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世界樹のドラゴン

「あのおっきいのが世界樹ですか?」

「そうだね」


 エルフ達の街から少し北へ飛んだ所で、地平線の向こうに見えてきた巨大な樹。近づいて行くにつれてどんどんと大きくなって行くそれは、一向に根本が見えない。一体どれ程の高さなのだろう?

 その世界樹の周りには、羽の多い巨大なトンボや、空飛ぶ蛇など、奇抜な生物が悠々自適に飛び回っている。


「トーヤさん、あの飛んでいるのは魔物ですか?」

「全部が全部じゃ無いけどそうだね。近づくと襲いかかって来るよ」

「襲われても殺さない方が良いですか?」

「構わないと思うよ?火を使わなければ」


 うーん、あんまり近寄りたくないなぁ。なんというか、ムカデに羽が生えたみたいな生き物とか、見慣れない虫タイプの姿の魔物を見て気持ち悪いと思うのは普通だと思うんです。


「一応地上からでも歩いて上まで登れるようになってるけどどうする?地上から登るんなら体力次第だけど2日ぐらい掛かるかな。空から行くとあの魔物達とちょっと戦う事になるだろうけど、直ぐに着くね」

「空から行きましょう。この荷物持ってあの高さの木を登るとか多分私には無理です…というかそもそも数日分の準備してませんし」

「賛成ー!」

「了解、火を使わないのは勿論、出来るだけ枝を折らない様にね」

「うーん…そう言われましても…」


 攻撃魔術というのは大小なり範囲的にダメージを与えるものが多いと思うんですが。倒した魔物が落ちて枝が折れると言う事もあるでしょうし。


「ストーンキャノンとかが威力や範囲、狙いやすさで一番オススメ」

「あー、分かりました。所でなんで枝を傷つけてはいけないんですか?」

「世界樹の樹液には生き物を興奮させる作用があって、それを吸うと暴れ出す魔物が多いんだ。で、暴れて更に枝が折れて、他の生き物が樹液を吸って暴れて…って感じで連鎖的に生態系が崩れる事がある。自然とそういう事が起きるならまだしも、故意に引き起こすのはちょっとって訳だよ」

「へぇー。火を使ってはいけないのにも理由が?」

「世界樹やその近くで火を起こすと樹の精霊が怒って、この世界に大きな被害をもたらすってエルフの伝承にあるんだ。使った事ないから知らないけど」

「へー」

「そうなんだ」

「まぁそんな訳。じゃあ出来るだけ魔物を避けて慎重に行こう」


 世界樹の根元が見えてきた。うわぁ…樹高何メートルだろう?数百メートルはありそうだ。横にも大きくて、一体どこまでが世界樹で、どこからが普通の森なのか分からない。イメージ的には木というより山だ。


「凄いねマコっち!おっきいー」

「ねー」


 正面から魔物を倒し、時に回り込んでやり過ごし。時間を掛けて世界樹の頂上を目指して行く。

 何回か魔物に襲われはしたけどそれは無難に撃退し、それ程苦労する事も無く頂上部分に着いた。枝が放射状に広がっていて、凸凹はしてるけど広場の様になっている。その中心には以前見たレッドドラゴンを大きくした様な見た目の、色が黒いドラゴンが横たわっている。その手前に私達は降り立った。

 ドラゴンはうっすらと目を開けてコチラを見ている。ただそれだけで凄い威圧感を感じる。眼力だけで竦んでしまいそうだ。


『何をしにきた、人間達よ』


 ドラゴンが顔をコチラに向けて問うてくる。


「ドラゴンよ、我々に敵意は無い。コチラの娘の話を聞いてもらいたくてここへ来た」

『…何の用だ?』

「宝石の付いた鍵を、ここ3.4ヶ月の間で見ませんでしたか?占いでここにあるというのを聞いてやって来たんですが」

『かぎ?かぎと言うものがどんなものか分からん』

「あー、こんなのです」


 と、コスモに鍵の絵を表示させてドラゴンに見せた。


『あぁ、先日空から光りながら落ちてきた奴か。それならわたしのコレクションの中だな』


 トキネさんのおっしゃる通りにここにあったようだ。でも既にドラゴンのコレクションになってしまっているみたい。


「それを譲ってもらう事は出来ませんか?」

『対価は何を提示できる?』

「対価…ですか?」


 お金…じゃ無いだろうな。なんだろ?宝石とか?

