔合わせしてくれ。黒髪で背が低い黒のローブを来た女の子だ」

「あぁ」


 ロイスに言われて訓練場に来た。なんか遠くの方で人だかりが出来てるな…?


「どうしたんだろね?」

「さぁ?」


 近づいていくと、人だかりの中心でしなやかで強そうな1メートルぐらいの大きな白い猫と、その猫と闘っている女を発見した。特徴が一致する。多分あの女だろう。

 右手に木の棒、左手に本を持って猫の鋭い攻撃をいなし、避け、反撃している。その動きは目で追うのもやっとの戦士顔負けのレベル。魔術師じゃ無かったのか?


 暫くそんな攻防が続いたが、先に女が力尽きた様で猫に押し倒され顔を舐められている。動いた後だからか猫も女もハァハァ言っててなんだかちょっとエロい。


 「凄かったな」「眼福だ」「あの子俺のパーティに入ってくれないかな?」等周りの探索者が自由気ままに呟いたり会話したりしながら女を眺めている。その輪を抜けて俺とエルザは女の側に立った。


「あのー…」

「はい?あ、エルザちゃんとミケイ君」

「え?私達の事をご存じなのですか?」

「あ、えーと。資料で一応名前と特徴を聞いてたから〜、えへへ」

「そうですか。では改めて、私がエルザで、彼がミケイです」

「宜しく」

「私はマコと言います。宜しくお願いしますね」

「私は回復魔術が使えます。激しく戦ってた様ですが、怪我は御座いませんか?」

「うん、大丈夫。有難う〜」


 さっき見た感じ体術や棒術も一級品、この上魔術も使うとなると、想像してたマコの評価を数段上げなきゃだな。

 ちょっと試合してくれねぇかな?聞いてみよう。


「なぁ」

「ん?何?ミケイ君」

「俺と試合してくれよ」

「え?私?ヒムロじゃなくて?」

「ヒムロ?あぁ、その猫にも興味はあるけど、今はお前と戦ってみたい」

「えぇー…まぁ良いけど。時間もあるし」

「すみませんマコさん…」


 おー、割と簡単に受けてくれた。じゃあ早速お手並拝見と行こうかな。


 約50メートル程離れた俺とマコは向かい合って互いの武器を構えた。…なんで本?


「始め!」


 エルザの開始の合図と共にマコに向かって走って接近する。


「●、ファイアアロー・フォロア」


 マコが詠唱も無しに炎の矢を出した。しかも10本強。その矢はマコの周りを縦横無尽に飛び回っている。炎のバリアって所か。攻めづらい…!

 間合いの少し外で機会を窺っていると、牽制だろうか、1本の炎の矢が飛んできたので盾で叩き落とす。なんだ、一つ一つは大した威力じゃ無いな。これなら突っ込んでも多少の火傷で済みそうだ。服も難燃性の素材だし行けるだろう。

 思い切って間合いに踏み込むと、周りの炎の矢と共にマコも突っ込んで来た。思い切りのいい魔術師だなおい!

 カァン!と俺の木剣とマコの木の棒がぶつかり合う。そのまま暫く打ち合って感じたのは、片手に本を持っているせいか棍術それ自体は俺でもなんとかなるレベルだという事。だけどそれを補って余りある身体能力。何処からそんな力が出てくるんだ?盾で受けたら手が痺れたぞ。

 これでさっきから周りを飛んでいるだけの矢で攻撃されたら体勢を崩されてあっさり負けるだろうな。うん、こいつは強いわ。

 それから数合打ち合ったところでマコが距離を取った。と、同時に炎の矢が霧散する。


「●、ミラージュボディ」


 また詠唱せずに魔術を使うマコ。発動句を唱えたのと同時にマコが3人に分身した。これも初めてみる魔術だな…

 どれが本物だ?武器まで再現してて、見た目だけじゃ判断付かない。分身したマコは、3人がそれぞれ違う動きをしながら俺を取り囲んで攻撃してきた!こんなん避けれるか!


