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コスモの鍵

「ふぁあ…」

『ぬ、起きたか』

『おはよう御座いますマコ様』


 翌朝…というには少し遅めに起きた私はクゥーっと伸びをして、横でお座りしてるヒムロとサクヤちゃんをひと撫でする。

 寝ぼけ眼で馬車から出た私は近くにある井戸に顔を洗いに来た。そこにはリエルさんとリューゼさんも居て、何か話している。


「リューゼさんリエルさん、おはようございます」

「あら、おはよう。もうちょっと寝ててもいいと思うけど」

「結構遅くまで起きてたんだろ?薬は出来たのか?」

「薬はバッチリです」


 顔を洗ってサッパリした私はリューゼさんとリエルさんにこの村に数日滞在する事を伝えた。


「じゃあ俺は狩りでもしに行くか」

「私もそれに付いて行こうかしら?」


 私はどうしようかな?そういえばムニやナターリアさん達はどうしてるんだろう?


「他の2人はどこへ行ったか分かります?」

「ムニは何してるか分からんな」

「ナターリアは村の人から材料を買ってきて村の集会所で皆のご飯作ってるわね」

「なんと。ありがたやー」

「私達はもう食べたわ。マコを待ってると思うから、今から行ってきなさいな」

「そうさせて貰います」


 そう言ってリューゼさんリエルさんと別れた後、村の人に場所を聞いて集会所へとやってきた。ガラガラっと集会所の引き戸を開けると美味しそうな匂いが。


「おはようマコ」

「おはようございますナターリアさん」

「ご飯出来てるけど、早速ご飯にするか?」

「はい!」


 ナターリアさんとご飯を食べる。ヒムロやサクヤちゃんには村の人に分けてもらった羊肉だ。クロエちゃんも一緒に食べている。


「そうそう、ナターリアさん。ミューちゃんの父親の経過を見る為にこの村に数日滞在する事にしました」

「そうか。まぁ特に急いでいる旅と言うわけではないのだし、いいんじゃないか?」

「えぇ。その間もちゃんと護衛料は払いますし、今日のご飯に掛かった代金も後で纏めて私に請求してくださいね」

「分かった」

「そういえば質問なんですが、クロエちゃんってどんな魔法を使うんですか?」

「あー、黒い霧みたいなものを魔物の顔にくっつけて目を見えなくしたり、幻覚を見せたりとかそう言った感じだな」

「へぇー、敵からしたら厄介そうですね」


 ナターリアさんとお話ししながらご飯を食べ終わると、丁度のタイミングで集会所の入り口がガラガラと開けられてミューちゃんが入ってきた。


「お姉ちゃん達おはよう!」

「ミューちゃんおはよう」

「朝起きたらお父さんがちょっと元気になってたんだよ!お姉ちゃんのお陰だってお父さんが!」

「うんうん、良かったねミューちゃん」

「うん!それでお姉ちゃんにお礼しようと思って私の宝物持ってきたの」

「うん?」


 ミューちゃんが手にしてる箱を床に置いて開けると、中には色々な物が入っており、それを一つづつ説明をしながら取り出していく。


「これは村を通る行商人さんがくれた綺麗な貝殻でしょー?で、これはお父さんが倒したスノーラビットの魔石!白くて透明で綺麗なんだ!んで、それから〜」


 ミューちゃんが取り出していく宝物達はちょっと綺麗な石とか牙を加工したペンダントとかどれも微笑ましい物だったが、その中に一つ。私にとって気になる物があった。それは…


「で、これは半年くらい前に近所の湖の近くに落ちてた宝石のついた鍵!」


 水色の宝石が付いていて、それ以外は何の変哲もない鍵だけど…


「コレの中から一つお姉ちゃんにあげる!」

「いいの?じゃあ…その鍵を貰っても良いかな?」

「コレで良いの?」

「うん、コレがいいな」

「じゃあはいコレ!」

「有難うミューちゃん」

「こちらこそお父さんを助けてくれて有難う!」


 そう言ってミューちゃんは宝箱を持って家に帰って行った。


「明るい良い子だな。…それでその鍵を選んだのは何か理由があるのかい?」

「はい、私の本の鍵だと思うんです」

「本の鍵?」

「私の魔導書のコスモには鍵穴があるんですが、それの鍵なんじゃないかと」

「へぇー」


 湖近くに落ちていた鍵。ムニがミューちゃんを担いで来なければこの村に来る事も無く、そのお父さんを助けなければミューちゃんが拾っていたこの鍵と巡り合う事も無かったであろう事を考えると、中々偶然が過ぎる様な気がしてならない。この鍵と巡り合う運命みたいなものがあったのではないかと感じる。勝手な想像に過ぎないといえばそうなんだけど。


