第44話 解放の日
「いやあ、ダンジョンボスもたいしたことなかったですね!」
「そ、そうっすねユリアンヌさん」
ユリアンヌちゃんとエルさんが感想を言い合っている。
でも何故かエルさんのほうが敬語だ。何故かというか大体理由は分かるし、チンピラみたいな敬語だけど、敬語は敬語なのだ。
60層のボス部屋はイカさんを倒したあと、サーっと水が引いていった。
イカさんのドロップはよくわかんない鎧だった。いかにも水属性が付与されてそうな感じのきれいな藍色の鎧だったのだ。ただしゴツイ全身鎧で、まあ私達の体型には全く合いそうにない。
そうだ、売ろう!売って金に換えよう!って感じだね。
水が引いた部屋を見渡すけど、ダンジョンコアが見つからない。
あっれ?コアはどこだ?ってああ、あの奥の小部屋か。
ボス部屋の奥にもう一つ小部屋がある。
コアが水没しちゃうから小部屋においてあったのかな?今迄ダンジョンを攻略してきてこんな作りは初めてだなあ……って2回目だけどね!
「ごめんくださ~い」
「おう、おじょうちゃんいらっしゃい。」
「いらっしゃい、アーシャ様」
そこに居たのはコタツに入った男女…というよりおじいちゃんと孫娘のような二人だ。
「あっれえ?58層だっけ?で会ったお二人さんじゃん!」
「お久しぶりねえ」
「えーっと、あの時から思ってたんだけど、前にどこかで会ったことあるっけ?」
「あるじゃろ!ほれ!わしとお前さんはマブダチじゃろ?ほれアレじゃよアレ!アレじゃアレ!えーっと?なんじゃったっけ??」
「うーん…?おじいちゃん?ご飯はさっき食べたでしょ?」
「そうじゃったかいのう?ワッハッハ!」
「ウフフ、懐かしいわねえ」
「ハハ。そうだね。昔を思い……出せないけどこんなことあった気がするなあ」
私達はなんだか気が合うような?
とりとめもない話で盛り上がっている。
この人たちなんでこんな所にいたんだろうなあ?って疑問はあるけど楽しいからいいか。
「アーシャちゃんの知ってる人?」
「女性の方はパーティーでお会いした方ですね。ご老人のほうは存じ上げませんが。」
「あの時女性の方とは親しそうにお話されておられましたよね。長年の友人のようでした」
カリナたちが何かいってるけどあんまり聞こえない。
んでも確かに昔っからの知り合いのような気もするし、そうでもない気もする。
夢で見たことある気もするしそうでもないような……?
「そうじゃろうそうじゃろう。さあ、そこのコアに触れるがよい。そうすればおぬしはまた自分を取り戻すじゃろう。その後どうするかはまた好きにすればええ」
おじいさんの指差す方にダンジョンコアがある。
っつーか、部屋の置物みたいになってて気付かなかった。ここまでナチュラルに部屋を改造するとはジジイやりおるな!
「じゃあさわっちゃうぞー?でもなんだか緊張するなあ」
「なにがじゃ。これの為に来たんじゃろうが。」
「そうね、コアを触って取り戻すのでしょう?」
「うん。そうだった。」
「コアを触った後のことはその時考えればいいんじゃない?私としては貴女は貴方のヤりたいようにヤればいいと思うわよ」
なんだか美人のお姉さんが言うと卑猥な響きに聞こえるなあ。
それにしても、私の好きにしていいって言われても困っちゃう。何がどうなるかすらわかんないのに、好きにしろっていわれても……?
でもまあ、確かにこのために来たのだ。私は、私を取り戻すのだ!
「まあいいか。アーシャいっきまーっす!」
コアをペチっとタッチ!
その瞬間、またしても私の世界は反転したのだった。
―――おかえりなさいマスター
―――完全解放に必要なマナの収集が終わりました
―――解放処置に同意されますか?
―――ああ、またここだ。
三度目の真っ白な部屋。俺は―――いや、『私』だ。私はまたここに戻ってきた。
コアに触れれば記憶は取り戻せるのだ。
なくした記憶、なくしたままのほうがよかったかもしれない記憶を。
そして目の前の石版には『解放処置に同意されますか?』の文字とその下に『はい』『いいえ』の選択肢が並んでいる。ちょっと悩む。私が私じゃなくなるような気もする。それに前のときはひどい目に会ったのだ。でもまあ、折角ここまで来たんだしなー。
「まあいいや。えい!」
『はい』をぽちっ!とその瞬間!
「あばばばばばば」
前にもあった。脳味噌に直接情報をインストールされているこの感覚。とーっても気持ち悪くて気持ちよくって。
焼き切れそうとか、痛いとかそういうんじゃない。
色んな感情をごちゃ混ぜにされてしまう。
苦悩と快楽を。不安と歓喜を。興奮と憂鬱を。
そして大切な人との出会いの喜びと別離の悲しみを。




