第30話 準備完了?
「この宝石は姫様の瞳の色にそっくりで素晴らしいですわ」
「そうですね。今からでも仕立て上げましょう。ネックレスかしら?髪飾りかしら?」
「髪飾りにするには少し小さいから……いえ、大きいものを用意させましょう。」
「そうですわね。宝飾店を見てまいりますわ」
「私は魔石のほうを探しに行きましょう。姫様の瞳のような燃え上がる真っ赤な火魔石。素敵ですわ!」
素敵なのはその石ころの値段なんじゃないか……?
おっと。どうもごきげんよう。
あーしゃちゃんです。今日も私は試着という名の苦行を行っています。
寝る前は明日は気楽に~なんて思ってたけどまあ、なんとなく知ってた。
―――気楽にすごせるわけなんて無いよね。
地獄のような時間から一晩あけて、次の朝。
早々にたたき起こされた私は昨日みんなが徹夜で直したと思われるドレスの試着に始まり、アクセサリーも選ばされたのだ。いやまあ、私が見てもまーったく違いがわからないので選ばされてはない。選んでもらったのだ。そうするとまた時間がかかって……
髪飾りなんてその辺ので適当に選べばいいじゃないか。
それをわざわざ魔石やら宝石やらを調達してそこから錬金術で金属加工をして髪飾りを作ろうというのだ。ちゃーんと錬金術が使えるメイドを送ってくるあたり、ママもパパもそうしろってことなんじゃないのかな。あるいは……
「この魔石とかどうかなー?」
私の瞳の色とはだいぶ違うけど、エンシェントキマイラから出た魔石をみせる。
なんだか色々と混じった魔石だ。石もキメラなんだなと変な関心をしたものだ。
ベースは琥珀色で中身も透けて見えるんだけど、そこに赤系、黒系、青系で渦巻きのような柄になっている。不思議だなあ。
「ふむ。キマイラの魔石ですね。かなり上物です。これは姫様が?」
「ええ、アーシャ様がお一人でボコボコにしていました。」
カリナが胸を張り鼻の穴を膨らませて『どやあ!』っとしている。
でも倒したのは私とココアちゃんの必殺技だぞ。カリナはその頃取り巻きキメラと遊んでたからちゃんと見てなかったんじゃないのか?
それにしてもあの時の事は今でも不思議だ。長年連れ添ったかのような息のあったキックだったんだ。そして決めポーズまで……何なんだろう一体。
私が思い出してボンヤリしている間にもどんどん作業は進んでいく。
昨日生地だけだったのにすっかりドレスの形になっている布は緑色だ。
メイドさんたちは若竹色?っていってたっけ?薄い緑色なのだ。
カリナはまた黄色、エルさんは本人が凄く嫌がってるけど桃色、ユリアンヌちゃんは水色。
……おしい、レッドがいれば完璧なのに!
―――何だレッドって??
ほんとに時々意味のわかんないのが来る。こういうのを電波って言うんだって。ってのもこの変なのから来ている思考だ。意味わかんないや。
電波がいっぱいいっぱい。わいふぁい??が飛んでるらしい。
わあい?いっぱい飛んでて楽しいのか?
まあいいや。私の頭の中がおかしくなったのはもう慣れてきた。気にしちゃダメだ。
そんなこんなであっさりと試着だけで一日はおわり。
いや全然あっさりじゃないんだけどね。私がやってることはただボンヤリ立ってるだけだし。
ただボンヤリのはずなのに疲労困憊になった私はお風呂に入ってメイドさん部隊にあっちこっち揉まれまくって。血色がよくなったら益々きれいなんだって。なんのこっちゃ。
そりゃ風呂に入ってお風呂の中でマッサージされてりゃ誰だって血行よくなるでしょ……
そして疲れきった私はすぐにベッドへ。
お布団の中ではモフモフプルプルが私を癒してくれるのだ。はわ~ん。たまら~ん。ここから出たくないよお。出たら多分明日も地獄が…地獄…じご…Zzz…
そして決戦の日だ
決戦なんて言うほど大したものではないだろうけど、私の中では決戦なのだ。
そう、ついにお城で晩餐会のある日がやってきた。
晩餐会というからには夜にあるんだろうし、夕方くらいまでノンビリしておけばいいじゃないか……なんて思っていた私はやっぱり甘かったようです。
なぜか朝からテンションの高いママが「迎えに来たわよ~」と登場。
そのまま朝ごはんを詰め込まれ、ペットのみんなを『アーシャパラダイス』に押し込んだ後はお昼までまだまだ時間があるという時からお出かけ用の服に着替えさせられてお城へ。
お城ではザイードさんとクリスちゃんにお出迎えされてなんだか豪華な部屋へ。
あまりにもあわただしい展開に頭が付いていかない。
本当なら今頃はノンビリと朝温泉に入って朝バーベキューを摘まんで、と素敵な時間をすごしている予定だったのだ。それが気が付いたらお城で知らない人たちいっぱいと……いや、大半は知ってる人だ。
いちばんえらいのがザイードさんで次が多分クリスちゃん。
後は何とか伯爵とかそういう人たち。名乗ってくれたけどサッパリわかんないね。
そして私達も一人一人自己紹介をした。この後は時間までのんびりすればいいのかな?