「あだっ!」


 右前にいたマコが本物だったらしく、混乱していた俺の木剣が叩き落とされた。そのまま首に棒を突きつけられる。


「まいった」

「ふぅ。お疲れ様ミケイ君」

「お前すげぇな。手も足も出なかった」

「それほどでも無いよ。ミケイ君も中々攻めるの大変だった」

「そうか」


 悔しいなぁ。そう簡単に負けるつもりは無かったんだが。

 そのままマコとエルザを交えて話をしてると、俺たちに声が掛けられた。


「おーい!」


 ん?あれはロイスのオヤジ?連れてるのは確かCランクのリューゼと…知らない女だな。


「依頼受注した奴連れて来たぞ」

「わ、有難うございます」


 他の受注者を連れてきたようだ。話を聞くと、知らない女はリエルって言うらしい。こいつもCランクで魔術師だそうだ。


 中々豪華なメンバーだな。旅が楽しみだ。





 翌日の朝、マコが借りてきた馬車に各々必要な荷物を乗せて乗り込んだ。


「何か汚いわねこの馬車」


 リエルがちょっと顔をしかめて自分の座る場所の拭き掃除をし始めた。几帳面か。


「リューゼさんと私で馬車の運転交替しながら行きましょう」

「お、マコも出来るのか。助かるな」


 それから少しして出発。ガタゴトと、ナワイカからポサロの街迄ゆっくりと走っていく。大体このペースで半日の距離だそうだ。


 道中マコが食べてる酔い止めの飴を貰った。舐めてる間ちょっとした回復効果があるらしい。あんまり美味しいもんじゃ無かったけど。


 ナワイカからポサロ迄の街道は割と魔物が少ない。こういった道に出てくる魔物は探索者達が見つけ次第狩っていくからだ。但し、街道から少し離れた森に入ればその限りじゃなく、結構強力な魔物が居るとかなんとか先輩探索者に教えてもらった。まぁこのメンバーなら大概大丈夫だろうけどな。


 チリーン…チリーン…と、誰かの探知の鈴が鳴る。大体は雑魚の魔物に反応して鳴るけど、たまに大物だったりするから確認は怠れない。しかし今回も小物だったのでスルーして馬車は通り過ぎていく。


「なんも出ねーなー」

「出ない方が良いじゃない」


 暇な事に文句を言うと、エルザに嗜められた。でも暇なんだよなー、何か出てきてくれないかな?


 チリーン…チリーン…また探知の鈴が鳴り始めた。


「おっと、道を塞いでるのがいるぞ。アレはムーンベアだな」

「ふぅん、中々大きいわね。行ってくるわ」

 そう言ってリューゼとリエルは馬車から降りてムーンベアの所へ。

 俺も行こうとしたらエルザに止められた。


「補助魔術掛けるから待って… 神の怨敵と戦いしこの者に、御身が力を分け与えたまえ、ストレングスアップ!」


 エルザの呪文で発生した白い粒子が俺に降りかかる。体力を増強する魔術だ。


「腕が鳴るぜ…!」


 馬車から出て、リューゼ達と戦ってるムーンベアの背後を取り斬りかかる。が、ムーンベアが吠えながらコチラに振り返ってカウンター気味に腕を振りかぶってきた!


「グラァァ!」ドンッ!


 くっ!吹っ飛ばされた…咄嗟に盾でガードしたから良かったものの、すげーパワーだ。うわ、盾凹んでる。


 その後、リエルの閃光魔術とリューゼの大剣の一撃によろめいたムーンベアを後ろから盾のお返しとばかりに深くぶっ刺した…ばかりで俺が居るのにリエルが魔術撃ってきた!咄嗟に飛び退く。

 リエルの氷の魔術でバキバキに凍りついたムーンベア。動く様子はない…倒した様だ。


「快勝ね。私たちに掛かればこんなものよ」


 リエルが腰に手を当てて得意そうにしてる。取り敢えず刺さりっぱなしの剣を抜こうとしたが、どんだけ力を込めても抜けない。


「俺の剣が一緒に氷漬けなんだが…抜けねぇし」

「とりあえず馬車に乗せて街で売るか?熊肉と皮と剣が売れるだろ」

「ふふっ、幾らで売れるかしら」

「俺の剣まで売るなよ!」


 そういやマコは参戦しなかったな。あいつならどうやって仕留めるんだろう?


 ムーンベアを馬車に乗せてポサロの街へ向かう。

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