馬車購入
ピコット村の魔物退治が終わり、リーモアの探索者協会に帰ってきた私達。ムニとリューゼさんは依頼完了証書を持って協会の受付へ。リエルさんと私は荷車に乗せたホワイトパンサーの確認と査定をしに来る協会員を外で待っている。
「これだけおっきなホワイトパンサーなら結構な額行くかしら?」
「どうでしょうね?でもこの毛皮は高く売れそうです」
加工すればお金持ちの方々の大好きな剥製や、獣の形のままの絨毯、オシャレな白い毛皮のジャケット等に。お値段が凄い事になりそう。
「依頼料と合わせたら中々の大金になりそうね」
「そうですね。でも今回の依頼、ムニが居なかったらはっきり言って割に合ってないですよね」
「確かにね。あの量の魔物を相手にムニ抜きは考えたく無いわ」
村に居た魔物、10匹や20匹って数じゃ無かった。ムニが居なかったら1日じゃ終わらなかったかもしれない。
それにしてもあの村、家畜も全滅してたし農作物も軒並み掘り返されてたし、村民の人達帰ってきても元の様に立て直すの大変だろうな…
「あ、来たみたいよ」
リエルさんと今回の依頼について話してると、協会員が何人かやってきた。その内の一人がソロバンみたいなモノを持って話しかけてくる。
「お待たせしました…おぉ、コレは立派なホワイトパンサーですね」
「そうでしょう?査定期待してるわ」
「勉強させて頂きましょう」
そう言って協会員は荷車に横たわったホワイトパンサーを細かくチェックしている。
「状態が素晴らしいですね。殆ど傷も無いですし、これなら…」
と、ソロバンの様なモノを弾いて、それをリエルさんに見せる。
「んー、もう一声!これだけ状態が良いんだから…そうね、これぐらいでどうかしら?」
リエルさんがソロバンの様なモノをちょいちょいっと弾く。
「うーん、流石にそこ迄は…コレで何とか」
協会員がちょいちょいっと弾くとリエルさんがちょいっと。協会員が………と、値段の応酬が続き。
「うん、それで良いわ」
「ははは、上司に怒られそうです」
リエルさんは満足した顔だ。協会員は苦笑といった顔でソロバン?を片付けて、ホワイトパンサーを荷車から下ろす指示を周りの協会員に出し始めた。
「それで結局幾らになったんですか?」
「ふふふ、約200から250になったわ」
わぉ、2割以上も買取額を上げるなんて凄いなリエルさん。50万って稼ぐの結構大変だよ?
そんな感じで私達はホワイトパンサーのお金を受け取り、ムニ達も依頼達成の報酬を貰ってきた。そのお金を均等に山分けする。
『おぉぉ、大金が手に入ったぞ!コレだけ有れば充分…!いけるっ…!よし、リューゼ、この街の賭博場に案内するのだ!持ち金を倍にするぞ!』
「すっからかんになる未来が見えるが…」
『常勝のムニ様に敗北の2文字はない!』
「あー、はいはい。夜になったら案内してやるから、先に飯食いに行こうぜ?」
『飯か。良いな!』
「金もあるし良いもん食べようぜ。マコとリエルはどうする?」
「じゃあ一緒に行くわ」
「私も」
「決まりだな。早速行くとするか」
翌朝、宿の食堂のテーブルに突っ伏しているムニを見かけたが見て見ないフリをした。
………
今日は刺繍が完成したら見せると言う約束をしてたレイちゃんに会いに錬金術屋へ来た。お供は肩に乗ったヒムロだ。
カラーンカラーン…
「いらっしゃーい!あ、マコちゃんか。どうしたの皮鎧なんか着ちゃって。戦士にでも転職するの?」
レイちゃんが指摘した私が着ている皮鎧はこの間鍛冶屋さんに頼んだ奴だ。流石ドラゴンの皮。凄く丈夫で、それでいて軽い。着心地も問題なし。
「違うよー。ほら、この前魔糸買ってったじゃない?それの刺繍の出来栄えを約束通り見せに来たんだ」
「あぁー、こないだの!完成したんだね!で、何を作ったのさマコちゃん」
「へっへー、見てのお楽しみだよ。今、時間ある?」
「ちょっと待っててね。おとーさーん!ちょっと店を出るからお願いねー!」
カウンター奥に立てかけてた箒をもってレイちゃんが出てきた。この間私が作った新型の箒だ。大事にしてくれているようでなにより。
「ふふ、この箒、調子良いよ!とても一晩で作ったとは思えない出来だし。マコちゃん箒職人になれば良いのにー」