 徐に肩掛けバッグからコスモを取り出す。その鍵穴とこの鍵の先の大きさがピッタリとハマることを確認、差し込んで回してみる。するとカチッという音ともに鍵が光の粒子となって消え、コスモが輝きだした。眩しっ!


「マコ!急に光りだしたがその本は触ってて大丈夫なのか!?」

「ええ、ちょっとびっくりしましたが熱いとかもないし大丈夫です」


 やがて光が収まると少しだけ表紙が豪華になったコスモが現れた。ページをめくってみる。


”水の鍵 の封印がアンロックされました”

◯魔力伝達率が上昇しました

◯ページ数が増えました

◯天文術『アクア』を使用可能になりました

◯天文術『シューティングスター』を使用可能になりました


 おぉー、パワーアップしたみたい?

 水の鍵の封印…雰囲気的に火の鍵とか土の鍵とかがありそうだ。

 伝達率…前と比べてどれぐらい魔術が使えるようになったのかな?

 それと、天文術?初めて聞く単語だ。


「コスモ、天文術って何?」

”天文術とは私を持っている貴女だけが使える魔法です。今回使えるようになったのは『アクア』と『シューティングスター』です”


 へぇー、私だけが使える魔法、か。

 どうしようかな。折角パワーアップしたんだし新魔法の使い心地を確かめてみようかな?

 食器類を片付けて…っと。


「ナターリアさん、ちょっと魔術の練習をしに行ってきます!」

「そうか。そう危険はないと思うが気をつけてな」



 村の近くにある広い草原にやってきた。ここでなら周りに少々被害が出ても大丈夫でしょう。

 コスモを取り出してアクアの魔法を発動してみる。


「呪文とか無いんだな…アクア!」


 発動句を唱えると、目の前に一抱えほどの水の塊がぷかぁーっと浮かんだ。その様はまるで宇宙空間で浮かぶ水の様で………


 ………うん?水が浮かんだからどうだと言うのだろうか。


「ねぇコスモ、このアクアって魔法はどんな魔法なの?」

”発生させた水を貴女の意志の力で自由自在に操ることができます”

「意志の力?自由自在?んー…前に飛べ!」


 そう発言した途端水の塊が高速で前へかっ飛んでいき、あっという間に風圧で拡散して見えなくなってしまった。

 うーん…

 取り敢えずもっかい出してみようか。


「アクア!」


 また私の前に水の塊が浮かんだ。自由自在とは…水とは何でしょう?冷やすと氷に、温めると蒸気になるね。それも自由自在に出来るのかな?


「凍れ!」


 ピキピキピキ!寒くも無いのに本当に凍りついた。氷塊はそのまま宙に浮いている。


「成る程。この氷の塊を相手にぶつける魔法…じゃないよねぇ」

”まぁそれなりに威力は有ると思います”


 そうですか。他には〜、ウォータージェット?ケーキを水で切るのを一度テレビで見た事あるな。


「水に戻れ。ウォータージェット!」


 ピシュー!表面から細い水が噴き出る。出始めはすごい勢いがあるけど、少し離れると拡散しちゃう。これじゃあ離れると何も切れなさそうだなぁ。


”イメージが大事です”


 頭が硬いって言われてる気がする。イメージねぇ。…人型にして武器持たせてみるとか?


「人型になれ」


 水がウニョウニョと人の姿になった。腕を上げさせたり歩かせたりしてみる。うん、確かに私がイメージした通りに動くね。コレに武器を持たせて敵に突っ込ませたりすれば…悪くなさそうかも?

 と、思ってフォーチュンちゃん(私のメイス)を持たせてみようとしたけど基本的に水なのですり抜けて掴めない様だ。

 手だけ凍らせたら持てるかな?


