ミューちゃんとコスモの鍵
「ヒムロ、まずは浮かしてみて」
『こうか?』
音もなく地面から離れる絨毯。
「うん、うん。いい感じ、そのままゆっくり進んでみてくれる?」
『分かった』
スゥーっと進む絨毯。
「よし、さらにスピードを上げてみようか」
『あぁ』
グングンと加速して、周囲の森の上空を飛ぶ絨毯。結構なスピードで、多分今でも60キロぐらいは出てる。持ち手も付けてあるし、風除けの魔術陣も縫い合わせてある。それに箒に乗るよりは重心が安定してるから私でも大丈夫だ。急カーブとかしたら振り落とされそうだけど。うん。
「よーし、成功だね!ヒムロ、師匠の家に戻ってくれる?」
『承知』
そのまま師匠の家に戻り、絨毯を巻き取ってベルトで締めて小脇に抱え、家の中に入る。
「おかえりマコ。絨毯はどうじゃった?」
「師匠、バッチリでした!」
「絨毯も悪く無さそうじゃのう。今度ワシも一つ作ってみるかの」
「オススメですよ!ゆったりと座れますし。所で薬箱、完成しましたか?」
「あぁ、完成したよ。コレに入れた物は長持ちするじゃろうな…コレは中々面白い着眼点じゃな。中の物を冷やして一定に保つこの魔術紋様と魔石の組み合わせは」
完成した薬箱、それはそれほど日持ちのしない薬類を出来るだけ長期保存ができる様に、中をひんやりとさせる機能を持たせた一品だ。応用すれば冷蔵庫も作れちゃう。
その箱に解毒薬と回復薬を入れて、準備は万端だ。
「じゃあ早速行ってきます!」
「気をつけてな」
「ヒムロ、日帰りで旅に出るよー。絨毯の運転お願い」
『承知』
『お兄様、マコ様、お気をつけて』
寒くなって雪もチラホラと降り始めたこの季節、師匠とサクヤちゃんの見送りに手を振りながら、師匠の作ってくれたローブを着込んでいざ出発だ。
★
数時間かけてリーモアの街上空に到着した私とヒムロは、そのまま南へと街道上を飛んでいく。更に小1時間ほど飛んで道の分岐を発見。確かこの道が村に続いてるはず。
道を見失わない様に下を覗きながら飛んでいくと、お目当ての村を発見した。村の入り口で絨毯から降りて巻き取ってベルトで締める。ちょっと箒に比べて絨毯は嵩張るなぁ。持ち運びにくいのが難点。でも盗られるのは嫌だから置いておくのもなぁ。
で、この村に来たのはコスモの鍵がここにある為だ。本当はこの村に暮らす子供、ミューちゃんの小さな宝箱の中にコスモの鍵がある事は分かってるんだけど、いきなりミューちゃん家に行って鍵下さいっていっても怪しまれて話が出来ない可能性がある。
空を飛んできた私を、村の人が奇異の目で見てくるが仕方ない。何ともアウェー感を感じながら村の人達に話しかける。
「すみません、以前この辺りで鍵を落としてしまったようで、見つけないとウチに帰れないんですが、誰か水色の宝石がついた鍵をお持ちでないですか?」
と尋ねると、村人達は首を傾げ、
「鍵…?私は見てないよ」
「俺も知らないなぁ」
「いやぁ?俺も知らない」
「その鍵がないと困るのかい?」
「はい、とっても」
「ふぅん。誰かが拾ってるかも知れないな。ちょっと聞いてきてあげようか」
「お願いします」
待つ事20分程。男の人に連れられてミューちゃんがやってきた。
「お姉ちゃん、この鍵?」
ミューちゃんが持ってきてくれたのはまさしく水色の宝石の付いたコスモの鍵だ。
「そう!コレ!ありがとう!拾ってくれて」
「ううん、良かった、持ち主のお姉ちゃんに渡せれて」
いい子だわ〜ミューちゃん。
「お礼にコレをあげる。こんな物しか持ってないけど…」
と、薬箱をミューちゃんに渡す。
「これは何?お姉ちゃん」
「回復薬と解毒薬の入った冷たい箱だよ。誰かが怪我したり毒になったりしたら飲ませてあげてね。その箱に入れておいたら1年は待つから」
「ふぅん?でもなんか模様が綺麗な箱だね」
「気に入った?薬が無くなったら宝物入れにすると良いよ」
「わかった、ありがとう!」
「いえいえ、こちらこそだよ」
話を終えたのでミューちゃんと手を振り合い村の人達にお辞儀をして、絨毯を広げて乗ってヒムロに飛ばして貰う。村の人達からおおっ!と声が漏れる。空飛ぶ絨毯が珍しいのだろう。
そのまま帰路につく私。あんまりゆっくりしてると暗くなっちゃうので帰りも快速で飛ばす。
コレでまともにコスモが使える様になるよ。
絨毯の上だけど早速コスモに鍵を挿して回す。鍵が光の粒子になって消え、眩しい程に光るコスモ。
やがて光が収まると少しだけ表紙が豪華になったコスモが現れた。ページをめくってみる。
”水の鍵 の封印がアンロックされました”
◯魔力伝達率が上昇しました
◯ページ数が増えました
◯天文術『アクア』を使用可能になりました
◯天文術『シューティングスター』を使用可能になりました
うん、知ってた。よし、コレで一安心だ。
次は…魔力が使えるようになったから師匠にハイレベルな魔術や魔術紋様を教えてもらおう。
★
更に1ヶ月程。
「マコの吸収力には驚かされる。3ヶ月と経たずにワシが教える事が殆どなくなったからの」
「マコっち凄いー!」
「前回1年ほど勉強してきましたから」
「それでも1年と3ヶ月でここまで出来る魔術師はそうはおるまいよ。死線を潜り抜けてきただけはあるの」
最近自分で作った首輪や指輪を触りながら、師匠やラザちゃんとリビングで談笑中。
「魔術を覚えるのが速いってかコスモが反則だよね。ちょっと呪文を教えただけですぐ使える様になるし。コスモ私も欲しいー」
「何か取っ掛かりが有れば研究も出来るんじゃがなぁ」
コスモはここでも大人気だ。
「それでですね、そろそろ旅立とうかと思ってます」
「えー?マコっち、今真冬だよ?寒いよ?もうちょっといなよー?」
「どうして急ぐのじゃ?何か理由があるのかの?」
「今のうちにフレイザムに行って、鍵を取って来たいんですよね」
「フレイザム?第4世界の?そこに鍵があるのが分かってるのー?」
「うん、前回の世界でトキネさんって人に鍵の在処を視て貰ったら、フレイザムのピラミッドの王の墓を暴けって言われてね」
「成る程のぅ…ラザよ、修行の一環としてついてってはどうじゃ?」
「修行ですかー。見聞を広めるって奴ですか師匠」
「じゃな。マコさえ良ければじゃが、ラザを連れてってくれんか?」
「私としては有難いですが…ラザちゃんいいの?」
「姉弟子としてサポートしますよー!」
「はは、じゃあお願いしちゃおうかな?」
「この国のワープゲートといえば、エスペリア最南端のトシュコじゃな。マコの絨毯ならここから大体半月ぐらいかのう?」
世界を渡るにはワープゲートを通る必要があり、トシュコまで旅をしなければならない。と、言っても今回は馬車ではなくて空飛ぶ絨毯なので速いと思う。
「早速旅の準備をしてくるよー」
「私も抜かりが無いかチェックしてこよっと」




