身分証
『しかし今の世は物が溢れているな!昔にはこれ程の装備は店に置いて無かったぞ!この見た目に肌触り、紋様の細かさ、素晴らしい!』
山を降りてムニの服や防具をリーモアの街を回って揃えました。服、靴、下着から始まって、ブレストアーマーや籠手、額部分に金属が誂えられた鉢金など、ムニは刀を使うという事でちょっと和風な装備で統一してみました。あーでもないこーでもないと一通り装備を揃えてお値段総額約80万ルビ。
『今回借りた金はちゃんと身体で返すからな!』
「言い方を気をつけてください。取り敢えず暫く私の護衛をしてくれればそれで良いですよ」
「ムニが仲間に入ってくれれば安心ね」
『あぁ。豪華客船にでも乗ったつもりで居ればいいさ』
「それ逆に不安ですけど」
冗談を交えながら宿に帰り着く。1階の食堂にはリューゼさん他数名がテーブルを囲んで話をしながら酒を飲んでいる。
「ただいまリューゼ」
「リューゼさん只今です」
「おぅ、おかえり!どうだった大岩は?迸る魔力の渦と、封印の〆縄が相まって中々迫力があっただろう?」
魔力の渦?見なかったけど…それどころじゃ無かったし。
「ん?後ろの白い可愛い子はどうしたんだ?」
『可愛いとは嬉しい事を言ってくれるな』
「ん?ツノがある…亜人…?あ、まさか!」
「多分そのまさかよ」
「でもイメージと違って良い妖魔ですよ」
『ムニって言うぞ。よろしくな』
「あぁ、こりゃたまげたな。オレはリューゼだ」
ムニとリューゼさんは握手を交わしている。
「ムニはその腰と背中に背負った剣で戦うのか?」
『そうだ。一度に使うのは1本だが、状況によって使い分けている』
「今度手合わせしてくれよ。大妖魔の力ってのに興味がある」
『いいぞ。お安い御用だ』
リューゼさんって試合大好きだよね。前もヒムロとやってたし。
『所でリューゼ達が飲んでいるのは酒だろう?あたしにもくれないか』
「お、いいぞ。ほら、飲め飲め!」
『遠慮なく!んぐっ、んぐっ、んぐっ、プハァー!いや、この時代の酒は雑味が少ない洗練された味で実に美味い!』
「いい飲みっぷりね。私も飲もうかしら?」
「…飲み過ぎない様にしてくださいよ?」
私は遠慮して、部屋に戻って刺繍の続きをしよう。
………
チクチク…チクチク…チク。
色んな角度から眺めつつ、魔術紋様や魔石の位置に失敗がないか確認です。
ふうっ、問題ないかな!
特にミスは見当たらず、この服が予想通りの性能を発揮してくれる事を想像して顔がちょっとニヤけます。だって、箒もなしに空を飛べるかも知れないんです!
始めはレビテーションの紋様だけ縫って緊急事にプカーって浮けるようにするのが目的だったんだけど、色んな魔術書や論文を見るうちに物足りなくなっちゃってアレもコレもと…結果的に中々の大作が出来上がりそうです。
でもそのおかげでまだ工程は半分という所。一先ずはここで中断、そろそろご飯の時間だ。
「ヒムロ、サクヤちゃん、ご飯にするよー」
晩御飯を食べに一階の食堂に降りるとまだ皆飲んでいる様だ。
まるで酒場の様な状況に給仕さんも困ってる様子。でも私には関係ないと給仕さんにご飯を頼む…今日は生姜焼き定食でも食べよう。ヒムロ達にはお魚だ。
すぐお魚が届いたのでヒムロとサクヤちゃんの前にお皿を置く。
『有難う御座いますマコ様』
丁寧なサクヤちゃんのお礼ににっこり。頭を撫でてお魚どうぞと促す。
『リューゼ、お主そんな筋肉の事ばっかりでは嫁の貰い手がないぞ?』
「うっせぇ。それに嫁の貰い手って間違ってるだろ、俺は男だ」
「顔は良いのに筋肉ばかりじゃねぇ」
「別に普通の話もしてるだろうが」
『リエルは彼氏とか気になる奴は居ないのか?』
「えー?居ないわねぇ。やっぱり彼氏にするなら…」
…
そんなBGMを聴きながらヒムロ達を眺めてると、程なくして生姜焼き定食が到着したのでいただきますをして食べるとする。今日の晩御飯も中々美味しい。
『マコはどうなんだ?気になる異性は居るのか?』
「んー、いますよー」
『恋する乙女発見!して、そのお相手は!?』
「いやぁ、こっちの世界ではなくて異世界…多分今も日本にいると思われる私の先輩です。こっちに来た時に頭でも打ったのか顔ぐらいしか思い出せないんですけどね」
『おや、マコは彷徨い人なのか』
「そうです。日本に帰る方法を探す旅の途中です」
『成る程な、そうかそうか。そりゃ手伝ってやらねばな!』
「有難う御座います」
「そういえばマコ、貴女の魔導書見せて貰っても良いかしら?」
あぁ、そういえばそんな話してたなと、ショルダーバッグからコスモを取り出して渡す。
リエルさんがひっくり返したり広げたりしてコスモを検分する。
「ふうん、もっと表紙とかに魔術紋様が描かれたりしてるもんかと思ったけど、変な鍵穴があるくらいで他には何もないのね」
「そうなんですよね、始めの頃に何かヒントが隠されてないか調べようとしたんですけど、むしろ鍵穴がある事と魔術と意思疎通が出来る事以外は何もない事が分かったというか」
『鍵か。あたしのコレクションにもそれっぽいのはないな』
まぁ見せた所で何か進展するとは思ってなかったけど。
さぁご飯も食べ終わったし、お風呂入って寝ようかな?あれ?この宿お風呂まだやってたっけ?