「はは、生活に困ったら作るかもね…あー、でも素材が無いか」
たまたま師匠の家の付近の森の奥にいい素材があっただけで、ブトゥバスの木やラルーの木は珍しい貴重な木だ。多分街で売ってるのを見つけるのは大変だし、買ったら素材代が高くついちゃうから利益があんまり取れないんだよね。
「それにしても楽しみだよー」
「ふふ、じゃあ行こっか」
…
店を出て防壁の外まで歩き、そこから箒に乗って草原に来た。
「じゃぁ早速見せるね」
「ワクワク!」
「先ずは、『翼展開』『浮遊』」
私が発動句を呟くと、背中から魔力で出来た翼が生える。それと同時に私の身体が地面から少し離れた。ふわーって感じだ。
「わぁ、浮いてる!でも何で翼が生えたの?」
「方向転換とか空中での動きを制御する為だよ」
「へぇー」
「それから、『飛翔』」
飛翔の発動句を呟いた瞬間、身体が上方向に加速する。その際に翼を羽ばたかせたり、片方だけ折り畳んだりして風の抵抗を上手く利用して空中を飛行する。
「おおー、凄い凄い!」
「あとは『加速』」
キュィン!と、服に刻まれた魔術紋様が反応して私の身体を更に加速させる。そのまま大回りにUターンしてきてレイちゃんの側まで来てゆっくりと着地する。
「凄い…カッコいい!」
「でしょー?」
「箒も無しに飛べるなんて私も欲しい!どんな魔術紋様なの?見せてもらってもいい?」
「いいよー。でもちょっと待ってね。皮鎧脱がなきゃだし」
皮鎧を脱ぐ。その下には魔術紋様が縫われた服。
「うわぁ、紋様がびっしり!よくこんだけ縫えたね?…この複雑なのが翼の紋様かな?で、これは…」
レイちゃんが私の周りを歩きながら服に縫われてる紋様を眺めてる。
「レビテーションや加速の仕組みは分かるけど、翼の操作ってどうやってるの?」
「足の動きに連動する様にしてるんだよ。足を曲げたら翼が閉じる…みたいな」
実は今日見せにくる前日まで、上手く操作出来る様に練習していた。慣れるまではちょっと怖くてぎこちない動きでしか飛べなかったけど、コツを掴んだら自由自在に空中を動き回れるようになった。本当は思考を読み取って動く翼にしたかったんだけど、それをするにはちょっと布面積と私の知識じゃ難しかった。
「足で?結構難しくない?腕じゃダメだったの?もっと操作のイメージがしやすいんだけど」
「腕は魔術を使う為にフリーにしときたかったんだよ」
「あー、飛びながら魔術も撃てるんだ。成る程ねー…しかしコレ、間違いなく売れるよ」
「売れるかなぁ?売るとしても身体にピッタリとフィットする鎧とセットで全部オーダーメイドになるから100万程度じゃ収まらない値段になると思う。紋様の刺繍間違えるとダメだから量産出来ないし魔石も上等なのがいるし」
「あー、そっか。服を抑える鎧も作んなきゃダメなんだ。うーん。新しい商品になるかと思ったけど…残念。でも自分の分は作ってみる!」
「そっか。そうそう、この部分に気をつけて作ると…」
「ふむふむ…」
レイちゃんと魔術具談義をしながら帰路につく。帰りは話しながらだったので歩きだ。
………
「マコじゃないか!おーい!」
「あ、ナターリアさん?」
こないだ討伐したドラゴンの査定が終わったという連絡が宿に届き、リエルさんと探索者協会に来ると、協会の中にはナターリアさんが居た。
「お久しぶりですね。今日リーモアに着いたんですか?」
「着いたのは昨日だね。いやー、リーモアへ来るのに馬車が止まっていてね。探索者達を集めてレンタル馬車で来るのに結構手間取ったんだ」
「あれ?ナワイカで箒買って来るって言ってましたけど結局馬車にしたんですか?」
「思っていたより箒が高かったのと、私の魔力じゃポサロからリーモア迄は持たないと錬金術屋の店主に言われてね」
「リーモア迄魔物がわんさかいたんじゃないかしら?」
「ひっきりなしに襲いかかってきたよ。まぁその為にメンバーを集めていたから一応何とかなったけど」
やっぱり中々大変だったんだな。あ、そうだ。
「今、私達と一緒にキョットーまで同行してくれる人を1人探してるんですけど、ナターリアさんどうですか?1日1万ルビで諸費用私持ちなんですが」
「キョットーか。良いね、私も一度は行ってみたかったんだ。喜んで同行させてもらうよ」
