バスツアー
本日は当社オリジナルバスツアーにご参加いただきまして誠にありがとうございます!
今回のツアーの目玉は、ピチピチもぎたて!魂刈りでございます!!
魂は食べ放題でございます!
ただし時間制限は20分、活きの良い、美味しいものを選んでお召し上がりくださいね。
本日の日程をご説明いたしますね。
まず、今から血の池地獄に行って、悪い魂の情けない声を聞きに行きます。この所ずいぶん弱気な魂が増えましてね、ずいぶん後ろ向きで自己嫌悪に包まれてますけど、それなりに不協和音が楽しめると思いますよ。
つぎに、ちょこっとおやつの差し入れがあります。こちらは生きてる人間の愚痴を丸めたドロップですね。ちょっとしたおやつで申し訳ないんですけど、お口直しにお配りします。
おやつの後は、いよいよお待ちかねのもぎたて魂食べ放題です。こちら、通常の魂としては少々不出来なものを刈り取って、生きる資格のなかったものをまとめて収穫したものでございまして…。いえいえ!十分食べることはできるんですよ?ただ、見た目や傷がついてましてね、生まれることができない魂なんですよ。それをテーブルに積みますので…ナイフで魂の表面に切れ目を入れてですね、くるっと回していただけましたらジューシーな魂の中身が食べられますので。おなか一杯食べてくださいね。
そのあとは、エンマ大王実演の舌引っこ抜き見学です。こちら、なんとじゃんけんで勝った方に、嘘つきの二枚舌をプレゼントするとのことですよ!!ぜひともゲットしてくださいね!!
最後に、お土産袋をお渡しして、本日のツアーは終了となります。お土産袋はですね、人間の恐怖、欺瞞、妬み、恨み、悲しみ、怒り、そういった感情がランダムに3キロ入っています。何が当たるかはお楽しみですけど、そうとうお得な詰め合わせとなっておりますよ!!
あ、そろそろ第一チェックポイントにつきますね、皆様バスを降りる準備を‥‥!!!
ギーキキ―――――!ぐわっしゃああああああああん!!!
バスとバスが、衝突事故を起こしてしまいました!!!申し訳ございません、お怪我はございませんか?!少々確認いたしますので、このまま皆さんはご乗車になってお待ちください!!
「ちょっとちょっと!!何ぶつかってきてるんですか!!」
「そっちこそ!!バスレーンの割り込みしないでくださいよ!!!」
むむ。相手は天使のバスツアーか。めんどくさい事になるかも。
両車のバスの荷物入れが衝撃で開いてしまって、相手のバスの荷物と混ざってるじゃないか!!
「ちょっと!!うちのお客さんに渡すお土産がぐちゃぐちゃになっちゃったじゃないですか!!」
「うちのお土産だって混ざってるんですよ?!なんてことしてくれたんだ!!」
ううーーー!!
あ、警察が来た。
「まあまあ、両方ともけがはなかったんでしょう、荷物を分け合って、穏便に済ませたらどうなんです。」
時空警察は厄介だからな。ここは折れるか。
「「わかりました。」」
天使の方も妥協したみたいだ。
「うちの荷物はツアー参加者42人分。」
「うちは49人分ですね。」
向こうさんの荷物も、こっちの荷物も、同じ袋に同じ量が入っているようだ。中身は多少違うけど重さが同じなら、文句も出るまい。…そもそも福袋仕様だから、中を開けて確認できないんだよ!!
「「じゃあ、お互い良い旅を。」」
少々のハプニングに見舞われはしたものの、無事ツアーは終了した。
…このツアーが、悪魔ツーリスト社の運命を変えた。
目の前には、この前事故った天使ツーリスト社の天使。
「やあやあ、どうも、この前はお互い大変でしたね。」
「いやあ、またこうして相見えるとは思いもしませんでしたよ。」
あのツアー後、お客様の声が殺到したんだよ。また行きたい、お土産が良かったってね。
「「なかなかの好評をいただきましてね。」」
悪魔と天使の声がハモった。
「情け、慈善、涙、愛、希望、勇気。これが意外と悪魔の皆さんお気に入りみたいで。」
「恐怖、欺瞞、妬み、恨み、悲しみ、怒り。これが意外と天使の皆さんお気に入りなんですよ。」
天使と、契約書を交わす。感情の取引契約書だ。福袋の中身をお互いやり取りしようという契約。
「普段触れることのない感情が、大変に心地いいというか、刺激になるんですねえ。」
「真反対の感情が、飛び切りのスパイスになるようですよ。」
悪魔の方は、こうだ。
情けをかけて、魂を刈り取る。
慈善をふりまいて、魂を刈り取る。
涙で誘って、魂を刈り取る。
愛をうたって、魂を刈り取る。
希望を見せつけて、魂を刈り取る。
勇気を出させて、魂を刈り取る。
それに対する天使はというと。
恐怖に震えさせたのち、愛を与える。
欺瞞に溺れさせたのち、愛を与える。
妬みに囚われたのち、愛を与える。
恨みに凝り固まらせたのち、愛を与える。
悲しみに包まれたのち、愛を与える。
怒りに狂ったのち、愛を与える。
「ただ刈り取るだけの毎日がね、潤ったんですよねえ。」
「ただ与えるだけだった毎日がね、潤ったんですよねえ。」
お互いに、ハンコを押して、契約成立。
「「どうぞ、これからもよろしく。」」
相反する存在として敵対関係の長かった天使と悪魔ではあったけれども。
なかなかどうして、共生の道が開けてきたようだ。
この流れがどう人間界に影響するのかはわからないけどね。
いがみ合ってやっていくよりも、やっぱり仲良くお互いの良い所を認め合っていくのが一番だよ。
「天国ツアーの企画、出してみるかな。」
俺はまっさらな企画書に、ペンを走らせた。