ピラミッドとコスモの鍵
地平線まで続く見渡す限りの砂漠。さんさんと照りつける太陽。そんな中、ヒムロやラザちゃんと交代で絨毯を徹夜でかっ飛ばして2日目。
「マコっちー」
「どしたの?」
「喉乾いた…水頂戴」
「ん、アクア」
ラザちゃんの前に小さな水球を浮かべる。
「おー、ありがと!便利だよねー、マコっちのこの魔法」
「まぁね」
水球に直接口をつけてゴクゴクと水を飲むラザちゃん。
「ぷはぁ!生き返る〜!」
「大袈裟でしょ」
「いやいや、そんな事ないってー。しかしどっち見渡しても砂だらけだね」
「だね。昼は想像以上に暑いし」
「あれ?アレ、何だろ?」
「ん?何か見つけた?」
ラザちゃんが指差す方を見てみると、地面に並ぶ荷物を乗せたラクダの様な生き物と人間達。
「キャラバンって奴かな?」
「歩いて行くと大変そうだね。半月も掛かっちゃうみたいだし…おっと!あれ、目的地じゃない!?」
今度は違う方向を指差すラザちゃん。見てみると…おぉ、ピラミッドだ。
「だね。ルーベンの街より先に見つけちゃったね」
「徹夜だし流石に一回寝たいー。街が近くにあるって話だから探して宿に泊まろうよ」
「そうしようか。ちょっとあのキャラバンの人達にルーベンの街の場所を聞いてみよう」
「賛成ー!」
キャラバンの先頭付近に絨毯を下ろして片付け、歩いている人に話を聞きに行く。…あれ?なんか警戒されてる…?
「何用だ!?」
「盗賊か!?空を飛んで来たぞ!?」
「わー、すいません、盗賊じゃないです!ちょっと聞きたい事があって声を掛けに来ました!」
「…聞きたい事?」
「はい、ルーベンの街がどの方角にあるか教えて欲しくて」
それを聞いて少し警戒を解いてくれたキャラバンの人達。それでも手は腰の武器を掴んでいる。
「ルーベンならここから大体北東の方向に向かえば見えてくる」
「北東ですか。有難う御座います」
礼をいい、早々に絨毯を広げて空に舞い上がる私達。
「何かピリピリしてたねー?」
「うん、ちょっと怖かった」
ちょっと疲れている様子だったし、半月もの長旅でピリピリしているのだろう。
キャラバンの人に教えて貰った通り、方位磁針を見ながら北東に飛んでいく事数十分。見えてきたのはオアシスの周りを囲む様に作られた街、ルーベンだ。
★
ルーベンの街に入った私達は、ちょっとお高い宿をとってご飯を食べていた。リルハからここにくるまで携帯食しか食べてないのでご飯が美味しく感じる。ご飯というかナンとカレーだけど。
「辛い〜…ねぇ、マコっちはコレ辛くないの?」
「辛いけど、これぐらいなら食べれるよ」
別に激辛好きって訳じゃない。このカレーの辛さは日本人に親しまれるルーで言うと◯ャワカレーの中辛ぐらいで、まだ常識の範囲だ。それにスパイスの旨味もちゃんと感じられる味わい深いカレーといった感じ。充分美味しく食べられるレベル。
ラザちゃんが水を飲み、意を決した顔でカレーに向き直る。
「うー、残すの勿体ないし頑張る」
「そうそう、水飲むと余計辛く感じるよ?」
「先言ってよー!」
何とか頑張って全部平らげたラザちゃん。私は既に食べ終わっている。
「ごちそうさまー…暫くカレーはいいや」
「充分堪能したね」
「明日の朝ごはん何だろ…また辛いのが出てくるかな?」
「さぁ?」
「やだなぁ。うーん、それにしても眠い、お風呂入って寝たいけど、ここにはお風呂は無いんだねー」
「多分水が貴重だからだよ」
「お風呂入りたい〜!ジャリジャリするぅ!」
「あぁ、入れてあげるよ。お風呂じゃ無いけど」
「え?どゆこと?」
疑問符を浮かべたラザちゃんを連れ、食堂を出て宿の裏にやってきた。ここなら周りから見えないでしょう。
「なんで隠れるの?」
「街中で魔法を使うから見られると煩いかなと思って?」
「魔法?アクアの?」
「そうそう、アクア」
プカァーっと浮かぶ私の身長ぐらいの大きさの水球を作る。更に温度を人肌程度の温さに調節する。
「この中に入るの?でもビチャビチャになるよ?」
「これがならないんだな。ラザちゃん、目をつぶって息を止めて耳を塞いで貰える?」
「え?うん、分かった」