お、良かった。即オッケーくれた。コレでメンバーも充分集まったし、今日のドラゴンの報酬さえ受け取ればいつでも出発できるね。
「それじゃあコレから宜しくお願い致します…そういえばクロエちゃんは何処に?」
「クロエならそこのテーブルの下でご飯食べてるよ」
そう言われてテーブルを覗き込んでみると、クロエちゃんがうみゃうみゃ言いながらお魚を食べてる所だった。んー可愛いな。邪魔するのもなんだし覗くのをやめる。
それを見たリエルさんが呆れ顔だ。
「やっぱり猫増えるんじゃない」
「あはは…。私達、今からちょっとギルドで話があるので、先に宿の場所伝えておきますね」
宿の場所をナターリアさんに説明する。
「ん、分かった。じゃあ宿で待っているとするよ」
「はい、では後ほど」
そうしてナターリアさんと別れ、協会の受付に声を掛けると、お待ちしておりましたと奥に通された。そこにはお久しぶりのクライブさん。クライブさんの斜め後ろには秘書の人が立っている。
「よく来たな。まぁ席に座ってくれ」
勧められるままに着席。するとクライブさんから紙を配られた。
「早速だが、その紙に書いているのが今回のドラゴンの素材買取代から解体費用を差し引いた値段だ」
どれどれ?いちじゅうひゃくせん…おぉう、総額が億超えてる。
「内訳は2枚目に記載している。で、報酬の分け方についてはアビラタさんからは特に何も言われてないから均等に割り振って一人頭4250万ルビ。端数は切り上げてある」
「持っておくのが不安になる額ね」
「ドキドキしますね」
はー、師匠にほぼ全部任せっきりだったんだけどこんなに貰っちゃって良いのかなぁ?師匠の事だから何も言わないだろうけどなんか悪い気がするよ。
「この金はここを出る時に渡す。大金だから気をつけてくれ。何かあっても保証することは出来ないからな。あと、この買取額に対して何か質問が有れば聞くが?」
質問…?リエルさんと首を傾げ合い、
「いえ、特には」
「そうか。で、お前たち2人にこの街の領主からの手紙が届いている」
「手紙ですか?」
「領主から?」
クライブさんから手紙を受け取る。パッと見いたって普通の手紙だ。
「開けてみても?」
「あぁ、構わない」
クライブさんに開封して良いか確認し、手紙を開けてみると一枚の紙が折り畳まれて入っていた。書かれている内容は…つらつらと装飾された文章が続いて読みにくい。えぇ〜っと。
要約すると、
”ドラゴンを退治した武勇を称えたい。祝勝会をしたいと思っているので領主館に来てくれ”
そんな感じだ。
「えぇ〜、コレ、行かなきゃダメかしらね?」
「面倒くさいですね。パーティーとか望んでませんし」
「ははっ。領主としてはそのまま知らんぷりすると言う訳にはいかないんだろう」
「コレ、断れないかな?」
やっとリーモアを出発出来る準備が終わるって時にまた数日足止めくらうのもなぁ。それにパーティーって上流階級な人達がウフフオホホする所だよね。一般庶民の私には絶対合わない。
「別に良いんじゃないか?招待有難う御座います。今回は都合が合わず、参加を辞退させていただきます、とか手紙書いておけば。向こうも誘ったって言う建前が有れば充分だろうし」
「そうですか?じゃあそうします」
「早速書きましょうか。クライブさんに渡せば届けてくれるんでしょう?」
「あっさり決めたな。あぁ、届けるよ」
サラサラサラっと、不参加の旨を伝える手紙を書き上げる。
「じゃあコレで話は全部だ。カミュ、金を渡してやってくれ」
「かしこまりました」
カミュと呼ばれた秘書さんには袋をそれぞれ手渡される。
「その袋の中に今回のドラゴンの素材代が入っている。中身を確認してくれ」
そう言われて袋を覗き込む。ひぃふぅみぃ…うん、ちゃんと4250万ルビ入ってる。
「確認しました」
「じゃあコレで要件は終わりだ。もう帰っていいぞ」
「クライブさん、ありがとうございました」
「あぁ、気をつけてな」
どうしよ、宝くじに当たった気分。何につかおうかなぁ?
…
そのまま探索者協会を後にし、宿に帰ってきた私達。そこではリューゼさんとムニ、ナターリアさんが食堂のテーブルで談笑していた。あれ?まだナターリアさんの事2人に紹介してないのに…?