………
『今の世にはこの様な所があるのだな!』
「ここは探索者協会って所ですよムニ」
翌日、ムニの身分を証明するものをゲットする為にリューゼさんと私とヒムロ達を連れて探索者協会へやってきた。リエルさんは魔術師協会へ行くという事で別行動。
受付の女性にムニの登録がしたいという事を告げると登録用紙を渡される。
『これを書けばいいのだな?』
紙を受け取ったムニはサラサラっと記入していく。へぇ、100歳超えてるんだ。ムニの種族は長生きなんだな。
「はい、コレで大丈夫です。あと飛び級制度というものがありまして、試験を合格すれば最初から高ランクになる事も出来ますが受けられますか?受けられない場合は始まりのFランクからとなります」
『その試験とやらはチャンバラか?』
「筆記と実技…実技の内容は模擬戦となっております」
『筆記…今の情勢に疎いが…まぁ受けてみるとするか!』
「では先ずは2階の部屋で筆記試験を受けてください」
…
「正解は6割程、ギリギリ合格と言った所ですね」
『ふぃー、常識問題が多くてなんとかなったわ』
筆記で合格をもぎ取ったムニ。そのまま実技もするという事で、皆で連れ立って訓練場へ。
「試験官を連れてくるのでここで少々お待ち下さい」
「ムニ、待ち時間の間手合わせしようぜ!」
『いいぞ。ちょっとまってろ。そいやっ!』
ムニの正拳突きで空間に穴が開く。いきなりの事にリューゼさんがびっくりしてる。そりゃびっくりするよね。
『えーと確か、この辺りに…コレでいいか』
ムニが空間の穴から取り出したのは全長1メートル程の短い刀。鞘から抜いたその刃を見ると…
「竹光?」
『そうだ、これは竹光だ。だが、ただの竹光ではないぞ?昔、とある月から来たと言われる姫君が幼少時代にベッドとして愛用していた魔力の籠った竹を削って作られたものでな?切れ味は無に等しいがコレで切ったりした物には光の残滓が残るという能力がある。名付けて竹光『チクビカリ』だ!』
ネーミングセンス!
『さぁリューゼよ!貴様の胸鎧に光るチクビをつけてやろう!どっからでも掛かってくるがいい!!』
「なんて凶器だ…」
恐れ慄きながらリューゼさんが斬り込んでいく…
…
「お待たせしました…そちらの方はどうされたんですか?」
リューゼさんが四つん這いになってプルプル震えているのを見て受付のお姉さんが首を傾げている。
『気にすることはないぞ。さぁ実技とやらを始めようではないか』
「はぁ、そうですか。ではクライブさんお願いします」
「待たせたな。ちょうど良い奴が居なかったから俺が相手をする事になった。宜しくな」
この探索者協会のギルドマスターだ。試験官もするとか中々大変だな。
「模擬戦ということで、両者殺傷能力のない武器にて戦って頂きます。ムニ様は…竹の剣ですかそれは?折れてしまいませんか?」
『大丈夫だ、打ち合うつもりはない。で、勝負は一本取れば良いのだな?』
「ほう、勝てるつもりか嬢ちゃん?コレでも俺は現役時代…」
…
クライブさんが四つん這いになってプルプル震えている。
「こ、コレはいつ消えるんでしょうかムニさん…」
『一週間ぐらいだ。それまではお主の胸鎧には光るチク…ぷっくくく』
ギルドマスターであるクライブさんを圧倒したムニは晴れてCランクという事になった。Bランクからはもっと難しい筆記試験と、数ヶ所の街の協会の賛同が必要なのでBランク以上になるのは結構大変らしく数が少ないらしい。
「ふふ、ムニ様の剣捌き、見事でした。こちらが協会員の証となります」
『うむうむ』
「あら、もう終わったの?」
そこへ丁度リエルさんがやってきた。
『リエルか。ほれコレをみろ。あたしも探索者だ!』
「どれどれ?へぇ、いきなりCランクなんてやるじゃない!」
『だろ?頑張ったからな!』
「…所でリューゼ。何で胸に手を当ててるの?」
「聞いてくれるな…」




