第43話 びりびり
イカを見て以降、わたしはすっかり食べることに気をとられていた。
イカ焼き、イカソーメン、イカメシ……ってイカのてんぷらを忘れていたじゃないか!
私としたことが……ぐぬぬ。
でもまあ、あのイカさんは食用は無理だな。
どう見ても大きすぎるし、一夜干しなんてとても干しきれなさそう。身はあんまり締まってなさそうだし…うまいのか??
うーん、落ち着いて周りを見てみればたしかにかなり大きなイカにエビ、カニ、タコ、鯛やマグロにヒラメにフグと美味そうな海産物ばっかりだ。
食べれりゃ言うことないけど全部まずそうな真っ黒に紫の斑点じゃないか!ダメダメだ!
あんなの食べる所を想像するやつはアホだ!私だ!ええい!
「おのれ!食い物の恨みは怖いぞ!」
「ギグガァ!?」
「うるっさい!くらえーい!」
私は八つ当たり気味に近くにいたタイを銛でブスッと。
タイといっても大きい。2mくらいあるぞ!
これで刺身を作ったら一体何人分に…だー!食べ物から離れろ!
「フレアストーム!」
ボンッという音とともに影も残さす蒸発するタイ。くっそうもったいない!
「みんな!いつもの形で!ボーっとしないで行くよ!」
「いちばんボーっとしてたのはアーシャちゃんだよ!水中なのに器用にヨダレ垂らして!」
「でもそんなアーシャ様もステキです!」
「あ、ありがと!いくよ!?」
またおかしな流れになりそう。もう最近こればっかりだ。
誰だユリアンヌちゃんをぶっ壊したのは!もう許さん!
「どっせーい!」
ボスのイカさんに怒りの鉄槌攻撃だ!
私の全体重と魔力を込めた打ち降ろし攻撃!でも、ぼよんって感覚があって後はヌルンだ。
ありゃ!?と思ったら銛は岩に突き刺さり、イカさんは無傷。やっべ!抜けない!
何とか抜いて距離をとろうとする私に向かってイカさんの墨攻撃が!
やべっ、避けられな……ブシュウウウ!
「ぶへっ!なにすんだこの…このイカや…あびゃびゃびゃ」
おかしい。なんだこれ。力が抜けてヘロヘロに……
なんだか力が抜けた所をイカさんに捕まった。抜けないと!魔力を練って……魔力…ありゃ?
ありゃ、なんだかいつもの『纏い』まで切れていく。これはやばい。何だこりゃ……
「アーシャ様!」
「ああ!あれは魔力吸いです!」
「まりょく…すい…?」
「違います。吸われるんです!墨にどんな効果があるのかと思ったけど魔力吸い(マジックドレイン)ですよ!助けないと!」
ユリアンヌちゃんの特製ウォーターカッターが私を捕らえるイカ脚を襲う。
全体に丸い形で、トゲトゲのあるやつをものすごいスピードで回転させて投げる。そしてそのカッターがイカ脚をスパンッ!と切断して私は解放された。
解放されたけど、でも……
「らめらあ…力が入んらいよお」
「魔力切れですよ!おのれ私のアーシャ様になんて事を!」
「わらしはカリナの物じゃ……」
「私のアーシャ様は黙っててください!プリンさん!早く!」
(分かってるプル!)
プリンちゃんは私を包むと、ミルクをいっぱい口の中にドババババっと流し込んだ。
「ほれミルクじゃ……ひょっとまっれ。こんらに飲めらい。ごほっ、ごぼぼぼぼ」
(我慢して飲むプル)
「ゲホッ、ケホッ……いきなり何を…!?」
(ちょっと楽になったプル?)
「ああ、うんだいぶ楽に……今のってミルクちゃんの?」
(そうプル。魔力いっぱいで軽いポーションよりいいプル)
「うーんそういえば楽かも」
何だか体力がだいぶ回復した感じはする。まあ体力じゃなくって魔力なんだろうけど。
知られざる事実。ミルクちゃんの出すスライムミルクにはこんな事が…!?
(みんな知ってたプル。知らないのは主だけプル)
「なんでよ」
(主の魔力を出してるからプル。だから自分で飲んでも美味しくないプル)
「ほう?」
もう一つよくわかんない説明だった。つまり自分の魔力だから自分で飲んでも美味しくない??
でも自分の汗も涙も鼻水もしょっぱいし、血は鉄の味だ。これはいかに???
「アーシャ様!だいじょうぶですか!」
「ああうん。治った。あの墨には注意だよ!」
カリナが見に来てくれてる。
カリナとエルさんは何とか取り巻きを処理しているようだ。んで、本体の方は……
「よくも私のアーシャ様を……!ウォーターカッター!スラッシュ!トルネード!」
「グヒッ!グギャッ!ピギ!……グルシャー!」
「あ、あぶないっ!」
あれはイカの墨攻撃!
あれに当たると私のように……!
「残念、それは幻影ですよ。さあ、あなたがその墨を食らって見なさい」
「ブピルファアア!」
ユリアンヌちゃんが墨をまともにかぶったと思ったら、イカの後ろから現れてイカさんを蹴っ飛ばす。どうやったのかは分からないけど水中であの巨体がどっかんと吹き飛んで自分の巻いた墨の中へ。イカはヘロヘロだ!ちゃんすだ!
「さあ、これで終わりですよ。アーシャ様の受けた苦しみを知りなさい!ライトニングビロウス!」
イカに当てた拳から直接体内に雷の渦を叩き込む。暴れ狂う雷撃に体内から犯され、いかに不死者になったボスといえども……
「ピギイイイ!」
「「「あばばばば」」」
イカさんの悲鳴とともに私達も感電してビリビリだ。
ユリアンヌちゃんはいちばん近い所にいるから当然ビリビリのはずなのに止まらない。どうなってんだ!
「まだまだ!ウォーターカッター・トルネード!ほらほらほらあああ!」
ボスでも……そろそろ終わりだと思ったけど容赦しない。
ウォーターカッターを次々と打ち出して体内からは雷、外からは水の刃で切り刻む。
もうやめて!イカさんの体力はゼロよ!
哀れイカさんは体内を焼き尽くされ、体の表面を傷だらけにされて討伐されてしまったのだ。チーン
あーしゃたんが水着を着て白い液体がおくちからとろんとってのを想像しちゃダメ!ぜったいだよ!