「ただいまです」
「マコか。お帰り」『おかえりー!』
「リューゼさん、ナターリアさんと知り合いだったんですか?」
「あぁ、ナワイカの街で元々な。同じCランクだし、一緒に依頼を受けた事もある」
「成る程、そうですか」
ナターリアさんCランクなんだ。…リエルさんやムニもCだし、この中で私だけD。なんだか負けた気分…
「そろそろリーモアも出発するんだろう?次の目的地のタキアまではまた馬車で2日は掛かるから何を準備するか話し合ってたんだ」
『食料だろうー?あと食料とかー』
「…レンタル馬車借りなきゃ駄目ですね」
この街に来る、もしくは出て行く乗り合い馬車は魔物の氾濫のせいで現在運行を休止している。商いをしてる馬車なんかは護衛をしっかり雇って行き来しているらしいけど。
「マコ、いっそ馬車買っちゃえばどうかしら?」
「え?でも買った方が高くつく気がしますが」
「レンタル馬車って、ボロいしなんか汚いのよねぇ」
「まぁそうですが。うーん、馬車って幾らぐらいなんだろう?」
「さぁ?リューゼは知らないかしら?」
「流石に馬車を買ったことはないからな。多分4.5百万って所じゃないか?」
思ったよりは安い?そんなもんなのかな?まぁリューゼさんも多分って言ってるし実際は分からないか。
「それぐらいならまぁ…売ってる所へ見に行って見ましょうか」
『あたしも行くぞ!』
「はいはい。後、誰かついて来ますか?」
「私は行くわ」
「俺はパス」
「私もここで待っているとするよ」
ムニとリエルさんと私で見に行くことになった。ムニはワクワクした顔で小躍りしてる。こないだすっからかんになって凹んでたのにもう元気だな。
「じゃあちょっと行ってきますね」
「あぁ、こっちはこっちでアレコレ準備しておくとするよ」
宿を出て、街の人達に聞き込みながら探し、馬車を売ってる店にたどり着いた。結構大きな店だ。入り口に入ると店員さんがこちらにやってくる。
「いらっしゃいませ。本日は馬車をお買い求めでしょうか?」
「はい。どんな馬車があるか見せてもらいたいです」
「分かりました、こちらへどうぞ」
店員さんに連れられ、馬車が置いてある大きな倉庫に案内された。
『いっぱいあるな!』
「それぞれ結構違う形してるわね」
「そうでしょう。色んなサイズや形を取り揃えております。こんなのが欲しいという要望が有れば見繕いますよ」
「大体6人ぐらいが余裕を持って乗れて、揺れが少ない馬車があれば欲しいですね」
揺れが少ない、コレ大事。馬車乗るとお尻が痛いんだよね。酔うし。
「そうですね〜…少しお高くはなりますが、此方の車体はどうでしょう?8人ほどが乗れるサイズで、車輪と車体の間に衝撃を吸収するバネが付いているので振動が少なくて快適かと思います」
「へぇ、悪くないんじゃない?」
「因みにお値段は?」
「はい、此方の車体は800万で御座います。それとウチで扱っている馬1頭の値段が50万からといった所ですね」
800万+αかぁ。ちょっと悩む所です。
「リエルさん、どうしましょ?」
「そうねぇ、店員さん、少し安くなったりしない?」
「この車体の値引きは出来ないですね。申し訳有りません」
「そう、残念ね。マコ、他に見ておかなくて良いの?」
「他に揺れを軽減するバネが付いた車体は無いんですか?」
「お客様の条件に合う車体はこの1台ですね。バネの無い車体なら何台か見繕えますが」
「うーん、じゃあこの車体にします」
「お買い上げ有難うございます。後は馬ですね、案内致します」
倉庫をでて今度は厩舎に案内された。
「此方の厩舎に居る馬は2種類です。パワーなら向かって左側の列のゴルツ種、スピードなら右側の列のラギア種、どちらも一長一短有ります。お客様の車体を牽くにはラギア種なら2頭。1頭で牽くのでしたらスピードは出ませんがゴルツ種をオススメ致します」
「遅いのはダメね。2頭立てで行きましょう」
「そうですね。道中あまり時間掛けるのも嫌ですからね」
『どの馬にするか、あたしが決めていいか?』
「いいけれど…ムニ、馬の良し悪しが分かるの?」
『一応な』
「じゃあお願いね」
『任された!』
ムニが真剣な顔で順番に馬達を見て行く。厩舎の端まで行って帰ってきた。
『その馬と、あの馬を頼む』
「はは、お目が高い。確かにウチの馬の中でも若くて元気で忠実な馬です」
「そうなんですか?因みにお値段は?」
「この2頭合わせて240万の所200万でお売り致しましょう。サービスです」
ピッタリ1000万。中々高い買い物だったけど、長旅してるうちに元が取れると考えよう。
店員さんに代金を支払い、早速馬達を車体に繋げて貰って、馬車に乗って…あ。
「リエルさん馬車の操縦できます?」
「…やったこと無いわ」
「ムニは?」
『操縦はしたこと無いな。馬自体には乗れるが』
「す、すみませーん、店員さん、宿まで馬車を運転してもらえないでしょうか?」