 コスモの鍵の頭に付いてる宝石は何気に結構なサイズで、それ単体でもそれなりに価値がありそうな代物。それに見合う物…考えてみるもそんな待ち合わせもあても無い。


「すみません、今手持ちに代わりになりそうな物が無いんですけど…」

『じゃあ話は終わりだな。帰れ』

「わ、も、もうちょっと話しさせて下さい」

『面倒だな…』


 ドラゴン顔なのにすっごい嫌そうなのが分かる。あんまり長く話してると嫌われてしまいそうだ。


「ドラゴンさんはどんな物が欲しいんですか?」

『そうだな…』


 考え込むドラゴン。数秒ほど目を瞑り思案顔を見せるドラゴンは、思いついたとばかりにコチラに眼を合わせる。


『白竜の角』

「はい?」

『第2世界に生息する白竜の角をへし折って取ってこい。そうすればそのカギとやらと交換してやろう』

「白竜…」


 もしかしなくてもつまり、ドラゴンを倒してこいと言ってるんだよね?多分無茶振りのつもりなんだろうけど…


「分かりました、白竜の角ですね」

『ほぅ、やるのか。まぁせいぜい足掻くといい』

「じゃあ、角を手に入れたらまた来ますね」

『あぁ、この約束覚えておくとしよう』


 これで話は終了だと言わんばかりにドラゴンはそっぽを向いた。

 私達も絨毯や箒に乗り、世界樹の天辺から飛び立つ。世界樹を背にして向かうはハーティの街。


「良かったのー?白竜の角なんて、白竜を倒さないと手に入らないと思うけどー」

「ん、まぁ多分何とかなるよ」

「大丈夫かなぁー」


 実際にはラザちゃんとヒムロと私でさっきのレベルのドラゴンを討伐するのはちょっと現実的では無いと思う。最低でもムニは仲間にしたい所だ。

 さて、鍵について前もって出来る事はこれで終わり。一度師匠の家に戻ろうと思う。


 世界樹を離れ、その後数時間程絨毯を飛ばしてハーティの街に着いた。

 ハンターギルドの前まで来てトーヤさんと向き合う。


「有難うございました。これが今回の報酬です」


 案内してくれたトーヤさんに報酬を渡す。


「全額じゃ無くて良いよ」


 と、トーヤさんが一部を抜き取り、袋を返してきた。


「良いんですか?200万って話でしたけど」

「本当なら往復3ヶ月は掛かるつもりだったからね。2日しか働いてないからこの30万で良いよ」

「そうですか…有難う御座います」

「これでも充分割のいい仕事だったよ。また世界樹に行くときには是非声を掛けてね」

「はい、お願いしますね」

「じゃあ気をつけて」


 こちらへ手を振るトーヤさんと別れ、そのままその足でワープゲートに向かう。

 ワープゲートで諸々の手続きを済ませ、向かうは第3世界アースラウンド。帰るついでにキョットーのトキネさんの所へ寄ろうかな。





 第3世界のワープゲートのあるトシュコの街についた私達は、この街で一先ず1泊。その後キョットーに向けて空を飛び、街を転々としながら6日程でキョットーに到着した。そこそこ良い宿を取り、ヒムロにお留守番を頼んでラザちゃんと一緒にトキネさんの家に向かう。


「占いかー、私も占って貰えるかな?」

「占いとはちょっと違うけどね」

「お金どれぐらい掛かるのかな?」

「…さぁ?前回の時は無料で視てくれたけど…幾らだろう?」

「お小遣いで足りるといいなー」

「足りなかったら私が出してあげるよ」

「ありがとー!」


 そうこう話してる内にトキネさんの家に着いた。居るかな?と玄関のノッカーをタンタンと鳴らして少し待つ。するとドアの鍵が開く音がしてトキネさんが顔を覗かせた。


「お久し…いえ、はじめましてトキネさん」

「はじめましてー」

「…中へどうぞ」


 中へ促されお邪魔する私達。店の中はテーブルと向かい合わせに椅子が2つ。


「少し待っててください。椅子を持ってきます」

「あ、はい、すいません」


 一度店の奥に引っ込んで、椅子を持ってきてくれたトキネさんにお礼を言いながら椅子に腰掛ける。

 その対面にトキネさんが座って、私とラザちゃんを軽く見流した。


「それでは、はじめまして、ラザさん。私はトキネと申します」

「凄い、名前教えて無いのに」


 ラザちゃんがちょっと驚いてる。


「そして私の主観でははじめましてですが、今回がマコさんにとって2度目になりますでしょうか」

「やっぱり分かるんですか?」

「えぇ、失礼ながらマコさんの過去を少し視させて頂きました。一度残念な事となりましたが、その後順調に鍵を手にしておられるようで何よりです」

「いえ、トキネさんのお陰です」


 トキネさんの助言が無かったら一つの鍵に何年も掛かっちゃうと思う。全部の鍵を手に入れた時にはもうお婆ちゃんとか悲しい。


「それでは先ずはラザさんを視させて頂きますね」

「は、はい」

「どんな事を知りたいですか?」

「えーっと、私の王子様はいつ現れるかなーなんて」

「王子様ですか。少しお待ちくださいね」


 そう言ってトキネさんは少し笑って、ラザちゃんを見つめ始める。ラザちゃんはワクワクした面持ちだ。


「………はい、3通りほどの大きく別れた未来をお伝え致しましょう」

「え?3通り?」

「えぇ、貴女のコレからの行動次第で、貴女にとっての出会い…要するに王子様は変わります。先ずは1、これからもアビラタ様の元で修行に励む。この道を選ぶと、ナワイカの街のとある青年が王子様となります」

