第36話 おっかいっもの~
その後の57層は私は何もしていない。強いて言うなら応援をしていたのだ。
58層は57階層から繋がっている階段からちらっとのぞいてみたのだが、さらに酷い事になっていた。
一面水水水、浅いところは踝から膝くらいまでのようで下に砂が見えているが、深いところはどれだけ深いか全く分からないくらいだ。
そんな水ばっかりの世界なのだ。
「うーん、参ったねこりゃ。なんだかベトベトするし」
「ほんとですね。何だか変な水です。」
「これ海水だよ。海の水だね」
「そうですね。海の水です。浮力が違いますよ」
「ふりょく??」
「海の水は普通の水よりよく浮くんです。試してみれば分かりますが……危ないですね」
「そだね。見るからにダメっぽいね」
だって沢山のモンスターたちが見えているのだ。
さっきまでの階層では魚人だったけど、もっと見るからに強そうな、ワニだとかサメだとか、そういう水棲生物なのだ。真っ黒だけどそういうシルエットなのだ。
そいつらが見るからにウヨウヨとしているのが階段から見えている。
うーん。こりゃダメだな。
「一回帰ろっか」
「ですねえ。何らかの対策が必要ですね」
「帰ってご飯食べよっか!」
「そうですね。変な緊張感で疲れましたしね」
そうだなあ。時間は早いけど、いつ左右から来るかわかんない階層で疲れた。
でもだんだん水没していってるし、この分だと最下層は水中かも。
水中戦の用意が必要になるかもしれないんだけど、水中じゃ雷魔法はフレンドリーファイアどころじゃない。火は水中じゃめちゃくちゃ微妙だし水は……私が水魔法が苦手なのだ。土だって地面がないところじゃもう一つだしなあ。
といって物理攻撃は水圧で威力がしょぼしょぼになるし。うーん、難しそうだなあ。
宿に帰って対策を考える。
そうは言ってもできることは限られている。ココはアレだ。
「ザカンさんを捕まえに行こう」
「便利ですからね。今回も役に立つでしょう。」
「そだね。便利な道具出してもらわないと!」
「ところでザカンって誰?」
「魔道具職人さんです。前々から姫様が懇意にしておられて……でもあれは懇意という表現で良いのでしょうか?」
「懇意といわずになんと言うのよ」
カリナもおかしな事を言う。
ザカンさんと私はいいお友達じゃあないか。
「まるで主人と下僕のような、奴隷のような関係で……いや、それは言いすぎですかね?」
「「奴隷!?」」
「奴隷はないでしょ。それに主従だとも思ってないけど。良い取引相手じゃないの」
「普通は取引相手をドラゴンに乗せて呼びつけたりはしないですよね」
「アレはママが勝手にやったことじゃないか!」
そう、ママがやったことだ。わーたーしーはやってないー!
おかしなリズムとともに流れるやってないー??何ぞこれは。
うーむ。またおかしな思考が入った。
……とにかく、ザカンさんを探そう。
ザカンさんはすぐに見つかった。ギルドに聞きに行ったらすぐに教えてくれて、その上事前に連絡までしてくれたのだ。
今はお城の隅っこに研究室を与えられて大人しく研究させられているらしい。
まあ、見張りの兵がいたし……ほぼ軟禁状態なのかもしれないけど。またなんかやったのかな?
「ザカンさんちーっす!」
「……嬢ちゃん。いくら俺相手だからってその言葉遣いは流石に拙いんじゃないのか?姫様だろ?」
「まあいいじゃん。私とザカンさんの仲ってことで。ところでそろそろ水対策をしないといけなくなったからそういういい感じの装備ください」
「お、おう。いきなりブッ込んできたな。しかもくださいって……売ってくださいだろ!?」
「まあそうとも言うね。んでいいのある?」
「これはどうだ?水魔法耐性が上がる指輪だ」
ザカンさんは青い魔石の付いた指輪を出してくれる。
いかにも水属性だぞ!って感じ。耐性ってどの程度なのかは気になるけど無いよりはだいぶマシだろう。
「ああ、こういうのは良いね。水圧攻撃みたいなのしてきてさあ、鬱陶しかったんだよね。この後もっときつくなるだろうしなあ」
「まだまだ序の口っぽいところだけどな。それにしても最下層付近で水になったか……」
「ん?」
「いや、こっちの話だ。水のあるダンジョンだというと池がある程度か、それとも膝まで浸かるくらいか、もっと進むと完全に水中になるんだけど……ああ、船の上ってパターンも無くはないな。どんなのだった?」
「とりあえず今までのところは池がいっぱいあって細い道を通ったらいけたんだけどね、次からは浅いところでも膝くらいまで浸かりそう。この後どうだろなあってところ。だからいいのを頂戴!」
「……言いたいことは色々あるけどまあ良いや。これなんかどうだ?水中でも普通に息が出来るようになるマスクだぜ。見た目は悪いけどな。ホラこうやって水の中でも息が出来る」
「うーん……」
ザカンさんは深い桶に張った水の中にマスクを装着した顔をつけて息が出来るアピールをしてくれている。
なるほど。今後どんどん水の領域が広がって、最終的には水中戦になるかもしれない。そこまで行かなくっても水の中に引きずり込まれるって心配もある。息が出来るかできないかは死活問題だ。
でもさあ。これさあ……デザインがさあ……
なんというか鳥のくちばしのようなのがついた変なマスクだ。
しかも割と大きいくちばしだから邪魔だし。視界も抜群に悪いし、戦ってると手とか武器がマスクに当たりそう。
「このデザイン何とかなんないの?」
「これはこれで昔勇者様の世界で流行ったマスクらしいぜ?医療用だとか何とか」
「邪魔そうだなあ。却下!」
やいのやいのと楽しく言っているところでユリアンヌちゃんが爆弾を落とす。
「その……アーシャ様、水中呼吸の魔法なら私が使えますよ?」
「「え!?」」
ユリアンヌちゃんの発言に対し、『え!?』でハモる私とザカンさん。
そうなら言っといてよ。貴重な時間が無駄に…いや、結構楽しい時間だったな。
「ごほん、水中呼吸は忘れて。なんかいい武器とかないかな」
「水中と仮定してだよな?銛とかどうだ?」
私はさくっと切り替える。ザカンさんもだ。切り替え早いな!
銛はどうだと言ってマジックバッグから取り出したのはお高そうな銛だ。鉄じゃないぞ。ミスリル合金?オリハルコン??
引っ張って固定して、ボタンを押すとシャコーン!と伸びる。カッコいいな!
「どうだ!かっこいいだろ!?おまけに刺した後で電撃でシビレさせるんだ」
「おおお!かっこいい!」
「そうだろそうだろ。デカイやつにはちょーっと頼りない火力だけど、10mくらいまでの敵にはいい感じで効くと思うぜ。」
「ふむふむ。もっと高火力なのはないの?」
「水中だからなあ。あんまり高火力の雷撃は自分たちが危ないんだよなあ。」
「ああ…やっぱりそこかあ…」
私が無力なのもそこらへんだもんね。
膝まで水に浸かるようなところで雷撃を落としたら身内がみんな黒焦げになるし。いわんや水中をや……
「銛の先から火炎とかダメかな?爆発とか!」
「銛先が一発でダメになっちゃうんだよなあ。でもまあボス対策の使い捨てとしてならアリだなあ」
「なるほど……じゃあ……」
「おう…嬢ちゃんもなかなかやるな。それなら……」
この後、滅茶苦茶魔道具を買った。




