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名前

「…んぐんぐ…久しぶりのご飯…美味しい」

「そっかそっか、いっぱいあるからゆっくり食べると良いよ」


 狐系獣人の女の子が小さな口を精一杯空けて、少し味付けをしてあるお粥を口に運ぶ。


 青薔薇の宿にもう1泊する事になった私達。今はこの女の子を囲んで話をしている所だ。女の子はこの先行くところが無いとの事で私が暫く面倒を見る事にした。


「猫の次は狐かしら…」

「マコは優しいからな。しかし流石に女の子を拾って来るとは思わなかった」

「何にせよ無事で良かったな。ヒューマもこの子も…この子の名前はなんて言うんだ?」

「まだ聞いてなかったです。ねぇ、貴女のお名前は?」

「…元の名前は捨てた…新しい名前つけて欲しい」

「うん?前の名前は嫌なの?」


 と、聞くと静かに頷くので皆で顔を見合わせて名前を考える会を開くことにした。


ナ「狐らしく素直にコンというのは?」

マ「それだとちょっと男の子っぽい気が」


ヒュ「コナタはどうですか?」

マ「可愛いとおもう。何でその名前に?」

ヒュ「狐のコに、ナターリアさんのナタをくっつけてみました」

マ「う、うーん…」


リュ「狐々って書いて、キキはどうだ?」

マ「それだと思春期に箒に乗れなくなりそう」

リ「どうして?」マ「どうしてもです」


マ「コハルとか」

ヒュ「響きは綺麗です!」

リ「悪くは無いわねぇ」


リ「私は狐舞って書いて、コマなんて可愛らしいと思うんだけど」

リュ「良いんじゃ無いか?」

ヒュ「マコさんの名前にも近いし良いと思います!」

ナ「もう決まりでいいんじゃないかな?」

マ「うん、じゃあ、コマちゃんで!」


ム『あれ?あたしの番来なかった…』


 と、そんなわけで。


「これから貴女の名前はコマ、だよ」

「…コマ。ありがとう」

「明日出発できるように服とか整えなきゃね。そのご飯が終わったら、一回お風呂入って、ちょっと億劫だろうけど服を探しに行こう?」

「…うん」


 暫くしてコマちゃんのご飯が終わったので、お風呂に連れて行く。

 シャンプーを1回、2回…耳があるからちょっと洗いづらいけど…くすんだ黄色が元の金色になるまで髪の毛を綺麗に洗った。綺麗な色だ。次に身体中を尻尾の先まで石鹸で隈なく洗う。うん、こっちも綺麗になった。

 されるがままに洗われてたコマちゃんは半分寝かけている。起きててもらわなきゃ困るんだけどな。

 お風呂から出てコマちゃんをタオルで拭いて、ふと、折角綺麗に洗ったのにあのボロボロの服を着せるのは…それに服屋さんまで行く服がボロボロなのは恥ずかしいかなと思い、私のバッグパックの中にある学校の制服(冬服)を着せてみることにした。私の身体は小さいし、多少サイズが合わなくてもまぁ服屋さんまでの辛抱ということで。上のブレザーは置いておいて、ブラウスとスカートを着せてみる。ブラウスは萌え袖に、スカートはウエストがスカスカだけど、そこは刺繍で鍛えたこの腕で…と思ってたんだけど、スカートの生地に針が通らない。薄い所で試してみても同じ。

 これ多分今私が履いてるストッキングと同じで元の世界から着てきた衣類は汚れはしてもほつれたり破れたりしない奴とおんなじだ。…という事はこの制服着てれば無敵?いや、衝撃は通るか。

 取り敢えずスカートはヘアピンで留めて、まぁおかしくは無い見た目になった所で、眠たそうなコマちゃんを連れてお出かけ。お供にリエルさんとナターリアさんを伴って服屋さんにGOだ。


 宿を出て程なくして街の中心街に着いたので、何店舗か巡って思う存分コマちゃんで着せ替え人形ごっこをした私達は最終的に「でもすぐ成長して着られなくなるんじゃ無い?」という事で程々の量の衣服を購入してお店を出た。気づくともう夕暮れの時間帯。

 あんまり遅くなると(既に遅いけど)皆が心配するだろうからそのまま宿に向かう。コマちゃんは既に寝落ちしているのでナターリアさんの背中でスヤスヤと眠っている。いい寝顔だ。


………


 改めて今日はギバラを出発する日だ。細々とした旅の準備は既に昨日済ませてある。馬車に全員の荷物を積み込み直し、宿のチェックアウトをして、いざ出発だ!


