一回戦
昨晩のハンバーグを食べてたコマちゃんの笑顔で気合は充分。
今日は武闘会の本戦1、2回戦がある日だ。
闘技場の前に設営されてる受付に昨日のプレートを見せると、代わりに番号の振ってある缶バッジみたいなものを渡される。この缶バッジは致死性の一撃を受けた時に一度だけ魔術障壁を展開してその人を保護する効果があるらしく、無闇に死者を出さない為のアイテムらしい。発動するとその時点で負けなんだとか。
その缶バッチを身体の前面につける様言われたのでローブの左胸あたりにつけ、そのまま選手の控え室に入る。一瞬視線がこちらに集まるがすぐに霧散する。
「流石に勝ち抜いてきた人達は強そうですね」
「だね、雰囲気に呑まれないようにしなきゃね」
「ですね。そう言えばさっき壁に張り出してたトーナメントルールだと、本戦は受付に申告すれば使い魔も有りみたいですよ」
「え、本当?しまったなぁ、ヒムロ連れてくれば良かった〜。そしたらかなり楽だったのに」
「受付済ませちゃったしもう後の祭りですけどね」
「召喚は出来るんだけどな。今からじゃダメかな」
「多分ダメでしょうね」
残念。と、しょんぼりしていると、控え室に審判の服を着た人が現れた。
「それでは皆集まりましたので本戦第一回戦を始めます。1番と2番の選手は舞台に入場して下さい」
早速私だね。1番の人は〜、騎士タイプの人だ。とても頑丈そうなプレートアーマーを着込んでて、それ重く無いの?って疑問が沸く。あんなんで走れるのかな?
そんな騎士様の隣を歩いて本戦の舞台へと歩いていくと、わぁぁぁぁ!っという大きな歓声が聞こえてくる。周りを見ると、一万人は入れそうな観客席が超満員といった感じ。
お相手の騎士様は観客席に向かって手を振っている。中々サービス精神旺盛だね?私は振らない。何か恥ずかしいし。
《さぁ今年もやって参りましたエスペリア武闘会!今入場しているのが本戦1試合目の選手達です!1番、プレートアーマーを着こなすブロン選手は大会出場4回目、去年の大会で3位という剣豪。今年こそは優勝をその手に掴むととの事です!対するは2番、可愛い魔術師さんですね。マコ選手、今回が初出場だそうです。予選を潜り抜けここまで来た魔術師は、果たしてどんな魔術を使うのか!》
急に大きな声が聞こえてくるからちょっとビックリした。実況もあるんだ。
実況の声を聞きながら舞台の真ん中まで歩いて行き、お互いの健闘を祈る握手をする。
「良い試合を」
「はい、よろしくお願いします」
「両者、位置について」
舞台の端と端まで離れてから向かい合う。大会ルールで片方、又は両方が魔術師の場合は舞台の端から始めるというルールだ。でないと普通の魔術師は何もできないまま剣士に決まり手を取られる事になり…言ってしまえば盛り上がらないからだ。
逆にこうやって距離が空くと、魔術師に有利ではある。相手が近づくまで魔術を撃ち放題なのだから。なのでそれをどうにか出来る腕前が剣士側には求められる。
「始め!」
《始まりました第一回戦!》
審判の声と振り下ろす腕と共に騎士様が剣を抜き鎧をガシャガシャ言わせながらこちらに走ってくる。わ、思ってたより走るの早いな!
”氷の結晶よ この手に集え 鋭く凍てつく氷の槍となりて、我が敵を穿て”
「●、フリーズランス!」
私の放った氷の槍が騎士様に向かって突き進む。対する騎士様は、
「こんなものぉ!でやぁぁぁぁ!」
《おぉーっと、マコ選手の氷の槍の魔術をブロン選手、その剣で切り飛ばしたぁ!》
怒号をあげて手に持ったその剣で私の氷槍を真っ二つにした。左右に分かれて砕け散る氷槍に観客が沸く。まさか避けるじゃなく魔術を切るとは思ってなかった。
そうしてる間にも騎士様は近づいて来ている。接近戦に持ち込まれるとちょっと大変そうだから出来るだけ遠くに吹き飛ばそう。
”大気の神よ 其の力を此処に 玉よ崩りて龍を象れ 咆哮よ彼方へ突き抜けよ 其の一撃は”
「●、ドラゴロアー!」
私の頭上に龍が現れ、咆哮を上げる。その咆哮が無数の風の刃となって周囲の地面や騎士様の身体をメッタウチにして吹き飛ばす。まるでオモチャのような吹き飛びようだ。大丈夫かな?やりすぎた?
《コレはマコ選手のオリジナル魔術か!?突如現れた龍の放った暴風によってまるで風に吹かれる木の葉の様にブロン選手が宙を舞っている!果たして大丈夫なのかー!?》
風の奔流が終わり、龍が姿を消す。騎士様はかなり遠くの舞台上に倒れているが…お、ムクリと起き上がった。死んでは居なかった様だ。良かった良かった。
《ブロン選手、無事だったようです!》
立ち上がってあらぬ方向に飛んで行ってる剣を拾いにいく騎士様。あれほど吹き飛んだのにそんなにダメージを受けていないのか、まだまだやる気だな。
剣を拾ったその場でゴルフのフォームの様な構えをする騎士様。結構距離あるんだけど何するんだろ?
「今度はこちらの番だ魔女よ!おぉぉぉぉ!神風烈斬!」
《出た!ブロン選手の十八番、神風烈斬だぁー!!》
騎士様が雄叫びをあげ、下から上に掬い上げる様に振り抜いたその剣から発生した衝撃波が、地面を削りながら高速でこちらに迫ってくる!