「どうして?」

「きっかけは成人したお祝いにと、居酒屋へ行きお酒をたくさん飲んで前後不覚になったラザさんを、青年が家まで送ってくれて…という良くある送り狼パターンというやつでしょうか?」

「え?私襲われちゃうの?」

「それはその時のお楽しみですね」

「じゃあ私が成人しても居酒屋に行かなかったら?」

「この助言を聞いた上でそう行動されたとしたらその青年とは居酒屋では会わない、送り狼は居なかったと言うことになることでしょう。なのでその場合はこのパターン1は無効、その王子様は現れない、です」

「なるほどー」

「次に2、師匠の元を離れて1人修行の旅に出る。この場合、ギバラの街のある少年が王子様となります」

「少年?年下?」

「この少年がならず者達に囲まれて暴行を受けている所を助ける所から始まります。その助けた少年の憧れの眼差しと押しの強さについ負けちゃってゴニョゴニョ」

「えぇーっ、私そんなにコロっと行くタイプなのかなぁ?」

「さぁ、どうでしょう?それで最後に3、マコさんの旅について行く。この道は私の視える範囲に王子様は現れません」

「んー?マコっちに付いてくと相手が一生居ないの?」

「いえ、私の視える範囲での話ですね。約2年から3年の間といった所です」

「そうなんだ。ふーん?ありがとうございます?」


 未来視を使った恋愛相談かー、大事だよね将来の相手。占いとは違って不確かな物じゃあ無いし、やっぱし興味はある。


「では次にマコさんを視ますね?」

「はい、お願いします」

「鍵の行方で良かったですか?それとも恋愛相談でしょうか?」

「あー、鍵の行方で」

「ふふ、では…」


 トキネさんが私を見つめ始めた。前回と同様次第に顔色を悪くしていくトキネさん。


「…少し席を外します」

「あっ、はい」


 と、言って裏に行ってしまうトキネさん。うーん、トキネさんには何が見えてるんだろう?私が死んじゃう未来も多分見えてると思うからそれでかな?


「どうしたんだろうねー?」

「良くない未来が見えたのかな?」


 数分程して口元をハンカチで押さえながら戻ってきた。席について改めて私をじっと見る。


「すみません、少し気が動転してしまいました」

「いえいえ」

「成る程、あの時の私はコレを…私の占いが貴女の生死に関わっている以上、詳しく伝えたいのは山々…なのですが、前回伝えた通り余り視えた未来を話すと、私の能力が効きにくくなったり、多様性が失われたり、あらぬ方向へ道が逸れたりして未来が悪い方向に固定されてしまう場合があるので、私が話す助言はいつも最小限にしています。その点をご了承下さい」

「はい、大丈夫です」

「では…先ずはこのキョットーで開かれる武闘会に出場しましょう。前回と同じくムニ様の出場は控えてもらった方が賢明です」


 コレは分かる。何だったか…名前忘れたけど、悪魔と一体化してる人から王様を守ればいいんだよね。その褒美に鍵が貰える。


「その後第9世界に住む魔王に会いに行きましょう。但し1人で行ってはいけません。出来る事なら4人パーティを組んで向かいましょう」

「質問良いですか?」

「…ごめんなさい、質問は無しで。コレでもかなりギリギリなんです」

「そ、そうですか」


 何がギリギリ?トキネさんの能力には何かルールがあるのかな?

 しかし、魔王に4人パーティで挑むって、なんだかRPGみたいだ。


「次に第5世界ユグドラシルの黒竜が持つ鍵を手に入れましょう」


 先日の件だ。白竜の角を持ってく奴。


 コレで鍵は5つ。あと最低2つか。


「…コレで貴女の未来は収束しました。今回はここ迄で。あまり先の事を伝えても、視た未来とは違う未来を歩む可能性も有りますので」

「分かりました。ありがとうございます」

「いえ、この程度しかお力になれず…因みに恋愛については、マコさんには運命の人と呼ぶべき人物がちゃんと居ると言う事を伝えさせて頂きます」

「え?それはやっぱり…」

「さぁ、コレでお話は以上です。お引き取り下さい」

「え?いや、せめて名前を」

「ダメです、本人から聞いてください。はい、それではまたいつの日か〜」


 バタン!とラザちゃんと一緒に玄関から締め出されてしまった。


「お金払ってないんだけど…」

「あー、気になるねマコっちの運命の人」

「本人に聞けって言うんだから会えるんだよね?」

「多分そーだよ。良いなー運命の人、王子様より響きが良い」


 先輩…なのかな?だとしたら何処にいるんだろう?





 その後キョットーから師匠の家に帰った私は、雪の降る季節をトレーニングと魔術具の研究等に明け暮れる日々を過ごした。

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