言われた通り素直に見ざる、言わざる、聞かざるになったラザちゃんに水球をぶつけてグルングルンと水流を作り、まずは大雑把に洗い流して水を切って捨てる。
「…終わり?」
「まだだよ、後2回」
次に私が手すがら作った全身シャンプーを少し投入した水球で再びラザちゃんを洗い。最後にもう一度水球を作って仕上げ洗いをする。最後は服や身体についた水分ごと水球を引き抜く。
「はい、完成だよ」
「おぉー!サッパリして気持ちいい!しかも濡れてない!」
「服も洗えて一石二鳥!」
「これは凄いね!私も覚えたい!」
「それは無理なんだけどね」
「そっか、魔法だもんね。残念〜」
次に自分をアクアで洗って、サッパリした2人はまだ明るいけど徹夜したのもあって一先ず寝る事にした。
翌朝。
よく寝た私達は朝ご飯(スパイシーな鳥肉料理だった)を食べて宿を引き払い、街の人達にピラミッドの情報を聞く。
「ピラミッドかい?あのピラミッドには盗賊が住み着いてるらしいよ。もう中の財宝も取り尽くされてるだろうし、行くだけ無駄さ」
「ピラミッドはもうここにしか無いね。昔は砂漠のあちこちにあったらしいけど、今はあのピラミッド以外は崩れてしまってるよ。え?あのピラミッドに行くつもりかい?やめときなよ、盗賊が出るって話だよ」
「ピラミッドの王の墓かい?確かあのピラミッドはダンジョンみたいになっていて、その最奥に昔の王様が眠る棺があるって話を子供の頃に聞いたわい。もう何十年も前の話じゃがの」
等々、話を聞くと、
・ピラミッドは今はここしか無い
・盗賊が住み着いてる
・一番奥に王の墓がある
・ダンジョンみたいになってる
他にも、
・罠があるらしい
・アンデット系の魔物が出るらしい
・宝は取り尽くされてるだろう
との事。
「盗賊かぁー、面倒だね」
「罠があるとしたら、斥候系の技能の有る人を雇った方が良いかな?」
「その方が良いだろうねー。でもこの街にそんな人居るのかな?」
「うーん…」
「あ、そうだ!盗賊の人に斥候して貰えば良いんじゃ無い?」
「どうやって?」
「そりゃもう、武力で脅して」
★
という訳でやってきたピラミッド。その入り口から少し離れた所に降りて絨毯を巻き取りバックパックに括り付ける。
そうしてる間にピラミッドの入り口からわらわらと盗賊と思わしき人達が出てきてコチラを指差して騒いでいる。
「どんな感じで相手しよう?」
「盗賊なんだから、必要な人だけ残して後は燃やしちゃおうー」
「あー、分かった」
以前の私なら人を殺すという事に躊躇してただろうけど、今の私は躊躇う気持ちなんて殆ど無い。一回殺されたからだろうか?やらなきゃやられるんだから。
盗賊達は陣形を組んで私達の方へ走ってくる。
「あの奥のちょっと若い女の人を残して後はやっちゃおう」
「了解」
「〜〜〜、フレイムランス!」
「●、レイ!」
ゴオォォ!と燃え盛るラザちゃんの炎槍の魔術が盗賊達の先頭に居た男に突き刺さり高い火の柱が立ち上る。その横から私が放った光線が後ろで魔術を唱えていたらしき男の頭を貫く。
「2人とも魔術師か!散らばって囲め!」
「●、フレイムサークル」
散らばらない様に大半の盗賊達を囲む広大な炎の壁を作って、それを徐々に狭めていく。何やら命乞いの叫び声が聞こえてくるが無視、纏めて焼き尽くす。
「くそっ!テメェら、速く回り込め!」
盗賊達の後ろの方にいたリーダーらしき男が号令を掛けると盗賊達が私達を取り囲む。
「やってくれたな…半分以上やられたぜ嬢ちゃん達よ?覚悟は出来て…」
「●、レイ」
パスンとリーダーらしき人の頭を撃ち抜く。
「マコっち、あの人まだ喋ってたよ?」
「良いの、速いか遅いかの違いだから。ヒムロ、暑いだろうけど周りの人達やっちゃって」
『承知』
ニャオォーーーンと大きくなったヒムロが周りの盗賊たちを手加減なく吹っ飛ばして行く。私達も魔術で敵を減らしていき、残ったのは最初に残そうと言っていた女の人だけだ。その人は尻餅をついて頭を抱えて蹲っている。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「あのー」
