救出
「嬢ちゃん、5対1だ。しかもこっちは腕利きばっかり。嬢ちゃんに勝てるかな?」
各々が腰から抜き出した武器を構える。男達が手にしたのは木刀だ。木刀を使うのは多分すぐには死なないようにするためだろう。甚振って愉しむつもり…ヒューマ君の様に…!沸々と怒りが湧いて来る。私も魔導書コスモを取り出し、開いて構える。
「本?なんだか知らねぇが、この距離ならお前さんが詠唱してる間に木刀が届くぜぇ?」
「前衛も居ないのに魔術師が剣士に正面切って戦うのは無謀だろうよ」
「アクア・スプレッド」
アクアの魔法を出した瞬間弾けて広がる様にした物だ。私とヒューマ君以外の人に誘導してアクアの水を掛ける。結構な水量で身体全体がビショビショに濡れる男達。気温が高くて薄着なので肌に服が張り付いている。
「何だ!?毒か!?」
「いや、ただの水っぽいぞ?」
「なんだ、驚かしやがって…!やるぞお前ら」
「おうよ」
男達が武器を構えてニヤニヤしながらこちらに近づいて来る。しかし、私もただ水をかけただけじゃ無い。
「凍れ」
ピキピキピキ…と、男達に纏わりついた水を急速に凍らせる。温度を自由自在に操れるこのアクアの魔法は人を相手するのに使い勝手がいい。熱湯にすれば全身に火傷を負わせる事もできるけど、それだと下手すると死ぬので一応手加減のつもりで凍らせる事にした。凍傷で指とかが壊死するかもしれないけどそこまでは知らない。
「うわぁぁ!寒い!」
「何だこの魔術は!?」
「あの女、呪文詠唱なんかしなかったぞ?」
「凍りついて身体が思う様に動かない!?」
「コスモ、身体強化」
私自身に身体強化を掛ける。片手にコスモを持ってなきゃいけないのが難点で、ムニほどとはいかないけど、旅の間リューゼさんとコレで手合わせしたら「強くなりすぎだろ」と言わしめるぐらいには身体的に強くなれる。しかも今のコスモなら10分ぐらいはもつ。
目の前の男達の、寒さで動きの鈍った太刀筋が見える。私の武器、フォーチュンちゃんを持ってきてないので体捌きと素手で、たまにコスモの背表紙で受け流す。
「何だこの女!当たらねぇ!」
「接近戦もいけるのか!」
ドゴッ!と、隙を見せた一人の男にボディブローをお見舞いし、数メートル先迄ふっとばす。その男はもう立ち上がらない。意識を手放したようだ。
「先ず一人」
「こいつ、強ぇぞ…!」
「●、エアボム」
「ぐっふ!」
もう一人、男を風の爆風で吹き飛ばす。スジャァと地面を掃除しながら滑っていく。寒さと吹き飛ばされた衝撃で立ち上がる事ができない様だ。
「…次は誰?」
「ぉ、俺ぁ降りるぞ!あんな端金でこんな奴相手してられるか!」
「おい、降参するからこの氷なんとかしてくれよ、寒くてかなわねぇ!」
「…次は、誰?」
「っ!くそぉ、やられてたまるかぁ!」
ドカッ、ズドン!
更に二人ほど蹴り飛ばし、後は入り口を塞いでいた親分とやらが残った。
「わわわ悪かった、謝るからどうか見逃してくれぇ」
「貴方が主犯?こんな荒くれ者を連れてヒューマ君をリンチするぐらいだから、同じ事をされる覚悟は…出来てるんでしょうねぇ!」
「ヒィィィィィィ!」
『マコ、その辺にしておけ』
「…ムニ?」
部屋の入り口からスタスタと入ってくるムニ。いつからそこに居たの?