「アイーシャリエル様、そろそろ雷獣様を見せていただきたいのですけど……」
ノンビリしようと思ったらクリスちゃんがお願いしてきた。なんだ、見たいなら見ればいいのに。
「はーい。ちょっと待ってね。」
そう声をかけて『アーシャパラダイス』の中に入る。相変わらず私が近寄ると逃げようとする仔雷獣の首根っこを捕まえて、ほいっと。
「はい、連れてきたよー」
「ギニャーン」
「「「おおっ」」」
私が雷獣ちゃんを出したら「「おおっ」」っとどよめきがうまれる。
ママもちょっと珍しそうにしてる。
「雷獣のライちゃんです。名前をつけたのは……エルさんだっけ?」
「そうだよ!あ、そうです。かわいいでしょう?」
「かわいいです!」
「そうだね、ややストレートすぎないかなあ」
ザイードさん父娘で評価が分かれた。
クリスちゃんは普通に可愛いと。
でもお父さんで現魔王様でもあるザイードさんはややストレートすぎると。
やや、というか思いっきり剛速球のど真ん中ストレートだと思うけど。
それからの時間はお昼ご飯を一緒に食べて、庭やら室内で雷獣伝説について色々聞いたりだとか、最近のクリスちゃんの発明品についてだとか、それから私達のダンジョン探索の話をしていた。
魔道馬の改良を続けているのだそうだ。馬車を引いたりする程度の出力なら形も自由に変えられるから、顧客の好みによってスライム型でも犬猫でもドラゴンでも何でも作れるんだって。
でもなんだかんだで馬の形がみんな定番だから落ち着くらしい。そういうものかな。
「魔王様、そろそろ晩餐会の準備のほうが……」
「おっと、もうそんな時間か。では準備に移ります。シノブ様、それでは後ほど……」
「はい。では後ほど」
「アーシャちゃん、また後でね!」
「うん!クリスちゃんまたね!」
ザイードさんとクリスちゃんは準備があるからって移動して行っちゃった。
そろそろ時間かあ。やだなあ。突然台風でも来ないかなあ。
「それじゃあアーシャちゃん、私達もお着替えの時間よ」
「は~~い」
「ホラそんなに嫌そうにしないで。シュッ!と動いて!」
「は~い」
シュッ!と動いて!と言われた私は当然のようにのたのたと動く。
だって準備といっても私は座ってるだけでメイドさんたちが全部やってくれるんだし。
私がやることは椅子に座ったり立ったり。それから手を上げたり下げたりとその程度しかやることもできることもないんだもん。気合入れてもしょうがないじゃないか。
私がのたのたよろよろと動いている間に『世界一かわいらしい美少女』は完成したらしい。
雷獣ちゃんはかわいくなっても懐いてくれないし、プリンちゃんとココアちゃんの反応はいつもどおり。そしてカリナは相変わらずおかしな顔で鼻息を荒く見てくるし、ユリアンヌちゃんもひどい。
エルさんだけは平常運転だ。たすかるわ~
エルさんとママはいつもどおりなんだけど、他のメイドさんたちもかわいいのなんのってやいやい言いながらこっちを撮影してくる。
みんなで同じもの撮って記録水晶の無駄遣いなんじゃないの?と思うけど、これがまた最高に楽しいらしいのだ。ふーむ。難しいもんだなあ。