「ひぃっ!」
「いや、助ける代わりに一つお願いを聞いて貰えますか?」
「たす…ける…?」
「はい」
★
女の人以外の盗賊を殲滅し終えて、ピラミッドの中に入った私達。中は暗いので明かりの魔術を灯す。
「この中がどうなってるか分かりますか?」
「は、はい、大体」
「じゃあ一番奥の王の墓の所まで道案内は出来そうですか?」
「出来ます」
「そうですか、じゃあイーナさんお願いしますね」
「は、はいぃ」
怯えた様子のイーナさんは、一歩一歩ゆっくりと奥へ進んでいく。
途中、矢が飛んでくる罠や落とし穴なんかがあったけど、全部発動した後の状態でそのまま素通り出来た。そうだよね、このピラミッドが何年ここに有るのか知らないけど、一度発動した罠は自動で戻ったりはしないよね。イーナさんが奥までの道を知ってるんなら多分そこまでの罠は既に解除されてるか、誰かが発動させてるだろう。
…別にイーナさん要らなかった説?いやいや、道案内が無いと迷うし。
そのまま順調に進んでいくと、黄ばんだ包帯グルグル巻きのミイラが数体、道を塞いでいた。
「アンデットかな」
「っぽいねー」
「どうやって倒そう?こんな閉所で火だと私達も危ないし」
「イーナさん達はどうやって倒してたのー?」
「は、はい、私達は取り囲んでひたすら切って倒してました」
「斬撃も通るのか。じゃあトルネードで良いかな」
「私がやるよー、〜〜〜、トルネード!」
ラザちゃんの放った暴風の魔術で、めった斬りにされるミイラ達。魔術が終わった頃には四肢がバラバラになって動かなくなっていた。
「ナイストルネード」
「イェー」
「…」
難なくミイラ達を倒した私達は、どんどん奥へ、奥へと進んでいく。
何度かミイラと遭遇し、発動済みの罠を横目に見ながら迷路の様になった道をイーナさんの先導で歩いて行く。
一つの部屋の前で立ち止まるイーナさん。
「着きました。ここが王の墓の部屋だと思います」
「へぇ、ここが」
「結構広いね」
そこにはピラミッドの中だとは思えない広さの空間があって、その中心に大きな棺が置いてあった。
その棺に近づいて行く私達。イーナさんは少し離れた入り口付近で立ち止まった。
「開かないんですその棺」
「開かない?」
「男衆達が10人掛かりで蓋を開けようとしたんですがびくともしなかったんです」
「んー!ぎぎぎ!っふぅ、動かないよ蓋。どうしようかマコっちー」
「うーん…」
試しに私も開けようとしてみる。するとどうだろう、何故か普通にすんなり開いた。横にスライドさせて棺に立て掛ける。
「え?なんで開けられたのマコっち?」
「あー?何でだろ?」
あれかな?ムニの大岩の封印と一緒かな?コレも封印されてたけど私の不思議パワーで開いちゃった的な。
開いた王の棺の中に横たわるミイラ。その胸の上に乗っているのは赤色の宝石の付いた鍵だ。
「よし!コスモの鍵だ!」
「やったねマコっち!早速使ってみようよ」
「うん…」
ミイラの胸の上にある鍵。ちょっと触りたく無いなと思いながら、しょうがないので我慢して取って、コスモに差し込んで回す。鍵が光の粒子になって消え、コスモが光り出した。明かり一つで暗かったのもあっていつも以上に眩しく感じる。
少しして光は収まり、少し赤い装飾が増えたコスモが現れた。ページをめくってみる。
”火の鍵 の封印がアンロックされました”
◯魔力伝達率が上昇しました
◯ページ数が増えました
◯索敵機能が増えました
◯天文術『フレア』を使用可能になりました
今回は索敵機能とフレアの魔法か。どんなんだろ?
「索敵機能って?」
”私を開いた状態で『索敵』と唱えると、周りの生き物等の位置が表示され、味方なら青、敵、又はコチラに害意を向けている相手なら赤、どちらでも無い場合は黄色に光ります。使用している間魔力を少しずつ消費します”
ふぅん?
「索敵」
と、唱えると、コスモのページにレーダー見たいな絵が出てきて3つの光点が表示された。一つは青。コレはラザちゃんかな?一つは黄色。コレはイーナさんだろう。そして一つは赤だ。赤い光点は私のすぐ近く…棺の中から?
