第26話 シエラ先生の特別レッスンその4
まだ日付は変わってない!せふせふ!
「不死者が出たということでダンジョン立ち入り禁止になったそうですね。」
「はい……とても悲しいです。せっかく順調だったのに…不死者ってなんなんですか!?私のダンジョン探索の邪魔をして!なにがしたいんだあいつら!絶滅しろ!」
不死者が出たということでユグ裏ダンジョンが封鎖になった次の日、私はシエラ先生の授業を受けながら荒れ狂っていた。算術の授業だったけどもうどうでもいい。
ちなみに『60回連続で20%のドロップが出ない確率はいくつでしょうか?』という何か悪意を含んでいるとしか考えられないような問題だったが。
最後の計算はしなくっていいから考え方だけ学びましょうね。だってさ。
『アーシャ様の冒険はいい勉強の材料になりますねえ。』ってぜんっぜん嬉しくないよ!
というわけで、そのドロップが出ない場合の確率の絶望的な数字を聞いた後不死者の話題になったのだ。そこで冒頭の会話に戻る。
「まあまあ、そう興奮しないで。汚い言葉遣いもダメ。可愛いアーシャちゃんが台無しですよ」
「うぐぐ。でも腹が立つのです。あいつらは何なのですか!」
「そうですね、まあアーシャ様は一国の姫君なわけですし、そろそろ知っていてもいいでしょう。算術の授業はここまでにして歴史の授業に移りましょう」
「歴史……ですか」
「そう、歴史です。そもそも不死者を語るとするならば神代の更に前の時代に遡ります。」
「神代の前?ですか?」
「そうです。何時ごろから、どうなってと言うのは判明していませんが、かつてこの世界の上空には巨大な浮かぶ大陸があり、そこには死は存在しませんでした。その代わりに成長も進化も繁殖も……食事の概念すらなかったのです。つまりそこに生き物が住んでいるだけ。彼らは一体何をしていたんでしょうね?」
「うーん?やることなくって退屈そうですね?」
ご飯も食べないし強くもなれない。
その時の人たち何やってたんだろ?毎日本を読んだり歌でも歌ってたのかな?
いや、本に使われるのは羊皮紙や、木から作られた紙だ。
たぶん動物も木も切ったりしてないんじゃないかな??すると本も書けない。
ほんとその人たち何やってたんじゃろ?
「考えれば考えるほどやることなさそうですね……」
「まあそのことは良くわかりませんよ。兎に角そこに住んでいた人たちのことを不死者と呼びます。そしてその不死性は他人、というか他の生き物にうつるのです。感染すると言った方がいいでしょうかね?」
「はあ。不死になる?」
不老不死ならいいことなんじゃ?
私はよく分からないけどそういうのを追い求めて破滅するってお話は聞いたことがある。追い求めるってことはいいものなんじゃないの?
「不死に成るといってもあんまりいいものではありませんでしたがね。兎に角、そこの大陸が事故か何かで墜落したのですよ。それからかつて地上に住んでいた神々とその不死者たちとの長い闘争の歴史の始まりでした。戦いの余波で世界は荒れに荒れました。天は裂け、地は枯れ、海は干上がり、そしてその海水が雨となって洪水を引き起こし……まあ天変地異とはこの事か、というようになったそうです。」
「ええ……でもそれっていいことなんじゃ?死ななくてすむんでしょ?」
「そうでもありません。不死者のことは様々な文献にも残っていますし、時折遺跡などから発見されることもあります。生きた状態での不死者の発見例もありますよ。そうして研究して自ら不死者になった方もいるそうですが、ほとんどが知性を無くして化け物になったそうです。それから、極々一部だけは知性を持ったままだったそうですが―――」
「おお!当たりを引いたんですね!」
「―――いいえ、我々にとっては大ハズレです。どの個体も災厄としか言いようのない被害をもたらしています。街ひとつで済めば代償は軽いほうですね。最悪のケースでは国が3つほど消えました。『テンペスの悪夢』と呼ばれています。」
「テンペス。聞いたことあります。昔の授業で……ええっと、テンペス王国というところで国王が秘密の研究をしていて……えーっと、それで隣国が2個つぶれたと」
「そうです。途中は抜けていますがまあいいでしょう。授業の時はまだ不死者のことを秘密にしていましたが、正確には国王が不死化の研究をして無事に不死者になりました。その後国民をどんどん不死者にしていって不死者の軍勢で隣国を攻め滅ぼしたそうです。」
「それでどうやって倒したのですか?」
「下位の不死者はただ死なないだけです。手足を切り落として燃やせば居なくなりますよ。」
「ん??」
そー言うのなんか聞いたことある。
アレは確か13層くらいの時に……そういえばボス部屋の蟷螂もクモも変な模様だったような気が。
「もしかして不死者って変な模様してます?」
「そうですね。下位の不死者は斑に気持ち悪い模様をしています。私も軍で……おっと、これはさすがに機密事項です。聞かなかったことに。兎に角、対策としてはですね、手足を切り落として燃やします。それがいちばん簡単な対処法です。」
おお。つまり私達のやったことは別に間違ってなかったようだ。セーフ!
「ところが上位の不死者は再生能力がありまして。手足を切り落としても燃やしてもじわじわ復活します。こういう個体は一部の聖属性魔法でしか浄化できません。もしくは封印です。特殊な結界に閉じ込めるとか、あるいは封印術を使うとか。物理的な封印や幽閉が有効な場合もありますね。」
「じゃあアレはやっぱり不死者だったんだ。」
「15層で出会った個体ですか?」
「いや、その前だったかな?13層くらいだったと思うんだけど変なクモがいてね。プリンちゃんが頭フッ飛ばしてもまだこっち来たから気持ち悪くって。カリナが矢を打ち込んで、私がライトニングボルトを撃って、まだ動いてたから気持ち悪くって燃やしたの。いやあ気持ち悪かったなあ。」
「ふむ…それは一応報告を上げたほうが良いですね。国王様と王妃様に相談してまいります。今日の授業はこれまでという事で。後は自分たちで自習しておいてください。」
そういうとシエラ先生はパタパタっと出て行ってしまった。
残されたのは私と後ろで聞いていたカリナ。それにさらにその後ろ、ベッドの上で本を読んでいたプリンちゃんだ。
私達は急に自習といわれてもする事がないから、組み手をして牛乳パーティーして遊んだ。
そしてその晩、とても残念なお知らせが。
昨日から潜っていた調査隊の手によって、ユグ裏ダンジョンのあちこちに不死者の痕跡が認められたらしい。ユグ裏は完全立ち入り禁止。それも数年になりそうだって。最悪だよもう……
読んでいただいてありがとうございます。
次回からはまた少し時間が空いて、学園編になります。
そろそろ記憶を戻したい。