「あの時の白い女…!」
『マコ、代わりはやっておいてやるから、少年をポーションで回復してやれ』
「う?うん、わかった。ムニ、お願いね」
親分とやらはムニに任せ、ヒューマ君の所へ駆け寄る。遠目に見ただけてもかなりの怪我をしているのが見て取れたけど、側に来るとかなり瀬戸際だと言う事が分かる。地面に横たわっているのを抱き上げると、まだ意識があるので助かった。
「ポーション、飲める?」
「うう…くう…ぐ」
…?まぁ良いや、先ずはポーション飲ませちゃう。
ポーションを取り出し、ヒューマ君に飲ませる。少しして効果が現れ始め、目に見える怪我の殆どが回復した。血を吐いていた様だけど、ちゃんと内臓にも効いたと思う。
「…!すごい、どんどん治ってく!」
「さっきのは私のとっておきだからね」
「マコさんの貴重なポーション…!」
師匠の家の器具を使って、森やナワイカの街で手に入る中でも最高級な素材をふんだんに使って作った私の自信作、名付けて「天にも登る気持ち」。師匠にも褒めてもらった逸品だ。
まぁそれを使う程にヒューマ君の状態は良くなかったんだけど。
「どう?立てる?」
「はい、もう大丈夫そうです!」
「そう、手遅れにならなくて良かった」
『マコ、さっきの奴は取り敢えず沈めておいた』
「ありがと、ムニ」
さて、どうするかな。縄とか持ってきてないし、態々衛兵さんに突き出すのも絶対事情聴取されるから手間だ。肝心のヒューマ君の怪我も殆ど治したし。何か気が抜けちゃった。
「ヒューマ君、荷物は?」
「あそこに転がってるのがそうです」
「じゃあもう行きましょう?この人達はこのまま放置で」
『んー、悪いことできない様に腕へし折るぐらいはしても良いと思うが』
「えぇ?いいよもう。ヒューマ君もムニも私もこの街を出るんだから後は知らないって事で」
ヒューマ君の荷物を回収して、広い建物を出る。他の皆はまだヒューマ君を探してるかな?どうやって連絡を取ろうか…取り敢えずトコトコとスラムを出る道を歩いていく。
「そういえばよく場所がわかりましたね?」
「あぁ、結構目撃者がいてね。聞き込みしながら探したらこの建物にたどり着いたんだ」
「そうなんですね。良かった、あのまま殺されてしまうかと思ってました」
「間に合って良かったよ」
ヒューマ君の頭をポンポンする。こちらを見上げてニコーって笑顔になるヒューマ君。
「それにしてもマコさんの体術凄かったです。魔術師だと思ってたからあんなに強いとは思ってませんでした!」
「あれはムニに教えてもらった身体強化をコスモの力で使ったんだよ」
「身体強化…ですか?俺にも使えるかな?」
「魔力が多少なり有れば練習次第で使えるみたいだね」
「へぇ!マコさん、教えてください!」
「あー、多分私じゃ教えられないからムニに聞いてみて」
『任せろ、少年が強くなれるよう特訓してやる』
ムニがヒューマ君を見てサムズアップする。
「宜しくお願いしますムニさん!」
『うむ、素直な少年よ、武闘会で優勝を狙えるぐらい鍛えてくれようぞ』
「は、はい!」
「武闘会?」
『あぁ、年に一回、今から3ヶ月後ぐらいにキョットーでやる、国中の腕自慢が集まって腕を競う大会らしいぞ。刀探ししてる時に会った厳つい兄ちゃんに教えてもらった』
「確か上位入賞したら栄誉と共に城の騎士団に入団出来たりするんでしたよね?褒美も貰えるとか」
「ふーん?」
まぁ私は見学するくらいで出はしないかな。身体強化含めても、自慢するほどの腕じゃないし。騎士団にも興味は無いし。
スラムの道を喋りながら歩いていると、道端でボロボロの服を着た小さな子が倒れてるのを見つけた。私が立ち止まったのでヒューマ君やムニも立ち止まって私の視線を追う。
「あの子、大丈夫かな?」
『ダメそうなら助ければいい』
「だね」
近づいていくと気配に気づいたらしく少し顔を動かしてこちらを見上げる…女の子。その頭にはキツネの耳が生えていて、獣人だということが分かる。
「ねぇ君、大丈夫かな?」
「…」
「怪我は…して無さそうだけど」
「…お腹空いた」
「成る程、ご飯食べてないのか。いつからご飯食べてないの?」
「…1週間ぐらい?」
「1週間!?お父さんやお母さんはいないの?」
「…捨てられた」
「捨て…!そっか。ムニ、どうしよう?」
『面倒見れるのなら助ければ良かろうよ』
「だね。コレも何かの縁だし」
「俺が担いで行きますよ」
「うん、お願いね」
取り敢えず体力を多少なり回復させる為にポーションを薄めた水を飲ませた。そんでもってちょっとボロボロで汚いので、先にアクアの魔法で女の子の首から下を丸洗いする。うわ、水の色変わったんだけど!?いつからお風呂入ってなかったんだろう…2回、3回と水を変えながら洗って、色が変わらなくなったところで終わりにし、ついでに水を飲ませてからヒューマ君に背負ってもらった。
「…何処いくの?」
「先ずご飯が食べられる所だね」
「…ホント?くれるの?」
「うん、まずは食べなきゃね」
これはもう一泊コースだな。あの宿の部屋まだ空いてるかな?