「ラザちゃん、棺から離れて」
「う?うん」
『む…気づかれたか…惜しい事をした。その身体を乗っ取ってやろうと思っておったのに…な』
声と共にむくりと起き上がってきたのは王のミイラだ。道中ミイラ達が動いていたのだ。このミイラが動いても不思議じゃ無い。いや、不思議ではあるんだけど。なんで死んでるのに動くのか。しかもこのミイラに至っては喋ってるし。
『我の封印を解いてくれたのは…其方か。礼を言おう。ありがとう』
「どういたしまして?」
ミイラに礼を言われる私。ミイラは自分の身体を見て、私達を見て、そして溜息を吐いた。
『流石にこの身体では正面から戦っても其方らに勝てそうも無いな。降伏しよう』
「はぁ」
『所でどこかに新鮮な死体は無いか?出来れば五体満足で傷が少なければ有難い。別に死体でなくとも良いが』
「どうするんですか?」
『この古臭い身体を脱ぎ捨てて、新しい身体で余生を過ごしたいと思ってな』
「余生って、死んでるじゃ無いですか」
『ははは、まぁそんな感じだ。何ならば我を身体に憑依させてみないか?我が呪法で様々な面でサポートしてみせるが』
「呪法とやらには興味ありますが、お断りします」
たとえ強くなるんだとしても、他人に身体を貸すなんて気持ち悪い事はしたくない。
『そうか、残念だ』
「ピラミッドの外に死体転がってるからそこまで行って憑依したらどうかなー?」
『ほう。ではそこまで歩こうでは無いか』
コスモを見ると、赤だった光点は黄色になっている。害意が無くなったって事かな?
そんな感じで王様ミイラがついてくる事になった。このまま連れて行って良いのかちょっと疑問だけど。
★
ピラミッドの外に出た。ふぅー、暗い場所にしばらく居たから外の空気が美味しい!砂っぽいけど。
『おぉ!外だ!何年振りであろうか!』
王様ミイラも喜んでいる。明るい所へ来て初めてちゃんと見たけど、長い間あの棺の中でミイラしていたにしては包帯は白だ。他のミイラ達は黄ばんでいたのに比べるとなんとも清潔感のあるミイラだな。中は腐ってるんだろうけど。
『む、あそこに転がっている死体か?』
「そうだよー」
ミイラが盗賊達の死体に近づいていき、触ったりして何かを確かめている。
『確かに新鮮だ。死んで数時間といった所か…だがこの死体は頭に穴が空いている。これでは憑依出来そうも無いな。他のは…』
何体かの死体を調べて、大丈夫そうなのを見つけた様だ。
『おぉ、この身体なら充分動けそうでは無いか?よし、コレにしよう』
死体の服を脱がしはじめたミイラ…グロい。見てて気持ちのいい光景ではないので見ない様にしよう。
やがて作業の音的に終わった様なので振り向いてみると、ミイラから死体へと包帯が移っていて、ミイラの中身だったものが風に晒されて崩れていく所だった。彼は包帯が本体なのかな?
『古い身体よ、今迄有難う…』
「コレからどうするんです?」
『そうだな…そこら辺を歩いて、生きた人間を見つけたら交渉して乗り移らせて貰うかな』
「…このミイラ、ほっといて良いのー?」
「うーん、大丈夫じゃない?ちゃんと交渉してから乗り移るって言ってるし」
「あのう、私、コレからどうすれば…」
イーナさんが困った顔でコチラを見ている。
「イーナさんはもう好きにして良いですよ。街に行くなりここで盗賊の続きをやるなりどうぞご自由に」
「そ、そうですか」
「このミイラの王様の付き人なんてのも良いんじゃない?王様、強いんでしょー?安全!」
「付き人ですか?」
『うむ、イーナとやらがそれで良いのなら我は一向に構わぬが』
「え、あー、考えさせて下さい」
イーナさん悩んでる。私ならお断りだけどね。
「ラザちゃん、ヒムロ、そろそろ行こうか」
「帰るのー?」
「ううん、思ったより早く鍵が手に入ったから、第5世界の鍵も取りに行こうかなって」
「まだあるの?じゃあ付き合うよー!」
「ありがと。じゃあミイラさんとイーナさん、ここでお別れです」
「見逃してくれてありがとう…」
『あぁ、世話になっ…たかな?まぁ息災でな』
「じゃあね〜!」
「また何処かで!」
絨毯に乗り、ヒムロの運転でワープゲートのある街、ラクシュに向かって飛ぶ。今からだと明日の夕方ぐらいにはリルハの街に着くだろう。