 と、思ったんだけど…


「その女の子の市民証とかはないんだな?」

「はい。親に捨てられたそうで」

「ふむ、ちょっとこのグループの責任者とその女の子をつれて取調室まで来てもらおうか」


 次の街、ハセンへ続く道へ繋がる街門で足止めを食らってます。コマちゃんの身分証がない為、私達が誘拐したのではないかという淡い疑いを掛けられてます。

 ただ、絶対に身分証が無ければ出入り出来ないという訳ではないので、そこそこに質問されて守衛さんが納得すれば通してもらえるとは思います。多分。

 で、責任者という事で私がコマちゃんを連れて門のそばにある建物の取調室へ。


「貴女の名前は何という?」

「マコと言います」

「何処の街出身だ?」

「私、彷徨い人で生まれは日本なんです」

「あー、そうか、彷徨い人か。一応身分証を見せて貰えるかな?」


 探索者カードを守衛さんに見せる。


「登録したのはナワイカか、随分と北から来たんだな。今は旅をしてる所といった所か。有難う、返すよ」

「はい、どうも」

「で、この街のスラム街で行き倒れてたこの子を昨日拾って親が居ないから面倒を見る事にしたと」

「そうです」


 話をしながら何かを紙に書き留めている守衛さん。何書いてるんだろ?調書?


「そうかそうか。で、こっちの君の名前はなんて言うんだ?」

「…コマ」

「捨てられる前は何処の街に住んでいたんだ?この街か?」

「…ここじゃ無い街だと思う」

「何処か迄は分からないか?」

「…うん」

「一応聞くが、このマコというお姉さんの言うことは本当か?」

「…うん、拾ってもらった」

「そうか。まぁ初めから大して疑ってはいなかったが、そう言うことなら大丈夫。門は通っていいぞ」

「はい。ありがとうございます」

「一応何処かでこの子に市民証等を作る事を勧めておく。なんかあった時に国の民である証明があるとないとでは扱いが変わることもあるからな。それと、これが今回の事が書かれた証書だ。これをハセンの守衛に渡せば今みたいに取り調べを受けたりはせずに街に入る事が出来るはずだ」

「助かります」


 話を終え、馬車に乗って、守衛さんに見送られて門を抜ける。

 この先の街はハセン、その次がキョットー。目的地までもう少しだ。リューゼさんの運転で次の街に続く道を走って行く。


………


 ハセンへ向かう道中、左右を森に囲まれた一本道を走っていると前方を道の全幅に横倒れになった木が道を塞いでいる。その木から大分手前で止まるリューゼさん操る馬車。


「盗賊だな」

「盗賊ね」

「まだ出てきてないけど…」

「あんな風に枯れてもない木が平坦な地形で倒れるなんて事自然にはそう起きないからな」

「そっか。コマちゃんとヒューマ君は馬車から出ないように」

「…うん」「わかりました」

「私はクロエと馬車に近づくのを倒すよ」


 そうこう話をしているうちに、リューゼさん達の言う通り左右の森から盗賊が出てきた。奥の方で弓を構えている盗賊もいる。


「盗賊に人権はないのよ。見つけたら殺せ、むしろ殺さないとその先犠牲が増えるのよ。私の魔術であの固まってる所ぶっ飛ばしてやるわ!

我は誘おう 舞う焔のすぐ傍に 汝を誘おう 狂炎の贄として 深淵の淵を覗きし 愚かなる者を焼き尽くす地獄の業火よ、出でよ!インフェルノ!」


 いきなりリエルさんが詠唱、魔術を完成させてぶっ放した。リエルさんの杖から極太の炎が噴出する。魔術の範囲内にいた結構な数の盗賊が吹き抜ける炎によって一瞬で装備ごと燃え尽きていき、その周りにいて熱風の煽りを食らった盗賊がアタフタしている。

 合間にこちらに狙いの甘い矢が飛んできているが大半は明後日の方向へ、誰かに当たりそうな矢はリューゼさんやナターリアさんが剣で弾いている。よく見えるなぁ。

 後ろの方からも数人の盗賊が馬車を囲み始める。

「ヒムロ、大きくなって後ろの方やっちゃって!」

『承知』


 ニャオォーーーーン!と、大きくなったヒムロが馬車の後ろに飛び出し、剣も矢も避けながら後ろの盗賊達を蹴散らしていく。

 私もレイの魔術で盗賊達がせめて苦しまないよう一撃で仕留める。


 程なくして盗賊の殲滅が終わり、死体を纏めてリエルさんの炎の魔術で燃やした。


「可哀想に。私達に襲いかかったのが運の尽きよね」

「この馬車の乗員、みんな戦闘力高いですからね。それにしても結構な人数でしたね」

「根城がこの森の何処かにあるんだろうな」

「わざわざ探してまで狩った所で大して美味しい事はないし放置よ放置」

「取り敢えず木をどかしましょうか」


 リューゼさんとムニが木を森に投げ飛ばして道がスッキリした所で移動を再開する。

 ハセンの街は結構近く、ギバラの街を朝早く出れば夕方頃には着く距離だ。そして、ハセンからキョットー迄も2日の距離なので、この賑やかな旅ももう少しで終わりだ。リューゼさん、リエルさん、ナターリアさんとクロエちゃんとはお別れになるだろう。ムニはよくわからないけど、多分刀探しとかいって何処かへ行くのではないだろうか?

 後1週間もないのか…寂しくなるなぁ。

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