「凍れ」 ピキピキピキ…


 凍らせたら今度は指が動かなくなっちゃった。ダメかー。うーん、また思いついたら練習しよう。


 後は『シューティングスター』の魔法だね。


「シューティングスターはどんな魔法?」

”小さな魔力塊を高高度から高速でぶつける魔法です。かなり威力が有りますので、使うなら狙う所から数十メートルは離れた方が良いと思います”


 なんか凄そう…じゃああの離れた所にある木に向かって撃ってみようか。


「コレも呪文とかないんだ。シューティングスター!」


 キュン!チュドォォン!ゴゴゴゴゴ…


 空から降ってきた丸い塊が凄まじいスピードで木にぶつかって爆発、木の残骸が爆風に乗って四方八方に飛び散った。爆風で細々とした木の破片がかなり離れていた私の身体にバシバシ当たる。痛い痛い!

 風が収まったので顔を覆っていた手を下ろすと爆心地には半径5メートル程のクレーターが出来上がっていた。


 …威力ありすぎでしょ。


「どこで使うのこんな魔法」

”強敵用?”


 ドラゴンとか出てきた時の奥の手かなぁ。使う場面はかなり限られそうだ。


「そういえばコスモ、まだ魔力切れにならないんだ?」

”えぇ、かなり伝達率が上がりましたからね。とはいえ先程のシューティングスターで大分魔力を消費しましたが”

「凄い進歩だね。これなら中級魔術も何発か撃てるかな?」

”撃てますね。リエルさんに教えてもらっては如何でしょう?”

「だね。今日帰ったら教えてもらおう」

”それが良いと思います。そうそう、アクアの魔法を使いながら生活をすると何か思いつくかもしれませんよ”

「あー、そうだね。やってみる」


………


 アクアの魔法で水を浮かせながら村の広場に戻ってあれこれ考えてると、リューゼさんとリエルさんが帰ってきた。リューゼさんは背中に抱えた数匹のスノーラビットを村長に売ろうとしていて、リエルさんは私のそばで浮かんでる水を見て訝しげな顔をしている。


「マコ、その浮かんでる水は何かしら?」

「あ、リエルさん。コレは私の新しい魔法なんです」

「魔法?魔術じゃなくて?」

「はい、私の意思で自由自在に操る事が出来る水の魔法、です。凍らせたり沸騰させたりも出来るんですが、でもどう使うのが良いか悩んでるんですよね」

「ふぅん?面白そうねぇ。例えば相手の頭に張り付けて窒息を狙うとか?」

「あー。成る程ー」

「その水に毒を混ぜて無理やり飲ませるとか」

「…え、えげつない」

「それを沸騰したお湯とかでやれば大概の相手に効くんじゃないかしら?」

「それは効きそうですね。有難うございます、参考にさせて貰います」

「それにしてもその水、出しっぱなしで魔力は消費しないの?」

「どうなんでしょう?コスモ?」

”出す時に少し魔力を消費します。凍らせたり沸騰させたりと温度を変化させる時にも多少消費します。移動させたり、ただ浮かべているだけでしたらほぼノーコストです”

「だそうです」

「へー、良いわねこの魔法。コレから始まる夏の季節にぴったりじゃ無い」


 空調扱い…。あ、そうだ。リエルさんに魔術教えて貰うんだった。


「リエルさん、私に中級の魔術を教えて貰えないでしょうか?」

「中級魔術を?でも確かコスモの魔力じゃ使えないんじゃなかったかしら?」

「それがですね…」


 かくかくしかじか。


「ふぅん。良いわよ。何から教えて欲しい?」

「えっとですね、まずはやっぱり…」


………


 3日ほどミューちゃんのお父さんの容体を診て、問題無さそうと判断した私達は旅立つ事にした。


「マコさん、そして皆さん、この度は夫を助けて頂いて有難う御座いました」

「本当に助かった…礼らしき礼を出来なくて申し訳ない」

「いえいえ、大丈夫ですよ。お身体、お大事になさってください」

「お姉ちゃん達、ありがとう!」


 まだ多少の後遺症は残るものの生活するには不自由無い程度に回復したミューちゃんのお父さんやお世話になった人達に挨拶をし、村を後にした。

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