「●、ロックスパイク!」
本来は岩を召喚して敵に叩きつける魔術だ。今回は騎士様の神風烈斬とやらを防ぐためにその衝撃波の延長線上に設置する。が、あっさりとその岩を砕いて尚勢い衰えずに私に向かって突き進む神風烈斬。うひゃぁ!当たったら死ぬよこんなの!?と思いながら素直に横に回避する。
その隙に走って近づいて来た騎士様。結局近づかれちゃったな。かなり近くまで接近されたので普通なら魔術を使う余裕は無い。が、
”舞え 十三の炎帝の矢よ 断罪せよ 我に近づく愚かなる者を”
「●、ファイアアロー・フォロア」
コスモなら発動まで殆ど時間が無いのでこの間でも充分魔術を使う事が可能だ。
《コレも初めて見る魔術だ!マコ選手の周りに複数の火の玉が舞っている!それにしても詠唱が速い!》
騎士様は私の周りを旋回する炎の矢を警戒して少し速度を落とすものの、そのまま私に向かって走ってくる。
「魔女よ、くらえぇぇ!」
騎士様の振るう剣を避けつつ、周りを飛んでいる炎の矢をガードできない様に違う角度から同時にぶつける。だけど当たってはいるものの鎧に阻まれてあんまり効いてなさそう。
「ぬぅぅっ!こんな小さな火など!烈空刃!」
「っ!身体強化!」
《ブロン選手、無数の風の刃を放ち周りの火の打ち払いつつマコ選手に猛攻を仕掛ける!だけどマコ選手も驚く程の反応速度で避けている!本当に魔術師かー!?》
ほっ、はっ、よっ!この人手強い!剣術もレベルが高いけど、それよりもあの鎧。アレが高性能なのか、生半可な魔術は効果が無さそうだ。ちょっと手加減が難しい…
後ろに大きく飛び退きながら魔術を発動させる。
”氷雪が支配する時 凍え叫ぶは誰の声か 世界を埋め尽くす白き訃音 煌めく結晶が支配せし 其処は死の狭間”
「●、ダイヤモンドダスト!」
私の周囲の気温が急激に下がり、まるで氷を肌に当てられたかの様な寒さの空間が形成される。それに伴い空気中の水分が凍りつき結晶化する。この夏もまだ終わらない季節にやってきた真冬よりも寒い氷点下の世界。
《氷系の魔術でしょうか?マコ選手の周囲にキラキラとした何かが舞っています。ブロン選手もジワジワと広がっていくその空間に巻き込まれそう…おっとぉ!?コレは神風烈斬の構え!魔術ごと全部ぶった斬るつもりだ!》
うぇっ!?不味い!こんな近距離であんなの撃たれたら避けられるか分かんない!仕方ない、あんまり人相手に使いたくなかったけど…
「●、レイ!」
「ぐうぅぅっ!」
私の放つレーザー状の光が騎士様の足を鎧ごと撃ち抜く。立って居られなくなり崩れ落ちる騎士様。観客席から悲鳴が上がった。
動けなくなった騎士様の周囲をダイヤモンドダストの領域が侵食する。一気に下がった気温に震え始める騎士様。
「この状態で水ぶっかけたらどうなると思います?ここで降参しますか?」
「くっ、我の…負けだ」
「そこまで!勝者マコ選手!」
《ブロン選手降参だ!激しい戦いを制したのはマコ選手!皆様惜しみない拍手を!》
観客席から聞こえてくる拍手や歓声の中、立ち上がれない騎士様と握手を交わして私は先に退場して控え室に戻る。するとヒューマ君が寄ってきた。
「マコさんアナウンスが聞こえてきましたよ。勝利おめでとうございます」
「ありがとうー!あの騎士の人強かったよ」
「に、しては無傷ですねマコさん」
「まぁねー」
「流石です!」
ヒューマ君と雑談してる間にも2試合目、3試合目と進んでいき、ヒューマ君の番である5試合目がやってきた。
「じゃあ頑張ってきてね」
「はい!行ってきます!」
ヒューマ君の相手は剣士タイプの人みたいだ。その人と一緒に審判に連れられて会場へ歩いていく。
☆
《本日第5試合目の2人が歩いてきました!9番のニキータ選手は大会初出場、予選をその剣一本でくぐり抜けたその腕前や如何に!?そして10番、こちらも大会初出場のヒューマ選手!まだ14歳との事ですがその年齢にして予選に蔓延る強豪達を下した実力に期待が持てます!》
観客の声援や実況に見送られながら舞台の真ん中まで来た俺達は握手をして少し距離を取る。
「両者位置について…始め!」
《始まりました!ニキータ選手が剣を抜き構えを取る!対するヒューマ選手は刀を抜いて大上段に構えた!ジリジリと両者にじり寄って行く!》
「らぁぁ!」「っく!?」
一瞬身体強化をして、相手の予想を上回る神速の一刀を放つ!受けに回った相手の剣を弾き飛ばし、そのまま返す刀で相手の胴を薙ぐように…何かに弾かれた。後ろに飛んで様子を見る。相手の付けてるバッジが光ってる…?
「そこまで!勝者ヒューマ選手」
《速い!電光石火の速技であっさりとニキータ選手のバッジを発動させたー!強い!私、正直太刀筋が見えませんでした!コレは番狂わせもあるぞ!》
わぁぁぁ、っという歓声を浴びながら少し呆気に取られる俺。アレ?コレで勝ったのか?
悔しそうなニキータ選手と握手を交わして控室に戻る。
「マコさん、勝ちました」
「戻ってくるの速かったねヒューマ君」
マコさんとハイタッチをして、どんな試合だったかを説明…する程の内容は無いけど。




